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勇者と魔王の嫁入り修行(その4)
作. DEKOI
その1はこちら
キャライラスト作成.そら夕日


夜遅く。10歳未満の子供なら9割くらいの確率で寝ていると思われる時間。
すなわち、昼の仕事で疲れたおっさん達が酒場で飲んだくれている時間。
それすなわち、この宿屋の1階ホールに沢山の客が雪崩れ込んでいてそこら中に酔っ払いがいる筈の時間。
宿屋のホールには宿屋の主とおかみを除くと「4」人の女性しかいなかった。
「どういう事ですか、これは!」
「そうだ、いくらなんでもこれはないだろう!」
ルミリアとラディスに詰め寄るウィルとルゲイス。
だが世間を騒がす勇者と魔王はいささか処でなく見た目が変わっていた。
それもその筈である。「彼等」は『彼女等』になってしまっているのだから。
勇者ウィルの変化は俗に言う「少女化」に近い物がある。
元から高い方ではなかった身長は、同じ歳の女性の平均身長より少し低い位にまで縮んでいる。
首筋までしかなかった髪の毛は背中の半ばまで届くまでに。
端から見れば細身に見えていたが、鍛え上げ引き締まっていた筋肉は見る影もなく無くなっており、代わりに柔かそうな脂肪が全身を包んでいた。
その胸は母親よりは「ほんの少しだけ」膨らんでいる。それだけでも今の彼には十分に憂鬱な種なのではあるのだが。
そして顔の造形は、思ったよりも変っていない。元から女顔だっただからだろうか。
しかし、ウィルの事をよく見知っている人物が今の彼を見たとしても、「ウィルの妹か従姉妹かな?」と思うだろう。
今の彼の顔には「男らしさ」が消えて「女らしさ」が表れているからだ。
正しく言うとするならば、「少女らしさ」が正鵠だろうか。
対して魔王ルゲイスの変化はかなり劇的であった。
まず最も大きな特徴であった顔のバッテン傷が綺麗さっぱり消えていた。
鋭く細くそして常に何かを睨んでいる様な眼は、母親の様な大きくそして優しげな物に変っている。
長かったがほとんど梳かしたことがない黒い髪は光沢と艶が増し、まさしく「烏の濡れ羽色」と形容するに相応しい。
大きく突き出していた黒い角は、艶を増した黒髪に紛れて見えなくなる位に小さくなっている。
そして女性である事を最も象徴する部分である胸は、好色な男だったらまず振り向くであろう位にまで膨らんでいた。
だがそれでいながら、淫らな女を連想しない。殆どの人は逆のイメージを沸くだろう。
ルゲイスは粗野で冷酷な魔族の男の姿から、清楚で優しげな魔族の女の姿に変身していた。
・・・気のせいか「魔族」という語感と食い違った内容の気がするが。
2人の見た目も印象もまるで違うが、ただ1点は同じ物があった。
2人とも「大変魅力的な女性」になったのだ。
ちなみに2人とも自分の変化に気づいて、慌てて股間を触れて「「ないー!」」
と大声で同時に叫んでいる。
「お約束」をしっかり抑えている2人であった。
さてそんな2人に問いつめられている母親達の様子はそれぞれ対照的であった。
ルゲイスの母であるラディスは変わり果てた息子達をオロオロとした眼で見つめいている。
それに対してウィルの母親であるルミリアはというと、実年齢よりも20才以上若く見える童顔いっぱいに実に底意地悪そうなニヤニヤとした笑みを浮かべていた。
「大丈夫よ。今の貴女たちの肉体は完璧な女性体。性行為も出産もばっちり出来るわよ。」
「そういう事ではない!何でこんな事をしたんだ!」
ルミリアの楽しそうな発言はルゲイスの高いプライドを逆撫でするには十分すぎた。額にはっきりと青筋が浮かび上がる。
この村の中での戦闘行為が禁じられていなかったら、問答無用でルミリアを火だるまにしているだろう。
「待って、ルゲイス。確かに勝手に性転換魔法をかけたのは悪いけど、これには一応だけど理由があるのよ。」
「理由・・・ですか?」
このままでは脳の血管が膨張し過ぎて破裂するのではないかと思うくらい怒り猛るルゲイスを抑えるように、ラディスは慌てて口を出した。
「いい加減に気がついてると思うけど、貴方、いえ貴女たちの戦闘で世界が破壊されているのよ。それもかなり深刻なレベルにまで。」
「「うっ。」」
ラディスの指摘にウィルとルゲイズはうめき声をあげた。猪突猛進を体現した様な2人だが、この頃になってやっとその事には気がついたし、どうしたらいいかと悩み始めていたからだ。
「し、しかし母上。やはり勇者と魔王とは相容れぬ存在でありまして。」
「でもそれによって片や守るべき世界を、片や征服したい世界そのものをぶち壊していたら本末転倒でしょう?」
「「うぐぐっ。」」
ルゲイズの搾り出す様な反論に対してルミリアは鮮やかな切り替えしをした。その正論に勇者と魔王はぐうの音も出ない。
「それはそうですがルミリア母様。だからと言って、なんで僕達を女にしたのです?」
「貴女たちは勇者と魔王なんだから白黒を完全に付けたいのは分かるわ。でも戦闘による決着は恐らくあと100回以上やっても付かないでしょう。既に250回以上は一騎打ちをしたにも関わらず未だに決着が付いていないのだし。」
「そして人間と魔族の学者にそれぞれ調査しててもらった結果、貴女たちの戦闘があと60回以上行われたら世界は勝手に自壊するレベルにまで達してしまうそうなの。」
ルミリアの言葉を引き継いでラディスはとんでもない事実を2人に告げた。そのあまりにシャレになっていない内容にウィルとルゲイズは美しい顔を共に蒼白にしてしまう。
自分達の戦闘がどこまで世界に悪影響を与えていたのか今さらながら気づいたのだ。
「そこまで世界は傷ついていたのですか?」
「そうよ、ルゲイズ。だからもう2人には戦闘をしてもらいたくないの。この世界のためにも。」
しかしラディスの真摯な言葉にも関わらず、ウィルとルゲイズの顔はどことなく不満そうな表情をしていた。
そんな中、思わず合ってしまった互いの視線に気づき、不快そうに顔を背ける。
その2人の様子を見てルミリアは呆れた・・・それでいながらどことなく意地悪っぽい笑みを浮かべた。
「だけど、2人はどうしても決着をつけたいでいんでしょ?」
「当然です。」「当たり前だ。」
ルミリアの問いに即答する勇者と魔王。その答えを聞いてルミリアの笑みに、ますます意固地悪そうな表情が強まった。
「だ・か・ら。私とラディスが相談して、貴女たちには『戦闘以外での』決着方法をつけてもらう事にしたの。」
「あの・・・ルミリアさんがほとんど一方的に決めた気が・・・いや、何でもないです・・・。」
ルミリアの宣言になにか異議があるらしいラディスだったが、ルミリアの一瞥によって完全に封殺されてしまう。
しかし当の勇者と魔王にはルミリアが何を言いたいのか全く理解できていなかった。
「あのう、それと僕達の女性化とどんなつながりが?」
「貴女たちには公平な勝負をしてもらおうと思って。だから2人とも今まで経験した事がないジャンルで勝負してもらう為に、女性になってもらったの。」
「・・・何だ?その勝負内容というのは。」
とてつもなく嫌な予感をしつつ、ルゲイズは疑問を口にした。その隣ではウィルも可愛らしい顔を不安一色に染め上げている。
「そう、2人には。」
思わずゴクリと唾を飲み込むウィルとルゲイズ。緊迫した空気が辺りを包む。
「お姫様になって、お婿さん勝負をしてもらうわ。」
辺りは静寂に包まれた。針を落とす音どころか蚤がジャンプする音すら聞こえるのではないかと思える程の静けさだ。
ウィルはルミリアの発言によって完全に頭の中が真っ白になった。ルゲイズも同様らしく、目が点になっている。
「あの・・・。」
「ちなみに拒否した場合は元に戻れないからね。」
「あの・・・。」
「更に付け加えると自力で性転換魔法を解こうとしても無駄だからね。私の神聖魔法とラディスの暗黒魔法を絶妙に絡めたスペシャル魔法だから。呪式を組み解こうとしても貴女でも100年くらいはかかるわよ、ルゲイズちゃん。」
思わず問いかけのような言葉を放つも、ウィルとルゲイズの2人は未だに呆然としていた。確かにこんな妙を通り越して珍奇な事態を突きつけられて、まともな判断力を残せるような人物は恐らくいないだろうが。
「勝負内容は、料理、裁縫、そして宮廷舞踏会での社交ダンスの3本勝負よ。」
「はあ。」
「勝負は今から7週間後。それまではお互いに勝負の為の準備および練習期間にしてOK。」
「はあ。」
「勝負の内容は追って連絡するわ。何か問題ある?」
「はあ・・・。」
「はあ。」
立て板に水とばかりにスラスラと説明をするルミリアの言葉を聞いてはいるが、ウィルとルゲイズは心ここに在らずといった感じで答えていた。未だに頭の中ではアホウドリが鳴いている。要するに真っ白なまま。
「ちなみに勝負に負けた方は勝った方のお嫁さんになってもらうから。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「「ちょっと待ってえぇぇぇぇ!?????」」
ルミリアのさらりと言った、しかしあまりにも威力のあり過ぎる爆弾発言に、未だに呆けていたウィルとルゲイズの意識は一気に覚醒した。
「お母様!それはシャレになんないですよ!!??」
「そうだぞ!幾らなんでもそれはないだろう!!!」
「えーい、だまらっしゃい!!」
食ってかかる息子とそのライバルをルミリアは一言でピシャリと押さえ込んでみせた。ちなみにラディスはオロオロしている。
「そもそも!貴女たちが延々と勝負に決着がつかなかったから、私たちが出てこなきゃいけなくなったのよ!!何で息子達の喧嘩に母親がでてこなきゃいけないのよ!」
「いや・・・。」
「ですけど・・・。」
半ば以上キレかけているルミリアの怒声に、世界を揺るがしている勇者と魔王は思わず気おされてしまう。
「勝てば官軍、負けたら賊軍!負けた奴は勝者に従うべし!そして負けた方の姫は勝った方の王様の后になる!!ほら、何一つ間違っていないじゃないの!!!」
「いやいやいやいや!」
「お母様!その理論は論理的にどこかが破綻していると思うのですが!?」
「うるさいわね!つべこべ言うなら勝負に勝っても元に戻してやらないわよ!?」
「「うぐぐぐぐ。」」
酷すぎる条件告知に強引に押さえ込まれる勇者と魔王。全くもって形無しと言っていい状態である。
「まあ、勝てばいいんですよ。そうすれば少なくとも自分には問題ないですし。」
その様子を哀れに思ったのかラディスは2人に声をかけた。
「御二人共、お互いに決着も付けたいでしょうけど世界を破壊したくはないでしょう?2人にとっては大変不本意だと思いますけど、この勝負で決着を付けて貰えませんか?」
「むう・・・、確かに世界をこれ以上は傷を付けたくないですし。」
「まあ母上が納得したというのなら。」
不承不承といった感じながらもウィルとルゲイズはラディスに対して肯定の意思をだした。
こうして後の世に「人魔の最終決戦」と伝えられる、世界の命運をかけた、「お姫様勝負」がきって落とされたのであった。
「あー、もうウィルったらこんなに可愛くなっちゃって。私の手で立派なお姫様に改造してあげるからねー。ぐへへへへへ。」
「なあお前の母ちゃんって、実は『魔女』とか言われてないか?」
「うーん、まあ破天荒な人ではあるのは確かだね。」
ルミリアの狂想を見つつ、勇者と魔王だった「お姫様たち」は一緒にたそがれていたのであった。
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夜遅く。10歳未満の子供なら9割くらいの確率で寝ていると思われる時間。
すなわち、昼の仕事で疲れたおっさん達が酒場で飲んだくれている時間。
それすなわち、この宿屋の1階ホールに沢山の客が雪崩れ込んでいてそこら中に酔っ払いがいる筈の時間。
宿屋のホールには宿屋の主とおかみを除くと「4」人の女性しかいなかった。
「どういう事ですか、これは!」
「そうだ、いくらなんでもこれはないだろう!」
ルミリアとラディスに詰め寄るウィルとルゲイス。
だが世間を騒がす勇者と魔王はいささか処でなく見た目が変わっていた。
それもその筈である。「彼等」は『彼女等』になってしまっているのだから。
勇者ウィルの変化は俗に言う「少女化」に近い物がある。
元から高い方ではなかった身長は、同じ歳の女性の平均身長より少し低い位にまで縮んでいる。
首筋までしかなかった髪の毛は背中の半ばまで届くまでに。
端から見れば細身に見えていたが、鍛え上げ引き締まっていた筋肉は見る影もなく無くなっており、代わりに柔かそうな脂肪が全身を包んでいた。
その胸は母親よりは「ほんの少しだけ」膨らんでいる。それだけでも今の彼には十分に憂鬱な種なのではあるのだが。
そして顔の造形は、思ったよりも変っていない。元から女顔だっただからだろうか。
しかし、ウィルの事をよく見知っている人物が今の彼を見たとしても、「ウィルの妹か従姉妹かな?」と思うだろう。
今の彼の顔には「男らしさ」が消えて「女らしさ」が表れているからだ。
正しく言うとするならば、「少女らしさ」が正鵠だろうか。
対して魔王ルゲイスの変化はかなり劇的であった。
まず最も大きな特徴であった顔のバッテン傷が綺麗さっぱり消えていた。
鋭く細くそして常に何かを睨んでいる様な眼は、母親の様な大きくそして優しげな物に変っている。
長かったがほとんど梳かしたことがない黒い髪は光沢と艶が増し、まさしく「烏の濡れ羽色」と形容するに相応しい。
大きく突き出していた黒い角は、艶を増した黒髪に紛れて見えなくなる位に小さくなっている。
そして女性である事を最も象徴する部分である胸は、好色な男だったらまず振り向くであろう位にまで膨らんでいた。
だがそれでいながら、淫らな女を連想しない。殆どの人は逆のイメージを沸くだろう。
ルゲイスは粗野で冷酷な魔族の男の姿から、清楚で優しげな魔族の女の姿に変身していた。
・・・気のせいか「魔族」という語感と食い違った内容の気がするが。
2人の見た目も印象もまるで違うが、ただ1点は同じ物があった。
2人とも「大変魅力的な女性」になったのだ。
ちなみに2人とも自分の変化に気づいて、慌てて股間を触れて「「ないー!」」
と大声で同時に叫んでいる。
「お約束」をしっかり抑えている2人であった。
さてそんな2人に問いつめられている母親達の様子はそれぞれ対照的であった。
ルゲイスの母であるラディスは変わり果てた息子達をオロオロとした眼で見つめいている。
それに対してウィルの母親であるルミリアはというと、実年齢よりも20才以上若く見える童顔いっぱいに実に底意地悪そうなニヤニヤとした笑みを浮かべていた。
「大丈夫よ。今の貴女たちの肉体は完璧な女性体。性行為も出産もばっちり出来るわよ。」
「そういう事ではない!何でこんな事をしたんだ!」
ルミリアの楽しそうな発言はルゲイスの高いプライドを逆撫でするには十分すぎた。額にはっきりと青筋が浮かび上がる。
この村の中での戦闘行為が禁じられていなかったら、問答無用でルミリアを火だるまにしているだろう。
「待って、ルゲイス。確かに勝手に性転換魔法をかけたのは悪いけど、これには一応だけど理由があるのよ。」
「理由・・・ですか?」
このままでは脳の血管が膨張し過ぎて破裂するのではないかと思うくらい怒り猛るルゲイスを抑えるように、ラディスは慌てて口を出した。
「いい加減に気がついてると思うけど、貴方、いえ貴女たちの戦闘で世界が破壊されているのよ。それもかなり深刻なレベルにまで。」
「「うっ。」」
ラディスの指摘にウィルとルゲイズはうめき声をあげた。猪突猛進を体現した様な2人だが、この頃になってやっとその事には気がついたし、どうしたらいいかと悩み始めていたからだ。
「し、しかし母上。やはり勇者と魔王とは相容れぬ存在でありまして。」
「でもそれによって片や守るべき世界を、片や征服したい世界そのものをぶち壊していたら本末転倒でしょう?」
「「うぐぐっ。」」
ルゲイズの搾り出す様な反論に対してルミリアは鮮やかな切り替えしをした。その正論に勇者と魔王はぐうの音も出ない。
「それはそうですがルミリア母様。だからと言って、なんで僕達を女にしたのです?」
「貴女たちは勇者と魔王なんだから白黒を完全に付けたいのは分かるわ。でも戦闘による決着は恐らくあと100回以上やっても付かないでしょう。既に250回以上は一騎打ちをしたにも関わらず未だに決着が付いていないのだし。」
「そして人間と魔族の学者にそれぞれ調査しててもらった結果、貴女たちの戦闘があと60回以上行われたら世界は勝手に自壊するレベルにまで達してしまうそうなの。」
ルミリアの言葉を引き継いでラディスはとんでもない事実を2人に告げた。そのあまりにシャレになっていない内容にウィルとルゲイズは美しい顔を共に蒼白にしてしまう。
自分達の戦闘がどこまで世界に悪影響を与えていたのか今さらながら気づいたのだ。
「そこまで世界は傷ついていたのですか?」
「そうよ、ルゲイズ。だからもう2人には戦闘をしてもらいたくないの。この世界のためにも。」
しかしラディスの真摯な言葉にも関わらず、ウィルとルゲイズの顔はどことなく不満そうな表情をしていた。
そんな中、思わず合ってしまった互いの視線に気づき、不快そうに顔を背ける。
その2人の様子を見てルミリアは呆れた・・・それでいながらどことなく意地悪っぽい笑みを浮かべた。
「だけど、2人はどうしても決着をつけたいでいんでしょ?」
「当然です。」「当たり前だ。」
ルミリアの問いに即答する勇者と魔王。その答えを聞いてルミリアの笑みに、ますます意固地悪そうな表情が強まった。
「だ・か・ら。私とラディスが相談して、貴女たちには『戦闘以外での』決着方法をつけてもらう事にしたの。」
「あの・・・ルミリアさんがほとんど一方的に決めた気が・・・いや、何でもないです・・・。」
ルミリアの宣言になにか異議があるらしいラディスだったが、ルミリアの一瞥によって完全に封殺されてしまう。
しかし当の勇者と魔王にはルミリアが何を言いたいのか全く理解できていなかった。
「あのう、それと僕達の女性化とどんなつながりが?」
「貴女たちには公平な勝負をしてもらおうと思って。だから2人とも今まで経験した事がないジャンルで勝負してもらう為に、女性になってもらったの。」
「・・・何だ?その勝負内容というのは。」
とてつもなく嫌な予感をしつつ、ルゲイズは疑問を口にした。その隣ではウィルも可愛らしい顔を不安一色に染め上げている。
「そう、2人には。」
思わずゴクリと唾を飲み込むウィルとルゲイズ。緊迫した空気が辺りを包む。
「お姫様になって、お婿さん勝負をしてもらうわ。」
辺りは静寂に包まれた。針を落とす音どころか蚤がジャンプする音すら聞こえるのではないかと思える程の静けさだ。
ウィルはルミリアの発言によって完全に頭の中が真っ白になった。ルゲイズも同様らしく、目が点になっている。
「あの・・・。」
「ちなみに拒否した場合は元に戻れないからね。」
「あの・・・。」
「更に付け加えると自力で性転換魔法を解こうとしても無駄だからね。私の神聖魔法とラディスの暗黒魔法を絶妙に絡めたスペシャル魔法だから。呪式を組み解こうとしても貴女でも100年くらいはかかるわよ、ルゲイズちゃん。」
思わず問いかけのような言葉を放つも、ウィルとルゲイズの2人は未だに呆然としていた。確かにこんな妙を通り越して珍奇な事態を突きつけられて、まともな判断力を残せるような人物は恐らくいないだろうが。
「勝負内容は、料理、裁縫、そして宮廷舞踏会での社交ダンスの3本勝負よ。」
「はあ。」
「勝負は今から7週間後。それまではお互いに勝負の為の準備および練習期間にしてOK。」
「はあ。」
「勝負の内容は追って連絡するわ。何か問題ある?」
「はあ・・・。」
「はあ。」
立て板に水とばかりにスラスラと説明をするルミリアの言葉を聞いてはいるが、ウィルとルゲイズは心ここに在らずといった感じで答えていた。未だに頭の中ではアホウドリが鳴いている。要するに真っ白なまま。
「ちなみに勝負に負けた方は勝った方のお嫁さんになってもらうから。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「「ちょっと待ってえぇぇぇぇ!?????」」
ルミリアのさらりと言った、しかしあまりにも威力のあり過ぎる爆弾発言に、未だに呆けていたウィルとルゲイズの意識は一気に覚醒した。
「お母様!それはシャレになんないですよ!!??」
「そうだぞ!幾らなんでもそれはないだろう!!!」
「えーい、だまらっしゃい!!」
食ってかかる息子とそのライバルをルミリアは一言でピシャリと押さえ込んでみせた。ちなみにラディスはオロオロしている。
「そもそも!貴女たちが延々と勝負に決着がつかなかったから、私たちが出てこなきゃいけなくなったのよ!!何で息子達の喧嘩に母親がでてこなきゃいけないのよ!」
「いや・・・。」
「ですけど・・・。」
半ば以上キレかけているルミリアの怒声に、世界を揺るがしている勇者と魔王は思わず気おされてしまう。
「勝てば官軍、負けたら賊軍!負けた奴は勝者に従うべし!そして負けた方の姫は勝った方の王様の后になる!!ほら、何一つ間違っていないじゃないの!!!」
「いやいやいやいや!」
「お母様!その理論は論理的にどこかが破綻していると思うのですが!?」
「うるさいわね!つべこべ言うなら勝負に勝っても元に戻してやらないわよ!?」
「「うぐぐぐぐ。」」
酷すぎる条件告知に強引に押さえ込まれる勇者と魔王。全くもって形無しと言っていい状態である。
「まあ、勝てばいいんですよ。そうすれば少なくとも自分には問題ないですし。」
その様子を哀れに思ったのかラディスは2人に声をかけた。
「御二人共、お互いに決着も付けたいでしょうけど世界を破壊したくはないでしょう?2人にとっては大変不本意だと思いますけど、この勝負で決着を付けて貰えませんか?」
「むう・・・、確かに世界をこれ以上は傷を付けたくないですし。」
「まあ母上が納得したというのなら。」
不承不承といった感じながらもウィルとルゲイズはラディスに対して肯定の意思をだした。
こうして後の世に「人魔の最終決戦」と伝えられる、世界の命運をかけた、「お姫様勝負」がきって落とされたのであった。
「あー、もうウィルったらこんなに可愛くなっちゃって。私の手で立派なお姫様に改造してあげるからねー。ぐへへへへへ。」
「なあお前の母ちゃんって、実は『魔女』とか言われてないか?」
「うーん、まあ破天荒な人ではあるのは確かだね。」
ルミリアの狂想を見つつ、勇者と魔王だった「お姫様たち」は一緒にたそがれていたのであった。
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お馬鹿なノリが好き。続きを楽しみにしてます。
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