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投稿TS小説 星の海で
作.ありす
キャライメージ作成.東宮由依
虚空の宇宙空間。時折走る細い光芒が、小さな輝きを生んでいた。
「敵艦隊、速度が落ちました。防御陣形を取りつつあるようです」
照明の落とされた室内。戦闘状態にある艦橋の中で、数名の士官が数隻からなる艦隊全体の指揮統制を行っていた。艦橋の中心、一段高いところに座っていたリッカルド司令は、艦橋前方にしつらえられた大型の戦術モニターを見ながら頷いた。
「よろしい、敵も消耗してきた様だな。こちらも陣形を整えよう」
「司令、その前に一度、攻撃をしてみてはいかがでしょうか?」
司令の隣に座り、戦術モニターを操作していた女性士官が進言する。ミドルティーンの少女の様な姿をしているが、彼女が戦局を見誤ったことは一度も無かった。司令の手元のディスプレイに、彼女から短い数字のメッセージが送られてくる。
「そうだな……。では、全艦主砲斉射3連。照準座標位置は敵艦隊中心、D61-C62-B20」
「アイアイサー! 全艦主砲斉射3連用意! 照準固定、D61-C62-B20」
砲撃管制士官が復唱する。艦隊全体の射撃管制を掌握できる粒子スクリーンが、指令席と戦闘副官席を包むように立ち広がった。艦隊全体の射撃管制装置の同期が取れたのを確認すると、リッカルドは力強く叫んだ。
「ファイアー!!」
眩い光芒が虚空の空間を3度貫き、そしてたくさんの輝きが生まれては消えた。
「敵艦隊は小集団に分裂、各個に戦場を離脱していきます」
観測士官が、やや興奮した口調で報告する。膠着状態にはいるかと思われた戦局が、司令の的確な判断で完勝に近い形で、終わりを告げようとしているのだから。
「よし、終わったな」
「反撃は無いようですね」
司令席と戦闘副官席を包んでいた粒子スクリーンが、細かなきらめきを散らしながら消えていった。
「陣形を整えろ。しばらくこの場にとどまった後、次の補給地へ向かう。アレッサンドロ副長は各艦の担当士官と損害報告をまとめて置くように。トダ参謀代理、指揮を引き継いでくれ。少し休ませてもらう、状況が変わるようであれば、呼び出してくれ」
「アイアイ、サー!! 指揮を引き継ぎます」
司令は隣席に座っている、女性士官にも声をかける。
「戦闘副官、キミも疲れただろう。休みたまえ。……その、一緒にな」
最後の一言は小さく、本人にしか聞こえないように言ったが、艦橋にいる全員が察していた。
「はい、お供します」
*---*---*---*---*---*---*---*
落ち着いた室内。艦隊司令の任にあたるにはかなり若い青年と、こちらも戦闘艦に乗務するにはあまり似つかわしくない少女が、戦闘の疲れを癒そうとくつろぎ始めていた。
「司令、コーヒーにしますか? それとも紅茶にされますか?」
「フランツ、いや、フランチェスカ。2人のときは『司令』はやめてくれ」
「それじゃリッカルド、コーヒーと紅茶とどっちにするんだ?」
フランチェスカと呼ばれた女性は、急にぞんざいな、しかし親しみのこもった口調で尋ねる。
「酒」
「飲んだら眠くなっちゃうんじゃ無いの?」
「いいんだよ、疲れたからもう寝たいんだ」
「はいはい、でもヤるんじゃなかったの? わざわざ呼びつけたってことはさ。ボク、この後忙しくなるのに」
「ばか、戦闘の直後だぞ。ついさっきまで殺気立っていた連中に、何されるか判らんじゃないか!」
士官服のままベッドに倒れこんだリッカルドの傍に、グラスを持ったフランチェスカが腰掛ける。
「心配してくれるんだ?」
「オマエにそんなことさせているのは、オレの責任だからな……」
「別に。ボクがやるっていったんだから、リッカルドのせいじゃないよ」

フランチェスカは元”男”だった。リッカルドの副官としてこの艦に配属された時はそうだった。しかし今は薬品投与と設定を変えた生体培養槽による生体変換の結果、女性の体をしていた。もともと線の細い感じではあったが、女性化のために顔立ちはすっかり少女のそれになり、髪は長く肌も透けるほどに白くなっていた。昔の彼を知っていた人物がいたとしても、今の彼の姿からは本人とはわからないかもしれない。
銀河を跨いで行動する戦闘艦は、その長い航海に備えてさまざまな物資を積んでいる。水や食料は言うに及ばず、さまざまな娯楽品も。娯楽品の中には、男性ばかりの戦闘艦にあって、その疲れと渇きを癒すための女性=”ラヴァーズ”も積まれていた。通常は母星の性犯罪者を性転換し、懲罰を兼ねて乗艦させられているのが普通だった。そうした"元男"の犯罪者が戦闘艦という監獄の中で、逃げ場の無い奉仕活動に従事させられていたのだ。罪人であるという来歴故に、その待遇はあまり良いものとはいえなかった。しかし長く同じ艦で寝起きし、肌を重ねていれば次第に情も移り、それなりに扱われることも多かった。
だが、決して悲劇と無縁では無い。
彼らの艦隊は前回の出航から数えて3回目の戦闘時に大きな被害を出し、旗艦以下多数の艦艇を失った。
リッカルドが艦長を務めていたこの艦も被害を出し、多くの乗員を失った。ラヴァーズも。
無限に続くと思われるような艦の補修作業、人員不足、乏しい補給、いつ敵が攻めてくれるとも知れない緊張状態……。殺伐とした空気が艦内に漂い、士気はどん底だった。数ヶ月に渡って実質的な戦闘不能状態が続いた。このままではいけないと、誰もが思っていた。
「だいたい、オマエがラヴァーズになる必要なんか無かったんだ。俺の隣に座って艦隊指揮を補佐していりゃ、よかったんだ」
リッカルドは起き上がって、フランチェスカからグラスを受け取るとぐいっと飲み干した。
「まだ言ってるの? 公正なくじ引きの結果だろ。第一、くじで選ぼうって言ったのは、リッカルドじゃないか」
「艦橋要員は除外というのを、無視したのはオマエだろう?」
「艦隊指揮はリッカルドがいれば十分だろ。それに、この艦で一番暇なのはボクだよ」
フランツ少尉は、当初は分艦隊の指揮官として数隻を率いていたが、艦隊が大きな損害を出し、乗艦も失った。そのため生き残りのリッカルドの艦に転属となった。だが準旗艦だったリッカルドの乗艦は、自動化が進んだ最新鋭艦だったため、特に艦橋要員は必要としていなかった。そのため、新たに残存艦隊の司令となったリッカルドは本来の副官とは別に、戦闘副官のポストを作って、士官学校時代の後輩であるフランツ少尉を、その任につけていたのだが……。
「どうかな、オマエは戦闘副官として十分に良くやっていたと思うが? さっきの戦闘だって、決着がついたのは、お前の助言があればこそだった」
リッカルドは空になったグラスをサイドテーブルに置くと、フランチェスカの腰に手を回して引き寄せた。
「リッカルドが疲れているように見えたから、ちょっと口を挟んだだけだよ。結果は同じだったよ」
「俺には、あの座標は読めなかった。オマエが的確に敵の脆弱点を見抜いたからこそ、今度も生き延びることができたんだ」
そういうとリッカルドは、抱き寄せたフランチェスカの前髪を掻き揚げ、濃厚なキスをした。
「んんん……、ぷはぁ……。んふ、そういってくれるとうれしいな。お役に立てて光栄ですわ、司令」
「『司令』はよせ。いまは只の、男と女だ」
「はじめは気味悪がっていたくせに。『一緒に士官学校の正門に立ちションした奴となんかできるか!』ってさ」
「つまらん事を思い出させるな、萎える」
「うそ! ココは元気みたいだよ」
そういってフランチェスカはリッカルドの股間に手を伸ばし、リッカルドはフランチェスカの背中の辺りのファスナーを探した。
「女の服ってのは脱がせにくいな」
「いいよ、自分で脱ぐから」
宇宙艦隊に女性の士官なんかいない。だから女性体となったフランチェスカは、ラヴァーズ用のドレスを着ていた。
「いつも思っているんだが、この服何とかならんか?」
「何とかって?」
「戦闘中の艦橋に、こういう服で来るなといっているんだ」
「しょうがないじゃん。これから艦隊報の撮影って時に、警報がなったんだから」
「そうだとしてもな、こんなひらひらの薄着で艦橋にくるなよ」
戦闘中の艦橋は、万が一のために人工重力を弱くしている。状況確認と細かな指揮補佐のために席を立つたびに、フランチェスカのスカートがふわふわと舞い、艦橋要員の注意力が削がれていたのを、リッカルドは苦虫をつぶしながら見ていたのだった。
「着替えてる時間無かったんだから、しょうがないじゃない。それとも裸でいろっていうの?」
「オマエ用の士官服を用意しろと、通達を出しておいたはずだが?」
「この前支給された新しいのがこれだけど? でも色は正規服と同じ色だよ」
「そういうことを言っているんじゃない。 補給担当は何をやっているんだ? もういい!」
リッカルドはようやく見つけた背中のファスナーを勢い良くおろした。控えめな胸を包む下着が、ドレスの胸元からのぞく。
「やめてよ、やぶけちゃうでしょ。規格品じゃないから、自分で繕わなきゃいけないんだから」
「いいじゃないか、脱がさせろよ。果実の皮を剥くのもお楽しみのうちなんだから」
「もう、このスケベ! ストッキングだけは破かないでよ……」
*---*---*---*---*---*---*---*
「まったく、乱暴で勝手なんだから……」
一戦を終えて満足したのか、リッカルドは鼾をかいて眠っていた。
フランチェスカは身支度を整えようとベッドから起き上がろうとした。しかし、ウェーブのかかった長い髪の端をつかまれていることに気がついた。握っていた手を解こうとしたら、今度は手を掴まれた。
寝言なのだろう、小さくてはっきりしない発音で、リッカルドが言った。
「フランツ……。いつかきっと、元に戻してやるから……」
元になんて戻れるのだろうか? 少なくともラヴァーズになってから、また元に戻った人間なんて聞いたことが無かった。でも……、なんとなく後悔はしていなかった。
握られた手をそっと指で解くと、リッカルドの手が名残惜しげに空を掴んでから、力なくシーツを叩いた。
フランチェスカは毛布をかけ直すと、リッカルドの額に軽くキスをした。
「独占させてあげられなくて、ごめんね」
リッカルド以外にも、フランチェスカを待っている人間が艦にはいる。
誰も彼も、長い戦闘航海に疲れ切っていて、慰めを必要としている。
初めは抵抗があったこの役割も、艦隊を維持するためには必要なことだ。
それに……。複雑な思いがフランチェスカの小さな胸を駆け巡る。自分の中でもまだ整理のついていない。とても複雑で奇妙な思い。でも今は、無理に結論を出そうとは思わなかった。
フランチェスカは部屋の照明を落とし、閉じかけた司令私室のドアのかげから声をかけた。
「おやすみ、リッカルド。よい夢を」
(END)
星の海で(2)はこちら
20080710
キャライメージ作成.東宮由依
虚空の宇宙空間。時折走る細い光芒が、小さな輝きを生んでいた。
「敵艦隊、速度が落ちました。防御陣形を取りつつあるようです」
照明の落とされた室内。戦闘状態にある艦橋の中で、数名の士官が数隻からなる艦隊全体の指揮統制を行っていた。艦橋の中心、一段高いところに座っていたリッカルド司令は、艦橋前方にしつらえられた大型の戦術モニターを見ながら頷いた。
「よろしい、敵も消耗してきた様だな。こちらも陣形を整えよう」
「司令、その前に一度、攻撃をしてみてはいかがでしょうか?」
司令の隣に座り、戦術モニターを操作していた女性士官が進言する。ミドルティーンの少女の様な姿をしているが、彼女が戦局を見誤ったことは一度も無かった。司令の手元のディスプレイに、彼女から短い数字のメッセージが送られてくる。
「そうだな……。では、全艦主砲斉射3連。照準座標位置は敵艦隊中心、D61-C62-B20」
「アイアイサー! 全艦主砲斉射3連用意! 照準固定、D61-C62-B20」
砲撃管制士官が復唱する。艦隊全体の射撃管制を掌握できる粒子スクリーンが、指令席と戦闘副官席を包むように立ち広がった。艦隊全体の射撃管制装置の同期が取れたのを確認すると、リッカルドは力強く叫んだ。
「ファイアー!!」
眩い光芒が虚空の空間を3度貫き、そしてたくさんの輝きが生まれては消えた。
「敵艦隊は小集団に分裂、各個に戦場を離脱していきます」
観測士官が、やや興奮した口調で報告する。膠着状態にはいるかと思われた戦局が、司令の的確な判断で完勝に近い形で、終わりを告げようとしているのだから。
「よし、終わったな」
「反撃は無いようですね」
司令席と戦闘副官席を包んでいた粒子スクリーンが、細かなきらめきを散らしながら消えていった。
「陣形を整えろ。しばらくこの場にとどまった後、次の補給地へ向かう。アレッサンドロ副長は各艦の担当士官と損害報告をまとめて置くように。トダ参謀代理、指揮を引き継いでくれ。少し休ませてもらう、状況が変わるようであれば、呼び出してくれ」
「アイアイ、サー!! 指揮を引き継ぎます」
司令は隣席に座っている、女性士官にも声をかける。
「戦闘副官、キミも疲れただろう。休みたまえ。……その、一緒にな」
最後の一言は小さく、本人にしか聞こえないように言ったが、艦橋にいる全員が察していた。
「はい、お供します」
*---*---*---*---*---*---*---*
落ち着いた室内。艦隊司令の任にあたるにはかなり若い青年と、こちらも戦闘艦に乗務するにはあまり似つかわしくない少女が、戦闘の疲れを癒そうとくつろぎ始めていた。
「司令、コーヒーにしますか? それとも紅茶にされますか?」
「フランツ、いや、フランチェスカ。2人のときは『司令』はやめてくれ」
「それじゃリッカルド、コーヒーと紅茶とどっちにするんだ?」
フランチェスカと呼ばれた女性は、急にぞんざいな、しかし親しみのこもった口調で尋ねる。
「酒」
「飲んだら眠くなっちゃうんじゃ無いの?」
「いいんだよ、疲れたからもう寝たいんだ」
「はいはい、でもヤるんじゃなかったの? わざわざ呼びつけたってことはさ。ボク、この後忙しくなるのに」
「ばか、戦闘の直後だぞ。ついさっきまで殺気立っていた連中に、何されるか判らんじゃないか!」
士官服のままベッドに倒れこんだリッカルドの傍に、グラスを持ったフランチェスカが腰掛ける。
「心配してくれるんだ?」
「オマエにそんなことさせているのは、オレの責任だからな……」
「別に。ボクがやるっていったんだから、リッカルドのせいじゃないよ」

フランチェスカは元”男”だった。リッカルドの副官としてこの艦に配属された時はそうだった。しかし今は薬品投与と設定を変えた生体培養槽による生体変換の結果、女性の体をしていた。もともと線の細い感じではあったが、女性化のために顔立ちはすっかり少女のそれになり、髪は長く肌も透けるほどに白くなっていた。昔の彼を知っていた人物がいたとしても、今の彼の姿からは本人とはわからないかもしれない。
銀河を跨いで行動する戦闘艦は、その長い航海に備えてさまざまな物資を積んでいる。水や食料は言うに及ばず、さまざまな娯楽品も。娯楽品の中には、男性ばかりの戦闘艦にあって、その疲れと渇きを癒すための女性=”ラヴァーズ”も積まれていた。通常は母星の性犯罪者を性転換し、懲罰を兼ねて乗艦させられているのが普通だった。そうした"元男"の犯罪者が戦闘艦という監獄の中で、逃げ場の無い奉仕活動に従事させられていたのだ。罪人であるという来歴故に、その待遇はあまり良いものとはいえなかった。しかし長く同じ艦で寝起きし、肌を重ねていれば次第に情も移り、それなりに扱われることも多かった。
だが、決して悲劇と無縁では無い。
彼らの艦隊は前回の出航から数えて3回目の戦闘時に大きな被害を出し、旗艦以下多数の艦艇を失った。
リッカルドが艦長を務めていたこの艦も被害を出し、多くの乗員を失った。ラヴァーズも。
無限に続くと思われるような艦の補修作業、人員不足、乏しい補給、いつ敵が攻めてくれるとも知れない緊張状態……。殺伐とした空気が艦内に漂い、士気はどん底だった。数ヶ月に渡って実質的な戦闘不能状態が続いた。このままではいけないと、誰もが思っていた。
「だいたい、オマエがラヴァーズになる必要なんか無かったんだ。俺の隣に座って艦隊指揮を補佐していりゃ、よかったんだ」
リッカルドは起き上がって、フランチェスカからグラスを受け取るとぐいっと飲み干した。
「まだ言ってるの? 公正なくじ引きの結果だろ。第一、くじで選ぼうって言ったのは、リッカルドじゃないか」
「艦橋要員は除外というのを、無視したのはオマエだろう?」
「艦隊指揮はリッカルドがいれば十分だろ。それに、この艦で一番暇なのはボクだよ」
フランツ少尉は、当初は分艦隊の指揮官として数隻を率いていたが、艦隊が大きな損害を出し、乗艦も失った。そのため生き残りのリッカルドの艦に転属となった。だが準旗艦だったリッカルドの乗艦は、自動化が進んだ最新鋭艦だったため、特に艦橋要員は必要としていなかった。そのため、新たに残存艦隊の司令となったリッカルドは本来の副官とは別に、戦闘副官のポストを作って、士官学校時代の後輩であるフランツ少尉を、その任につけていたのだが……。
「どうかな、オマエは戦闘副官として十分に良くやっていたと思うが? さっきの戦闘だって、決着がついたのは、お前の助言があればこそだった」
リッカルドは空になったグラスをサイドテーブルに置くと、フランチェスカの腰に手を回して引き寄せた。
「リッカルドが疲れているように見えたから、ちょっと口を挟んだだけだよ。結果は同じだったよ」
「俺には、あの座標は読めなかった。オマエが的確に敵の脆弱点を見抜いたからこそ、今度も生き延びることができたんだ」
そういうとリッカルドは、抱き寄せたフランチェスカの前髪を掻き揚げ、濃厚なキスをした。
「んんん……、ぷはぁ……。んふ、そういってくれるとうれしいな。お役に立てて光栄ですわ、司令」
「『司令』はよせ。いまは只の、男と女だ」
「はじめは気味悪がっていたくせに。『一緒に士官学校の正門に立ちションした奴となんかできるか!』ってさ」
「つまらん事を思い出させるな、萎える」
「うそ! ココは元気みたいだよ」
そういってフランチェスカはリッカルドの股間に手を伸ばし、リッカルドはフランチェスカの背中の辺りのファスナーを探した。
「女の服ってのは脱がせにくいな」
「いいよ、自分で脱ぐから」
宇宙艦隊に女性の士官なんかいない。だから女性体となったフランチェスカは、ラヴァーズ用のドレスを着ていた。
「いつも思っているんだが、この服何とかならんか?」
「何とかって?」
「戦闘中の艦橋に、こういう服で来るなといっているんだ」
「しょうがないじゃん。これから艦隊報の撮影って時に、警報がなったんだから」
「そうだとしてもな、こんなひらひらの薄着で艦橋にくるなよ」
戦闘中の艦橋は、万が一のために人工重力を弱くしている。状況確認と細かな指揮補佐のために席を立つたびに、フランチェスカのスカートがふわふわと舞い、艦橋要員の注意力が削がれていたのを、リッカルドは苦虫をつぶしながら見ていたのだった。
「着替えてる時間無かったんだから、しょうがないじゃない。それとも裸でいろっていうの?」
「オマエ用の士官服を用意しろと、通達を出しておいたはずだが?」
「この前支給された新しいのがこれだけど? でも色は正規服と同じ色だよ」
「そういうことを言っているんじゃない。 補給担当は何をやっているんだ? もういい!」
リッカルドはようやく見つけた背中のファスナーを勢い良くおろした。控えめな胸を包む下着が、ドレスの胸元からのぞく。
「やめてよ、やぶけちゃうでしょ。規格品じゃないから、自分で繕わなきゃいけないんだから」
「いいじゃないか、脱がさせろよ。果実の皮を剥くのもお楽しみのうちなんだから」
「もう、このスケベ! ストッキングだけは破かないでよ……」
*---*---*---*---*---*---*---*
「まったく、乱暴で勝手なんだから……」
一戦を終えて満足したのか、リッカルドは鼾をかいて眠っていた。
フランチェスカは身支度を整えようとベッドから起き上がろうとした。しかし、ウェーブのかかった長い髪の端をつかまれていることに気がついた。握っていた手を解こうとしたら、今度は手を掴まれた。
寝言なのだろう、小さくてはっきりしない発音で、リッカルドが言った。
「フランツ……。いつかきっと、元に戻してやるから……」
元になんて戻れるのだろうか? 少なくともラヴァーズになってから、また元に戻った人間なんて聞いたことが無かった。でも……、なんとなく後悔はしていなかった。
握られた手をそっと指で解くと、リッカルドの手が名残惜しげに空を掴んでから、力なくシーツを叩いた。
フランチェスカは毛布をかけ直すと、リッカルドの額に軽くキスをした。
「独占させてあげられなくて、ごめんね」
リッカルド以外にも、フランチェスカを待っている人間が艦にはいる。
誰も彼も、長い戦闘航海に疲れ切っていて、慰めを必要としている。
初めは抵抗があったこの役割も、艦隊を維持するためには必要なことだ。
それに……。複雑な思いがフランチェスカの小さな胸を駆け巡る。自分の中でもまだ整理のついていない。とても複雑で奇妙な思い。でも今は、無理に結論を出そうとは思わなかった。
フランチェスカは部屋の照明を落とし、閉じかけた司令私室のドアのかげから声をかけた。
「おやすみ、リッカルド。よい夢を」
(END)
星の海で(2)はこちら
20080710
コメント
おおー、投稿さんくす。
東宮さんには現在発注してないですから、またイラスト頼んでも良いですよー。
リッカルドもキャラ作っていませんしね♪
東宮さんには現在発注してないですから、またイラスト頼んでも良いですよー。
リッカルドもキャラ作っていませんしね♪
星の海で(2) 不定期更新w
薄暗い通路。
扉の上にある黄色の回転灯が、この区域に不用意に近づいてはいけないことを示している。
フランチェスカは戦闘艇に乗る際に着用する、装甲服のようなスーツを着せられ、パイロットのフェルナンド中尉と電動カートに乗っていた。
格納庫の扉が開くと、大きな機体が目に入った。
「これに乗るの?」
「ええ、これに“載る”んですよ」
「見たことのない機体だわ」
「そりゃそうでしょう、何しろコイツは特別ですからね」
照明の落とされた暗い格納庫内にあるそれを見上げたが、濃い色の塗装とあいまって、形がはっきりしない。それに小さくてスマートな形の機首に似合わず、ブースターに規格品のミサイルパックやポッドが、これでもかと装着されていて、元の形が判らなくなっていた。
「特別?」
「ええ、先月トリポリの工場を出たばかりなんです。まだ宇宙に1機だけ、最新鋭の戦闘機動艇です。恒星間は無理ですが、水中から宇宙空間まで、どんな領域でも最高の性能を発揮します」
「それにしては、ごちゃごちゃしているわね」
「ええ、ちょっと大尉の荷物が多かったもので……」
「え? 私が預けた荷物は、トランクひとつだけだったはずだけど?」
「いや、基地のみんなや訓練部隊からの贈り物が……」
「ああ、艦のみんなの分ね」
「いえ、全部大尉への個人的なプレゼントです」
「はぁ?」
「ま、それは艦についてからのお楽しみってことで。さ、早く乗ってください」
「身動きできないんだけど」
「ああ、そうでした。 おい! そこの整備員! ブースター換装用のドーリー持って来い!」
フランチェスカが着せられていたスーツは通常の規格品ではあった。しかし、ラヴァーズであるフランチェスカの小さくて華奢な少女の体に合うものが、部隊にはなかった。そのため体とスーツの隙間には、たっぷりと詰め物がしてあった。そのおかげで座らされたら最後、ほとんど身動きひとつできなかったのだ。
まるで電源の入っていないロボットのようにドーリーに載せられて、コックピットの部分まで持ち上げられた。
「何よこれ? まさかコイツが後席なわけ?」
「ああ、こいつだけはバゲージポッドどころか、ミサイルポッドの中にも入らなかったもんで……」
ご丁寧に6点式のファスニングを締められて後席に座っていたのは、おそらくフランチェスカよりも大きな“くまのぬいぐるみ”だった。
「まさかこのぬいぐるみが操縦するなんて、言わないでしょうね。私、このカッコじゃ操縦できないわよ」
「操縦はこの機体が自動でやります。おっと、後ろは見ないでください」
首を動かして、機体全体を眺めようとしたら、視界をさえぎられた。
「どうして?」
「いえ、その……。ああ、最新鋭機だから、まだ秘密の部分がありまして……」
「はぁ?」
「それよりこちらを。これがコーションパネル。一応見ていて、どれか点いたら直ぐに言ってください。これが航法用のNAVディスプレイ。フライトパスはちゃんとプログラムしときました。5回もシミュレーションしたから万全です。それにあっしがウィングマンで付いていきますから、何かあってもしっかりフォローします。大尉は寝てても、無事に艦までお送りしますよ」
「私も“荷物”ってこと?」
せっかく再訓練を受けて、勘を取り戻したばかりの腕を試したかったフランチェスカは、後席の巨大な“くま”を指差しながら言った。
「ええまぁ、はっきり言ってしまうと、そういうことに……」
「はぁ……、いいわ。それじゃ、私も機体に“取り付けて”ちょうだい」
「へぇ、お載せいたしやす」
*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*
慣熟訓練を終えたばかりの戦艦の艦橋。准将に昇進したばかりのリッカルドは、補給を受けて再編された第106遊撃艦隊の艦隊司令に就任した。“あくまで暫定的”との補足付きの周辺宙域艦隊群幕僚本部の辞令ではあった。しかし遊撃艦隊の司令ということは、“独自の判断で戦果を挙げよ”という暗黙の命令であり、ちょっとした戦果を挙げれば、少将への昇進を内示されているも同然だった。リッカルドの年齢の割にはかなり早い昇進だが、崩壊寸前の艦隊を率いて、華々しい戦果をたて続けに立てたことを、評価されてのことだった。
予定時刻になっても、艦隊の待つ軌道上への上昇を始めないことに、疑問を感じたリッカルドが言った。
「どうしたんだ? 予定よりも2時間も遅れているぞ。旗艦が遅刻じゃ、示しが付かないではないか!」
「戦闘副官の到着がまだです」
「フラ……いや、副官が?」
「ええ、でも10分ほど前に地上基地を発進すると、連絡が」
「早く収容しろ。大気圏外へ出たらすぐ、艦隊全体に航路予定と転移点データのアップデートができるように、準備しておけよ」
「既に中継機をだしてデータの転送は終わっています。旗艦位置に占位次第、直ぐに空間転移できます」
「わざわざ中継機まで出さねばならんとは、フランチェスカの奴め!」
「約20分後に着艦シーケンスに入るそうです」
リッカルドは前方の窓から外を見たが、夜明け直前の暗い雲中で、今はまだ何か見えるはずもなかった。
*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*
搭載コンピューターがAPUの始動から、メインエンジンのスタート、動翼やスラスターのチェック、アビオニクスを含めた複雑で多岐にわたるプリフライトチェックを全て行っていた。そしてさらに、タキシングにいたるまで、艇が自動的に進めていき、フランチェスカはすることがなく、めまぐるしく変化していくインジケーターやディスプレイの表示を、ぼうっと見つめていた。
「はぁ、やることなくて退屈だわ、せっかくの新鋭機だってのに……」
『時間が無いのでカタパルトで打ち出してもらいます。舌かまないでくださいよ、大尉』
レシーバーからフェルナンド中尉の通信が入る。
「ブースターパック付いてるのに?」
『実は大尉の機体は積載量を、少々オーバーしてまして……』
「だ、大丈夫なの?」
『上がっちまえば関係ありませんよ、Gキャンセラーが作動しますから』
「はぁ、機体も勝手に動いていくし、本当に大丈夫なのかしら……」
『STREGA-FLIGHT,Taxi to launch position, and latch catapult』
管制塔からの指示が、中尉との会話に割り込んだ。
『STREGA-FLIGHT. Launch position』
中尉が答えると同時に、ガゴンという低い音と振動があって、機体がカタパルトに接続されたことを伝えた。同時に機体がゆっくりと上向きに傾けられていった。機体の傾斜が止まると、右側の発進信号のインジケーターが“GO”サインを出し、射出の準備が整ったことを示していた。
「STREGA01. Ready for Launch」
『02』
『Catapult tensioning. STREGA-FLIGHT Cleared for Take-off』
『大尉が一応編隊長ですから、コールをお願いします』
「はいはい“一応”ね。 STREGA-FLIGHT Take-off!」
さっき言われたように舌を噛まない様にぎゅっと歯を食いしばると、衝撃と共にフランチェスカの体がシートに押し付けられた。直ぐに加速が緩んで機体が降下に転じたかと思うと、再び強烈な加速Gがかかり、フランチェスカ機は上昇を始めた。
軽やかに上昇を続けるフェルナンド機を追いかけるように、フランチェスカ機もブースターの長い煙を引きながら、夜明け直前の暗い空へと翔け上がって行った。
*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*
「STREGA-FLIGHT, 10 mile Tale.」
官制士官がフランチェスカたちの編隊の接近を告げた。
普段なら艦載艇の発着艦や指揮管制は、別の管制室で行われる。リッカルド司令はそのことに疑問をはさんだが、『軌道上へ向けて加速する体制に入っているため、司令艦橋で行います』と航法士官に言われては、特に変更させる理由もなく、『そうか』と任せることにした。
もっとも、リッカルド以外の乗組員が全員結託して何かをしようとしていることなど、考えも及んでいなかった。
「提督、雲の上に出ますから、窓の側までお越しください」
「あ? なぜだ?」
「もう直ぐ夜明けですし、“いいもの”が見れますよ」
「いいもの?」
リッカルドは司令席から立ち上がり、艦橋前方の窓の脇に立った。
*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*
「見えたわ、あれが新しい艦?」
『ええ、あれが“アンドレア・ドリア”です。改ラデツキー級の新型情報戦艦で、同型艦はまだこの宙域には1隻だけですよ』
「へえ、なかなか立派な艦ね。朝焼けに映えてかっこいいわ」
払暁の雲海の上を航行する巨大な艦影に、フランチェスカは見とれていた。
『あっしは先に着艦させていただきやす。大尉殿は艦を一旦回りこんでから、着艦なさってください』
「操縦できないから、言われたとおりにするしかないわね」
NAVディスプレイに、新しいアプローチコースが表示された。
*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*
『ARTHUR. This is STREGA-FLIGHT. Request to approach, and contact MOTHER-ARM』
「This is ARTHUR. Welcome home STREGA-FLIGHT, Cleared for approach, and contact MOTHER-ARM」
『STREGA-FLIGHT, Contact MOTHER-ARM』
着艦体制に入った2機が、艦の自動着艦管制システムとリンクしたことを官制士官が確認すると、着艦デッキの扉が開いていった。
2機の様子は艦外監視用のカメラで捉えられ、大型スクリーンにも表示されていたが、前方の窓の近くに寄っていたリッカルドは、そのことに気づいてはいなかった。
「STREGA-FLIGHT, Open deck, Clear touch」
『STREGA02,Kiss to Mother, 01 Fly-Pass』
官制士官とのやり取りを、聞くともなしに聞いていたリッカルドは、ふと尋ねた。
「フランチェスカの機体が、先に着艦するんじゃないのか?」
「最新鋭機で帰艦するとのことですから、お披露目したいのでしょう」
「やれやれ、ただでさえ時間に遅れているというのに……」
「あ、来ましたよ。艦橋のすぐ前でターンするそうです」
最新鋭機と聞かされては、リッカルドも興味を持たざるを得ない。窓の側によると、濃紺のブルー迷彩の機体が大きくバンクをとりながら、ゆっくりと旋回していった。だがその機体の背中には、少女の顔を模したマスコットキャラクターが、大きく描かれていた。
「な、なんだあれは!」
どっ、と歓声に沸く艦橋で、リッカルドは叫んだ。
「ちゃんとビデオにも記録しておきましたよ。スクリーンに出しますね」
艦橋前方の大型スクリーンいっぱいに、先ほどフライパスしていったフランチェスカ機のスナップショットが映し出された。
フランチェスカの顔に似せたマスコットキャラクターの下には「Nostro amore Francesca❤」とファンシーなピンク色の字体で大書されていた。
コックピットには、バイザー越しにびっくりした表情でこちらを見ている、本人と後席の“くま”まで、はっきりと写っていた。
「おい、後でコピーしてくれよな」
「心配しなくてもワープに入ったら、情報部を通じて艦隊放送に回るように手はずは整えてある。もちろん購買部の企画課にもな」
「さすが! 手際が良いな」
「実物は、4番格納庫の第3整備デッキだ。ハンガーマスターに追い出されないように、気をつけろよ。ちなみにフランチェスカ大尉は着艦後、艦内時間1800まではオフの予定になっている」
「ああ、早く会いたいなぁー。制服も新しいのが支給されたんだろ?」
浮ついた会話の飛び交う艦橋で、それまでぐっと堪えていたリッカルドが怒鳴った。
「おまえらいい加減にしろ! とっとと軌道上に遷移するんだ、今すぐにだ!!」
慌てて所定位置についた艦橋要員を睨み付けながら、リッカルドも席に着いた。
「じゅ、重力圏脱出速度へ加速。軌道上、艦隊の所定位置に遷移します」
怒鳴られたばかりの航法士官が、やや緊張した声で言う。
「まったく、どいつもいつも……」
リッカルドは、苦虫をつぶすような顔をして、指揮を続けた。
*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*
「何を考えているんだ! 軍の機体を私物化するなどと!」
恒星間転移航行(ワープ)にはいれば、司令はとりあえずやることが無くなる。勤務シフト中ではあったが、リッカルドは適当な理由でごまかして、フランチェスカの私室にいた。
部屋の住人は、着替え中だからと拒むのも構わずに、リッカルドは無理やり押しかけていたのだ。
「私だって知らなかったわよ! 中尉の様子がなんか変だったけど、まさかあんなのが描かれていたなんて、知らなかったわ」
「機体もそうだが、なんだこの荷物は?」
部屋には至る所に箱がうず高く積み上げられ、ベッドには艦橋のスクリーンでも見た、巨大なくまのぬいぐるみが座っていた。
「この子はトリポリ基地司令から、あっちに積み上げてあるのは整備隊から、こっちは基地総務部から。それで入り口のところに積んであるのが、地上訓練でお世話になった第47訓練隊の教育班の皆様からだって」
「だからなんだ、それは」
「“個人的な贈り物”だそうよ、私に。 アイドルも大変だわ」
「贈り物? 誰がアイドルだって? “ラヴァーズ”だろうが、お前は!」
「戦闘副官の辞令をもらったから、一応は正規の艦隊幕僚の一員よ」
「俺はまだ着任を認めたわけじゃないぞ!」
「じゃ、どうしたいのよ!」
「艦隊司令に、着任の挨拶も済んでいないだろうが」
不機嫌そうに自分の頬を指差しながら言うリッカルドに、やれやれと呆れたように手を広げたフランチェスカは、仕方なくリッカルドの頬にキスをした。
「これでどう? 気が済んだ?」
「1ヶ月も離れ離れだったんだぞ。浮気なんかしていないだろうな」
「私はあなたの独占物じゃないわよ」
「幕僚なら、ラヴァーズの任も解かれたんだろ?」
「“自由恋愛”をしちゃいけない、理由なんて無いわ」
「何だと!!」
「私、とっても人気があったのよ。とても大事にされていたわ。誰かさんみたいに着替え中のレディの部屋に、無理矢理入り込んでくるなんて人はいなかったし」
「むむむ……。で、それが新しい制服か?」
フランチェスカは地上から乗ってきた専用機と同じ色の、ぴったりとしたワンピ-スを素肌の上に身に着けていた。ワンピースといっても胴体部分だけをぴったりと覆うだけで、フランチェスカのやや幼く見える体のラインがはっきりと出ていた。胸には後から縫い付けたと思われる白い布に「47-A班 ふらんちぇすか」 と書かれていた。
「まさか。これはフライトスーツの下に着るアンダーウェアよ。恥ずかしいからあんまり見ないで」
「そうか。まぁそんな格好で、うろつかれても困るが……」
「じろじろ見ないでよ! それ以上近づいたら殴るわよ。だいたい着替えの途中なんだから、早く出てってよ!」
「おまえ、ちょっと見ないうちに、ずいぶんと女らしくなったなぁ。何の訓練受けてきたんだ?」
「いいから出てけっ! 着替えられないだろ!」
「心配だから見ていて……、わ、判ったよ。そう怒るなよ」
リッカルドはようやく重い腰を上げて、部屋の戸を閉じた。
「まったく! どうしてああスケベなんだろう……」
ワンピースを脱ごうとすると、視線を感じた。後ろを見ると、扉が少し開いていて、リッカルドがこちらを見ていた。
一瞬“ヤバい”というような焦りの表情になったが、直ぐにまじめな顔になっていった。
「ごほん! 1800に艦橋へ出頭すること。良いね、フランチェスカ大尉」
「お前はとっとと行けーっ!」
手近にあったコップを投げつけたが、すばやくドアが閉じられ、プラスチックがドアにあたるパコーンという音がして、跳ね返された。
戦場では戦局を見誤ったことなど、1度も無かったフランチェスカの攻撃は、失敗に終わった。
------------------------------------------------------------
おかしい! ファフナーのCD-BOX聞きながら、カッコイイシーンを書こうと思っていたのに(~_~ )!。
続きはいつになるかわかりません。いちおう構想はありますが……
扉の上にある黄色の回転灯が、この区域に不用意に近づいてはいけないことを示している。
フランチェスカは戦闘艇に乗る際に着用する、装甲服のようなスーツを着せられ、パイロットのフェルナンド中尉と電動カートに乗っていた。
格納庫の扉が開くと、大きな機体が目に入った。
「これに乗るの?」
「ええ、これに“載る”んですよ」
「見たことのない機体だわ」
「そりゃそうでしょう、何しろコイツは特別ですからね」
照明の落とされた暗い格納庫内にあるそれを見上げたが、濃い色の塗装とあいまって、形がはっきりしない。それに小さくてスマートな形の機首に似合わず、ブースターに規格品のミサイルパックやポッドが、これでもかと装着されていて、元の形が判らなくなっていた。
「特別?」
「ええ、先月トリポリの工場を出たばかりなんです。まだ宇宙に1機だけ、最新鋭の戦闘機動艇です。恒星間は無理ですが、水中から宇宙空間まで、どんな領域でも最高の性能を発揮します」
「それにしては、ごちゃごちゃしているわね」
「ええ、ちょっと大尉の荷物が多かったもので……」
「え? 私が預けた荷物は、トランクひとつだけだったはずだけど?」
「いや、基地のみんなや訓練部隊からの贈り物が……」
「ああ、艦のみんなの分ね」
「いえ、全部大尉への個人的なプレゼントです」
「はぁ?」
「ま、それは艦についてからのお楽しみってことで。さ、早く乗ってください」
「身動きできないんだけど」
「ああ、そうでした。 おい! そこの整備員! ブースター換装用のドーリー持って来い!」
フランチェスカが着せられていたスーツは通常の規格品ではあった。しかし、ラヴァーズであるフランチェスカの小さくて華奢な少女の体に合うものが、部隊にはなかった。そのため体とスーツの隙間には、たっぷりと詰め物がしてあった。そのおかげで座らされたら最後、ほとんど身動きひとつできなかったのだ。
まるで電源の入っていないロボットのようにドーリーに載せられて、コックピットの部分まで持ち上げられた。
「何よこれ? まさかコイツが後席なわけ?」
「ああ、こいつだけはバゲージポッドどころか、ミサイルポッドの中にも入らなかったもんで……」
ご丁寧に6点式のファスニングを締められて後席に座っていたのは、おそらくフランチェスカよりも大きな“くまのぬいぐるみ”だった。
「まさかこのぬいぐるみが操縦するなんて、言わないでしょうね。私、このカッコじゃ操縦できないわよ」
「操縦はこの機体が自動でやります。おっと、後ろは見ないでください」
首を動かして、機体全体を眺めようとしたら、視界をさえぎられた。
「どうして?」
「いえ、その……。ああ、最新鋭機だから、まだ秘密の部分がありまして……」
「はぁ?」
「それよりこちらを。これがコーションパネル。一応見ていて、どれか点いたら直ぐに言ってください。これが航法用のNAVディスプレイ。フライトパスはちゃんとプログラムしときました。5回もシミュレーションしたから万全です。それにあっしがウィングマンで付いていきますから、何かあってもしっかりフォローします。大尉は寝てても、無事に艦までお送りしますよ」
「私も“荷物”ってこと?」
せっかく再訓練を受けて、勘を取り戻したばかりの腕を試したかったフランチェスカは、後席の巨大な“くま”を指差しながら言った。
「ええまぁ、はっきり言ってしまうと、そういうことに……」
「はぁ……、いいわ。それじゃ、私も機体に“取り付けて”ちょうだい」
「へぇ、お載せいたしやす」
*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*
慣熟訓練を終えたばかりの戦艦の艦橋。准将に昇進したばかりのリッカルドは、補給を受けて再編された第106遊撃艦隊の艦隊司令に就任した。“あくまで暫定的”との補足付きの周辺宙域艦隊群幕僚本部の辞令ではあった。しかし遊撃艦隊の司令ということは、“独自の判断で戦果を挙げよ”という暗黙の命令であり、ちょっとした戦果を挙げれば、少将への昇進を内示されているも同然だった。リッカルドの年齢の割にはかなり早い昇進だが、崩壊寸前の艦隊を率いて、華々しい戦果をたて続けに立てたことを、評価されてのことだった。
予定時刻になっても、艦隊の待つ軌道上への上昇を始めないことに、疑問を感じたリッカルドが言った。
「どうしたんだ? 予定よりも2時間も遅れているぞ。旗艦が遅刻じゃ、示しが付かないではないか!」
「戦闘副官の到着がまだです」
「フラ……いや、副官が?」
「ええ、でも10分ほど前に地上基地を発進すると、連絡が」
「早く収容しろ。大気圏外へ出たらすぐ、艦隊全体に航路予定と転移点データのアップデートができるように、準備しておけよ」
「既に中継機をだしてデータの転送は終わっています。旗艦位置に占位次第、直ぐに空間転移できます」
「わざわざ中継機まで出さねばならんとは、フランチェスカの奴め!」
「約20分後に着艦シーケンスに入るそうです」
リッカルドは前方の窓から外を見たが、夜明け直前の暗い雲中で、今はまだ何か見えるはずもなかった。
*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*
搭載コンピューターがAPUの始動から、メインエンジンのスタート、動翼やスラスターのチェック、アビオニクスを含めた複雑で多岐にわたるプリフライトチェックを全て行っていた。そしてさらに、タキシングにいたるまで、艇が自動的に進めていき、フランチェスカはすることがなく、めまぐるしく変化していくインジケーターやディスプレイの表示を、ぼうっと見つめていた。
「はぁ、やることなくて退屈だわ、せっかくの新鋭機だってのに……」
『時間が無いのでカタパルトで打ち出してもらいます。舌かまないでくださいよ、大尉』
レシーバーからフェルナンド中尉の通信が入る。
「ブースターパック付いてるのに?」
『実は大尉の機体は積載量を、少々オーバーしてまして……』
「だ、大丈夫なの?」
『上がっちまえば関係ありませんよ、Gキャンセラーが作動しますから』
「はぁ、機体も勝手に動いていくし、本当に大丈夫なのかしら……」
『STREGA-FLIGHT,Taxi to launch position, and latch catapult』
管制塔からの指示が、中尉との会話に割り込んだ。
『STREGA-FLIGHT. Launch position』
中尉が答えると同時に、ガゴンという低い音と振動があって、機体がカタパルトに接続されたことを伝えた。同時に機体がゆっくりと上向きに傾けられていった。機体の傾斜が止まると、右側の発進信号のインジケーターが“GO”サインを出し、射出の準備が整ったことを示していた。
「STREGA01. Ready for Launch」
『02』
『Catapult tensioning. STREGA-FLIGHT Cleared for Take-off』
『大尉が一応編隊長ですから、コールをお願いします』
「はいはい“一応”ね。 STREGA-FLIGHT Take-off!」
さっき言われたように舌を噛まない様にぎゅっと歯を食いしばると、衝撃と共にフランチェスカの体がシートに押し付けられた。直ぐに加速が緩んで機体が降下に転じたかと思うと、再び強烈な加速Gがかかり、フランチェスカ機は上昇を始めた。
軽やかに上昇を続けるフェルナンド機を追いかけるように、フランチェスカ機もブースターの長い煙を引きながら、夜明け直前の暗い空へと翔け上がって行った。
*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*
「STREGA-FLIGHT, 10 mile Tale.」
官制士官がフランチェスカたちの編隊の接近を告げた。
普段なら艦載艇の発着艦や指揮管制は、別の管制室で行われる。リッカルド司令はそのことに疑問をはさんだが、『軌道上へ向けて加速する体制に入っているため、司令艦橋で行います』と航法士官に言われては、特に変更させる理由もなく、『そうか』と任せることにした。
もっとも、リッカルド以外の乗組員が全員結託して何かをしようとしていることなど、考えも及んでいなかった。
「提督、雲の上に出ますから、窓の側までお越しください」
「あ? なぜだ?」
「もう直ぐ夜明けですし、“いいもの”が見れますよ」
「いいもの?」
リッカルドは司令席から立ち上がり、艦橋前方の窓の脇に立った。
*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*
「見えたわ、あれが新しい艦?」
『ええ、あれが“アンドレア・ドリア”です。改ラデツキー級の新型情報戦艦で、同型艦はまだこの宙域には1隻だけですよ』
「へえ、なかなか立派な艦ね。朝焼けに映えてかっこいいわ」
払暁の雲海の上を航行する巨大な艦影に、フランチェスカは見とれていた。
『あっしは先に着艦させていただきやす。大尉殿は艦を一旦回りこんでから、着艦なさってください』
「操縦できないから、言われたとおりにするしかないわね」
NAVディスプレイに、新しいアプローチコースが表示された。
*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*
『ARTHUR. This is STREGA-FLIGHT. Request to approach, and contact MOTHER-ARM』
「This is ARTHUR. Welcome home STREGA-FLIGHT, Cleared for approach, and contact MOTHER-ARM」
『STREGA-FLIGHT, Contact MOTHER-ARM』
着艦体制に入った2機が、艦の自動着艦管制システムとリンクしたことを官制士官が確認すると、着艦デッキの扉が開いていった。
2機の様子は艦外監視用のカメラで捉えられ、大型スクリーンにも表示されていたが、前方の窓の近くに寄っていたリッカルドは、そのことに気づいてはいなかった。
「STREGA-FLIGHT, Open deck, Clear touch」
『STREGA02,Kiss to Mother, 01 Fly-Pass』
官制士官とのやり取りを、聞くともなしに聞いていたリッカルドは、ふと尋ねた。
「フランチェスカの機体が、先に着艦するんじゃないのか?」
「最新鋭機で帰艦するとのことですから、お披露目したいのでしょう」
「やれやれ、ただでさえ時間に遅れているというのに……」
「あ、来ましたよ。艦橋のすぐ前でターンするそうです」
最新鋭機と聞かされては、リッカルドも興味を持たざるを得ない。窓の側によると、濃紺のブルー迷彩の機体が大きくバンクをとりながら、ゆっくりと旋回していった。だがその機体の背中には、少女の顔を模したマスコットキャラクターが、大きく描かれていた。
「な、なんだあれは!」
どっ、と歓声に沸く艦橋で、リッカルドは叫んだ。
「ちゃんとビデオにも記録しておきましたよ。スクリーンに出しますね」
艦橋前方の大型スクリーンいっぱいに、先ほどフライパスしていったフランチェスカ機のスナップショットが映し出された。
フランチェスカの顔に似せたマスコットキャラクターの下には「Nostro amore Francesca❤」とファンシーなピンク色の字体で大書されていた。
コックピットには、バイザー越しにびっくりした表情でこちらを見ている、本人と後席の“くま”まで、はっきりと写っていた。
「おい、後でコピーしてくれよな」
「心配しなくてもワープに入ったら、情報部を通じて艦隊放送に回るように手はずは整えてある。もちろん購買部の企画課にもな」
「さすが! 手際が良いな」
「実物は、4番格納庫の第3整備デッキだ。ハンガーマスターに追い出されないように、気をつけろよ。ちなみにフランチェスカ大尉は着艦後、艦内時間1800まではオフの予定になっている」
「ああ、早く会いたいなぁー。制服も新しいのが支給されたんだろ?」
浮ついた会話の飛び交う艦橋で、それまでぐっと堪えていたリッカルドが怒鳴った。
「おまえらいい加減にしろ! とっとと軌道上に遷移するんだ、今すぐにだ!!」
慌てて所定位置についた艦橋要員を睨み付けながら、リッカルドも席に着いた。
「じゅ、重力圏脱出速度へ加速。軌道上、艦隊の所定位置に遷移します」
怒鳴られたばかりの航法士官が、やや緊張した声で言う。
「まったく、どいつもいつも……」
リッカルドは、苦虫をつぶすような顔をして、指揮を続けた。
*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*
「何を考えているんだ! 軍の機体を私物化するなどと!」
恒星間転移航行(ワープ)にはいれば、司令はとりあえずやることが無くなる。勤務シフト中ではあったが、リッカルドは適当な理由でごまかして、フランチェスカの私室にいた。
部屋の住人は、着替え中だからと拒むのも構わずに、リッカルドは無理やり押しかけていたのだ。
「私だって知らなかったわよ! 中尉の様子がなんか変だったけど、まさかあんなのが描かれていたなんて、知らなかったわ」
「機体もそうだが、なんだこの荷物は?」
部屋には至る所に箱がうず高く積み上げられ、ベッドには艦橋のスクリーンでも見た、巨大なくまのぬいぐるみが座っていた。
「この子はトリポリ基地司令から、あっちに積み上げてあるのは整備隊から、こっちは基地総務部から。それで入り口のところに積んであるのが、地上訓練でお世話になった第47訓練隊の教育班の皆様からだって」
「だからなんだ、それは」
「“個人的な贈り物”だそうよ、私に。 アイドルも大変だわ」
「贈り物? 誰がアイドルだって? “ラヴァーズ”だろうが、お前は!」
「戦闘副官の辞令をもらったから、一応は正規の艦隊幕僚の一員よ」
「俺はまだ着任を認めたわけじゃないぞ!」
「じゃ、どうしたいのよ!」
「艦隊司令に、着任の挨拶も済んでいないだろうが」
不機嫌そうに自分の頬を指差しながら言うリッカルドに、やれやれと呆れたように手を広げたフランチェスカは、仕方なくリッカルドの頬にキスをした。
「これでどう? 気が済んだ?」
「1ヶ月も離れ離れだったんだぞ。浮気なんかしていないだろうな」
「私はあなたの独占物じゃないわよ」
「幕僚なら、ラヴァーズの任も解かれたんだろ?」
「“自由恋愛”をしちゃいけない、理由なんて無いわ」
「何だと!!」
「私、とっても人気があったのよ。とても大事にされていたわ。誰かさんみたいに着替え中のレディの部屋に、無理矢理入り込んでくるなんて人はいなかったし」
「むむむ……。で、それが新しい制服か?」
フランチェスカは地上から乗ってきた専用機と同じ色の、ぴったりとしたワンピ-スを素肌の上に身に着けていた。ワンピースといっても胴体部分だけをぴったりと覆うだけで、フランチェスカのやや幼く見える体のラインがはっきりと出ていた。胸には後から縫い付けたと思われる白い布に「47-A班 ふらんちぇすか」 と書かれていた。
「まさか。これはフライトスーツの下に着るアンダーウェアよ。恥ずかしいからあんまり見ないで」
「そうか。まぁそんな格好で、うろつかれても困るが……」
「じろじろ見ないでよ! それ以上近づいたら殴るわよ。だいたい着替えの途中なんだから、早く出てってよ!」
「おまえ、ちょっと見ないうちに、ずいぶんと女らしくなったなぁ。何の訓練受けてきたんだ?」
「いいから出てけっ! 着替えられないだろ!」
「心配だから見ていて……、わ、判ったよ。そう怒るなよ」
リッカルドはようやく重い腰を上げて、部屋の戸を閉じた。
「まったく! どうしてああスケベなんだろう……」
ワンピースを脱ごうとすると、視線を感じた。後ろを見ると、扉が少し開いていて、リッカルドがこちらを見ていた。
一瞬“ヤバい”というような焦りの表情になったが、直ぐにまじめな顔になっていった。
「ごほん! 1800に艦橋へ出頭すること。良いね、フランチェスカ大尉」
「お前はとっとと行けーっ!」
手近にあったコップを投げつけたが、すばやくドアが閉じられ、プラスチックがドアにあたるパコーンという音がして、跳ね返された。
戦場では戦局を見誤ったことなど、1度も無かったフランチェスカの攻撃は、失敗に終わった。
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おかしい! ファフナーのCD-BOX聞きながら、カッコイイシーンを書こうと思っていたのに(~_~ )!。
続きはいつになるかわかりません。いちおう構想はありますが……
わー る姉さまだぁー スリスリ……
そういえば、あっちも未完のままですね。何とかしなくちゃ。
あれは、初めて書いたTSFなので、今見るとかなりアラが。(今でもw?)
そういえば、あっちも未完のままですね。何とかしなくちゃ。
あれは、初めて書いたTSFなので、今見るとかなりアラが。(今でもw?)
おお、るしぃちゃんお久しぶり。アリスの娘たちは未だ読んでいないのですが、良いものならありすちゃんにおねだりしようかな。
お久しぶりです。
しっとり、ですね。
アリスの娘たちみたいな感じ?
長編ハードコア、楽しみにしてます。
アリスの娘たちみたいな感じ?
長編ハードコア、楽しみにしてます。
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イラストは……どうしましょう(^_^;)。 仕事の待ち時間にちょこっと思いついたメモを清書しただけだから、この先の展開、ちゃんと考えていないしなぁw
東宮さんはメカ描けるんだろうか?