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勇者ウィルの冒険 Ⅱ 妖婦アビゲイルの秘密 (第四回目)

作.amahaさん 
キャラデザイン.そら夕日さん

(6)

 アトランとシマラにとって人狼退治は手馴れたクエストの一つに過ぎない。しかし上手く片づけたものの長く4人で行動してきた2人は少し寂しさを感じた。なんだか物足りないのだ。
「さてと終ったな」
そう言ってアトランはワインのボトルに手を伸ばし自分の杯を満たした。仕事を終えた夜2人は宿の部屋で祝杯をあげている。
「まあな」
「何か気に入らないのか」
「そんなことはないさ、君。しかし君だって寂しそうじゃないか」
「ロックとウィル抜きじゃ今ひとつ盛り上がらないな。別にシマラに不満があるわけじゃないぜ」
「僕も同じとだけ言っておこう。それより午後の調査の結果はどうだった?」
早朝に人狼を片づけた2人は別々に魔族ルゲイスの情報を探ったのだ。
「ルゲイスはここ半年ほど、黒の乗り手もここ数週の間この辺りで活動した様子はない」
「なるほど……。僕の集めた情報もほとんど同じだな」
「ほかに何かあるのか?」
「集めた情報ってわけじゃないけれど、半年前に大司教がこのあたりを視察したのを知ってるかい?」
「ロンドが?」
「他にいないだろう」
「うむぅー」
「どうしたね、君」
「同じ考えじゃないのか」
「さてさて、なぞなぞごっこはごめんだね」
「ロンドか訪れた後、魔王の痕跡が消えたわけだろう」
「僕は君の言った別の言葉も覚えているぞ」
「俺の?」
「ほら舞踏会で言った言葉さ。『アビゲイル嬢は見た目で判断できぬ強力な存在らしいぞ』ってね」
「覚えている。ウィラ、ウィルの勘は正しいのだろうさ。あの妖艶な女は魔王の一味なんだろう」
「うん。僕も魔王に負けぬ魔力の持ち主だと思うな」
「鍵は新都の王宮ってわけか……。どうする?」
「とりあえず人狼を退治した報告をギルドにしてウィルたちと合流すべきだろう」
「賛成だ」
「ではこのボトルを空けてさっさと寝ることにしよう」
「もう2本買ってあるぞ」
「やれやれ」

 アトランとシマラの新都への旅は何のトラブルもなく終った。ギルドで報酬を受け取った2人はいつも4人の定宿をのぞき、行き違いになった場合に備え宿の主人に伝言を託してから大公爵領に向けて出発した。

(7)

 アトランとシマラが新都から大公爵領に向かった頃、ウィルたちは真直ぐ東方領を目指していた。目的地は東方領の最南端なので渡河地点は3つある大きな渡しの最上流になる。
 怪しげな影に襲われることもなく旅路はつつがない。3人は観光客気分で河畔の町までたどり着いた。
「どうする、ウィラ」
そう言って渡しの時刻表の前でロックが振り返る。日はまだ高いが流れと風向きが不都合なので今日の最終便は出たあとだった。
「どうするって言われても……」
「船をチャータすれば渡れぬこともあるまい」
確かにバロネスから必要経費だといわれてたくさんの金貨を受け取っており贅沢に旅をすることは可能だ。ただウィルには気になることがある。ロックとフレッドは気付かないようだが、この町に入ってからこの船着場に来るまで見張られているような奇妙な気配がしていたのだ。逆風をついて船出して日没後に水上でトラブルに会うのは避けたい。泳げないわけではないものの荷や服をなくしてしまってはこれまで順調だった旅も後戻りすることになってしまう。
「止めておこうよ。逆風だから東岸到着は夜になる」
「まあ、あわてる必要もないがな」
ロックの視線は向かいの食堂のメニューに釘付けになっているフレッドの方に向けられた。前の町で賭場に行くため男性化した反動で女性化している。
「どうだい?」
「スズキが美味そうですわ」
「ほほ~」
そう言いながらロックはベルトに手をかけた。その隙間に手を入れたのは空腹をアピールしているのだろう。ウィルはあきらめて早めの食事を取ることに決めた。ロックの空腹に理屈をこねても無駄だ。

 ロックとフレッド、今の外見ではフリーダと言ったほうが正確であるが、2人がその食欲を満たすには小一時間程もかかった。ウィルはずっと前に食べ終え、夕食にはまだ早い時間で手持ち無沙汰なウェイトレスに町の噂話を聞いていた。チップの払いの良さそうな上客のテーブルにいるのを店主もとがめることはできない。彼女たちの収入は主にチップによっているからだ。
「盗賊がいるってこと?」
「はい、旅のお方」
「この辺りは公爵領にも近いし治安もいいはずだけど」
「もちろん街中や王国や公爵領の街道筋で大胆な行動に出るわけではありませんわ」
「とすると」
「流れの速いときや風の向きによっては渡し舟ははるか下流に流れつくことがあるでしょう」
「なるほど、人目につかないところへね」
ウィルは窓の外に見える渡し舟乗り場に視線を向けた。
「それで今日は早々と店じまいと言うわけなのか」
「ええ、安全なら夕刻まで船を出せますもの」
「でもこれだけ用心してれば盗賊も干上がってしまうでしょうね」
「そうでもありませんわ、お嬢様」
「どうしてなのかしら」
既にウィルはお嬢様と呼ばれるくらいでは違和感を感じない。
「お急ぎの方は船を仕立ててお渡りになりますし」
船のチャーターを提案したロックはデザートのケーキを咽喉に詰まらせ、フリーダが慌ててクラスを渡した。
「正規の料金より安い無鑑札の業者もお多うございますから」
「その人達も危険でしょうに」
「盗賊どもも普段はどこかに暮らしているわけでしょう」
「なるほど」
同行者2人がそれぞれ3人前のデザートを食べ終わるのを待ち、ウィルはウェイトレスに礼をいって料金と共に十分なチップを手渡した。彼女の顔が輝いたところを見ると期待をはるかに上回っていたのだろう。

 3人が店から出て宿屋街に向かおうとすると後ろから声をかけられた。
「あの~、もし」
それは同じ店にいた少女だ。店が空いていたので窓際でずっとお茶を飲んでいたのに3人とも気付いていた。
 彼女はウィルに向かっていたのでウィルは少し驚いた。3人だと見知らぬ人はたいていロックに話しかける。どう見てもリーダー格だから。
「なにかしら」
名をシフと名乗ってから少女は続ける。
「実は盗み聞きする気はなかったのですが、先ほどの貴女とウェイトレスとの話を聞いていて恐くなりまして……」
聞けばシフは先を急ぐので明日早朝出発できる小船を予約したのだと言う。
「鑑札を持った業者なのでしょう」
「はい。でも大河の流れはまだ数週は早いままだと……」
「それで?」
「皆様に同乗していただければこれほど心強いことはありません」
視線を受けたロックは胸を張った。シフは続ける。
「ノウズカットが恐ろしくて」
「それは誰ですか」
「大盗賊のフォウをご存知ありませんの? 顔の傷でノウズカットと呼ばれている」
 ウィルは時間を遅らせて自分たちと大きな船で渡河するように勧めてみた。しかしシフは一刻を争うようだ。
「大型の渡しだと出港時間が遅いだけでなく、乗船と下船にも時間がかかりすぎます。何しろ馬車や貨物や家畜まで乗せるのですから」
女性に優しいロックが同調する。ウィルも必死な願いを断りづらかった。フリーダは不審気な顔をしているものの無言である。結局明日早朝に桟橋で会うことになった。


 その夜河岸にある使用されていない倉庫に盗賊が集まった。
「てめえら、上玉をつかまえたぞ! 金貨だけで5000枚はくだらない」
一段高い樽の上でそう声を張り上げたのはウィルたちに窮状を訴えていたシフだ。
「お頭」
側にいた人相の悪い男が話しかける。
「なんだ、バズ。話の腰を折るな。これから作戦の話だっていうのに」
「その恰好なんとかなりませんかい」
「恰好?」
「小娘に指揮されているようでしまりませんや」
「そうは言うが明日の朝にはこの恰好で獲物たちに会う必要がある。この変装は大変なんだ」
子分たちは顔の真ん中にある傷あとまできれいに消えた盗賊フォウの顔をまじまじと見て確かに魔法を使うにしても難しそうだと納得した。

t080629.jpg

<つづく>

コメント

『VIPPERな名無しさん』さん、ありがとうございます。
 再開するための読み直しにずいぶん時間がかかってしまいました。現在、妖婦アビゲイルの秘密の(10)に入ったところです。もう少ししたら一度投稿します。

続き、もしくは本編の再開を切に願います

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