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「カストラート」 (そんな、おままごとみたいな……Noch einmal) (15) 作.ありす 挿絵.東宮由依

第14幕 母のドレス

「……って、言ってくれたの。それで、キスもしちゃった。えへ」
「それで?」
「それだけだけど? あとは、いつもどおり自分の家で寝たの」
「カール司祭も存外にオクテな方なんですね。ちょっと見損なってしまいました」
「クララは聖職者だもん。そうそう誘惑になんか乗らないよ。エルダのことだって結局は誤解だったし」
「あれだけ魅力的なエルダさんにも靡かないとなると、真性の幼女趣味だと思ったんですけどねぇ」
「幼女って、私のことを言っているのかしら? ヘルマさん」
「もちろん。ほかに誰がいるんです?」

 しれっというな!

「クノ、いるかい?」
「あら、カールさん。珍しいですね、こんな時間に。ファリンさんまで」
「こんにちは、クノさん、ヘルマさん」
「どうしたの? 今日は聖務じゃなかったの?」
「ああ、頼んでいたものが出来上がってきたんでね」
「頼んでいたもの?」
「ああ、エルダにね」
「あ、あのドレス? 出来たの?」

 しまった! 私は知らないことになっているんだっけ!!!

「やっぱり、……知っていたのか」
「あ、あのね……」
「そうじゃないかと思っていたんだ。昨日の服、あれはエルダの店で買ったんだろう? それにこれを受け取るとき、エルダの様子がおかしかったからね」
「ごめんね、クララ」
「なんで、クノが謝るんだ?」
「だって、本当は私のこと、驚かせようとして……」
「それならいいさ。僕が隠しておいたのがまずかったのだろう。エルダにも迷惑をかけてしまった」
「ねぇ、着てみてもいい?」
「今か?」
「駄目?」
「いや、そんなことはないが……」

 クララはヘルマを伺うように見た。

「私もぜひ見せていただきたいですね。お手伝いしましょう」

 隣の部屋に移った私は、ヘルマに手伝ってもらい、新品のドレスに袖を通した。
 決して派手なデザインではないけど、ひだの多いスカート、パフスリーブの肩口に、品良く開いた胸元は縁をレースで飾られている。ところどころにある小さな赤いリボンが、とてもよいアクセントになっていた。

「ねぇ、ヘルマ。リボン持っていない?」
「リボンですか? 白ならありますけど……。髪を結わくんですか?」
「ううん違うの」

 私はヘルマから受け取ったリボンを、左の手首に結んだ。

「へぇ、そうやって使うんですか? 始めて見ました」
「これはね、母様が生まれた国のやり方なの」
「クノさんの、お母様?」
「うん、ホントは恋人に結んでもらうんだけどね」
「恋人に?」
「そう。“私には特定の男性がいます”って言う意味なんだって」
「それなら、カールさんに結んでいただけばよろしいのに」
「それは、ちょっと恥ずかしいから……」

 そうして着替え終わった私は、鏡の前で何度も確かめてから、クララの待っている事務室に向かった。

第14幕完成

「どう? クララ、似合うかな?」
「ああ、とっても。そうしていると、コンスタンツェおばさんを思い出すよ」
「ありがとう、クララ。覚えていてくれたんだね」
「もちろん」

 クララは少し赤くなって、照れているみたいだった。
 私は純粋にうれしかった。エルダの店で、作りかけのこのドレスを見たときから。
 このドレスは、私にとって特別だ。

「ねぇ、クララ。ちょっとしゃがんでくれない?」
「ん? こうかい?」

 ようやく届いたクララの頬に、私はキスした。

「ちょ、ちょっとクノ。恥ずかしいだろ、二人が見てるじゃないか」
「いいじゃない? たまには。うれしかったんだから」

 クララは頭をかきながらしかめっ面をした。でも怒ってなんかいないことは、誰にでもわかる。

「お、誰かと思ったら、クノかい?」
「あ、村長。すみません、お仕事中に」
「別にかまわんよ、カール司祭。それよりクノ、どうしたんだね、そのドレスは」
「クララがくれたの。似合うでしょう?」
「ああ、そうしていると、お前の母親を思い出すよ。美しくて優しい人じゃった。この村にやってきた頃にそっくりだ」
「若い頃の、母様に?」
「ああ。今のお前さんよりは、もう少し大きかったが。だが血は争えんの、クノもきっと将来、お前の母さんの様に、村一番の美人になるぞ」
「褒めても何も出ませんよ、村長」

   *―――*―――*―――*―――*―――*―――*―――*―――*―――*―――*

 その日は、とても晴れ晴れとした気持ちで一日を過ごした。
 心の底にあった、わだかまりのようなものが、すっかりと消え去ったような気分だった。
 一旦は普段着に着替えたけれど、夕食の支度を終えた後、またあのドレスに着替えた。
 食卓はいつもよりも少し豪華に飾り、テーブルの上には普段はあまり置かれていない花瓶に、小さな花も飾った。
 ハルもこのドレスを覚えてくれていて、『とてもよく似合っているよ』と言ってくれた。

 クララとハルがそれぞれの寝床に帰っていき、私はいつものようにファリンと自分たちのベッドメイクをしていた。

「クノさん。そのドレスは、クノさんのお母様が着ていらしたものなんですか?」
「うん、本物は母様と一緒になくなってしまったけど、クララが覚えていて、エルダに作ってもらったみたい」
「そう、ですか……」
「私の母様はね、とってもやさしくてきれいな人だった。このドレスを着ていた母様が、私は大好きだったの。居間に小さな絵があるでしょ? あれは私の父様が旅の画家に描かせたものなんだよ」
「そうですか……」
「それでね、昔、母様が言ったの。“このドレスがそんなに気に入ったのなら、お前にお嫁さんがきたら、その娘にあげよう”って。私はドレスじゃなくって母様が好きだったんだけれど、でも多分、本当はこう言いたかったんだと思う。“お前にもきっと、母様よりも好きな人が出来るよ”って」

 私は目を閉じ、胸に手を当てて、懐かしい母様の顔を思い出していた。

「でも、母様が亡くなった時、私はまだ子供で、母様のことが大好きだったから、母様と一緒にドレスはお墓に入れたの。ドレスだけだったけど、遺体も見つからなかった母様のお墓には、どうしてもそれが必要だったの」
「そう、だったんですか……」
「あ、でもね、もう昔のことだよ。だけど、クララはそのこと覚えてくれてたんだ。だから私、凄くうれしかった。このドレスのこと。もっとも、自分がこのドレスを着ることになるとは、思っていなかったけどね、えへへ……」
「クララさんのこと、ずっと昔から……。本当に好きなんですね」
「うん……。ずっとお隣同士だったからね。一番身近な女性だった。でももう、けじめつけようと思うんだ。私、クララと結婚する。本当の夫婦になりたい」
「そう、ですか……」
「でもね、クララはどうなのかなぁ……」
「カール司祭は……、多分、……クノさんと、同じかと……」
「自信ないんだよね。私がクララの好みなのかどうか。でなきゃ、小言ばっかり言っていないと思うんだ。結婚してもうまくやっていけるかどうか、自信がない」

 そう言って私が下を向くと、ファリンがぎゅっと私のことを抱きしめた。

「どうしたの? ファリン?」、
「クノさんはどうしても、カール司祭と、結ばれたいのですか?」
「うん。おかしいかな?」
「……いえ」

 そういったまま、ファリンは黙ってしまった。私のことを抱きしめたまま。

「ファリン、どうしたの?」
「いえ、……何でもありません。クノさんが、人生の一大決心をされたので、ちょっと感極まっただけです」
「大げさだよ、ファリン」
「私は、本当は……。いえ、何でもありません」

 そう言うくぐもったファリンの声が潤んでいた。
 私ははっとした。今日一日、そういえばファリンだけが、元気がなさそうだった。
 そして、ファリンが心の中にずっと隠していたであろう想いに、気づいてしまった。
 私は自分のことでいっぱいで、そのことに気づいてあげられなかった。
 ファリンはカストラートだったのだということに。
 この世に生を受けたときは、男だったのだということに。
 そして私は今は女で、ファリンもそれをずっと意識していたんだということに。

 だけど、それは今言ってはいけないことだと思った。
 ファリンを慰めるのは、ファリンの恋心を傷つけてしまった私じゃなくて、多分ハルの役目だと思う。
 だから、私はこう言った。

「ファリンにもきっと、私と同じように、誰かのお嫁さんになる時が来ると思う。そのとき、私もこんな風に祝福してあげたい。ファリンは、私のこと祝福してくれる?」

 ファリンは暫くずっと私を抱きしめたまま、じっとしていた。
 暫くして私から体を離すと、にっこりと笑顔を作って言った。

「ええ……。もちろんですとも」

 ファリンの目尻は、少し光っていた。

<つづく>

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