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「カストラート」 (そんな、おままごとみたいな……Noch einmal) (16) 作.ありす 挿絵.東宮由依

第15幕 スキンシップ作戦(Ⅰ):策謀編

ファリン

 それから数日、ファリンはずっと元気がなかったけれど、私に何が出来るでもなかった。
 だけど、ハルにだけは、あの晩のことは伝えた。
 私のほうはというと、クララと正式に結婚する決意を固めたにもかかわらず、ファリンのことが気にかかっていて、なんとなくクララには言いそびれていた。
 そんな私の内心を感じ取ったのか、クララも急にそっけない態度をとるようになった。ファリンの前でべたべたされるのは困るけど、二人きりの時もなんだかよそよそしい。ついこの前までは、もうちょっと私を安心させてくれたのになぁ……。

 そして、数日後。
 
「どうしたの? ファリン。今日は少しご機嫌だね」
「そうですか? そうかも……」
「何があったの? 聞かせて!」
「うーん、白状しちゃいます。私、ハルさんに告白しちゃいました」
「えーっ! っていうか、うん、良かったね。それで、なんていったの?」
「『私、ハルさんのことが好きです』って言いました」
「で、ハルはなんて?」
「『うん、僕もファリンのことが大好きだよ』って」

 ファリンは少し顔を赤くしながら、恥ずかしそうに言った。

「それだけ?」
「それだけですけど?」

 なんとなく、ハルはファリンの意図していることとは、違う返事をしたような気がするけれど……。
 いや、ハルの奴、昔から肝心なことは、暈して言うクセがあったからなぁ……。
 そういえば、ハルはファリンがカストラートだって事、知っているのかなぁ?
 知らなければ、今のうちに例の薬を見つけてファリンに飲ませてあげるのが一番いいと思うけど、そうじゃないとしたら……。
 いやどっちにしてもこれは、ハルに確かめる必要があるかも。
 でも安心した。これで全てうまく行けそうだ。私がもうちょっとがんばれば!

「で、でも良かったね。だけど、いいなー。クララなんか、最近全然言ってくれないよ」
「クノさんは?」
「……言ってない。でも自分から言うのは嫌だな。なんとかクララに言わせたい。どうすればいいかなぁ?」
「そうですね、タイミングというものがあるんですよ。相手に自分の期待通りのことを言わせる」
「タイミング?」
「そう、タイミングです。例えば同じ相手に同じ質問をしても、いつも答えが同じだとは限りませんよね」
「それって商談で使う手なの?」
「そうですね。恋の駆け引きにも使えると思いますよ」
「うーん。でもタイミングかー。それはなんとなくわかるけど、見極めるコツは?」
「それが判れば、苦労はしません」
「そりゃそうだよなー」
「うふふ。でもクノさんにもきっと、勝機を得るタイミングがありますよ。その時だと思ったら猪突猛進。ありったけの勇気を奮って、思っていること全部相手に伝えて、思い通りにさせてしまうんです」
「クララにそんな隙あるかなー? いつもやり込められてばっかりだ」
「カールさんの攻撃を、受け流す方法もありますよ」
「私には、そんな手練手管はムリだ」
「少しだけなら、コーチできるかもしれません」
「せ、先生!」
「うふふ……」

 よかった。ファリンの笑顔は元通り。元気を取り戻してくれたみたい。

「交渉ごとの基本は、まず相手の顔を見ることです」
「顔?」
「そうです。クノさんは、その人が誰であるかを確かめる時、まずどこを見ますか?」
「顔だね」
「人の顔には、その人の人となりが現れ、その表情の変化から、相手の気持ちを読み取ることができます」
「そう? 私にはよくわからないし、クララは言っていることとやっていることが違う気がする。にっこりと笑いながら私の頭にゲンコツ食らわせたり、棒でたたいたりするんだよ? 何かいいことがあるのかと油断していると、とんでもない目にあうんだ」
「そうなんですか?」
「クララの笑顔には、必ず裏があるんだ。機嫌が悪い時はほんとに機嫌の悪そうな顔をしてることもあるし。かといって恐る恐る近づくと、妙に優しかったり。何考えてんのかさっぱりだよ。クララに関して言えば、顔なんか見ても駄目だと思う。何考えてんのか、自分でもわかっていないんじゃないのかなぁ?」
「そうですか。でも……そうですね。ではこう考えたらどうでしょう。人は一生自分の顔を直接見ることはできません。その人自身の“真の顔”を」
「“真の顔”?」
「そうです。誰であっても、鏡や水面に映った裏返しの顔しか、見ることが出来ません。もしかしたら人は、誰も本当の自分を知らずに、一生を終えるのかもしれませんね」
「……」
「だからカールさんも本当の自分に気づかず、本当の気持ちを、態度や顔の表情で、表すことができないのかも知れません」
「どうして? 自分のことなのに?」
「カールさんは司祭ですよね?」
「うん。そうだけど、それが?」
「懺悔をしている人を、その罪を知って“こん畜生!”と思っても、それを表情に出したり怒りをぶつけたりしていたら、誰も懺悔に来なくなるでしょうね」
「クララの顔と行動が一致しないのは、“職業病”ってこと?」
「そうですね。そうかもしれません」
「じゃ、だめじゃん」
「でも、人は必ず自分自身を曝け出す時があります」
「どんなとき?」
「動揺した時とか」
「動揺?」
「カールさんを驚かせるんです。そしてその時の表情を見れば、わかるかもしれませんよ」
「動揺かぁ。驚かせるって言っても、どうやったら……」

 ファリンはにっこりと微笑んで私を見ている。
 そういえば、ファリンっていつも笑顔だな。笑顔のとおりに、いつも優しいけど。
 私はすっくと立ち上がり右手を挙げた。

「どうようっ! しっずかっな こっはんの もっりのかげっ からっ!!!」

 私が大声で歌うと、ファリンが驚いた顔をした。でも直ぐにいつもの優しい笑顔になった。
 微妙に……ちがうかな?

「“突然何を歌いだすんだこのバカガキ。それに『どうよう』が違うだろう”?」
「正解です」
「しくしく……」
「まぁ、でもあれですね。女性が男性を動揺させるのならば、やはり……」
「やはり?」
「女の武器を使うのがいいでしょう」
「女の武器?」
「そうですね……。クノさんは、カールさんのこと、男性だと思っていますか? それとも女性だと思っていますか?」
「今は、男だけど……」
「男だけど、男として見切れていない?」

 そう言われて、私ははっとした。
 クララのことも、“カール”と呼ばずに、“クララ”と呼ぶことで押し通している。
 それはクララがクララでなくなってしまうような気がしていたからだけれど、クララからしてみれば、それが自分を認めてもらえていないと、感じていたかもしれない。

「きっと、カールさんは自分がクノさんに、男性だと思われていないと、感じているのかもしれません。だから、女性であるクノさんに、男性として愛して欲しいと、思っているのではないでしょうか?」
「女性の私に、男性として愛して欲しい……?」
「そうです。それが一番自然なお二人の関係じゃないですか」
「でも、私……。こんなだし」

 多少体つきが女性っぽくなったとはいえ、どう見ても年端の行かない子供にしか見えない今の自分。いったいどこに、女性としての魅力があるというのだろう?

「クノさんは、カール司祭のことを、愛していらっしゃるのでしょう?」
「うん、そうだけど」
「ならば何も問題はありません。つまり、ありていに言ってしまえば、“カラダで迫れ”ってことです。元男性ならおわかりでしょう?」
「か、カラダ……!? ふぁ、ファリンってやっぱり!?」

 ファリンが薄笑いを浮かべながらにじり寄り、私は思わず胸を押さえて後ずさった。
 どんな顔してたかは自分でもわからない。

「安心してください。本当に襲ったりしませんから。でも今の反応は、とてもよかったですよ」
「ううう……」
「でも、その反応からすると……、興味が無いわけではないのでしょう?」
「ごめんなさい。もう勘弁してください」
「うふふ。成功をお祈りしていますね」

   *―――*―――*―――*―――*―――*―――*―――*―――*―――*―――*

 でもなぁ、具体的にはどう誘えばいいのか?
 それに、一度は覚悟したけど、抵抗がないわけじゃない。
 こういうことはやはり子供もいて、人生経験も豊富そうな人物に、相談してみるのがいいかもしれない。

「ドーラ、ちょっといい?」
「おや、珍しいね。なんだい? クノ」
「その、クララのことなんだけど」
「またケンカでもしたのかい?」
「いや、まだそうじゃないけど……」
「まだ? 予定でもあるのかい? やれやれ、じゃなんなんだい?」
「いや、その、ローレンツ家の夫婦円満の秘訣は何かなと……」
「ウチの? 円満ねぇ……。お互いを思いやる心とか?」
「そういうありきたりのじゃなくて、もうちょっと、男と女というか、なんというか……」
「はぁ? なんだい、こんなまっ昼間っから?」
「いや、その、クララに……、どうもお、女として見られていないって言うか……」
「そうだねぇ……。ま、たまにはやらせてあげたらどうかねぇ?」
「やらせるって、ヤッパリ?」
「夫婦なんだから、まぁそれも円満の秘訣かねぇ」
「まだ婚約者です! そうじゃなくて、なんていうか、プラトニックな関係というか、なんというか」
「なに言ってんだい。男と女なんだからやることはやるんだよ。どこのどんな夫婦だって、そうしているし」
「いや、そりゃそうだろうけど」
「そうか。あんた、カール以外付き合ってる娘もいるようには見えなかったし、やりかたもご存知ではない?」
「ば、バカにしないでよ! 私だって元は普通の男だったんだから、それぐらい知ってるよ」
「ほうー、では経験があんのかい? 誰と?」
「…………」
「そうかい、カールのために、清いままでいたのかい?」
「もう、カンベンしてください」
「で? そういうの興味ないのかい?」
「無いわけじゃないけど……」
「ははーん、怖いんだろ」
「怖くない、っていえばうそになる。でも、まだしたくない」
「ということは、つまりカールがどんなに求めても、応じる気はないと」
「そういうことになるかも」
「カールのほうはどうだろうねぇ? 男って、そういうの我慢できるのかねぇ?」
「少なくとも、私は我慢していた」
「世間一般では、少数派かもしれないねぇ」
「ぐ……」
「カールだって、そういうのに興味があって、でもそれを婚約者に求められないとすると、浮気の一つぐらい」
「クララは司祭だから、そんなことはしないよ!」
「じゃあ、心配なんかないね」
「心配なんて、していないけど……」
「いまさら他人の目を憚るような関係でもないだろう?」
「…………」
「勇気を出して、誘ってみりゃいいじゃないか。いつかは乗り越えなきゃいけない試練だと思って」
「…………」
「それに、案外クセになるかもしれないよ?」
「……そうなの?」
「大人の秘密だよ。子供にはまだ早かったかな?」
「やってみる」
「はい? 何だって?」
「やってみるって言ったの!」
「ま、頑張りな。うまくいったら、初体験ののろけぐらい、聞いてやるから」
「絶対言わない!」

  *―――*―――*―――*―――*―――*―――*―――*―――*―――*―――*

 翌日、今度は新婚バリバリの経験者に聞いてみることにした。

「そうですね。やはりスキンシップに勝るものはありませんね」
「スキンシップって……やっぱり、アレ?」
「んふふふぅ~。ロリコン司祭さまを篭絡するなら、やはりアレでしょう」
「クララはロリコンじゃない! と、思うけど……」
「いいものを差し上げます」
「いいもの?」
「石鹸です。これを使って、うふふふふふふふ」
「ヘルマ、さっきからそのイヤらしい笑い方やめてよ」
「これを口実にお風呂で迫れば、如何にお堅い聖職者であろうとも、生殖者になるに違いありません」
「そのオヤジギャグ、面白くない」
「こほん! ま、それはいいとして、クノさんのほうから積極的にならない限り、カールさんからは手を出しにくいでしょう」
「そうは言うけど、なんていうか、みんな同じこというなぁ」
「女が男を落とすなら、女の武器を使うしかありませんよ」
「クララだって、元は女だよ」
「では元男性のクノさんだって、その武器の有効性は、お判りではありませんか?」
「それは、否定できないけど……」
「それに、クノさんだって興味がないわけでは、ないでしょう?」
「ごめんなさい。もうカンベンしてください」

<つづく>

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