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エムフ 1.間違い 

作:Plantainさん

間違い

「あなたは間違っています」

 面と向かってこう言われたら、誰だって衝撃を受けるに違いない。
嘘だと思うのなら、知り合いに頼んで言ってもらうといい。
そうしたら、僕の状態がもっとよく理解されるに違いない。

 中学2年であり、大海望(おおうみのぞむ)という名を持つ僕は、街を歩いていた。
街を歩く人間は、二通りに分類される。目的を持って歩く人と、それ以外。
僕は、その時後者に属していた。
そういうわけだから、車が一台も通らないような細い道の赤信号を、生真面目に守って停止状態にあったとしても、何の罪もないはずだった。
いや、むしろ交通道徳をわきまえた模範的な少年として、交通安全協会の表彰を受けていいくらいだった。

 そんな時、ぼんやりと信号の向かい側を見ると、いつの間にか一人の少女が立っていた。
身長150±5cm。この距離だから、目測にはこれ位の誤差を見積もっておけば大丈夫だろう。
髪の毛は、後ろの方で二つにまとめられていて、前髪が多少目にかかりそうだ。
あれは、ちらつき現象で視力低下の原因になるそうだ。
ただ外見という見方からすれば、印象が僕にとって正の方向に補正される。

 服装は、薄い緑のワンピースで目に優しい。
あまり、派手すぎないひらひらも清楚な感覚を呼び起こす。
憂いを含んだ瞳は、僕好みだし、思春期独特な二つある花のつぼみもいい。
などと、服装や格好について考察を始めたとき、急に少女がこっちへ向かってきた。
ちなみに、歩行者用の信号は赤である。
赤信号は、侵攻禁止、いや進行禁止である。
従って、その少女は道路交通法違反という事になる。
交通道徳をわきまえた模範的な少年としては、この少女を止めるべきだろう。
などど思っていたら、もう既に彼女は、僕の目の前に来ていた。

 彼女は言った。
「あなたは間違っています」
 赤は止まれ。僕の時間が止まった。
「は?」
 時は動き出す。
その時、僕は相当間抜けな顔をしていたに違いない。
 もう一度、彼女は言った。
「あなたは間違っています」
 取り敢えず周囲を見渡してみる。
半径5m以内に、残念な事に人はいない。この時間で、こういう事はあまり無いのだけど。運が悪いと言うしかない。
したがって、彼女の言う『あなた』は、僕以外にあり得ない。
いや、彼女が空気に向かって『あなた』と言っているのなら別の話だが、残念ながら彼女の視線は僕の方に向かっている。
まあ、一応確認しておかないと。
未確認の情報に基づいて判断を下すのは、よくない事だ。
「えっと。君は僕に向かって発言しているんですか?」
「わたしはあなたです」
「へ?」
 全く、訳が分からない。
「あのお、話が見えてこないんですが」
「話は目で見えません」
 そりゃあ、そうだ。
いや、そういう問題ではない。

「時間がありません、すぐに実行に移します」
 少女は持っていたポシェットから、長さが30cm直径が3cm位の木の棒を取り出した。
片方の先が少し丸くなっている。
彼女はそれを高く掲げると、目をつぶって何やら唱え始めた。
「ロト・ロト・アー、グラ・ディブ・アーアー・ムー・ラプ・アー」
 とたんにわき上がる、奇妙な感覚。身体の中をぐるぐると回転させて、更に身体全体が渦を巻いているような感じ。
それに加えて、何かが身体の中心から湧き上がるようでもあり、くすぐったいような、気持ち悪いような、気持ちいいような不思議な感覚が僕を覆った。
 更に、視界が乱れた。
ぐねぐねした水面がうねっているような、変な感覚。
 とたんに、それが終わった。
「ふわあ」
 口から出た言葉は、意味不明。
意味が分かった人は、教えて欲しいくらいだ。
「はれ?」
 なんか、声が違いますよ。
これこそ間違い、とか。
取り敢えず現状を確認。
未確認の情報に基づいて判断を下すのは、よくない事だ。
 ふんふん。目の前にいるのは、見慣れた僕の顔だから、いつも通り。
あれ?
「どうやら間に合ったようね、大山望(おおやまのぞむ)さん」
「あれ、どうしてボクが勝手にしゃべっているのかな。それに、ボクは大海望(おおうみのぞむ)だけど」
「へ?」
 彼女の目が、点になった。
いや、物理的に点になるのはおかしい。
点とは、面積を持たない場所のみの情報のはずだ。
したがって、目は点にはならない。
「ひょっとして、間違い?」
 彼女が指さしたのは、ボク。
ボクの状況を確認する。
髪の毛は、後ろの方で二つにまとめられていて、前髪が多少目にかかりそうだ。
服装は、薄い緑のワンピースで目に優しい。
あまり派手すぎないひらひらも、僕好みだし、思春期独特な二つある花のつぼみもいい。
いや、そうじゃなくて、これは絶対……。

「間違ってるよ」

 そう言ったボクの声も間違っていた。
 ふわっ。


「あのお」
 はっと、気づくと商店街の中心部にある、公園のベンチに寝かされていた。
「わたし間違ってました」
「は?」
 身を起こして、聞き返す。
 急にそんな事を、言われても何にも理解できないに違いない。
嘘だと思うのなら、知り合いに頼んで言ってもらうといい。
そうすれば、ボクの気持ちがもっと理解されるに違いない。
「わたし、エムフなんです」
「エルフ?」
 声はやっぱり間違っている。
しかも、口を押さえた手は、触った感じがなめらかで、ややふくらみを帯びて柔らかな感触は、ボク好み。
いや、そんな事はどうでもいい。
「エルフとは、違います。英語のエ、留守居のル、富士山のフ。エ・ル・フです」
「混乱してますね」
「あれ? 今わたし何て言いました?」
「エ・ル・フってしっかりと」
 エムフは顔を覆って、きゃー、と言った。
いや、ボクの格好でそんな事言われると周りの視線が気になる。
「訂正します。英語のエ、無線のム、富士山のフ。エ・ム・フです」
 与えた情報に誤りがあった場合は、すぐに訂正しなくてはいけない。
いや、それが問題じゃなくて、問題は中身だ。
「あのお、エムフって名前ですか。変な名前ですね」
 とたんに、エムフはぷーっとふくれてしまった。ボクの顔でそんな事しないでくれ。
やっぱり、未確認の情報に基づいて判断を下すのは、よくない事だ。
「ごめん、ゆるしてよ、どうか機嫌を直して……」
 取り敢えず、現状は非常にまずい。
機嫌を悪くした少年とそれにすがる少女の図、というものは一般大衆にとって、好奇心の対象以外の何者でもない。
うう、やっぱり間違っている。
「分かりました」
 とエムフは言った。
「今日からあなたはエムフです」
「は?」
 出会ったばっかりの人にそんな事を言われたら、誰だってびっくりするに違いない。
嘘だと思うのなら、出会ったばっかりの人に頼んでみるといい。そうすれば、ボクの気持ちがもっと理解されるに違いない。
「そうですね、そろそろ混乱するのはやめます」
 エムフはこくこくと頷いた。
うう、だからボクの身体でそんな仕草はやめてくれ。
それに、そんな簡単に落ち着けるものなのだろうか。
「それでは、説明します」
 見事に落ち着かれてしまった。
「問題は因果律なのです」
「へ?」
 思わず、人差し指を頭にあてて、はてなの格好。
いや、そんな事をやっている場合じゃない。エムフは構わずに続ける。
「人間が時間という尺度でものを測るようになったときから、エムフは存在するのです。
簡単に言えば、因果律の自動調整装置とでも言うべきものでしょうか。
たとえば、絨毯にしわが寄ったとき、それを端に寄せる役目がエムフの役目というべきでしょうか。
ともかくエムフはエムフからエムフへとその役目を引き継ぐのです。
エムフはエムフになったときその役目を自動的に知るはずなのです」
「でもボクは分からないよ」
「ですから、間違ってしまったのです」
 エムフは、ふう、とため息をついた。
「仕方がありません。多少因果律を歪めましょう。原因と結果を交換します。あなたは引き継いだ結果エムフになったのではなく、エムフになった結果引き継いだのです」
「なんか、話が矛盾しているような気がするのだけど」
「矛盾が無ければこの世は回っていかないものです。多少の因果律の乱れはあなたが直しておいてください。それでは」
 なんと、声にエコーがかかり、そのまま、エムフは消えてしまった。
「うわああ」
 思わず、叫んだ。
 なんだか、周りの声が聞こえるような気がする。
「かわいそうに、あのお嬢さん彼氏に捨てられてしまったのね」


 絶対に間違ってるよ。


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はい。Plantainさんにお願いして、再掲のご許可を取ってしまいました。初回発表は少年少女文庫のこちらです。続きもあります。
http://ts.novels.jp/novel/200310/31212238/emf01.html

歯切れよくリズミカルな文体で読み手を混乱させ、ふんわりとした酩酊へと導く中々良い言葉運びだと思います。冷静なようでいてやっぱり混乱しているような主人公の反応もボク好み。キーワードの一つ 絶対、間違ってるよ は、翻訳モノ TS53「It makes sense」のクライマックスにも使わせて頂きました。
大変気に入っているのですが、分析しますに「あんまし読んだ人を不快にしないお話作り」に惹かれてるのかもしれません。私は不快になる人が出ても、お話が面白くなるなら躊躇無くやっちゃうタイプです。さすがに「It makes sense」ほど、容赦の無い鬼畜ぶりは自力ではできませんが、、、ああ。自分に無くって自分好みのものに惹かれるのですね。納得。

Plantainさん、快く再掲の許可と段落運び改変の許可を頂き有り難うございました。
次回作も期待しております。

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