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1000万ヒット記念投稿TS小説 とらいある・とらいあんぐる 作.うずら 挿絵.春乃 月

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<1>
「なんだろ、これ?」
 道端に落ちていた塊を拾い上げる。ソレは牛のぬいぐるみだった。控えめに言ったところで、かなり悪趣味。蛍光ピンクにおなじみの黒い模様。見ているだけで、気持ち悪くなってしまいそうだ。
 拾い上げてみたけど、どうしようか。ポイ捨てはちょっといやだし、コンビニのゴミ箱にでも持って行こうかな。
「よっす」
「うわ、しゃべった!?」
 驚きのあまり、その物体を地面にたたきつけてしまう。……よし、おれは何も見てない、聞いてない。帰ろう。っていうか、ぬいぐるみのくせにちょっと生意気かも。
「捨てるなんてひどいヤツだも」
「ひっ!」
 耳元にふっと生暖かい息が吹きかけられた。息……息!?
 しゃべったのはたぶん、マイク。いつの間にか肩までよじ登って来ているのも、ラジコンと思えば不可能じゃないのかもしれない。テレビなんかでも、最近の技術進歩はすごいと喧伝しているし。
 でも、だ。空気を出すだけなら図工レベルでどうにでもなるけど、生暖かいっていうのはわからない。夏ならいざ知らず、今は冬。モーターや動力源による発熱? それにしても、あの湿っぽさといい、肌に走る感覚といい、ヒトの吐息そのもの。
 ……持って帰ってみようかな。いい暇つぶしになるかもしれないし。肩に載った不思議生命体もとい物体を手に、おれはうきうきと家路についた。
「ぁっ、もぉ、そんな激しくしちゃ、んぐ、もごごご」
 ちょっと黙ってて、うるさいから。あ、触感はウサギに似てなくもないかも。


 ベッドに牛を放り投げる。さも痛そうに頭をさすっているけど、痛覚、あるのかな。だとしたら、やっぱり生き物? でも、しゃべってるし……。とにかく、本人に聞くのが一番かな。
「で?」
「でって言われても、困るも」
 それもそうか。でも、つっこみどころが多すぎて、どこから訊ねたものだろうか。ええっと。
「なんで牛がしゃべってるんだ?」
「失礼も。牛じゃないも。マウシーだも。このスタイリッシュなボディ、整った顔立ち……どこが牛だも!」
 全体的に。牛のぬいぐるみ以外には見えない。色以外。っていうか、名前にもウシってついてるし。まあ、本人が違うって言うなら、わざわざ指摘しなくてもいいか。
「そのマウシーは、なんでしゃべってるの?」
「おつきのマスコットだからだも」
 うわぁ、えらそう。ふんぞり返ってるよ。声がむだにダンディな分、なんだか無性に腹が立ってくる。燃えるゴミの日って、明日だっけ。
 マウシーをゴミ箱に放り込もうと思ったときだった。背後でガラスの割れる音がした。
 振り返ったおれの鼻先を、細長いものが横切る。鋭い痛みとともに、鼻の頭から血がにじむのがわかった。飛んでいった先を見ると、壁にアーチェリーの矢のようなものが刺さっている。恐怖のせいか、吹き込んでくる冷たい風のせいか、体が自然に震えた。
「先制攻撃してきたも」
「攻撃? なにか知ってるわけ?」
「大変な事態なんだも」
 うん、実に大変だ。こうやってぬいぐるみと対面で話をしている時点で、すでに人生末期症状、みたいな。おまけに弓で射られるって、もう、何なんだよ。
「きっとジュンジュンがパートナーに狙わせてるんだも」
 そうかぁ、ジュンジュンかぁ。って、ダレ?
 いきなり言われて、理解できるわけがない。同類か、牛なのか、お前のせいか。なんてシメてやろう考えていたら、また矢が飛んできた。すでに割れた窓を貫通して、今度は耳をかすめていった。
「どこのだれだか知らないけど、殺意がびんびんに伝わってくるんだけど?」
「とりあえず、頭を下げておくも」
 言いなりになるのはなんだか癪だったけど、ここは仕方がない。腹ばいになって、とりあえずの身の危険を回避することにした。
 でも、いつまでもこうはしてられない。なんとか犯人を見つけて、ケーサツに突き出さないと。
「きっと、いまのはジュンジュンのパートナーの仕業だも」
「だから、それがわからないって。ちゃんと説明しろよ」
「ジュンジュンはライバルなんだも」
「いまいち状況が理解できないけど、つまりお前がここにいるせいで、おれは狙われてるってこと?」
「く、くるしい、も……」
 本当の意味でシメる。だけど、ここで止めを刺すわけにもいかない。この牛が何かを知っているなら、最低限、それは聞きだす必要がある。
 ちょっとだけ首の拘束をゆるめてやる。息はできる、けど、いつでも絞めることができる。死にたくなかったら、わかってるよね、と指にちょっと力を入れる。
「うう、ひどいも」
「うっさい。そっちの都合で巻き込まれてるんだから、このぐらい当たり前。で、そのパートナーとやらを見つけたら、おれが襲われることはなくなるんだよな?」
 当然の理屈だろう。ジュンジュンとやらは、マウシーの邪魔をするためにおれを狙っている。つまるところ、この牛を窓から捨てれば、命の危険はなくなる。だけど、そんな期待はあっさりと否定された。小憎らしいまでに。
「それは無理だも」
「あ?」
「だ、だめ、それ以上、はげしくし、ないでも」
「だったらさっさと、わかりやすく説明すること」
「我々は基本的に契約を結ぶまでヒトの目に見えないし、触れないも。それを見つけたヒトが、すなわち契約者になるんだも」
 すると、こっちの都合は完全無視しますよ、と。そう言ってる? やっぱり絞め殺したほうがよくないだろうか。人間じゃないし、だいたいほんとうに生き物かも怪しい。犯罪にはならないんじゃないかな。
 指に力をいれたとき、風を切る音とともに、床に矢が突き立った。びよんびよんとシャフトは間抜けな音を立てているが、深々と突き刺さったそれは十分な殺傷能力を証明していた。つぅっと嫌な汗が流れる。
「……さっき伏せたら大丈夫って言わなかった?」
「頭を下げたほうがいいと教えただけも。そうじゃなかったら、今頃、その頭蓋骨に刺さってるも」
 言い草はともかく、正論ではある。最初の二本も、たまたま当たらなかっただけ、と考えたほうがいいかもしれない。
「……さっき、契約がどうのって」
「お前がマウシーの契約者も」
「それは要するに、この状況をなんとかできるってことだよね?」
「ジュンジュンの相方をやっつけてしまえば、オーケーも」
 わかりやすい。つまりは代理戦争ってわけだ。このぬいぐるみの代わりに、ヒトサマが戦わされる。そういうこと。嫌だというのは簡単だけど、命がかかっているとなれば話は別。なにより、無抵抗なのに容赦なく攻撃してくるヤツは、まあ、正直気に食わないよね。
「わかった。どうすればいい?」
「ほんとかも? 後から辞めたとか言い出したら、ひどいことになるも」
「疑り深いなぁ。なんだったら、燃えてみる? たしか、ゲーセンで取ったライターがあったはず……」
「わ、悪かったも。今からチカラを授けるから、名前を教えるも」
 なんだか詐欺にひっかかった気もするけど、クーリングオフとか、利かないよねぇ、やっぱり。命の危機だし。
「レイ。桝田黎」
「わかったも! それじゃあ、しばらく目をつむっておくも」
 床に伏せた状態のまま、目を閉じた。マウシーがなにかつぶやいている。耳慣れない言語だ。ほんとうに言葉なのかも怪しい。そんなことを思っていると、軽い金属音がして、後頭部になにかをつけられたのがわかった。
「契約完了だも。目を開けていいも」
「頭につけたのはなんだよ?」
 鏡を見るために体を起こすわけにもいかず、仕方なく牛にたずねる。触ってみても、覚えのない感触なんだから、ほかにどうしようもない。
「リボンだも」
「は? やっぱり燃えるほうがいい……?」
 伸ばした手は軽くかわされ、それと同時にピンクの物体が宣言した。高らかに、歌い上げるように。心地よい、バリトンで。果てしなく、ばかっぽく。
「みらくるレイにゃん爆誕っ、だも」
20090214_a03.jpg

<つづく>

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