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1000万ヒット記念投稿TS小説 とらいある・とらいあんぐる(4) 作.うずら 挿絵.春乃 月

<4>
「お兄ちゃん、ご飯できたって! ……お兄ちゃん!?」
 どんどんと叩く音。ドアの外から声がする。いつ閉じていたのかわからない目を開ける。
 寝てたのか、おれ。特に代わり映えのしない、見覚えのある自分の体がそこにあった。あくびをこらえながら、唯に返事をする。
「ん、今行くー」
 普通に考えたら、そうだよな。あんなことがあるわけない。夢に決まってる。
 ぬいぐるみがしゃべったり、空を飛んだり……あまつさえ、女の子になって、エッチなことをするなんて。やけにはっきり覚えてるけど、唯に似てたんだよなぁ。妹みたいな子に劣情をもよおすなんて、欲求不満だろうか。そんなに溜め込んでいるつもりはないのに。
 よっこいせと、ベッドに手をついて身を起こす。ちょうどそこには、もこっとした暖かい感覚が。おれの部屋には似つかわしくない物体だ。
「い、痛いも」
 ……なんでウシがしゃべってるのかな?
「前も言ったも。マスコットだからも。それより早く手をどけるも」
「じゃあ、さっきはなんで」
「お兄ちゃーん!?」
「あ、ああっ、わかった!!」
 言いさしたとき、階下から再び唯に呼ばれた。憎たらしい敵を置いて、というのは気に入らないけど空腹には勝てない。夕飯だと思うと、それだけで自然と腹は減る。腹が減っては戦はできない。
 騒いだり逃げたりできないように、マウシーを縛ってクローゼットに放り込む。なんだか犯罪チックだけど、人権はないと思うし、大丈夫。
 リビングでは、すでに母さんと唯が箸を動かしていた。酢豚に中華スープ、サラダ、昨日の残りの煮しめ。テレビがにぎやかな音を垂れ流している。特にいつもと変わりのない光景だ。手を合わせて挨拶してから、おれも食事にかかる。
「そういえば、今日、こずえがクッキー作ってきてたよ。ほら、前、お母さんがレシピ書いてくれたやつ。彼氏にあげるんだぁって」
「あら、そうなの。あんたも少しは見習ったら?」
「ヤ。めんどうだし」
 会話もいたって普通。二人の間で通じ合うアレが何のことかわからないし、おれは黙々とメシをほおばるのみ。ただ、やっぱり唯のことが気になる。ちらちらと見てたのに気がついたのか、ふいに視線がかち合った。
「……なに?」
「いや、なんでもない」
「あっそ、変なの」
 ほんのりきつめの顔立ちのせいで、言い捨てられるとぐさっとくる。だけど、うん、やっぱり唯を見ておかしな気分になることはない。近親相姦に走るほど、ダメじゃないってことかな。少し、ほっとした。あとはあのウシを追求すればいい。さっさと食べてしまおう。


「さあ、答えてもらおうか」
「なにをだも?」
 しらばっくれているのか、それともただ単に分かっていないのか。まったく動かないわけではないけど、ぬいぐるみの表情なんて読めるはずがない。
「さっきのこと」
「だから、なんのことだも?」
「いきなり電池が切れたみたいに動かなくなってたじゃないか。おれのことを元にも戻さずに」
 おかげでいろんな人に、あの格好を見られて……。どこの誰だかバレるわけはないとしても、だからって問題ないわけじゃない。ちょっと、ほんのちょっと、注目される心地よさを覚えてしまった。自覚してからは、当然、自己嫌悪に襲われたんだけど。
「もじもじしてキモチワルイも」
「お前が言うな」
「マウシーはぷりちぃだも」
 どの口が言うかとどつきたくもなったけど、ここは我慢。どうせ、口はひとつしかないとか、人の神経を逆なでするに決まっている。っていうか、さっきから話が進まない。
「それで? なんだっていきなり死んだみたいになったわけ」
「さっきレイにゃんが言ったとおりだも」
「っ」
 伸ばした手をかいくぐられる。いい加減学習してきたのだろうか。ぬいぐるみのくせに。
 当のマウシーは枕の上に着地して、くるりとこちらに向き直った。若干、自慢げに見えるのがよけいむかつく。
「魔力がなくなってたも」
「なくなるものなのか?」
「人間、ご飯を食べなければどうなるも?」
 そりゃ、死ぬよ。つまりエネルギーを補給していた、と。ってことは、寝てると回復するのか。違うな。だったら、食事をたとえにするとは思えない。つまるところ、要するに、おれがエッチなことしたのが、そうだと?
「……アレ、が?」
「も」
「おれがあんな風になったのも?」
「勝手に補充されるから、詳しいことは知らないも。“あんな風”ってなにも?」
 被害妄想かもしれないけど、声がにやついている様に聞こえる。そうか、やっぱりそうなのか。だから唯に対して、変な気分になることはなかった。逆に言うと、こいつが動かなくなったら、おれがああいうことをしてやらないと、元に戻れない……?
「最悪だ」 
「も?」
 プラスチックっぽい瞳でおれを見つめるウシ。つぶらな瞳という点ではチワワなんかに通じなくもないけど、心は動かない。さっさと縁を切ってしまおう。
「おれ、勝ったんだよね?」
「だも」
「それって、もう変身しなくていいってこと……にはならない?」
「むう、したくないも? 大きい男の子は魔法少女が大好きって聴いたも?」
 ちがう、それは違うんだっ! いや、ある意味では正しいのかもしれないけど、だとしても、自分がそうなりたいって意味では、絶対にない!
 脱力したところに、追い討ち。マウシーのズレたフォローが心をえぐる。
「だ、大丈夫も。ちゃんとかわいかったも」
「……ソレはソレとして。勝ったんだから、これで終わりだよね?」
「何を言ってるも」
 不思議でしょうがないという風情で、意味がわからないという風味に。
 それはおれのだ。おれのセリフだ。でも、通じないんだろうな。一から説明しないと。
「おれは変身しました。敵を倒しました。勝ちました。なのに、まだ、変身する必要はありますか?」
「どうして変身する必要がないも?」
 これぐらい順序だてて言えば、わかってくれる。そんな期待をするおれが愚かだったのだろう。ウシに言葉が通用しないことを学べ、ということなのかもしれない。
 ただ、マウシーも多少は考えてくれる気になったみたいだ。短い腕を組んで悩み始めた。しばらく見ていると、ぽんっと手を打った。
「もー……わかったも」
「何がどうわかったんだ?」
「すっかり忘れていたも。もともと、五ラウンド勝負だも。だから、勝ち越さないとだめなんだも。話が食い違うと思ったら、最初に言ってなかったも。もー、そういうことは早く言うも、レイにゃん。……も?」
 だめだなぁ、こいつぅ。とでも言わんばかりの声色に、血圧が急上昇するのがわかった。まるで自分が悪いと思っていない態度にも、余計に腹が立つ。
「あ、その代わり、ちゃんと報酬があるも」
「ほうしゅう? 牛肉一年分とか?」
「ひっ、マウシー、食べてもおいしくないも!」
 そんなに全力で逃げなくても、ピンクの牛はさすがに食べる気にならない。っていうか、前、牛だって言ったら否定してなかった?
「ちがうも。大抵の願い事はかなうも。もちろん、さっき言ったのでもいいも」
「大抵、ね」
 “多少”の願い事がかなう、だと思っていたほうがよさそう。そもそも出会ったときからすれ違いが多すぎて信用できない。それよりも後に続けたマウシーの言葉のほうに惹かれるものがあった。
「ついでにライバルを好きにする権利が与えられるも」
「好きに、ってことは思い通りに?」
「も」
 そう、か。露出狂だったけど、胸は大きかったよね……。話半分だと思っても、カノジョにするぐらいはできる、かも。
 今日戦った感じからすると、それほど賢くはなさそうだった。けっこう楽勝っぽい。あの姿は恥ずかしいけど、俄然やる気が出てきた。やるぞ、おーっ!

<つづく>

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