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投稿TS小説 星の海で(2) by.ありす

キャライメージ作成.東宵 由依

星の海で(1)はこちら

フランツ


 薄暗い通路。
 扉の上にある黄色の回転灯が、この区域に不用意に近づいてはいけないことを示している。
 フランチェスカは戦闘艇に乗る際に着用する、装甲服のようなスーツを着せられ、パイロットのフェルナンド中尉と電動カートに乗っていた。
 格納庫の扉が開くと、大きな機体が目に入った。

「これに乗るの?」
「ええ、これに“載る”んですよ」
「見たことのない機体だわ」
「そりゃそうでしょう、何しろコイツは特別ですからね」

 照明の落とされた暗い格納庫内にあるそれを見上げたが、濃い色の塗装とあいまって、形がはっきりしない。それに小さくてスマートな形の機首に似合わず、ブースターに規格品のミサイルパックやポッドが、これでもかと装着されていて、元の形が判らなくなっていた。

「特別?」
「ええ、先月トリポリの工場を出たばかりなんです。まだ宇宙に1機だけ、最新鋭の戦闘機動艇です。恒星間は無理ですが、水中から宇宙空間まで、どんな領域でも最高の性能を発揮します」
「それにしては、ごちゃごちゃしているわね」
「ええ、ちょっと大尉の荷物が多かったもので……」
「え? 私が預けた荷物は、トランクひとつだけだったはずだけど?」
「いや、基地のみんなや訓練部隊からの贈り物が……」
「ああ、艦のみんなの分ね」
「いえ、全部大尉への個人的なプレゼントです」
「はぁ?」
「ま、それは艦についてからのお楽しみってことで。さ、早く乗ってください」
「身動きできないんだけど」
「ああ、そうでした。 おい! そこの整備員! ブースター換装用のドーリー持って来い!」

 フランチェスカが着せられていたスーツは通常の規格品ではあった。しかし、ラヴァーズであるフランチェスカの小さくて華奢な少女の体に合うものが、部隊にはなかった。そのため体とスーツの隙間には、たっぷりと詰め物がしてあった。そのおかげで座らされたら最後、ほとんど身動きひとつできなかったのだ。
 まるで電源の入っていないロボットのようにドーリーに載せられて、コックピットの部分まで持ち上げられた。

「何よこれ? まさかコイツが後席なわけ?」
「ああ、こいつだけはバゲージポッドどころか、ミサイルポッドの中にも入らなかったもんで……」

 ご丁寧に6点式のファスニングを締められて後席に座っていたのは、おそらくフランチェスカよりも大きな“くまのぬいぐるみ”だった。
  
「まさかこのぬいぐるみが操縦するなんて、言わないでしょうね。私、このカッコじゃ操縦できないわよ」
「操縦はこの機体が自動でやります。おっと、後ろは見ないでください」

 首を動かして、機体全体を眺めようとしたら、視界をさえぎられた。

「どうして?」
「いえ、その……。ああ、最新鋭機だから、まだ秘密の部分がありまして……」
「はぁ?」
「それよりこちらを。これがコーションパネル。一応見ていて、どれか点いたら直ぐに言ってください。これが航法用のNAVディスプレイ。フライトパスはちゃんとプログラムしときました。5回もシミュレーションしたから万全です。それにあっしがウィングマンで付いていきますから、何かあってもしっかりフォローします。大尉は寝てても、無事に艦までお送りしますよ」
「私も“荷物”ってこと?」

 せっかく再訓練を受けて、勘を取り戻したばかりの腕を試したかったフランチェスカは、後席の巨大な“くま”を指差しながら言った。

「ええまぁ、はっきり言ってしまうと、そういうことに……」
「はぁ……、いいわ。それじゃ、私も機体に“取り付けて”ちょうだい」
「へぇ、お載せいたしやす」

     *---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*
 
 慣熟訓練を終えたばかりの戦艦の艦橋。准将に昇進したばかりのリッカルドは、補給を受けて再編された第106遊撃艦隊の艦隊司令に就任した。“ あくまで暫定的”との補足付きの周辺宙域艦隊群幕僚本部の辞令ではあった。しかし遊撃艦隊の司令ということは、“独自の判断で戦果を挙げよ”という暗黙の命令であり、ちょっとした戦果を挙げれば、少将への昇進を内示されているも同然だった。リッカルドの年齢の割にはかなり早い昇進だが、崩壊寸前の艦隊を率いて、華々しい戦果をたて続けに立てたことを、評価されてのことだった。

 
 予定時刻になっても、艦隊の待つ軌道上への上昇を始めないことに、疑問を感じたリッカルドが言った。

「どうしたんだ? 予定よりも2時間も遅れているぞ。旗艦が遅刻じゃ、示しが付かないではないか!」
「戦闘副官の到着がまだです」
「フラ……いや、副官が?」
「ええ、でも10分ほど前に地上基地を発進すると、連絡が」
「早く収容しろ。大気圏外へ出たらすぐ、艦隊全体に航路予定と転移点データのアップデートができるように、準備しておけよ」
「既に中継機をだしてデータの転送は終わっています。旗艦位置に占位次第、直ぐに空間転移できます」
「わざわざ中継機まで出さねばならんとは、フランチェスカの奴め!」
「約20分後に着艦シーケンスに入るそうです」

 リッカルドは前方の窓から外を見たが、夜明け直前の暗い雲中で、今はまだ何か見えるはずもなかった。

    *---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*
 
 搭載コンピューターがAPUの始動から、メインエンジンのスタート、動翼やスラスターのチェック、アビオニクスを含めた複雑で多岐にわたるプリフライトチェックを全て行っていた。そしてさらに、タキシングにいたるまで、艇が自動的に進めていき、フランチェスカはすることがなく、めまぐるしく変化していくインジケーターやディスプレイの表示を、ぼうっと見つめていた。

「はぁ、やることなくて退屈だわ、せっかくの新鋭機だってのに……」
『時間が無いのでカタパルトで打ち出してもらいます。舌かまないでくださいよ、大尉』

 レシーバーからフェルナンド中尉の通信が入る。

「ブースターパック付いてるのに?」
『実は大尉の機体は積載量を、少々オーバーしてまして……』
「だ、大丈夫なの?」
『上がっちまえば関係ありませんよ、Gキャンセラーが作動しますから』
「はぁ、機体も勝手に動いていくし、本当に大丈夫なのかしら……」
『STREGA-FLIGHT,Taxi to launch position, and latch catapult』

 管制塔からの指示が、中尉との会話に割り込んだ。

『STREGA-FLIGHT. Launch position』

 中尉が答えると同時に、ガゴンという低い音と振動があって、機体がカタパルトに接続されたことを伝えた。同時に機体がゆっくりと上向きに傾けられていった。機体の傾斜が止まると、右側の発進信号のインジケーターが“GO”サインを出し、射出の準備が整ったことを示していた。

「STREGA01. Ready for Launch」
『02』
『Catapult tensioning. STREGA-FLIGHT Cleared for Take-off』
『大尉が一応編隊長ですから、コールをお願いします』
「はいはい“一応”ね。 STREGA-FLIGHT Take-off!」
  
 さっき言われたように舌を噛まない様にぎゅっと歯を食いしばると、衝撃と共にフランチェスカの体がシートに押し付けられた。直ぐに加速が緩んで機体が降下に転じたかと思うと、再び強烈な加速Gがかかり、フランチェスカ機は上昇を始めた。
 軽やかに上昇を続けるフェルナンド機を追いかけるように、フランチェスカ機もブースターの長い煙を引きながら、夜明け直前の暗い空へと翔け上がって行った。

    *---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*

「STREGA-FLIGHT, 10 mile Tale.」

 官制士官がフランチェスカたちの編隊の接近を告げた。
 普段なら艦載艇の発着艦や指揮管制は、別の管制室で行われる。リッカルド司令はそのことに疑問をはさんだが、『軌道上へ向けて加速する体制に入っているため、司令艦橋で行います』と航法士官に言われては、特に変更させる理由もなく、『そうか』と任せることにした。
 もっとも、リッカルド以外の乗組員が全員結託して何かをしようとしていることなど、考えも及んでいなかった。

「提督、雲の上に出ますから、窓の側までお越しください」
「あ? なぜだ?」
「もう直ぐ夜明けですし、“いいもの”が見れますよ」
「いいもの?」

 リッカルドは司令席から立ち上がり、艦橋前方の窓の脇に立った。

    *---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*

「見えたわ、あれが新しい艦?」
『ええ、あれが“アンドレア・ドリア”です。改ラデツキー級の新型情報戦艦で、同型艦はまだこの宙域には1隻だけですよ』
「へえ、なかなか立派な艦ね。朝焼けに映えてかっこいいわ」

 払暁の雲海の上を航行する巨大な艦影に、フランチェスカは見とれていた。

『あっしは先に着艦させていただきやす。大尉殿は艦を一旦回りこんでから、着艦なさってください』
「操縦できないから、言われたとおりにするしかないわね」

 NAVディスプレイに、新しいアプローチコースが表示された。

    *---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*

『ARTHUR. This is STREGA-FLIGHT. Request to approach, and contact MOTHER-ARM』
「This is ARTHUR. Welcome home STREGA-FLIGHT, Cleared for approach, and contact MOTHER-ARM」
『STREGA-FLIGHT, Contact MOTHER-ARM』

 着艦体制に入った2機が、艦の自動着艦管制システムとリンクしたことを官制士官が確認すると、着艦デッキの扉が開いていった。
 2機の様子は艦外監視用のカメラで捉えられ、大型スクリーンにも表示されていたが、前方の窓の近くに寄っていたリッカルドは、そのことに気づいてはいなかった。

「STREGA-FLIGHT, Open deck, Clear touch」
『STREGA02,Kiss to Mother, 01 Fly-Pass』

 官制士官とのやり取りを、聞くともなしに聞いていたリッカルドは、ふと尋ねた。

「フランチェスカの機体が、先に着艦するんじゃないのか?」
「最新鋭機で帰艦するとのことですから、お披露目したいのでしょう」
「やれやれ、ただでさえ時間に遅れているというのに……」
「あ、来ましたよ。艦橋のすぐ前でターンするそうです」

 最新鋭機と聞かされては、リッカルドも興味を持たざるを得ない。窓の側によると、濃紺のブルー迷彩の機体が大きくバンクをとりながら、ゆっくりと旋回していった。だがその機体の背中には、少女の顔を模したマスコットキャラクターが、大きく描かれていた。

「な、なんだあれは!」

 どっ、と歓声に沸く艦橋で、リッカルドは叫んだ。

「ちゃんとビデオにも記録しておきましたよ。スクリーンに出しますね」

 艦橋前方の大型スクリーンいっぱいに、先ほどフライパスしていったフランチェスカ機のスナップショットが映し出された。
 フランチェスカの顔に似せたマスコットキャラクターの下には「Nostro amore Francesca❤」とファンシーなピンク色の字体で大書されていた。
 コックピットには、バイザー越しにびっくりした表情でこちらを見ている、本人と後席の“くま”まで、はっきりと写っていた。

「おい、後でコピーしてくれよな」
「心配しなくてもワープに入ったら、情報部を通じて艦隊放送に回るように手はずは整えてある。もちろん購買部の企画課にもな」
「さすが! 手際が良いな」
「実物は、4番格納庫の第3整備デッキだ。ハンガーマスターに追い出されないように、気をつけろよ。ちなみにフランチェスカ大尉は着艦後、艦内時間1800まではオフの予定になっている」
「ああ、早く会いたいなぁー。制服も新しいのが支給されたんだろ?」

 浮ついた会話の飛び交う艦橋で、それまでぐっと堪えていたリッカルドが怒鳴った。

「おまえらいい加減にしろ! とっとと軌道上に遷移するんだ、今すぐにだ!!」

 慌てて所定位置についた艦橋要員を睨み付けながら、リッカルドも席に着いた。

「じゅ、重力圏脱出速度へ加速。軌道上、艦隊の所定位置に遷移します」

 怒鳴られたばかりの航法士官が、やや緊張した声で言う。

「まったく、どいつもいつも……」

 リッカルドは、苦虫をつぶすような顔をして、指揮を続けた。

    *---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*

「何を考えているんだ! 軍の機体を私物化するなどと!」

 恒星間転移航行(ワープ)にはいれば、司令はとりあえずやることが無くなる。勤務シフト中ではあったが、リッカルドは適当な理由でごまかして、フランチェスカの私室にいた。
 部屋の住人は、着替え中だからと拒むのも構わずに、リッカルドは無理やり押しかけていたのだ。

「私だって知らなかったわよ! 中尉の様子がなんか変だったけど、まさかあんなのが描かれていたなんて、知らなかったわ」
「機体もそうだが、なんだこの荷物は?」

 部屋には至る所に箱がうず高く積み上げられ、ベッドには艦橋のスクリーンでも見た、巨大なくまのぬいぐるみが座っていた。

「この子はトリポリ基地司令から、あっちに積み上げてあるのは整備隊から、こっちは基地総務部から。それで入り口のところに積んであるのが、地上訓練でお世話になった第47訓練隊の教育班の皆様からだって」
「だからなんだ、それは」
「“個人的な贈り物”だそうよ、私に。 アイドルも大変だわ」
「贈り物? 誰がアイドルだって? “ラヴァーズ”だろうが、お前は!」
「戦闘副官の辞令をもらったから、一応は正規の艦隊幕僚の一員よ」
「俺はまだ着任を認めたわけじゃないぞ!」
「じゃ、どうしたいのよ!」
「艦隊司令に、着任の挨拶も済んでいないだろうが」

 不機嫌そうに自分の頬を指差しながら言うリッカルドに、やれやれと呆れたように手を広げたフランチェスカは、仕方なくリッカルドの頬にキスをした。

「これでどう? 気が済んだ?」
「1ヶ月も離れ離れだったんだぞ。浮気なんかしていないだろうな」
「私はあなたの独占物じゃないわよ」
「幕僚なら、ラヴァーズの任も解かれたんだろ?」
「“自由恋愛”をしちゃいけない、理由なんて無いわ」
「何だと!!」
「私、とっても人気があったのよ。とても大事にされていたわ。誰かさんみたいに着替え中のレディの部屋に、無理矢理入り込んでくるなんて人はいなかったし」
「むむむ……。で、それが新しい制服か?」

 フランチェスカは地上から乗ってきた専用機と同じ色の、ぴったりとしたワンピ-スを素肌の上に身に着けていた。ワンピースといっても胴体部分だけをぴったりと覆うだけで、フランチェスカのやや幼く見える体のラインがはっきりと出ていた。胸には後から縫い付けたと思われる白い布に「47-A班 ふらんちぇすか」 と書かれていた。

「まさか。これはフライトスーツの下に着るアンダーウェアよ。恥ずかしいからあんまり見ないで」
「そうか。まぁそんな格好で、うろつかれても困るが……」
「じろじろ見ないでよ! それ以上近づいたら殴るわよ。だいたい着替えの途中なんだから、早く出てってよ!」
「おまえ、ちょっと見ないうちに、ずいぶんと女らしくなったなぁ。何の訓練受けてきたんだ?」
「いいから出てけっ! 着替えられないだろ!」
「心配だから見ていて……、わ、判ったよ。そう怒るなよ」

 リッカルドはようやく重い腰を上げて、部屋の戸を閉じた。

「まったく! どうしてああスケベなんだろう……」

 ワンピースを脱ごうとすると、視線を感じた。後ろを見ると、扉が少し開いていて、リッカルドがこちらを見ていた。
 一瞬“ヤバい”というような焦りの表情になったが、直ぐにまじめな顔になっていった。

「ごほん! 1800に艦橋へ出頭すること。良いね、フランチェスカ大尉」
「お前はとっとと行けーっ!」

 手近にあったコップを投げつけたが、すばやくドアが閉じられ、プラスチックがドアにあたるパコーンという音がして、跳ね返された。
 戦場では戦局を見誤ったことなど、1度も無かったフランチェスカの攻撃は、失敗に終わった。

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おかしい! ファフナーのCD-BOX聞きながら、カッコイイシーンを書こうと思っていたのに(~_~ )!。
続きはいつになるかわかりません。いちおう構想はありますが……

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