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勇者と魔王の嫁入り修行(その7)

作:DEKOI
挿絵:そら夕日さん

平面世界リーザス全土に名を轟かす勇者と魔王、ウィル=ベッケンハイムとルゲイズが2人の母親の策略にかかって女性化してから1週間が経った。ようするに3日経過したことになる。
2人はそれぞれ自分が住んでいた城と親友が管理する城に引きこもり、6週間後に控えた『お婿さん勝負』の為の特訓をしていた。

そう、2人は特訓を繰り返していたのである。しかもかなり真剣に。なにせ負けた方は男に戻れないどころか、勝った方に「嫁ぐ」事になってしまうのだから。
お互い命と信念をかけての戦いを幾度としてきたが、よりにもよってその相手と結婚しなければならないとは。はっきし言って気乗りしないのだが、この勝負を放棄したりしたら元の性別に戻れない。
2人ともこのまま一生「女性」として生きるつもりは更々にない。相手と結婚するかどうかはともかくとして、元の性別である「男」に戻るには「お婿さん勝負」に勝つしかないのだ。2人は元々生真面目な性格も相まって、真剣に特訓に明け暮れているのであった。

ただお互いに、『男になるために花嫁修行に明け暮れる』という矛盾点に気づいていないのだが。こういった処も似たもの同士と言えなくも無い。


(1)ルゲイズ側の状況

あまり広くはないヴァンデルオンの城の調理場にルゲイズとヴァンデルオンはいた。
淫魔であるヴァンデルオンは一般的な食料という物は必要ないのだが、一応はこの城も魔王の居城でもありまた魔王が口からの食事を取る種族である可能性が高いので、一応城内には調理場があるのである。
いまさっき、ルゲイズは料理を作り終えた処だ。何故かピンクのフリル付きのエプロンをつけて白い三角巾を頭に締めているルゲイズは神妙な趣で立っている。その横をヴァンデルオンははっきりと分かる程に、引きつった表情を顔に浮かべて立っていた。
ギギギという擬音を鳴り響かせながら、ヴァンデルオンはルゲイズの方を向いて親友である魔王を見下ろした。

「あのさ、ルゲイズ・・・。」
「な、何か問題でもあるかよ。」
「いや、その・・・。あのさ、これって冗談だよね?」

ヴァンデルオンはそう言うと今さっきまで見ていたキッチン上に置いてある『料理』を見下ろした。

楕円形を形作る白く輝く沢山の粒が湯気を立てながら手に収まる程度の大きさの逆三角錐型に作られた器に盛られていた。
同じような器に盛られている鈍い茶に着色された液体には、白い小さな四角形の物が入っている。
そしてその横には三日月状の形をした黄色い物体がデロンとばかりに置かれていた。

要するに。ご飯と豆腐の入った味噌汁とバナナが置かれているだけなのであった。
端から見てもこれらを『料理』というにはあまりにも質素すぎる内容である。

「えーっと、なんだ。これはちょっと質素すぎないか?」

ヴァンデルオンは引きつりまくった顔に何とか苦笑を浮かべた。彼自身は料理を食べることに関しては無頓着な方だが、人間の愛人たちに振舞われた料理はこれの20倍以上は豪華だった記憶がある。フルコースではなく料理一品一品単位で考えたとしてもだ。

「そうなのか?俺はいつもこの程度の飯しか食べないぞ?」
「いや、一応『料理勝負』と括り付けられた戦いに出すには問題ありすぎる内容な気がするんだが。そもそも一品のみを出すのにこのレパートリーから何をだす気なんだ?」
「えっと、これかな。」

そう言ってルゲイズが指で指したのは三日月状の黄色い物体。要するにバナナ。

「食材そのものじゃないかー!」
「何を言っているんだ!バナナは栄養価が高いんだぞ!?」

半ば切れてちゃぶ台があったらひっくり返しそうな勢いで叫ぶヴァンデルオンに対して、ルゲイズは心外とばかりに反論した。

「バナナ単品は基本的に『食材』であって『料理』とは言わない!第一バナナはおやつの類の筈だぞ!」

「え?バナナは主食だろう??」

「待て。いつもお前は何を食っているんだ。」
「だからご飯と味噌汁を食べながらバナナを少しづつ齧って」
「すまん。聞いてるだけで悲しくなってきた。」

親友の食事状況を聞いてヴァンデルオンは思わず美しい顔に縦線を浮かべながら額に手を当てて頭を振っていた。かなりドン引きしいるらしい。

「少なくとも食材を何かしら加工した物でないと。幾らなんでもバナナオンリーでは勝負にすらならんぞ。」
「む、そうなのか。それじゃハムを乗っけたサラダなら」
「それも問題外だと思うぞ?」
「じゃあドレッシングをかければ」
「だから!そういうのでは無くて!」
「それじゃあ奮発してお頭の付いた魚の塩焼きもつければ!これならかなりの贅沢かと!!」
「問題外以前の問題だー!!!」

端正な顔に絶望感を浮かべつつ、ヴァンデルオンはお手上げとばかりに上を仰ぎ見た。
ヴァンデルオンは親交が深いだけありルゲイズの貧乏性は何となくだが知っていたが、ここまで酷いとは思ってもいなかった。発想が『清貧』ではなく『赤貧』となっている。あまりの貧乏くさすぎる思考にヴァンデルオンはあきれ返ってしまったのだ。

その後も延々と、「海苔をつけたらどうだ」とか「焼き魚に醤油をかけたら」とかいった内容を可愛らしい顔に至極真面目な表情を浮かべつつ言い続ける親友である少女を目の前にしつつ、ヴァンデルオンは心の中で思わず呟いてた。

「この勝負、勝負にすらならないかもしれない。」

と。


(2)ウィル側の状況

とどろく爆発音。その音は世界屈指の大きさの建物であるオルドクライド城全体を揺るがすほどの大きく、激しい音であった。その音と同時に城全体が数瞬の間縦方向に振動をしていた。
専属の庭師はすぐ頭上で鳴り響いた爆発音に反射的に上を見上げていた。
視線の先にあった城の壁に、小型のドラゴンが入り込めるのではないかと思うくらいの大穴が開いており、穴からは城の内部側から幾筋の灰色の煙がモクモクと沸きだっている。
反射的に庭師はあまり入ったことが無い城の構造を頭の中で考えていた。そして30秒くらい経った後、確か穴が開いている箇所は調理場があった場所だったな、と思い出すことに成功していた。

城中に轟いた爆発音を聞いたとき、ルミリアは自室で今日は女性化したウィルに何を着せようかとメモを書きながら思案している最中だった。
メモから視線をはずしてすぐさま部屋を出て近くにいたメイドを捕まえると何が起こったのかを確認し、爆発音が調理場の方から音が鳴り響いたと聞くと顔色を少し青ざめながら早足で調理場に向かって歩き出した。彼女の記憶に間違いが無ければ、今頃はウィルが調理場で料理の練習をしていた筈だからである。

ちなみに自室に残されたメモ帳に書いてある内容は「ゴスロリ」、「メイド服」、「ビアガール」、「紐ブラ」とか書かれており、そして1つの項目に丸が付いていた。
『ふんどし一丁』と書いてある項目に、である。何を娘に着せようとしていたのだろうかこの母親は。


「ウィル!大丈夫なの!?」

ルミリアは調理場に飛び込むと同時にウィルの名前を声に出していた。襲撃か何かを受けたのかと思っていたからだ。だが調理場に飛び込んだ彼女の前に立っている人物を見て目を丸くすることになった。
ルミリアの視線の先には煤のせいで黒く変色しているウィルが立っていた。ドレスと思われる着ていた物もボロボロになっている。そしてウィルの右手には何かが壊れた様な黒い鉄の塊が握られていた。

「あ、お母様。」
「ウィル?どうしたの、何があったの?」

母親からの質問に対して平然とした態度でウィルは返答した。

「えっとですね・・・。料理をしていました。」
「まあ調理場だから多分そうだと思うけど。で、この惨状は一体何があったの?」
「えっと、ですね。フライパンに火をかけていたら爆発してしまいまして・・・。」
「・・・ハァ?」

娘になった息子の言葉を聞いて、ルミリアは反射的に間抜けな声をあげていた。その目が丸から点に変わっている。
そして娘の持っている物体をよくよく見てみると、それは確かにフライパン『だった物』らしい事が判別できた。
更に周りを見ると、壁の煤け具合や穴の開き方から調理場の内部から爆発が発生しているのが分かるだろう。

「ちょっと待ってウィル。貴女いったい何を作ろうとしていたのよ。」
「えっと、かき氷を作ろうかなと。」

ウィルの答えを聞いて思わずルミリアは硬直していた。
たっぷり2分間は硬直した後、ルミリアは全身を震わせながら、額に青筋が浮かび上がってきた。勿論、理由は理不尽な怒りのせいである。

「コラ待テ、娘。かき氷を作ろうとするのに何故フライパンに火をかけて更に爆発しているのよ?」
「ほら、料理の基本は高火力、て言うじゃないですか。」
「だからかき氷を作る過程のどこに、爆発するほどの火力でフライパンをあぶるってのがあるのですか??」
「世の中には斬新な行為というのがありまして。それによって人類は発展していくものかと」
「だ・か・ら!何で冷たいものを作るのに『火』がいるのよ!?しかもよりにもよってかき氷に!」
「世の中は常識でしばられない現象が時にしてあるものでして」
「常識とか現象とかそういう以前の問題よ、ウィル!!」

全身を煤で真っ黒に染めながら呑気に笑う実の元息子現在娘の姿を見ていて、ルミリアは全身を脱力しつつ思わず心の中で呟いていたのであった。

「この勝負、勝負にすらならないかもしれない。」

と。

そら夕日さん 魔王と勇者


<つづく>

コメント

続きはいつに…

両方ともアホの子でかわいいです

ちょっと止まっていますが、鋭意執筆中です。
ですよね?

とても面白いです。 続編期待します

勇者と魔王の嫁入り修行・感想

真面目な魔王と破天荒な勇者に笑い転げました。

とっても続きが気になりました。是非続編をお願いします!

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