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GANTZ 26 figma付初回限定版 に付いた投稿TS小説(1)(2)

作.amahaさん

プロローグ

 死んだはずの俺は見知らぬマンションの1室で目覚めた。室内の家具はそろっており冷蔵庫には食べ物もある。奇妙なものと言えばリビングの中央にある黒い球体だけだ。
 窓からは見覚えのある景色が見えるが、窓もドアも開かない。
 なすすべもなく日が暮れるのを窓から見ているうちに空腹を覚えた。死んだはずなのに。
 冷蔵庫にあった冷凍ピザを温めてコーラで流し込んだ。
 もう一度ドアを試そうと立ち上がったとき球体から奇妙な音楽が鳴り声が聞こえた。
 俺の質問や叫びを無視し、球体は変な日本語で変な話を始めた。それによると球体は地球外の産物で俺は地球代表として選ばれたので異星人と地球の存続をかけて戦わねばならないらしい。
「なぜ俺なんだ」
『お前の宿命なのねん』
「俺は事故で死んだはずだ」
『偽装だよ。お前を世間から隔離するための』
「断ると言っても無駄なんだろうな」
『ルールはさっき言ったとおりさ。まあオイラがコーチしてやるからがんばるんだな。喜べ最初はホームだ』
「まてよ。戦うといわれても異星人なら、あるいは俺がアウェーで異星に行ったら大気が呼吸できないとか重力が違うとか」
『心配ないのねん。このバトルスーツを着てみるべし』
 球体の一部が引き出しのように開くと黒い衣装と武器らしいものがある。素材は柔らかでかなり伸縮性もあった。
『直に着ることよん』
「下着も?」
『全部脱いで』
「やれやれ」
『60秒前』
「おいおい」
あわてて着て教えられた圧着ボタンを押したとたん全身が傷みに襲われた。
 騙された? しかし何のために。奴は俺に強制できるだろうに……。
『5秒前 3,2,1』
目覚めると肉体は女性化していた。ボケをかませる暇もなく胸のふくらみと先ほどまでいやと言うほどあった股間の圧迫感の消失で気付かざるを得ない状況ってわけ。
 次々起こる異常事態に俺の精神が冷静に対応していたわけじゃない。錯乱したっておかしくないと思う。それなのに思考が曇らないのは先ほどから頚部に感じている熱い感じのせいだと思う。鎮静剤か何かを経皮的に注入されたのだ。球体が異星産だとしても地球人の生理は十分研究済みってわけだ。
『どうしたのかわいこちゃん。おいらに言ってごらん』
まあ言語情報の収集には妙な偏りがあるが……。
「うるさい! それより戦わせるのに女性化するって矛盾じゃないのか?」
『スポンサー獲得のため我慢するのねん』
「スポンサー?」
『オイラのような最新鋭の機械を使うには莫大な経費かかかる。こんな辺境のしかも遅れた星に大して価値のあるものはないから、かわいこちゃんが自分で稼ぎながら戦うのねん』
「うーん」
俺は引き出しに残るヘルメットと武器らしい物を手に取りながら考えた。
 どうやら冗談ではないらしい。それに俺を騙すためにしこまれたドッキリとも思えない。
『まあ戦ってみればコツはわかるぞ。ゴングはもうすぐなのねん』
「ちょっと待てよ。この武器は? 使えば相手は死ぬんじゃないだろうな」
『相手の死こそかわいこちゃんの確実な勝利だよん』
俺にそんなことができるのか? 少なくとも相手がヒューマノイドの場合。
「他には?」
『相手が全面降伏した場合も勝ちだ。でも相手は降参しないだろうしおいらは勧めないね』
「なぜ?」
『その種族は滅びるんだぞ。宇宙にただ1人生き残って何の意味がある』
「……」
『それより装備や今回の敵のことをオイラが教えよう。もうあまり時間がない』
「誰が決めたんだ。人類やその異星人の未来をこの戦いで決めるなんて」
『視聴者さ』
「し」
『ファンがつけばスポンサーが増えて武器も良くなるがんばるんだな』

☆ ☆ ☆

 球体がケンタッキーとなずけた俺の敵は2足歩行の鳥形生物だった。今回の装備はほぼ互角、ただ相手は地球の重力なら短い距離だが飛行可能で聴覚も人を超えると言う。
「それで俺のほうの長所は」
『胸が感じやすい』
「なんだと!」
実のところスーツにこすれる乳首の感覚にほとほと手を焼いていた。
『冗談だって』
「それで?」
『ナイスバディ』
俺は思い切り球体を蹴り上げた。

GANTZ 26 figma付初回限定版 (ヤングジャンプコミックス)GANTZ 26 figma付初回限定版 (ヤングジャンプコミックス)
(2009/06/19)
奥 浩哉

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(1) 緒戦

 閉じ込められていた部屋から未知の科学技術で戦いの場に飛ばされた。SFドラマで言う転送ってやつだ。場所は俺の自宅や学校がある町、文字通りのホームってことになる。もう日はとっくに暮れて時刻は9時過ぎで一帯の住宅街では人通りも少ない。それでもこの恰好では通報されそうだ。教えられたパネルを操作して熱光学迷彩を使用し透明になる。敵もほぼ同レベルの技術力の生産品を使っているので透明化は有効と教えられている。
 辺りは静かで平和である。しゃがんで隠れている塀の中から楽しげな家族の声が聞こえてくると孤独感を覚えた。うるさくても球体の声を聞いているときには感じなかった。不意に視野が歪む。涙だ。あわててゴーグルをあげて涙をぬぐう。今回はホームで大気が呼吸可能なのでフェイスマスクはずらしている。 涙なんて……女になったためか。いや関係ないだろう。この異常な状況下では地球一勇敢な男だって泣きたくなるに違いない。
 ここになって透明化したのだから隠れている必要もないことに気付き苦笑しながら立ち上がった。この勝負に引き分けはない。ああ、ないわけではないけれどその時点で両方の種族とも抹消される。とにかく今日は勝って球体と交渉し地球人代表を降ろしてもらおう。確か最初の説明で戦闘中以外のとき代表に問題が生じれば交代することはありうると言っていたから。

 それにしてもいったいどうやって敵を見つければいいのだろう。装備にレーダーの役を果たすものはあり生体反応を表示しているけど、この辺りの住人のものである。自動的に敵をターゲットしてくれるわけではないのだ。
 とりあえずこの辺りで一番明るいコンビニを目指す。歩いていると嫌でも下腹部が湿ってくるのに気付かされる。スーツの下でこすれる乳首と自らの妄想で興奮しているのだ。くそ! 早く終わらせ女体化スーツを脱ぎ男に戻ってもっとふさわしい人物と交代してもらうのだ。
 コンビニの周りを歩きながら光の歪みを捜す。あいても同じく透明化しているなら肉眼で捜すしかない……と思う。
 後ろから話し声がするので避けながら振り向く。
「明日学校に行っても士郎君に会えないなんて」
「僕だって信じられないよ、岡が」
幼馴染の姫野恵と親友の古田だ。姫野の顔には涙の跡があった。2人はコンビニ前で行われている水道工事の穴を避けてコンビニの入り口に近づいていく。彼らはこんな時間なのに制服を着ていた。恵が握り締めているのは数珠……ああ。
「俺は」
そう叫びかけたとき閃光が何度かきらめき俺の左手が蒸散した。
(敵だ)
 あわててとおりの反対側までジャンプした。スーツのおかげで俺はアメコミヒーローなみの、いやヒロインなみの運動能力を発揮できる。
 スーツ搭載のAIがうるさく喚いている。
『止血完了。ペンタゾシン及びエピネフリン投与』
痛みも感じず気を失うこともなかったのはAIのおかげかもしれない。見ると左手首から先はきれいに消えていた。幸いスーツがすっかり覆っているので傷口は見えない。俺はそういうのは苦手なので助かる。感心してる場合じゃない。相手が俺を見つけたのは叫んだせいだろう。確か聴覚が鋭敏だっけ……うかつだったなあ。射線からすると奴は上空だ。それにしてもなぜ止めを撃ってこない? ひょっとしてレーダー装備を持っていないのだろうか。技術的には同等でも選択はそれぞれだ。しかしなぜ……とにかく聴覚に頼っているのは間違いない。姿の見えない音源こそ敵と言うわけだ。
 まずAIを黙らせた。普通なら心配ない音量だけれど相手の能力は未知数なのだ。もっと球体に詳しく聞けばよかった。
 相手は上空で待機していて聞き耳を立てている。石を投げて撃たせて居場所を探るか? いやそれほど間抜けではないだろう。それなら今頃コンビニの回りは穴だらけのはずだ。水道工事の穴のせいで周りには小石が多い。先ほども古田が力任せに蹴っていたが敵は反応しなかった。
 俺が空を見上げた。せめて星でも出ていれば見つける可能性もあるだろうが、あいにくの曇りだ。持久戦はまずい。AIによればかなり失血したために救急装置では治療が難しいらしい。
(勝率は万に一つもないけれど適当に空に向けてぶっ放すか)
そのとき俺の脳裏に浮かんだのは両親でも思い続けている女性でもなく涙の跡がある姫野の顔だった。
 足音を立てぬようにコンビニの前に戻る。工事現場の穴をのぞくと人はいず、菅がむき出しになっていた。右手の武器を構えなおして水道管を撃ちすぐに飛びのいた。
 俺の選んだ銃は鳥人間のようなエネルギー兵器ではなく実体弾を射出するタイプだ。エネルギー兵器は大気内では威力が減弱しやすい。できれば遠距離からの狙撃で決着をつけたかった。また弾丸は自壊するので後に証拠は残らない。
 かなり太い水道管に空いた穴は巨大な噴水になり、上空に奇妙な影が、出来損ないのビッグバードのような影が浮き上がった。
 弾を打ちつくした俺は指示されていた現場処分用のナノマシンを撒いてから立ち去り球体の転送を待った。

(2) 勝者の困惑

 戻ってまず驚いたのは治っている左手ではなく飾り付けられた室内だった。球体は手や足を出すことができるのだろうか?
「なんだこれは」
『祝勝パーティーさ』
「パーティーって」
『まあオイラと2人きりだがな』
「しかし」
相手のことを考えると――それに特に目の前の鳥の丸焼きはちょっとね。
『戦闘スーツであれだけ動けば空腹のはずなのねん』
言われて見れば確かに腹は減っている。でも食べるのはスーツを脱いでからでいいだろう。
「でもとりあえず汗を流してくる」
『了解だよ~ん』

 脱衣場についた俺は少し緊張しながら鏡の前で脱衣シーケンスを開始した。元の姿に戻るとき女性化と同じ時間がかかるなら今の――球体の言う――ナイスバディを少し拝めるはずなのだ。自分で言うのもおかしいが今の俺の肉体は男なら誰でも……まあ分かるだろう?
 エアーが入り密着していたスーツが体から浮く。首のロックをはずすと縫い目も見えなかった背中が大きく開いた。かなり汗をかいたはずだけどスーツの機能なのか肌はさらりとしている。腕を抜いて上半身が出たとき思わず生唾を飲んでしまった。大きな胸はスーツを脱いでも重力を無視するようにきれいなラインを保っている。見とれていた俺はあまり時間がないと思いスーツを完全に脱ぎ捨てた。そして自分自身であるために決して自分のものにできない女神の体を見つめ続けた。
 どのくらいその状態でいたのだろう。少なくとも5分は経過したに違いない。しかし胸はでかいままだし、股間はスースーするし、かすかに元の面影の残る顔も美女もままである。俺はあわてて球体の所に戻った。
「大変だ。女体化スーツを脱いでも変身しないぞ」
『目の保養だぜ』
しまった素っ裸だ。
「み、見るな!」
そう叫んで脱衣場に走りこみタオルを巻いた。鏡を見ると真赤な顔をした自分が可愛い……それどころじゃないや。あわててまたリビングに戻る。
「どうして男に戻らない」
『お前はなにを言っているんだ』
「だって戦いも終わったし」
『1回戦に勝っただけだ。それだけでもたいしたものだけど』
妥協するしかないかな。
「わかった。しかし2回戦までの間は関係ないだろう」
『費用の問題もある』
「え?」
『かわいこちゃんを男にするには費用がかかるのねん』
「この姿のまま2回戦までここで過ごせと」
『完璧な肉体だよん』
「俺は男だ」
『今は女』
「もどせ」
『まあ費用を負担するなら可能かもな』
「いくらだ」
『この星の通貨じゃ無理』
「どうすれば」
『スポンサーを捜すんだな』
「って?」
『オイラの言う通りにするしかないよ』
「くそ!」
そのとき俺の腹が鳴った。
『まあ食べなよ。せっかくのパーティーなんだし』
「あ、ああ」
 食べ始めると止まらなかった。この細い体のどこに入るのかと思うくらい食べる。大食い選手権で優勝が狙えそうであった。球体は喋り続けている。少々うるさいが少しでも情報が欲しいので我慢することにした。
『そうそう。コンビニ前でかわいこちゃんの同級生が登場した場面はまるで銀河ドラマのようだと評判なのねん』
球体は俺の反応を見るように間をおいたが、胸に痛みを覚えた俺は無視して黙ったままミネラルウォーターをグラスに注いだ。姫野や古田とバカな冗談を言い合う日常は戻らないのか。
『お前たち人間を1人きりで閉じ込めておくと正常状態を維持できないと報告した』
「どういうことだ?」
鳥の丸焼き以外食べつくしたので俺はデザートに取り掛かっている。肉体の変化で好みも少し変わったのか甘いものが美味い。
『喜べ! かわいこちゃんも学校に行けるのさ。元の』
「え~」
見破られることはないだろうけどこの恰好で知り合いに会うのはなんだか恥ずかしい。
『じゃあこの部屋で過ごすかい? トーナメントの1回戦は試合数が多いから2回戦まで間があるよん』
それもうっとうしい。しかしだな……。
「でもそういう情報操作にも費用はかかるだろう?」
『かわいこちゃんは視聴者に気に入られたらしいからスポンサーは試合前に流す映像を作りたいのさ』
別に損はなさそうだ。コーヒーをそそぎながら返事をした。
「わかったよ」
『必要書類と制服だ。教科書などは朝までに用意する』
立ち上がって球体から飛び出した引き出しをのぞくとクリップでとめられた書類の束と俺の学校の制服があった。もちろん女生徒用の。

 球体が制服を着てみろとうるさく言うのを無視して俺は疲れたからと寝室に下がった。タオルを取り去りクローゼットを見ると当然のように女性用ばかりだ。文句を言ってもしようがない。なるべく地味なショーツと大きめのTシャツを選んでベッドに入った。
 眠いはずなのだが、戦いの興奮が続いているのかなかなか寝付けない。気になってうっかり乳首に触れたら女性化したことが強く意識される。股間に充実感が湧いてこないのがなんだか情けない。喪失感を補おうと大きな枕を股にはさみこすり付けているうちに寝てしまった。

<続く>

090625初出
090627改訂

コメント

 古田はエントランスまで送ると大きく手を振って帰って行った。まああいつに限って送り狼になる可能性はない。
 部屋に戻ると今飲むスポーツドリンクだけ残して冷蔵庫にしまった。そしてナプキンを薄手のものに替えショーツを穿いて球体の前の長椅子に寝そべる。もうほとんど汚れていなかった。
『その飲み物をなぜ選ぶかなあ。効果は水道水とかわらないよん。まあ若干の糖分は』
「この味が好きなの」
『アムちゃん、ずいぶん話し方が板についてきたのねん』
「からかおうとしているなら無駄だぜ」
『おやおや』
「それより次の戦いはもっと短い間隔で始まるんだよな」
『たいていは。しかし断言はできないよん。他の試合の結果で変化するから』
何か引っかかるなあ。
「それは引き分けだと2種族消えるから不戦勝になるって意味?」
『そんなところなのねん』
まてよ……。
「じゃあトーナメント方式なら当たり前のことだけど残りの試合数、最大の試合数はわかってるんだな」
『……』
「違うのか?」
『聞いてどうする』
「知りたいと思うのが普通だろう?」
『一戦一戦に全力を尽くすのを勧めたいのねん』
「全力は尽くすさ。死にたくないから」
『この星の種族が滅亡を逃れるためにはあと4試合勝ち抜く必要がある』
命をかけてあと4試合も……おまけに相手はどんどん強くなる。
『聞いて後悔したか』
「そうでもないね」
『ふ~ん』
人類に希望はほとんどないってことがよくわかったぜ。ではどうする。球体が与えてくれる金で遊びまくる? 相当の金額をもらっているからやり放題だぞ?
「なあこの体の基礎体力や筋力が上がれば戦闘スーツのパワーも上がるのか?」
『単純なパワーには変化がない』
「というと?」
『素体が早く動けるようになればそれに応じて素早さは上がる』
「たとえば時速20kmで走れるのが、25kmになれば?」
『現状のスーツで60km/hが75になる』
「もっと高性能のスーツも使用可能なのか? スポンサーや視聴者の反応は?」
『今日はたくさん話してくれて嬉しいのねん。地球人は軟弱なのでもともと最高性能のスーツだってことは言ったはずよん』
「そうだったな」
『そうそう。アムちゃんは人気者だから武器の購入資金には余裕ありりん』
「じゃあカタログを頼む」
『その前に着替えをするねん。ショーツに染――』
俺はペットボトルを球体に投げつけてバスルームに駆け込んだ。

 この姿になってから古田と話をしたことはあった。しかしそれはちょっとした挨拶や姫野の同席の世間話だったし、ごく短時間のことである。
「家、あの坂の上だろう。送っていくよ」
「ありがとう」
並んで歩くのはなんだか気まずい。
 坂を登りかけたところで古田は再び口を開いた。
「姫野恵と一緒だったんだろう?」
「ええ、まあ」
それがどうしたというのだろう。なんだかえらく真剣な顔だ。古田が姫野を好きなのは知っている。以前の俺はなるべく2人でいられるようにといろいろ骨を折ったものだ。まさか女の俺に嫉妬でもあるまいに。
「変なことを言うようで悪いんだが」
「私が知らない恵のことなら教えて欲しいな。転校した日に泣かしちゃったのは知ってるでしょう」
「そのこととも関係あるんだ」
「気になるわ。教えてちょうだい」
「俺と彼女の友人岡士郎は事故で死んで入れ替わるように君が転校してきた」
「ええ、まあ」
「彼女は元々面倒見が良いし、君と彼女は馬が合うだけかもしれないけど……僕の見るところ彼女は君の中に士郎をみている」
「まあ!」
「そう思って良く君を見ていると――ストーカーしたわけじゃないぜ――雰囲気も外見も、まあ第一に性別も違うけど何となく彼を思い出させるところがあるんだ。まさかアイツが憑依したとか、その生まれ変わりと言うわけじゃないよな」
「えー!」
足を止めて青ざめた顔で見上げる彼は大笑した。
「ごめんごめん、冗談だって。それとも怪談とかだめな方?」
「その話、冗談にすべきじゃないんじゃないかしら。だってあなたもお友だちだったんでしょう」
「もちろん親友だったさ。でも残された姫野のことをアイツに託されている気がしてさ。今はアイツに代わって姫野を守りたい」
なんだか泣けてきたぞ。
「すごい友情だと思うけど私とどういう関係が」
「彼女が君の中に士郎を見ているようなのは本当のことだ。当分側にいてやって欲しい」
「それはもう。今は一番の友だちなんだし」
「女同士の友情じゃ不安だったんだ」
「恵のことが好きなの?」
「ああ。でもあきらめるしかなさそうだな」

 知らないうちにまた寝てしまったらしい。目覚めたのは鳴っているドアフォンのせいだ。確か何かを思いついて……。
 内線をつなぐと来客は姫野だった。
『大丈夫なの、アム』
「ええ、もう」
そう言いながらドアを開ける。姫野は一度帰宅したらしく買い物鞄だけを持っていた。
「差し入れと授業のノート」
「明日でよかったのに。すぐにコピーするわ。試験が近いから恵もないと困るでしょう」
彼らの基準では地球の物価は相当低いのか備品はたいてい高級な物がおいてあり、プリンターも多機能な複合機である。姫野は勝手知ったる我が家のキッチンでコーヒーをいれ始めケーキをテーブルに並べた。
「ねえ、コピーとお茶が終ったら勉強しない? 私と」
「でもー」
姫野は優秀だ。俺の成績はもともとたいして良くはない。それにこの1ヶ月は勉強どころではなく授業も上の空だった。姫野にうるさくせっつかれなければきっとノートなど全くとらなかっただろう。
「遠慮なんてなしよ」
「恵は成績良いでしょう。足引っ張りたくないもの」
「あのねーアムは成績悪ければ1人暮らし止めになるんでしょう。親代わりの方のところへ行ったらもう会えないじゃない!」
確かに最初の頃そんな説明をしてしまった。
「ええ、まあ、それは」
「心配しなくてもアムとのことも含めて勉強の予定立てたから」
「どうも」
姫野といるのは嫌いじゃない。俺は姫野と馬が合うのだ。そして女性化したことで高校に入った頃から高くなった障壁は消えていた。ただ逆にこの家に2人きりでいると俺はどうしても失った自分の男の部分を強く意識してしまう。姫野が俺を女性として扱えば扱うほど。

 コーヒーを飲み終わるとさっそく姫野の特訓が始まった。なかなか厳しいけれど頭のいい姫野の説明は分かり易い。
「アムちゃん、理解が早い!」
「恵の教え方が上手だからよ」
「そうじゃないわ。だってアイツ……えーっと次は地理か」
「うん」
姫野が言いかけたアイツはきっと俺のことだ。中学最初の定期試験は小学校時代ののりで一緒に勉強したっけな。俺の成績はさんざんで姫野は嘆き俺は姫野をわずらわせたくなかったので最初で最後になったんだ。
 姫野は下を向いたまま黙っている。
「恵?」
「あ、ごめん。えーっと地理はコピーしたノートの最後にまとめを書いておいたから、それを覚えればいいだけよ。それからあげてある統計集の重要項目を見るのを忘れないでね」
「う、うん」
まとめは姫野のきれいな字で6ページに及んでいる……おまけに資料集もか。
「無理なら私も付き合うわよ」
「がんばるから」
「そう」

 それから夕食をはさんで2時間ほど姫野の特訓は続き、泊まっていっても良いという申し出をとりあえず断って途中まで送っていくことにした。なんとなく生理と知られるのが嫌だ。知られたら岡士郎の変身だとばれてしまい気がした。
「遠慮しなくてもいいのよ。家には泊まるかもって言ってあるんだし」
「でも、ほら今日はたくさん覚えないといけないから。深夜の特訓は直前にお願いしたいな」
「わかったわ。きっとよ」
「ええ」
 
 マンションの前の坂を下りしばらく行くと大きな通りで明るくなる。
「ここでいいわよ。アムの帰り道の方が心配になっちゃうもん」
「うん。今日はありがとう」
「これからも」
「頼りにしてます」
姫野が角に消えるまで俺は見送った。
 帰る途中スーパーで飲み物を買う。球体は定期的に冷蔵庫を補充してくれるのだけど俺の好みを聞いてくれるはずもなく、こうやって足を運ばねばならないものもある。
「安夢さん」
駐車場の街灯の下で知った声に呼び止められた。
「古田君?」

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(5) 乙女の憂鬱

 気がつくと俺はリビングでうつ伏せに寝ていた。目覚めは最悪だ。起きあがると球体が何か話しかけてきた。その声が不快でよけいに気分が悪くなる。無言のままトイレに行き吐いた。そのままバスルームに行きスーツを脱ぎ捨てる。今回も転送の際にけがは全て治癒していた。それでも目には自分の血と敵の体液が見える。どのくらい腕と胸をこすり続けただろう。止めたのは満足したからではなく疲れたからにすぎない。髪にタオルを巻き下着だけを着けてキッチンへ。冷蔵庫からスポーツドリンクを出し一気に飲んだ。時計をみると午前6時、それにしては外が暗いので窓をみると雲が厚く垂れ込めていた。
 とても学校に行く気分じゃない。PCを起動しネットで欠席の手続きをする。
「ふっ、ふふふ」
自分の行動がばかばかしくなりそのまま笑い続けた。昨日命を賭けて戦った者が学校の欠席を心配するなんて……しかも人類の存続をかけた戦いなのだ。
 また不快感に襲われてトイレに駆け込む。なんだか腹部も痛い。球体の治療が不完全だったのだろうか。
 すぐに原因は判明する。
 初めての月経(生理)だった。

 ナプキンとサニタリーショーツをつけ着替えをし落ち着いた時には30分ほど経っていた。パニックになった俺の攻撃を受けた球体は沈黙を守っている。奴が地球製なら凸凹のスクラップになったことだろう。
 改めて考えてみるとここ数日奇妙な感じがしていた。いつ戦いが始まるかもしれないという強いストレスで気付かなかったのだ。
 原因がわかりほっとするとひどい空腹感に襲われた。炒卵とベーコンを焼きトーストとオレンジジュースを用意して食べる。
 空腹が満たされるといつも賑やかな球体の沈黙が気になった。
「昨夜の敵のことだけど」
「話して良いのかい、オイラ」
「質問してるんだが」
「本当に知りたいのか?」
球体の言葉どおりなら彼の種族はもうこの宇宙に存在しない。
「いや……止める。それで」
「別に苦しみはしないのねん。あっと言う間だから」
球体の機嫌は悪くなさそうなので、今まで答えが得られなかった質問を繰り返してみる。
「スポンサーや視聴者は圧倒的なパワーと技術力を持っているだろう? そいつらが俺たちを古代ローマの剣闘士のように戦わせてそれを楽しむと言うのはありえる気がする。できればやめて欲しいけどね。でも負けた種族を抹消すると言うのは止められないのか」
「レベル2までの情報開示許可が出たから説明してやろう。その前に一言言っておく。この星の言語への翻訳には限界がある。だからスポンサーや視聴者と言うのは近似的な表現にすぎない」
「わかったってば」
「この戦いの元々の目的はこの星域で生き残る種族を1つ選ぶためなのさ」
「どういうこと」
「計算によればこの星の暦で1000年後から1200年後の間にこの辺り一帯で大きな星間戦争が起こる。その結果には若干の不確定要素があるが、たくさんの有人惑星が不毛の大地になり、大部分の種族が滅亡する。そして生き残った種族も宇宙を航行する技術を失い文明は退化すると予想されているのさ」
「その計算で俺たちの運命を決めたというのか」
「アムちゃんに証明式を説明するのは困難だけどオイラを作った世界では確立された当たり前の数学なんだぜ」
「だったら俺たちの戦いの結果もわかるんじゃ」
「さすがに個人の行動は不確定要素が多すぎる。せいぜいオッズを決めるのに使えるくらいなのねん」
 まだ話したそうな球体を残し俺は部屋に戻りベッドに寝転んだ。あまりに途方もない話でかえって疑う気がしない。それにしても……。

 足跡を残さなかったのを確認し、先ほどのクレーン車の影に戻る。AIの指示に従い添え木代わりにスーツの一部を硬化させ左腕を胸で固定すると痛みはずいぶん楽になった。もちろん鎮痛剤も効いているのだろう。しかし薬のせいで少し思考がぼやける。腰のポーチからカフェイン入りの飲料をだし飲んだ。
 敵3体の様子を確認すると大怪我をしたはずの3体目がのろのろとジャマーのほうに歩み、4体目と5体目は周囲を警戒しながら大刀の落ちている先ほどの場所にいた。死体は処分したようだ。
 ジャマーが破壊されればこちらの位置は敵に筒抜けになる。あと……3分くらいかな。3体目の戦闘力はかなり奪ったはずだけどそれでも2対1、しかも動きはこれまでとは比較にならないくらいなめらかだ。残された時間を有効に使おうと武器の確認をしながらこれまでに得た情報を確認することにした。
 大刀は敵の足元に転がっているので手持ちはナイフとミサイル銃だ。弾丸は爆発力の大きいものは残10、普通のものが1カートリッジ(30発)、爆発力のないものが1カートリッジである。最後のものは物陰に隠れた敵をいぶりだすとき使うタイプで貫通力は大きい替わりに殺傷力は小さく急所に当たらねば敵は倒れない。
 敵の2体は無傷、そして肉眼では燐光のように見える力場で覆われておりその中では高速の物体はまるでそこが粘着物質内のように強い抵抗を受ける。だからミサイル弾が爆発しても敵を吹っ飛ばすだけで肉体に損傷を与えることはできない。
 ナイフでゆっくり刺していけば殺せるだろうが、それはあくまで敵が反撃しない場合だ……待てよ。爆発力のない弾なら届くんじゃないだろうか、小さいとは言えミサイルなのだから。そして2体を引離すことができれば。だめか、おそらく肉眼で確認できる程度の弾速になってしまう。
 それにしてもどうして奴は最初から動きの早い2体を参加させなかったのだろう。5対1で2もしくは3体を犠牲にしても良いという作戦で来られたら俺はもう死んでいたに違いない。
 俺は球体が示した奴らの画像を思い出していた。5体のサイズはばらばらである。実際最後の2体も一つはずんぐりとしており、もう一つはスラリと背が高い。いったいどういう生物なのだろう。肉食動物から進化したのは間違いない。狼やライオンのように集団で狩りをしたのだ。もっとも群れではなく1個体なのだが。例えていえば提灯アンコウのようなものかな。そうなら疑似餌に飛びついた俺はもはや奴の口の中にいるわけだ。
 もうあまり時間がない。炸裂弾で奴らをできるだけ引離して一か八か勝負をかけてみよう。追い詰められた今の俺には……。
 まて! 考えろ。敵の作戦の意味がやっと分かった。
 俺は残された時間を観察に費やし、3体目がジャマーを破壊した瞬間にカートリッジを交換しながら弾を打ちつくた。敵本体に届いたかどうかは不明だけれど今ならそれぞれが孤立している。ナイフを抜き全速で意識のある脳を持つはずのずんぐり野郎に駆け寄った。

 ナイフの先がずんぐりした敵の頭部に食い込むまでの数秒は永遠に感じられた。AIが強力な薬をつかったのか繰り返される敵の手刀の打撃の痛みは感じない。勝利を確信した瞬間俺の胸から大刀の刀身が生えてきた。固定してあった左腕も肘の先で切り離され、だらしなくぶら下がる。
 自分の武器で貫かれるとは……
 俺は負けたのか。笑顔の姫野の幻を見ながら俺は意識を失った。

(この章はたぶんここまで)

 銃と言っても投射されるのは小型ミサイルのような物体だ。速度と有効射程から大きな軌道修正はできないもののホーミング機能を持っていた。前回の戦いで素人の俺が上空の鳥人間を1度の攻撃で倒せたのはそのおかげだし、この武器を選ぶ大きな理由の一つだ。そして遠距離からの攻撃では爆発力の強いタイプを選ぶことができる。
 命中! 派手な閃光とともに敵の体が吹っ飛ぶ。
 近づいているはずの2体目に向き直ろうとした視界の隅に死んだはずの敵が起き上がる姿があった。そしてよちよちとジャマーに歩む。
 かさ張るジャーマーの予備は持っていない。破壊されれば迷彩は無効になり最悪5体を同時に相手することになる。
 射線と発射音で俺の居場所に気付いたらしい2体目は、まだ十分離れていた。
 武器を大刀に持ち替え足音を立てぬように1体目に近づき切り付けた。刃が相手の燐光部分に触れたとき俺の勝利の確信はもろくも崩れ去る。大刀の一撃が防がれた。と言ってもバリアではない。その証拠に刃はゆっくりと敵に迫っている。融けかけた冷凍食品を切っているような感じだ。
 もたついている間に敵はゆっくりと俺の方に向き直った。俺の姿も燐光に包まれているので相手に見えているらしい。そして予想外に素早い手刀の一撃が俺の左わき腹に突き刺さった。咳が出て血の味がするが、気胸は免れたらしい。
 俺は満身の力を大刀込めて押しつづける。あと10cm……。
 2打めは腹部に。スーツのその部分をアーマーのように厚くしてくれた球体に感謝しながら俺は押し続けた。
「ギャァー」
刃が敵に食い込み始めた。気味の悪い悲鳴が河川敷に響き渡る。俺は目を閉じて最後まで押し続けた。
 目を開けると相手はもう動かない。さっと振り向くと2体目はかなり近くまで迫っている。死んだ敵の腰にある見慣れない装置を引き剥がし迷彩の作動を確認してから移動した。
 クレーン車の影に隠れ、スーツAIの診断を聞きながら持ってきた敵の装置を調べてみた。相手の手の構造からすれば当然かもしれないが装置には大きなボタンが1つとレーバーがあるだけだ。オンオフと出力調整なのだろう。延びたコード先のコネクターを自分のスーツのものと比べてみた。一つも合わない。スーツ自体別の規格らしかった。
 止血剤と鎮痛剤の投与を終えたAIの許可が出たので周囲を再確認する。
 2体目はジャマーにかなり近づき3体目は既に堤防道路を越えている。あと2体の姿はなかった。各個撃破を狙う俺にしてみれば願ったりかなったりの状況である……敵はバカなのか。そう思いながら2体目のほうへ移動して行く。
 しかし1回戦を偶然勝った程度の俺でさえ必死で作戦を考えてきたのだ。相手を過小評価するのは危険だろう。まあ過大評価も戦いには禁物とは思うけれど。
 10mほどまで近づいた所で刀を構えなおして一気に間合いを詰める。刀身は十分長いので突きなら相手の手刀の届かない所から攻撃できる。アウトレンジ戦法というわけだ。
 切っ先が燐光に触れると迷彩は無効になり相手は振り返った。手刀は構えたもののそのまま動かない。
 しめた。あきらめたか? あと5cm。そのとき先ほど傷めたわき腹にまた衝撃が加わる。わけが分からないけれど刀は放さず押しつづける。一気に体内を突き抜けた(内部には奇妙な防壁はない)とき左肩にこれまでにない強い痛みが走った。どういうわけかもっと離れていると思っていた3体目がすぐ脇にいる。2体目に突き刺さった大刀を抜いている暇はないのでナイフで応戦した。相手の手刀の動きは力強いがスピードはさほどでもない。まあ歩みに比べればずっと……おかしい。間合いを取ろうと引いたとき3体目は苦労せずについてくる。どうも最初に2体より歩くのが速いようだ。これでは距離をとって迷彩で一度隠れ怪我の具合を調べるわけにはいかない。おまけに肩の痛みはひどく左腕が上がらないので上手く動けなかった。見る間に俺は追い詰められ敵はリズミカルに突きを繰り出してくる。ワンツー、ワンツー。
 よく見ると敵が腕を伸ばした瞬間に手先が燐光部分から出ていた。とっさに敵の攻撃を腹部で受けナイフで2度なぎ払う。
 背後で水のはねる小さな音がしたとき俺が振り向いたのは、偶然というより戦いの素人の集中力のなさのゆえだろう。3体目に確実に止めをさすのが常道のような気がする。
 後ろには水滴をたらしながら近づいてくる4体目と5体目の姿があった。
 あわててその場を離れて姿を消す。肩の痛みはさらにひどくなりAIは警告を発していた。

(この章続く)

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(4) 死闘

 緊張して球体の前に立つと、2回戦の開始を告げられた。ため息をつく暇もなく情報が与えられる。球体がつけた敵のコートネームはパペッティア(人形遣い)である。前回のケンタッキーよりは強そうだけれど……。
「ちょっと待って。1対5っていうのは不利すぎないか」
表示データには良く似た5体の異星人の姿があった。
『それで1人なのねん』
「さすがに強引すぎるだろう。敵が管理者に鼻薬でもきかせたんじゃないのか」
『評議員ははした金では買収されないよん』
「じゃあなぜ?」
『奴らは元々そういう生体なのねん』
っていうか大金なら買収されるのかよ。しかし球体を責めても始まらない。これはおそらくナビゲート用に作られたAIにすぎないのだから。
「もう少し詳しく」
『たとえばアムちゃんの手には可愛らしい指が5本あるけどそれに対して敵はクレームをつけることはできないのねん』
なるほど敵の手はミトンのように2つに分かれているだけだ。
「でも細い指が戦いに有利とも思えない」
『そうでもないのよん。標準タイプの武器には小さなボタンや引き金を操作しないといけないものが多いから』
「それは確かに」
許された予算が限られているというので、少し前武器を選ぶため球体にカタログを出させて一通り見ていた。敵の詳細が分かってから購入することは許されていない。
 あの手ではこの戦いで使われる携帯火器は素早く使えないはずである。前回使用した銃で楽勝なのか? 俺の視線の先に開いている球体の引き出しには早く手に取れと言わんばかりに銃がきらめいていた。
 しかし……2回戦だというのに簡単過ぎないだろうか。手を伸ばさずにもう少し考えた。ひ弱すぎる地球人は――俺のことだ――肉体改造をされている。女性化したのはスポンサーが欲を出してオプションに金を出したからで、戦いに関してはある程度公平に(あるいは一方的な展開にならぬよう)バランスをとるきまりらしい。
「敵の装備はわからないの?」
『アムちゃんもみたカタログから選んだとしか言えないのねん』
携帯火器が使えないなら近接戦闘を仕掛けてくる可能性が高い。特に1人で5体の肉体を持つならいくつかは捨て駒にできる。
 俺は銃とともに大刀とナイフを選んだ。デザインは地球風に改造してあるが性能は別物で鋼鉄をバターのように切れる。標準武器を地球風の外見にするのは視聴者にアピールするためで実用的にはほとんど意味はない。
 次に着替えようとスーツを手に取ると前回と違い分厚い部分や固い部分がある。
「これは?」
『アムちゃんの柔らかい肉体を保護するためなのねん』
「ふーん」
やはり接近戦は避けられないようだ。俺は操り人形のような外見の異星人の映像を頭に刻み付けた。


 今回も俺のホームでの戦いになる。ただ範囲はやや東にずれたので前回の舞台のコンビニや俺の自宅は戦場から外れた。
 転送されたのは午後10時ころ、場所は学校の近くのスーパー付近、初日に姫野と買い物をした店だ。姫野と2人の平和的な光景と同じ場所でおこなわっる戦闘を比較させる演出でも球体は企んでいるのだろうか。しかし勝利の次にスポンサーの意向を気にせざるを得ないと言っても可能な限り住民を巻き込みたくない。ここは俺の町なのだ。
 俺は近くの川まで移動した。川幅は広く河川敷も充分ある。護岸工事中なので夜間は無人だ。俺は作戦を実行に移した。用意したジャマーを作動させたのだ。これは例の生体反応を映す装置を無効化するものである。だから俺の正確な座標はばれず、この一帯が敵には黒く抜けた画面として表示され、ばらばらの5体をここにひきつけることができる。
 迷彩を作動させ透明化しやや高い場所で待つ。前回より事情がわかっているのでかえって恐怖を強く感じ体の震えが止まらない。
(きた!)
 堤防道路に現れた1体はヨチヨチカクカクと斜面を下りジャマーに近づいていく。見える?……熱光学迷彩を使用していないのか。それどころか夜の闇に少し燐光を発しているようにさえ思えた。
 罠?……襲撃すると姿を消していた残り4体が襲ってくるとか。考えているうちにもう1体が堤防道路に現れた。このまま迷っていても5体がそろってしまうだけだ。威力偵察といくしかあるまい。
 俺は銃を構えなおし引き金を引いた。

 それからも姫野は何度か尋ねてきた。親しくなった女子もたまに来る。戸惑いながら続ける俺の女子高校生生活を球体はいつもからかうが、それは視聴者たちも喜んでいることになるので気にしなかった。
 ある意味平和な数週間が過ぎたわけである。しかし俺の精神状態はとても平穏といえる状態ではない。
 まずいつ始まるかもしれない第2回戦への恐怖がある。少なくとも現状では逃げ出すことはできない。
 また女性の肉体に閉じ込められていると言う違和感は奇妙な圧迫感をもたらした。そして止むに止まれず胸や股間を刺激するとこの体を男として犯すイメージより男に犯されるイメージがわき気持ち悪い。そういえば未だに自慰行為も胸を触ったり枕に股をこすりつける程度で終っている。体に何か、たとえば指を入れるのは恐いし……試そうとしたときとても痛かったのだ。
 そうそう自宅の前も何度か通ってみた。両親と弟の姿も何度か見た。3人は日常に戻っており遠目には俺の不在は何の影響も与えていない。

 俺の心の閉塞感は4週目のある夜、破られた。

 放課後姫野と俺は肩をならべて歩いた。自宅も気になるけど今日はあきらめるしかない。
「スーパーによる?」
「えーっとどうかなあ。冷凍がほとんどだけど一通りはそろっているよ」
「お肉とか野菜も?」
「肉も魚も冷凍で、野菜は根菜ならたくさんあるわ」
「やっぱり買って行こう」
別に異存はなかった。
「うん」
 楽しそうに買い物をする姫野の後ろに従う。そういえばどちらの母親も働いていたので小学生のころは互いの買い物に付き合ったこともあったっけ。
「アムちゃん、グリーンピースは?」
「平気。でもピーマン……」
しまった。これは俺の好み。しかし心配をよそに姫野は頓着しなかった。
「そうなんだ。じゃあピーマンも買おうっと」
「えー!」
「食わず嫌いはだめだめ。ネ?」
とほほ。

 マンションの最新式のキッチンに姫野は大歓声をあげた。今一つ理解できないけど彼女の夢に近かったらしい。
 心配していた球体のことは、
「前衛芸術って良くわからないわよね~」
で終ってしまう。
 そしてアムちゃんのためのクッキング教室ABCが始まった。母親が留守がちなので俺だって包丁くらいは握ったことがある。しかしレパートリーは極めて限られていた。
「冷凍食品以外で何が作れるの?」
「えっ? えーカレーと玉子焼きと目玉焼きと……」
「う~ん」
俺は鬼軍曹ににらまれた新兵のごとく小さくなった。
「じゃあとりあえず、しょうが焼きとハンバーグ、それに肉じゃがとお煮しめを作って見ましょう」
えらく面倒なことになりそうだ。
「そんなに?」
「大丈夫、保存できるわ。それにお弁当にも入れられるから」
「……」
「あら、お返事は?」
「よろしくお願いします」
「任せなさい!」

 相変わらず姫野は料理が上手だ。いや記憶よりずっとすごい。(そういえば最後に作ってくれたのはもう2年ほど前になる)しかもどんどん作りながら俺へも的確なアドバイスをくれた。最近2人でいるとき感じていた気詰まりもなく楽しい。ひょっとして女性化したためなのだろうか。俺は姫野を女と意識して……そんなことはあるまい。確かに改めて見ても魅力的になったけど俺にとっては幼馴染の姫野で、そのー卑猥な言い方をすればモノにしたいとか言う対象とは違う。なんとういか、もっと大事なんだと思う。
「アム、疲れた?」
知らぬうちに手が止まっていたらしい。
「うううん。ちょっと考え事を」
「あら、どんな?」
「姫野さんと2人だと楽しいなって」
「それは光栄だけどそろそろ姫野さんはやめてほしいな」
「えーっと」
「私はアムとかアムちゃんって言ってるのに」
「姫野ちゃん?」
「それ変」
「だって」
「あなたの場合アイはクラスにいるし、アムって可愛いから良いんじゃない」
そういえばメガネの高木の名が藍だ。
「じゃあ」
「恵って呼んで」
「恵ちゃん?」
「まあいいでしょう」
「料理を教えてもらっているから師匠では?」
「やめなはれ」
「ごめんちゃい」
「うーん」
「なんだか」
「今ひとつね」
小学生のころに戻ったように俺たち2人は大笑いする。もっとも彼女にとって俺は知り合って一日の存在にに過ぎない。

 授業中俺は戦う女マシーンという自らの悲惨な境遇を忘れて姫野のことを考えていた。彼女は俺にとっては重要な存在で逆の立場なら俺も相当悩んだのは間違いない。しかし俺の死が姫野にこれほどショックを与えるとは予想外だった。なにしろ普段から彼女にボロボロのけちょんけちょんに言い負かされている俺なのだ。幼稚園のころからの腐れ縁で小さいころは発育が早かった姫野の方がずっと強かったのである。中学からは古田が入り3人で行動することもよくあった。もっとも高校に入ったあと姫野はなぜか別行動が多い。最後にゆっくり話したのは確か先週だっけかな。以前から気になっている隣のクラスの女子に渡りをつけられないか聞いたんだ……そういえばこの話は当分進められないなあ。この姿ではね。

 授業終了のチャイムの後、姫野は3時間目の休みのことを覚えてないかのようにケロリとしていたので俺はほっとした。昼休み珍しく弁当を持っていない姫野とともにカフェテリアで食べることにする。同行した他の女子はほとんど弁当を持っていた。
 カルボナーラ一皿を姫野と分けて食べる。彼女は満足したらしいけど俺の方は飢えたままだった。
 元よりずっとか細くなったのに食欲の方は3倍くらいある。球体は肉体改変の影響だと言っていた。どうやら人類は俺が無理やり参加させられているトーナメントで戦うには柔すぎるらしい。最高性能のバトルスーツを着せても最低基準を満たさないそうだ。そのため公平を期して(あっと言う間に死んでは視聴者とやらが喜ばないせいだと俺は思う)肉体強化が許可されたのだ。スポンサーはそれに乗じて女体化プログラムを混入させたので出費は最小限ですんだという……やれやれ。
「デザート何か食べる?」
という姫野の提案に俺は飛びついた。
「ええ。転校の挨拶代わりに私が皆さんにおごるわ」
 経費経費とうるさい球体もこの世界の通貨に関しては文句を言わずに出してくれる。ひょっとして偽札なのか? まさかね。
 とにかく提案は全員が賛成した。それにしても食べる食べる。弁当箱は手のひらサイズのくせにケーキなどはその何倍も入るらしい。そのぶん俺のがっついた様子が目立たなくて助かるんだけど。
 転校してきた俺の話は既に終わり話題は学内の噂に移っていた。ただ昨日の俺の事故のことは避けている。姫野が俺と親しかったのは皆知っているし、目ざとい女子たちが3時間目の休みの出来事を知らぬはずがなかった。
 そして話題は昨日のコンビニ事件になった。決定的な証拠がないことでかえって世間の注目を集めている。テレビでは宇宙人説もまことしやかに話されていたらしい。球体の努力は無に帰すのだろうか。
「そうそう。アムちゃん今朝現場の中継で映らなかった?」
聞いてきたのは情報通の高木だ。メガネをかけていて、いまだ子供っぽい体型をしている。ただ頭は切れた。あの場所はマンションからは少し遠回りになるが……。
「ええ、お弁当を作る暇がなかったから何か買って行こうと思って。カフェテリアのメニューがこんなに充実しているって知らなかったし」
「ふんふん、そこでレポーターの目にとまったというわけね。相手すればよかったのに。現場中継でスカウトされてデビューなんて目立つわよ」
「え?」
「そのスタイルと顔なら今までも街でスカウトされたんじゃない?」
「ないない。それにそういうの苦手だし考えてないから」
全員からはやし立てられたが、否定で通した。しかし球体に呼び寄せられたのも一種のスカウトなのだろうか。

 食後姫野が学内を案内してくれると言うので俺は従った。勝手知ったる場所だけど姫野の親切がなんだか嬉しい。
「あと北のぼろい校舎は部室棟になってるわ。アムは何かクラブする予定?」
「別に」
「でも帰っても1人暮らしなんでしょう。退屈じゃないかしら」
「ほら成績落ちたら1人暮らしできなくなるし、料理も苦手だから時間かかるもの。けっこう大変なのよ」
 俺の親権者は北欧で仕事中という設定になっている。その人物が実在するかどうかは説明を受けていない。もっとも必要になれば球体は作り出すだろう。
「あら私こう見えてもお料理得意なのよ」
よく知っているさ。
「アムの家も見たいし今日行って良いかしら」
「え~」
 戦いのことや球体のことを話すのは禁じられている。ただ戦闘中以外は部屋への入室に制限はなかった。
「だめ?」
「そういうわけじゃ」
「じゃあ決定!」
「え、ええ」

(3) 新たな友情

 翌朝はとても早く目が覚めた。でも準備に手間取ったのでマンションを出たときは当たり前の登校時間になっている。昨晩結局風呂に入らなかったのがまずかった。体を洗うのにもずいぶん時間がかかったし、長い髪を髪を洗ってしまうと乾かしてきちんと整えるのに小一時間かかってしまうのだ。おまけに球体は食事中も長々と講釈をたれる。奴の言っていることが全て真実とは限らないけど、俺の運命がその手の内にあるのは間違いない。そしてそれが本当なら地球の運命も。
 とにかく俺はとりあえず奴の――あるいはスポンサーの――望むまま行動するしかない。元の肉体に戻るためにもまず生き残らないとだめだ。戦いが命がけなのは昨日思い知っている。

 マンションを出た俺は昨夜の現場に足を向けた。昨夜通夜が行われたらしい自宅も気になるが、今の通学路からは遠すぎるしこの時間に制服でうろつくのはまずいだろう。だが結局現場には近づけなかった。警察や報道関係者とその車などで周辺はごった返していたのだ。考えてみれば止むを得ないことである。球体は証拠は残さなかったというけれどそれは宇宙人が関与した証を残さないという意味であって閃光や音それにめくれ上がった舗装まで直すという意味ではないのだ。
 ぼーっと見ていてインタビュアーに捕まりそうになったのであわてて走り去った。何も後ろにいた俺に呼びかけなくてもいいのに。

 通学路を歩いていると知った顔が増えてきた。名前を知らないような相手でもなんだか懐かしく感じる。ここは球体や鳥人間との戦いの異常さとはかけ離れた世界なのだ。
 マンションをでてからよく視線を受けるのはきっと今の外見のためだろう。そうわかっていても知った奴らから好奇の目で見られるのはまた格別恥ずかしいものだ。おまけに角で出くわした姫野がまじまじと俺を見つめている。まさか見破ったとも思えないが……そんなににらむと小皺ができるよ。
 正面に立っていて無視できないので勇気を出して話しかけた。
「あの~私に何か?」
姫野はわれに返ったように言った。
「あ、ああごめんなさい。うちの生徒なのよねえ?」
「あ、はい。でも制服は着てますけど今日が初登校なんです」
「転校生なのぉ」
「よろしくお願いします」
「ええ。ところでどこかで会ったかしら?」
なぜそんなことを聞く。
「少し前にこの町に来ていましたけどお会いした記憶はありません」
「だよねえ……お会いって1年生?」
「はい」
「私もそうだからもっと遠慮なくね」
そう言いながら歩こうと促した。
「はい」
「私は姫野恵」
「アムアイといいます」
「へ?」
くそ、球体の野郎珍名をつけやがって。
「安に夢でアムが苗字、名はひらがなで、安夢あい」
正直なところ今の状況なら悪夢アリスとでも名のりたい。
「良い名ね」
どこがだと頭の中で突っ込んでから返事をした。
「ありがとう」
 その後職員室の前まで姫野の質問がガトリング砲のように続く。俺ははじめて球体の長広舌に感謝した。あいという架空の存在の経歴をくどくどと説明してくれたのがここで役に立ったのだ。

 元の担任の挨拶を受け姫野や古田と同じクラスになると知っても大して驚きはしない。以前の友人たちと俺の絡みに視聴者とやらが喜んだと球体が言っていたからだ。俺の三文芝居で喜んでくれてスポンサーがつくなら望む所である。資金は装備を整えるだけでなく元の姿に戻るにも必要なのだ。
 教室に入ったっ瞬間からクラスの男子は熱狂していた。顔もいいし本人も風呂場で困ってしまうほどのスタイルなのだから当然なのかもしれないが、男は単純である。中身が俺と知ったらどうするのだろう。それに比べ女子の反応は複雑だった。興味津々と無関心それにやや冷たい視線に3分される。
 黒板に『安夢あい』と書いて、
「I am I」
と自己紹介する。大して受けないけれどごちゃごちゃ長話をする気はないので皆があっけに取られている隙にさっさと指定された席についた。
 休み時間には質問攻めになる。しかしパニックになる前に俺から既に情報をしぼりつくした姫野が介入してくれたので大いに助かった。3時間目の休みになると俺に関心のある女子はお昼を一緒にする約束で開放してくれる。そばには姫野だけになった。
 見るともなく視線は花が飾られた元の席の方に向く。姫野の笑みが消えた。
「あの席は」
姫野の顔は能面のようだった。
「話し難ければいいよ」
「いいのよ。アムには関係ないんだし」
「じゃあ」
「あれは昨日事故で死んだ大バカ野郎の席なの」
姫野の涙はチャイムが鳴るまで止まらなかった。

(2) 勝者の困惑

 戻ってまず驚いたのは治っている左手ではなく飾り付けられた室内だった。球体は手や足を出すことができるのだろうか?
「なんだこれは」
『祝勝パーティーさ』
「パーティーって」
『まあオイラと2人きりだがな』
「しかし」
相手のことを考えると――それに特に目の前の鳥の丸焼きはちょっとね。
『戦闘スーツであれだけ動けば空腹のはずなのねん』
言われて見れば確かに腹は減っている。でも食べるのはスーツを脱いでからでいいだろう。
「でもとりあえず汗を流してくる」
『了解だよ~ん』

 脱衣場についた俺は少し緊張しながら鏡の前で脱衣シーケンスを開始した。元の姿に戻るとき女性化と同じ時間がかかるなら今の――球体の言う――ナイスバディを少し拝めるはずなのだ。自分で言うのもおかしいが今の俺の肉体は男なら誰でも……まあ分かるだろう?
 エアーが入り密着していたスーツが体から浮く。首のロックをはずすと縫い目も見えなかった背中が大きく開いた。かなり汗をかいたはずだけどスーツの機能なのか肌はさらりとしている。腕を抜いて上半身が出たとき思わず生唾を飲んでしまった。大きな胸はスーツを脱いでも重力を無視するようにきれいなラインを保っている。見とれていた俺はあまり時間がないと思いスーツを完全に脱ぎ捨てた。そして自分自身であるために決して自分のものにできない女神の体を見つめ続けた。
 どのくらいその状態でいたのだろう。少なくとも5分は経過したに違いない。しかし胸はでかいままだし、股間はスースーするし、かすかに元の面影の残る顔も美女もままである。俺はあわてて球体の所に戻った。
「大変だ。女体化スーツを脱いでも変身しないぞ」
『目の保養だぜ』
しまった素っ裸だ。
「み、見るな!」
そう叫んで脱衣場に走りこみタオルを巻いた。鏡を見ると真赤な顔をした自分が可愛い……それどころじゃないや。あわててまたリビングに戻る。
「どうして男に戻らない」
『お前はなにを言っているんだ』
「だって戦いも終わったし」
『1回戦に勝っただけだ。それだけでもたいしたものだけど』
妥協するしかないかな。
「わかった。しかし2回戦までの間は関係ないだろう」
『費用の問題もある』
「え?」
『かわいこちゃんを男にするには費用がかかるのねん』
「この姿のまま2回戦までここで過ごせと」
『完璧な肉体だよん』
「俺は男だ」
『今は女』
「もどせ」
『まあ費用を負担するなら可能かもな』
「いくらだ」
『この星の通貨じゃ無理』
「どうすれば」
『スポンサーを捜すんだな』
「って?」
『オイラの言う通りにするしかないよ』
「くそ!」
そのとき俺の腹が鳴った。
『まあ食べなよ。せっかくのパーティーなんだし』
「あ、ああ」
 食べ始めると止まらなかった。この細い体のどこに入るのかと思うくらい食べる。大食い選手権で優勝が狙えそうであった。球体は喋り続けている。少々うるさいが少しでも情報が欲しいので我慢することにした。
『そうそう。コンビニ前でかわいこちゃんの同級生が登場した場面はまるで銀河ドラマのようだと評判なのねん』
球体は俺の反応を見るように間をおいたが、胸に痛みを覚えた俺は無視して黙ったままミネラルウォーターをグラスに注いだ。姫野や古田とバカな冗談を言い合う日常は戻らないのか。
『お前たち人間を1人きりで閉じ込めておくと正常状態を維持できないと報告した』
「どういうことだ?」
鳥の丸焼き以外食べつくしたので俺はデザートに取り掛かっている。肉体の変化で好みも少し変わったのか甘いものが美味い。
『喜べ! かわいこちゃんも学校に行けるのさ。元の』
「え~」
見破られることはないだろうけどこの恰好で知り合いに会うのはなんだか恥ずかしい。
『じゃあこの部屋で過ごすかい? トーナメントの1回戦は試合数が多いから2回戦まで間があるよん』
それもうっとうしい。しかしだな……。
「でもそういう情報操作にも費用はかかるだろう?」
『かわいこちゃんは視聴者に気に入られたらしいからスポンサーは試合前に流す映像を作りたいのさ』
別に損はなさそうだ。コーヒーをそそぎながら返事をした。
「わかったよ」
『必要書類と制服だ。教科書などは朝までに用意する』
立ち上がって球体から飛び出した引き出しをのぞくとクリップでとめられた書類の束と俺の学校の制服があった。もちろん女生徒用の。

 球体が制服を着てみろとうるさく言うのを無視して俺は疲れたからと寝室に下がった。タオルを取り去りクローゼットを見ると当然のように女性用ばかりだ。文句を言ってもしようがない。なるべく地味なショーツと大きめのTシャツを選んでベッドに入った。
 眠いはずなのだが、戦いの興奮が続いているのかなかなか寝付けない。気になってうっかり乳首に触れたら女性化したことが強く意識される。股間に充実感が湧いてこないのがなんだか情けない。喪失感を補おうと大きな枕を股にはさみこすり付けているうちに寝てしまった。

(1) 緒戦

 閉じ込められていた部屋から未知の科学技術で戦いの場に飛ばされた。SFドラマで言う転送ってやつだ。場所は俺の自宅や学校がある町、文字通りのホームってことになる。もう日はとっくに暮れて時刻は9時過ぎで一帯の住宅街では人通りも少ない。それでもこの恰好では通報されそうだ。教えられたパネルを操作して熱光学迷彩を使用し透明になる。敵もほぼ同レベルの技術力の生産品を使っているので透明化は有効と教えられている。
 辺りは静かで平和である。しゃがんで隠れている塀の中から楽しげな家族の声が聞こえてくると孤独感を覚えた。うるさくても球体の声を聞いているときには感じなかった。不意に視野が歪む。涙だ。あわててゴーグルをあげて涙をぬぐう。今回はホームで大気が呼吸可能なのでフェイスマスクはずらしている。 涙なんて……女になったためか。いや関係ないだろう。この異常な状況下では地球一勇敢な男だって泣きたくなるに違いない。
 ここになって透明化したのだから隠れている必要もないことに気付き苦笑しながら立ち上がった。この勝負に引き分けはない。ああ、ないわけではないけれどその時点で両方の種族とも抹消される。とにかく今日は勝って球体と交渉し地球人代表を降ろしてもらおう。確か最初の説明で戦闘中以外のとき代表に問題が生じれば交代することはありうると言っていたから。

 それにしてもいったいどうやって敵を見つければいいのだろう。装備にレーダーの役を果たすものはあり生体反応を表示しているけど、この辺りの住人のものである。自動的に敵をターゲットしてくれるわけではないのだ。
 とりあえずこの辺りで一番明るいコンビニを目指す。歩いていると嫌でも下腹部が湿ってくるのに気付かされる。スーツの下でこすれる乳首と自らの妄想で興奮しているのだ。くそ! 早く終わらせ女体化スーツを脱ぎ男に戻ってもっとふさわしい人物と交代してもらうのだ。
 コンビニの周りを歩きながら光の歪みを捜す。あいても同じく透明化しているなら肉眼で捜すしかない……と思う。
 後ろから話し声がするので避けながら振り向く。
「明日学校に行っても士郎君に会えないなんて」
「僕だって信じられないよ、岡が」
幼馴染の姫野恵と親友の古田だ。姫野の顔には涙の跡があった。2人はコンビニ前で行われている水道工事の穴を避けてコンビニの入り口に近づいていく。彼らはこんな時間なのに制服を着ていた。恵が握り締めているのは数珠……ああ。
「俺は」
そう叫びかけたとき閃光が何度かきらめき俺の左手が蒸散した。
(敵だ)
 あわててとおりの反対側までジャンプした。スーツのおかげで俺はアメコミヒーローなみの、いやヒロインなみの運動能力を発揮できる。
 スーツ搭載のAIがうるさく喚いている。
『止血完了。ペンタゾシン及びエピネフリン投与』
痛みも感じず気を失うこともなかったのはAIのおかげかもしれない。見ると左手首から先はきれいに消えていた。幸いスーツがすっかり覆っているので傷口は見えない。俺はそういうのは苦手なので助かる。感心してる場合じゃない。相手が俺を見つけたのは叫んだせいだろう。確か聴覚が鋭敏だっけ……うかつだったなあ。射線からすると奴は上空だ。それにしてもなぜ止めを撃ってこない? ひょっとしてレーダー装備を持っていないのだろうか。技術的には同等でも選択はそれぞれだ。しかしなぜ……とにかく聴覚に頼っているのは間違いない。姿の見えない音源こそ敵と言うわけだ。
 まずAIを黙らせた。普通なら心配ない音量だけれど相手の能力は未知数なのだ。もっと球体に詳しく聞けばよかった。
 相手は上空で待機していて聞き耳を立てている。石を投げて撃たせて居場所を探るか? いやそれほど間抜けではないだろう。それなら今頃コンビニの回りは穴だらけのはずだ。水道工事の穴のせいで周りには小石が多い。先ほども古田が力任せに蹴っていたが敵は反応しなかった。
 俺が空を見上げた。せめて星でも出ていれば見つける可能性もあるだろうが、あいにくの曇りだ。持久戦はまずい。AIによればかなり失血したために救急装置では治療が難しいらしい。
(勝率は万に一つもないけれど適当に空に向けてぶっ放すか)
そのとき俺の脳裏に浮かんだのは両親でも思い続けている女性でもなく涙の跡がある姫野の顔だった。
 足音を立てぬようにコンビニの前に戻る。工事現場の穴をのぞくと人はいず、菅がむき出しになっていた。右手の武器を構えなおして水道管を撃ちすぐに飛びのいた。
 俺の選んだ銃は鳥人間のようなエネルギー兵器ではなく実体弾を射出するタイプだ。エネルギー兵器は大気内では威力が減弱しやすい。できれば遠距離からの狙撃で決着をつけたかった。また弾丸は自壊するので後に証拠は残らない。
 かなり太い水道管に空いた穴は巨大な噴水になり、上空に奇妙な影が、出来損ないのビッグバードのような影が浮き上がった。
 弾を打ちつくした俺は指示されていた現場処分用のナノマシンを撒いてから立ち去り球体の転送を待った。

『5秒前 3,2,1』
目覚めると肉体は女性化していた。ボケをかませる暇もなく胸のふくらみと先ほどまでいやと言うほどあった股間の圧迫感の消失で気付かざるを得ない状況ってわけ。
 次々起こる異常事態に俺の精神が冷静に対応していたわけじゃない。錯乱したっておかしくないと思う。それなのに思考が曇らないのは先ほどから頚部に感じている熱い感じのせいだと思う。鎮静剤か何かを経皮的に注入されたのだ。球体が異星産だとしても地球人の生理は十分研究済みってわけだ。
『どうしたのかわいこちゃん。おいらに言ってごらん』
まあ言語情報の収集には妙な偏りがあるが……。
「うるさい! それより戦わせるのに女性化するって矛盾じゃないのか?」
『スポンサー獲得のため我慢するのねん』
「スポンサー?」
『オイラのような最新鋭の機械を使うには莫大な経費かかかる。こんな辺境のしかも遅れた星に大して価値のあるものはないから、かわいこちゃんが自分で稼ぎながら戦うのねん』
「うーん」
俺は引き出しに残るヘルメットと武器らしい物を手に取りながら考えた。
 どうやら冗談ではないらしい。それに俺を騙すためにしこまれたドッキリとも思えない。
『まあ戦ってみればコツはわかるぞ。ゴングはもうすぐなのねん』
「ちょっと待てよ。この武器は? 使えば相手は死ぬんじゃないだろうな」
『相手の死こそかわいこちゃんの確実な勝利だよん』
俺にそんなことができるのか? 少なくとも相手がヒューマノイドの場合。
「他には?」
『相手が全面降伏した場合も勝ちだ。でも相手は降参しないだろうしおいらは勧めないね』
「なぜ?」
『その種族は滅びるんだぞ。宇宙にただ1人生き残って何の意味がある』
「……」
『それより装備や今回の敵のことをオイラが教えよう。もうあまり時間がない』
「誰が決めたんだ。人類やその異星人の未来をこの戦いで決めるなんて」
『視聴者さ』
「し」
『ファンがつけばスポンサーが増えて武器も良くなるがんばるんだな』

☆ ☆ ☆

 球体がケンタッキーとなずけた俺の敵は2足歩行の鳥形生物だった。今回の装備はほぼ互角、ただ相手は地球の重力なら短い距離だが飛行可能で聴覚も人を超えると言う。
「それで俺のほうの長所は」
『胸が感じやすい』
「なんだと!」
実のところスーツにこすれる乳首の感覚にほとほと手を焼いていた。
『冗談だって』
「それで?」
『ナイスバディ』
俺は思い切り球体を蹴り上げた。

おお、スムーズなTS展開ですね。さすがです。

 お話をつけてみました。

プロローグ

 死んだはずの俺は見知らぬマンションの1室で目覚めた。室内の家具はそろっており冷蔵庫には食べ物もある。奇妙なものと言えばリビングの中央にある黒い球体だけだ。
 窓からは見覚えのある景色が見えるが、窓もドアも開かない。
 なすすべもなく日が暮れるのを窓から見ているうちに空腹を覚えた。死んだはずなのに。
 冷蔵庫にあった冷凍ピザを温めてコーラで流し込んだ。
 もう一度ドアを試そうと立ち上がったとき球体から奇妙な音楽が鳴り声が聞こえた。
 俺の質問や叫びを無視し、球体は変な日本語で変な話を始めた。それによると球体は地球外の産物で俺は地球代表として選ばれたので異星人と地球の存続をかけて戦わねばならないらしい。
「なぜ俺なんだ」
『お前の宿命なのねん』
「俺は事故で死んだはずだ」
『偽装だよ。お前を世間から隔離するための』
「断ると言っても無駄なんだろうな」
『ルールはさっき言ったとおりさ。まあオイラがコーチしてやるからがんばるんだな。喜べ最初はホームだ』
「まてよ。戦うといわれても異星人なら、あるいは俺がアウェーで異星に行ったら大気が呼吸できないとか重力が違うとか」
『心配ないのねん。このバトルスーツを着てみるべし』
 球体の一部が引き出しのように開くと黒い衣装と武器らしいものがある。素材は柔らかでかなり伸縮性もあった。
『直に着ることよん』
「下着も?」
『全部脱いで』
「やれやれ」
『60秒前』
「おいおい」
あわてて着て教えられた圧着ボタンを押したとたん全身が傷みに襲われた。
 騙された? しかし何のために。奴は俺に強制できるだろうに……。

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