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星の海で(4) ~トイブルクのエミリア~ (3)
(3)-------------------------------------------------------
「少佐! どういうことですか!」
「どうしたんだね、准尉。いきなり」
「エルザ……いえ、昨日任された少女のことです!」
「それがどうかしたかね?」
「どうしたもこうしたもありません! 記憶を消去したといってましたが、あれじゃ幼児同然です。あんな子をラヴァーズなんかにしろと、おっしゃるのですか?」
「わ、私は何も知らんよ。単に次の候補として中央から送られてきたのを、君に預けただけなんだから」
「候補ということは適性が無ければ、候補から外してもいいわけですよね?」
「その場合は、処分されることになる。もともと死刑囚なのだからな」
「あんな年端も行かない少女を、死刑台送りにしようというのですかっ!?」
「そう言う規則なんだから仕方あるまい。まぁ、私の個人的意見としては、その方が幸せかもしれんとは思うがな……」
「何の罪の記憶も無い、少女をですかっっ!!」
エミリアが激昂して少佐の机をバン!と思い切り叩くと、机の上のカップが跳ね上がって横倒しになり、中身がこぼれた。
「判ったから乱暴は止めたまえ。部下が見ているではないか」
「とにかく、上に掛け合ってください。私はイヤです」
「そんなことが出来るわけがない事は、君に判ら無い筈が無いだろう? それに……」
「“それに”、なんです?」
「君があの子の教育をしないとなると、あの子はそのまま任地へ放り出されることになるんだぞ。何の知識も無いまま兵士たちのいいように、慰み物になるんだぞ?」
「脅迫ですか?」
「うぉほん! 口を慎みたまえ。カセラート准尉。これは上からの命令なのだよ」
「良くわかりました。少し、考えさせてください」
「ああ、待ちたまえ。准尉」
「何か?」
「今回の件については、期限を定められていない。私も出来る限り、君に便宜を図るつもりでいる。だから命令には従ってくれないか?」
「わかりました。今日のところはこれで。あの子が寂しがって、泣いているといけませんので」
「ああ、准尉」
「まだ何か?」
少佐は手招きをしてエミリアの耳元に口を寄せると、小さな声で言った。
「君に話しておきたいことがあるんだ。今夜、食事でもしながら、どうかね?」
「……それは命令ですか?」
「“頼み”だよ。そう突っかからんでくれないか?」
エミリアは返事の変わりに、少佐の首筋に軽くキスをしてから、姿勢を正して敬礼した。
「失礼致します。少佐」
「うむ、よろしく頼む」
エミリアは少佐に突っかかるのは、筋違いであることはわかっていた。エミリアが少佐に言いたいことが言えるのも、少佐の人柄によるものだが、それに甘えすぎていたことも反省した。
*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*
エミリアが部屋に戻ると、それを待っていたかのように、エルザがぱたぱたと駆け寄ってきた。
「おかえりなさい」
「ただいま、エルザ。いい子にしてた?」
「うん。おとなしくしてた」
「えらいわ。さて、じゃあ何からはじめようか?」
「なにか、するの?」
「うーん。そうねぇ……」
エミリアは頭を抱えた。ラヴァーズの教育ならば先ず、女性の体のこととか、立ち居振る舞いだろうが、この幼女といっていい子供に、何から教えていけばいいのか、それを考えると頭が痛かった。
「まずは、お風呂にでも入りましょうか?」
「おふろ?」
「そう、エルザの体のこと教えてあげる」
「からだのこと? おしっこ、ひとりでできるようになる?」
「ええ、直ぐに出来るようになるわよ」
「はいる!」
今朝は結局エミリアが手伝ってやらなければ、エルザは用を足すことが出来なかった。泣いて嫌がるエルザの下腹部を押したり、尿道の周りを刺激したりして、ようやく用が足せた。ここに送られてくる間はどうしていたのか、おむつでもさせられていたのだろうか。
それはともかく、普通に暮らしていく上では、避けては通れない。
それに、いままでエミリアが看てきたラヴァーズ候補の娘たちだって、違和感の残る新しい体に慣れさせるためには、まずは入浴から始めるのが、一番効果的だった。
女性には男性と違って、自分の体のことについてよく知っておく必要がある。それがラヴァーズならなおさらだった。
生理のこと、髪や肌の手入れのこと、下着の選び方やその上に着る服のコーディネートのこと。お化粧や、立ち居振る舞い、言葉の使い方。そして男性のあしらい方……。それは生まれながらの女性にも当てはまることではあったが、ラヴァーズとして軍務につく以上、そうした知識は武器でもあり、身を守る盾でもあった。
「……」
「どうしたの? エルザ」
エルザの服を脱がせ、自分も服を脱いで浴室に入ると、エルザはエミリアを見たまま、固まっていた。
「えみりあ、おっぱいおおきい。えるざ、ぺたんこ」
「へ? ああ、そうね。ヘンなこといきなり言わないでよ」
「えるざ、ぺたんこー」
「そのうち大きくなるわよ、さ、シャワーを浴びて、体を洗いましょう」
エミリアは苦笑しながら、もしかしたら、生まれながらの女の子も、こんな風に母親から自分の体のことについて、学んでいくのかなと思いながら、エルザの体にシャワーをかけ、ボディーソープを塗っていった。
<つづく>
「少佐! どういうことですか!」
「どうしたんだね、准尉。いきなり」
「エルザ……いえ、昨日任された少女のことです!」
「それがどうかしたかね?」
「どうしたもこうしたもありません! 記憶を消去したといってましたが、あれじゃ幼児同然です。あんな子をラヴァーズなんかにしろと、おっしゃるのですか?」
「わ、私は何も知らんよ。単に次の候補として中央から送られてきたのを、君に預けただけなんだから」
「候補ということは適性が無ければ、候補から外してもいいわけですよね?」
「その場合は、処分されることになる。もともと死刑囚なのだからな」
「あんな年端も行かない少女を、死刑台送りにしようというのですかっ!?」
「そう言う規則なんだから仕方あるまい。まぁ、私の個人的意見としては、その方が幸せかもしれんとは思うがな……」
「何の罪の記憶も無い、少女をですかっっ!!」
エミリアが激昂して少佐の机をバン!と思い切り叩くと、机の上のカップが跳ね上がって横倒しになり、中身がこぼれた。
「判ったから乱暴は止めたまえ。部下が見ているではないか」
「とにかく、上に掛け合ってください。私はイヤです」
「そんなことが出来るわけがない事は、君に判ら無い筈が無いだろう? それに……」
「“それに”、なんです?」
「君があの子の教育をしないとなると、あの子はそのまま任地へ放り出されることになるんだぞ。何の知識も無いまま兵士たちのいいように、慰み物になるんだぞ?」
「脅迫ですか?」
「うぉほん! 口を慎みたまえ。カセラート准尉。これは上からの命令なのだよ」
「良くわかりました。少し、考えさせてください」
「ああ、待ちたまえ。准尉」
「何か?」
「今回の件については、期限を定められていない。私も出来る限り、君に便宜を図るつもりでいる。だから命令には従ってくれないか?」
「わかりました。今日のところはこれで。あの子が寂しがって、泣いているといけませんので」
「ああ、准尉」
「まだ何か?」
少佐は手招きをしてエミリアの耳元に口を寄せると、小さな声で言った。
「君に話しておきたいことがあるんだ。今夜、食事でもしながら、どうかね?」
「……それは命令ですか?」
「“頼み”だよ。そう突っかからんでくれないか?」
エミリアは返事の変わりに、少佐の首筋に軽くキスをしてから、姿勢を正して敬礼した。
「失礼致します。少佐」
「うむ、よろしく頼む」
エミリアは少佐に突っかかるのは、筋違いであることはわかっていた。エミリアが少佐に言いたいことが言えるのも、少佐の人柄によるものだが、それに甘えすぎていたことも反省した。
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エミリアが部屋に戻ると、それを待っていたかのように、エルザがぱたぱたと駆け寄ってきた。
「おかえりなさい」
「ただいま、エルザ。いい子にしてた?」
「うん。おとなしくしてた」
「えらいわ。さて、じゃあ何からはじめようか?」
「なにか、するの?」
「うーん。そうねぇ……」
エミリアは頭を抱えた。ラヴァーズの教育ならば先ず、女性の体のこととか、立ち居振る舞いだろうが、この幼女といっていい子供に、何から教えていけばいいのか、それを考えると頭が痛かった。
「まずは、お風呂にでも入りましょうか?」
「おふろ?」
「そう、エルザの体のこと教えてあげる」
「からだのこと? おしっこ、ひとりでできるようになる?」
「ええ、直ぐに出来るようになるわよ」
「はいる!」
今朝は結局エミリアが手伝ってやらなければ、エルザは用を足すことが出来なかった。泣いて嫌がるエルザの下腹部を押したり、尿道の周りを刺激したりして、ようやく用が足せた。ここに送られてくる間はどうしていたのか、おむつでもさせられていたのだろうか。
それはともかく、普通に暮らしていく上では、避けては通れない。
それに、いままでエミリアが看てきたラヴァーズ候補の娘たちだって、違和感の残る新しい体に慣れさせるためには、まずは入浴から始めるのが、一番効果的だった。
女性には男性と違って、自分の体のことについてよく知っておく必要がある。それがラヴァーズならなおさらだった。
生理のこと、髪や肌の手入れのこと、下着の選び方やその上に着る服のコーディネートのこと。お化粧や、立ち居振る舞い、言葉の使い方。そして男性のあしらい方……。それは生まれながらの女性にも当てはまることではあったが、ラヴァーズとして軍務につく以上、そうした知識は武器でもあり、身を守る盾でもあった。
「……」
「どうしたの? エルザ」
エルザの服を脱がせ、自分も服を脱いで浴室に入ると、エルザはエミリアを見たまま、固まっていた。
「えみりあ、おっぱいおおきい。えるざ、ぺたんこ」
「へ? ああ、そうね。ヘンなこといきなり言わないでよ」
「えるざ、ぺたんこー」
「そのうち大きくなるわよ、さ、シャワーを浴びて、体を洗いましょう」
エミリアは苦笑しながら、もしかしたら、生まれながらの女の子も、こんな風に母親から自分の体のことについて、学んでいくのかなと思いながら、エルザの体にシャワーをかけ、ボディーソープを塗っていった。
<つづく>
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