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星の海で(4) ~トイブルクのエミリア~ (4)

(4)-------------------------------------------------------

「近々、我々の部隊は解散する」
「え? 少佐、今なんて……」

 駐屯地の外にある、少し値の張りそうな豪奢なレストランでの食事の途中、少佐はいきなり話を始めた。

「これはまだ軍の機密事項なので、他言無用なのだが、君には伝えておこうと思う。敵がこのトイブルク5に迫っている。既に星系外縁に敵の3個艦隊が集結しているそうだ」
「3個艦隊も?」
「それだけ本気だと言うことだろう。トイブルク星域を失えば、戦線は500光年も後退してしまう」
「……」
「昨年末の侵攻作戦の敗退で、大した戦力の残っていないこの星系を守りきるのは難しいだろう。撤退のための護衛艦隊は3日後に星系外縁に到着する予定になっているが、戦闘は避けられない。トイブルク5は実戦部隊を除いて、我々のような後方支援の部隊は解散が決まった」
「そんな、解散だなんて。そのまま部隊ごと移動すれば、よろしいのでは?」
「撤退といっても、核恒星系に近い大きな駐屯地だ。複数の艦隊が常時駐留し、我々よりも上位の教育部隊がある」
「少佐は……、私たちはどうなるのでしょうか?」
「君にも近々艦政本部からの辞令が来るとは思うが、私の部下ではなくなるだろうね」
「そう、ですか……」
「私としては、引き続き私の部下でいてもらいところだが、過去の人事の慣例から、それは無いだろう」
「残念ですわ、少佐」
「そういってくれると、私もうれしいね」

 エミリアはこの上司を決して嫌いなどではなく、むしろ好意を寄せていた。
 ラヴァーズの教育係としてこの星に配属されて5年。少佐はいろいろと便宜を図ってくれ、エミリアはそれにずいぶんと助けられていたのだ。
 体の関係を持ったのは、いつからだっただろうか? 
 少佐には核恒星系に本物の女性である妻も、そして子供もいたが、遠く任地にある少佐の慰めになればと、自分から誘ったのだった。

「でも、そうなったらあの子は、エルザはどうなるんです?」
「エルザ? ああ、あの子の名前か。それについては私もわからない。直ぐに新しい任地送りになるのか、それとも」
「処分されるか……、ですか?」
「そうはならないと、私としては思いたいが」
「何とかならないんですか?」
「私は一介の少佐に過ぎない。艦政本部の辞令を覆すような力は無いのだよ……」

 エミリアは何も言うことが出来ず、黙って食事を続けた。
 少佐もエミリアの胸の内を思うと、何も言ってやることが出来なかった。
 
 通夜の晩のような食事を済ませ、レストランから出た二人は、そのままどこへ行くでもなく、近くの公園の噴水の前のベンチに座っていた。

「すみません、せっかくのお食事だったのに……」
「いや、あんな話をしてしまったのは、私だからな」
「私は今日はこれで……。エルザが待っていると思うので」
「官舎へ帰るかね? 送っていこう、どうせ同じ道だ」
「ありがとうございます。少佐……」
「ん、どうしたんだ、エミリア?」

 エミリアは歩き始めた少佐をじっと見つめたまま、その場を動こうとしなかった。

「こうして、一緒に歩くことももう無いかもしれないんですね……」
「エミリア……」
「すみません。ヘンですよね、私……ラヴァーズ...ダッタノニ」

 後半は小さく、掠れ声になっていた。

「エミリア……」

 少佐はエミリアに歩み寄って、うつむいていた頭を撫でた。
 
「キミらしくないな。いつも元気が取り柄だったろう?」
「すみません少佐。一生会えなくなるわけじゃ、無いのに……」

 エミリアは顔をあげて笑顔を作ると、少佐の腕をとり、恋人のように寄り添った。

「少佐、泊まっていかれませんか?」
「君の部屋にか?」
「だめ、でしょうか?」
「“お誘い”とあっては、断る理由もないが……」
「エルザのことでしたらご心配なく。空いている部屋は、まだありますから」
「しかし……」

 少佐は躊躇ったものの、寂しさの色を湛えたエミリアの瞳には、勝てなかった。

      *---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*

 部屋のドアを開けたエミリアを見ると、すぐにエルザが駆け寄ってきたが、その後ろに少佐の姿を見つけると、立ち止まったまま固まってしまった。

「エルザ、怖がらなくていいわ。この人は本当はとっても優しい人なのよ」
「やさしいひと?」
「こんばんは、エルザ。おじゃまするよ。そうだ、おじさんと遊ぶかい?」
「あそぶ?」

 少佐は本来は子煩悩なのか、すぐにエルザとは打ち解けたようで、3人でエルザにもできそうな簡単なゲームをして遊んだ。
 二人が楽しそうに遊んでいる様子に、エミリアはちょっとした幸福感を感じていた。
 エミリアは自分が本当の女性で、人並みに結婚できたのなら、こんな家庭を築けていたのかも。
 あるいは、あんな犯罪を犯していなければ、自分も妻を娶って、やはりこんな風に子供と遊んでいたのかもしれないと、思っていた。

 エルザはやはり子供なのか、1時間もしないうちに目をこすり始め、すぐにエミリアが寝かしつけた。
 エミリアは、冷蔵庫からグラスとワインを出してきて、少佐の待つ居間に戻った。

「少佐。お酒はいかがですか?」
「ああ、もらおうか」
「少佐が子供好きとは、知りませんでしたわ」
「自分の子供とは一度も遊んでやっていない、駄目な父親だがな」
「少佐は、ご家族とはほとんど?」
「最後に会ったのは、もう5年前だ」
「どうして? 申請すれば、帰省できないわけじゃないでしょう?」

 少佐は、制服のポケットから身分証明書入れを出して、中に入っていた写真をエミリアに見せた。
 古びた写真には、今よりもほんの少し若い少佐と、その隣には線の細そうな女性と、小さな男の子が写っていた。

「6年前の写真だ。息子もあの子と同じぐらいには、大きくなったかな?」
「どうして、会ってあげないんですか?」
「妻とは、あまりうまくいってなかったのでね。私はこのとおり、家を留守にすることが多くて、それが妻はとても不満だったらしい。弁護士の書簡が同封された離婚届が送られてきて、もう4年になる」
「……全然、知りませんでした」
「こんな写真をいつまでも持っているなんて、情けないだろう? もう捨ててしまったほうがいいのだろうな」
「えっ!? あ、駄目です! そんなことしちゃ!」

 少佐は写真を取り出すと、びりびりと破き始めた。エミリアは止めようとしたが、既に細かい紙くずになってしまっていた。

「少佐……」
「いいんだ、もう忘れるべきなんだ。昔のことは」
「でも! 家族って、血のつながりってとても大切なものの筈です! そんな、たとえ別れたからといって、それでなくなってしまうものなんかじゃ……」
「おい、君が泣くことはないだろう?」
「ごめんなさい。でも私には、家族の思い出なんて……」
「そうか、すまなかった。君が元ラヴァーズだったのを忘れていたよ。君の前で、少し無神経だった」
「……なら、私と家族になって、いただけませんか?」
「え?」
「あ、いえ……。ごめんなさい。私ってば、変なこと言って。い、今のは忘れてください」
「……エミリア」
「い、今、ベッドの用意をしますね。明日も早いのでしょう?」

 エミリアは自分の言葉を誤魔化すように、ソファから立ち上がった。
 空き部屋のベッドメイクを始めると、少佐が後ろからエミリアの肩を抱いた。

<つづく>

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