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星の海で(4) ~トイブルクのエミリア~ (5)

(5)-------------------------------------------------------
エミリア
イラスト.東宵由依


 一枚の毛布に二人で包まって、情事の余韻に浸っていたエミリアに少佐が話しかけた。

「君もあの子と同じように、やはり記憶を?」
「いえ、少しだけ残っています。もしかしたら後付の、作られたものかもしれませんけど……」
「どんな?」
「お話しするほどのことでは……。私が犯した、罪の記憶ですから……」
「そうか、すまんな。私はどうも無神経すぎるようだ」
「いえ、そんな。少佐は、いつも良くしてくださいますし……」

 少佐の気遣いに、エミリアは額を少佐の胸に摺り寄せながら、抱擁をねだった。
 愛惜しげにエミリアの頭を撫でながら、少佐は思い出したように言った。

「そう言えば、君とは長い付き合いになるが、君自身のことは、あまり聞いたことがなかったな」
「それほど、楽しい話なんかないですけどね。あるのは、ラヴァーズにされてからのことがほとんどで……」
「聞いても、いいかな?」
「……私が、ラヴァーズにされたのは、今から18年前です。
 ラヴァーズとして軍務に就いていたのは12年間。
 最初は本当に嫌だった。
 どうせなら記憶も全部消されて、何も知らないままラヴァーズにされたほうが、ましだったって何度も思いました。
 体を作りかえられて最初のうちは、力も全然弱くて、うまく動かせないんです。自分の体じゃないみたいで……。
 実際に変えられちゃっているから、当たり前なんですけどね。
 それにものすごく不安感に襲われるんです。ちょっと物音がしただけで、心臓が止まるかと思うほどびくびくしちゃうんです。無性に寂しく感じて、一日中泣いている子もいました。
 私達の頃は、今ほどケアがしっかりしていなかったし、ラヴァーズに変えられたばかりの人間が、どんな心理状態にあるかなんて、誰も気にしていなかったから、それは酷いものでした。
 姿はともかく、そもそも囚人ですから。
 私も今でも時々、処女喪失の時のことを夢に見てしまうことがあります。
 一緒にラヴァーズにされた同期みんなの前で、一人ずつさせられるんですよ。
 あんなに惨めで辛かった事は無かった。
 それに初めての時はすごく痛いんです。体だけじゃなくて、心も。
 だって、そうですよね。自分は男だったってことだけは、覚えているんですもの。
 どうにもならないほど強い力で、男に組み敷かれて……。
 だから初めての時は、みんなものすごく泣いて抵抗するんです。
 私は班の中で一番最初だったので、薬とか打たれて。
 みんなが見ている前で、下着まで剥ぎ取られて。
 それでも必死で抵抗したので、手足まで縛られてしまったんです。
 そして気がつくんです。自分もこんな酷いことを、誰かにしたんだって。
 ラヴァーズはみんなそう。そういう自分の罪のせいで、こんな事をされているんだって。
 だからたいていの人は処女を失うと、気が抜けてしまって……。
 もうどうでもいいって、気持ちになってしまうんです。
 そして配属までの短い間、惰性で教育期間を終えるころには、もう割り切った仕事だと思って、あまり深く考えないようにしてました。
 けれどやっぱり辛くて、監督官の隙をみて自殺しちゃう子が何人もいて……少佐?」

 少佐は伏し目がちになり、声のトーンも沈んでいく、エミリアの手を握った。

「もういいよ。すまなかった。君にそんな話をさせるつもりじゃ、無かったんだ」
「いえ、いいんです。もう昔のことですから」
「でも、それなら何故、また軍に入ることにしたんだね? ラヴァーズから開放された時に、退役することもできたのだろう?」
「元囚人と知って雇ってくれるところなんて、そう多くはありません。それに……」
「それに?」
「少佐はラヴァーズの5年後生存率がどのくらいか、ご存じですか?」
「もちろん、教育部隊を率いているものとしては、重要な成果指標のひとつだ」
「では?」
「70%ぐらいだろう。戦闘艦に配属されるのだからな。概ね兵士たちと同じ筈だ」
「今の子たちは、それよりも少し悪くて60%ぐらいかもしれませんね。でも、私達の世代は10%以下」
「なん、だって? 激戦といわれたバルレッタ星域会戦でも、20%は生き残ったぞ」
「もちろん配属後に、乗艦と一緒に亡くなった者もいます。でもそれは全体のおよそ10%。
 配属先の部隊内でのいざこざに巻き込まれたり、戦闘で精神を病んだ兵士に殺されたものが18%。25%が配属後に任務に耐えられなくなって自殺。そして30%が配属前の教育期間中に自殺、あとの7%は行方不明……」
「……」
「最初の教育期間中に、3日とたたないうちに何人も自殺する子が出て、教育が終わる頃には三人が二人に、最終的に同期の半数以上が自殺してしまうという現実を、何とかしたいと思ったのです。せめてすぐに死を選んでしまうような、可哀想な子が一人でも、減ればいいと……」
「教育部隊を、志願したのか?」
「そうです。ラヴァーズ出身なら、ラヴァーズの教育に適任でしょうと言って。配属する前に3割も減らしてしまっていては、割りが合わないですものね。民間よりもずっと高待遇でした。6年勤めても、いまだに准尉のままですけど」
「君は、いつも明るくて元気だから、そんなに辛い過去があっていたとは、思い至らなかったよ。すまない」
「そんな、少佐は何も悪くないですわ。それに私だって、少佐の古傷に触れてしまいましたし……」

 エミリアは子供が甘えるように、少佐の胸に頭を擦り寄せた。

「ねぇ、少佐?」
「なんだい、エミリア」
「少佐は何故、いつも私に良くしてくださるんですか?」
「さぁ……、どうしてかな。自分でも、よくわからんが……」
「少佐は、ご存じないかも、しれませんが……」

 エミリアは、その後がなかなか言えなかった。
 過去の記憶の大部分を消去されていたエミリアだったが、ラヴァーズの教育係になってから、一度だけ自分のファイルを見たことがある。
 自分は少佐の近しい人であることは間違いない。そのことを少佐は本当は知っているのではないか? 
 そのことを少佐に告げるべきか、それともずっと黙っているべきか。
 部隊が解散すれば、少佐に会う機会はほとんど無いだろう。
 今ここでそれを言うべきかどうか、エミリアは迷っていた。

「あの、少佐?」
 
 エミリアは意を決して身を起こし、隣に寝ている少佐を見た。
 だが、ベッドサイドの薄明かりの照明に照らされた少佐は、目を閉じて微かな寝息を立てていた。

「少佐は多分、私の知っている人なんです……」

 エミリアは小声でそっと言うと明かりを消し、少佐の隣に身を寄せるようにして横になった。

<つづく>

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