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星の海で(4) ~トイブルクのエミリア~ (13)

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(13)-------------------------------------------------------

 艦隊がトイブルク星域に駐留して1週間が経った。
 いつまでもこの星域にとどまってばかりもいられず、前線に向う時がやってきた。

 艦隊が進発する前日、エミリアに対する軍事裁判が開かれた。
 判決は惑星犯罪の嫌疑は不十分。脱走兵という汚名は免れたものの、命令服従違反として、2階級降格の上軍籍は剥奪との、厳しい裁定が下った。
 フランチェスカはリッカルドに、せめて軍籍剥奪だけはと粘ったが、エミリアの証言が確かなものであるという証拠がない以上、どうすることも出来なかった。

 次の補給艦隊との邂逅までという期限付きで、エミリアには艦内に小さな部屋が与えられた。
 エルザに関しては記録がないということで難民扱いになり、暫定的にエミリアに保護者としての義務が課せられた。
 エミリアの部屋を訪れたメリッサは、じゃれ付くエルザの相手をしていた。

「“脱走と惑星犯罪の罪で死刑”にならなかっただけ、儲けものかもね。エルザとも一緒にいられるし……」
「エミリア教官……」
「もう教官じゃないのよ。ただの民間人」
「これから、どうなさるおつもりですか?」
「そうね。せめてこの子が一人前になるまで、育てなきゃ。軍を追い出された私に、働き口なんてあるかしら?」
「きっと見つかりますよ。 そうだ! 私、少しは蓄えがあるんです。本当は退役する予定でしたし、今の契約任期が切れたら、一緒にどこかの星で暮らしませんか? トリポリなんか、意外にいいところでしたよ」
「でも、あなたにそんな迷惑はかけられないわ。それに、2週間後にはこの艦を降りなきゃならないの」
「そうですか……」
「そうだわ。しばらくこの艦で雇ってくれないかしら?」
「雇い口なんて……軍艦ですよ。確かに軍属の人はいますけど、ラヴァーズ以外はみんな男性ばかりですし……」
「そのラヴァーズになるわ。あなたと同じ」
「ラヴァー、って。そんな! だって、せっかく……」
「ラヴァーズ不足は今でもそうなんでしょう? ならば私、経験だってあるし、お給料だって、民間のそれよりはずっといいんじゃない?」
「いや、それは確かにそうですが、でもラヴァーズだなんて……」
「昔、私が言ったこと覚えてる?」
「“ラヴァーズだって、悲しいことばかりじゃない。生まれ変わったんだから、絶対に、幸せになれる……”」
「そうよ。15年間眠り続けて、生まれ変わったと思えばいいわ。ねぇ、エルザ。メリッサおねえちゃんと、もうしばらく一緒にいたいでしょ?」
「うん、いたい!」
「しかし……」
「明日、ジナステラ大尉にお願いしてみるわ」
「でも、いいんですか? その、またラヴァーズになんて……」
「働かざるもの、食うべからずよ。ジナステラ大尉も良い方みたいだし、あなたもいるんでしょう?」
「はぁ……」
「心配しないで。メリッサ。あ、でも私、2階級降格だから、復帰してもあなたのほうが上官ね」
「そんな……。でもわかりました。教……いえ、エミリアさんがおっしゃるのなら、もう反対しません。私からも大尉にお願いしてみます」
「よろしくお願いね、メリッサ曹長」
「よろしくおねがいね。めっりさそうちょう」

 エミリアの真似をするエルザに、メリッサも思わず笑みがこぼれた。

「そうだ、明日星系を進発する前に、トイブルク基地の慰霊祭を行うそうです。ジナステラ大尉がおっしゃっていました」
「そう、慰霊祭か……」
「私、ティッシュペーパーをたくさんもらってきたんです。献花を作りませんか?」
「ティッシュペーパーで、献花?」
「亜里沙が……。ああ、私の後輩というか、妹分みたいなラヴァーズなんですけど、その子が作り方を教えてくれたんです。“センバヅル”とか言うのも作ったほうがいいって、仕損じの紙やいらない紙を、たくさんもらってきていましたよ」
「センバヅル? 私に出来るかしら?」
「簡単ですよ。きっと出来ます」
「えるざもできるー!」
「そうだね、エルザちゃんも一緒に作ろうか?」
「うん!」

      *---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*

 エミリアの私室。エルザとエミリアは、メリッサから“センバヅル”の作り方を教わっていた、

「ねえ、メリッサ。この艦は、トイブルク基地の衛星軌道上に、いるのよね?」
「ええ、そうです。2時間ほど前に到着して、静止軌道上を周回中です。あと1時間ほどで慰霊祭が始まりますから」
「じゃあ、その前に電子窓の映像を切り替えてくれないかしら。基地のある辺りが、見たいのだけれど……」
「……いま、映っているのがそうです。無人ですが、自動の気象観測装置と航法用の保安設備があると聞いています。基地がある辺りが、具体的にどこかはわかりませんが……」
「え? これが、この赤茶けたのが、基地のあった第五惑星だって言うの?」
「……今は、“第4惑星”なんです。エミリアさん」
「なんですって? そんな、じゃあ……」
「いずれわかってしまうことだから、黙っていましたが……。軌道要素を見る限り、あの星は元から第4惑星だそうです。15年前の事件の後、防備の手薄になったトイブルク星系に敵が進駐しました。7年後に再びこの星域は我々の支配宙域に戻りましたが、トイブルク星系の惑星の数は全部で12個」
「14個あった筈よ!」
「もっとも外側にあった第14惑星は公転軌道を離脱。トイブルク基地のあった第五惑星、トイブルク5は、消滅……」

 メリッサの告げた事実に、衝撃を受けたエミリアはただ呆然とし、言葉を発することが出来なかった。

       *---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*

「……むなしく散った、トイブルク基地の英霊の安らかなることを、ここに願うものである。 星暦2045年8月15日、第106遊撃艦隊司令、リッカルド・ガルバルディ准将」

 リッカルドが鎮魂の辞を述べると、アンドレア・ドリアの主砲が3回、長い光芒を放った。

 艦載機着艦デッキからは、エミリアたちが作った献花や千羽鶴が放たれ、艦の後方に白い航跡を残していった。

挿絵4
挿絵:東宵 由依

 僅かながらも青い海と緑の森を有していた、かつてのトイブルク第五惑星の姿はそこになく、赤茶けて荒涼とした大地が広がるその星が、涙で滲んで見えなくなるまで、エミリアはずっと見つめていた。


<了>

<星の海で (5)はこちら>





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