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投稿TS小説 魔封の小太刀(1)

by.luci

 『昔々あるところに、とても腕の良い刀鍛冶がいました。
 ある日刀鍛冶は神託を得、魔を祓う太刀と小太刀を作り始めました。ところがこれに驚いた魔の者たちは、そんなものがあっては困ると刀鍛冶を殺す相談をしました。
 けれども刀鍛冶には神がついています。魔の者たちは触れる事さえできません。色々考えた挙げ句、刀鍛冶の想い人を使うことを思い付きました。神の力のおよばない場所に誘き出そうと言うのです。

 ……斯くして、小太刀は完成しましたが、太刀は未完のまま刀鍛冶はこの世を去ってしまったのでした。』

* * * * * * * * * * * * * * * *

 針葉樹林に囲まれた社。その付近から妖しい気配が漂っていた。良く見れば霧中に二つの影が近づき、そして離れ、澄んだ空気に鋼が当たる音が響いている。
 全身黒尽くめの痩身の男が刀を構えている。その左手には黒漆の鞘を、そして右手には一振りの太刀を持ち、構えている。ギラリと光る刀身は寒気が走る程に美しかった。
「……貴様、なぜ『封魔の太刀』を持ち出す?」
 そして対峙する男、御厨玲は、同じく真剣を中段に構え、少し左足を引き気味にしながら、大きく息を吐き問うた。真剣対真剣の勝負に五感はピリピリと周囲の気を感じ、じっとりと嫌な汗が身体中を舐めている。
「わしはこの太刀の力を一番知っている。これを仕上げ、この世の『魔』を支配する。そして」
 痩身の男は静かに言ってのけた。余裕があるのか、構えようともしない。刀身をじっくりと鑑賞しながら玲との間合いを一寸刻みで縮めていく。
「あやつをもう一度封じてくれようぞ」
 壱の太刀を浴びてから、玲の動きは極端に悪くなっていた。只浴びたと言っても太刀が触れた訳ではない。『封魔の太刀』は初太刀に『魔』の力を削ぐ能力を有していた。
(くそっ、力が…。一体どうなってるんだ?)
 焦燥、そして恐怖。これまで玲が感じた事がない感情に、押しつぶされそうになってしまう。いつも『魔』を相手に『封魔の太刀』を振るってきた玲だったが、その刃が自分に向けられるとは思いもしなかった。それに、『魔』でもない自分が力を奪われるとも。

 数日前から降る雨の影響で地盤がゆるみ、山の東側では地滑りが起る程だった。群生しているコケとシダが足元を悪くし、スニーカーを履いていた玲にとっても踏み込む際に滑らないように気を取られてしまう。条件は最悪だった。
 玲はこれ以上の体力の消耗を嫌い、自ら攻めに転じようと、一気に間合いを詰める。しかし極度の緊張と焦燥でほんの一瞬、まさに刹那、踏み込む足が滑ってしまった。
「!」
 霧を纏うように痩身の男が間合いを詰める。その手に握られた太刀の鋭い斬撃が玲の首筋を狙うと、銀色の光が残像を残し扇のように広がりつつ、いやにゆっくりと近づいてきた。玲は突きを見舞おうとしていた刀を返し、痩身の男の太刀を鍔元で受けた、はずだった。
「うッ、な?」
 『封魔の太刀』はまるでカッターで紙を切るように、玲の持つ刀の刃を「切って」いた。「キィーン」と甲高い音が鳴り、刀が宙へ舞う。
 太刀はそのまま玲の身体を切って行く、玲の足は止まり、身体をその大地の冷たさを感じていた。
「ははは。なんと無様な。御厨とも在ろう者が」
 足元に佇む痩身の男は、玲を嘲笑しながら見下ろしていた。玲の身体から暖かい血が冷たい土へと吸い込まれて行く。三太刀目を浴びせようと男が振りかぶった。
「? お前は……はははっ、なんと狭いものか?! わしを覚えておらんのか? 己が何者かも思い出しもせんのか!」
 出血で次第に意識が朦朧としてくる玲の耳に、聞きなれない言葉が届いていた。男が何かを唱えている。
「………。ふん、これでお前は……。……………己が何者か、思い出した上で殺してくれるわ。目が覚めたら己が姿をとくと見よ」
 それが薄れていく意識の中で玲が聞いた最後の言葉だった。

* * * * * * * * * * * * * * * *

 うっすらと回りに人の気配がした。次第に焦点が合ってくると、そこにはおやじ殿と涁がいた。
「玲! 気がついたか?!」
「!!!」
 おやじ殿の声に身を起こそうとした途端、身体に激痛が走った。
「無茶はするな。今は安静にしていろ。あぁあぁ、太刀の事は後からでいい」
「……お前さ、俺がサポートに行くまで待たないからこんな事になんだよ」
 心配そうなおやじ殿と比べ、我が兄は痛いところを突いてくる。
 分ってはいたんだ。封魔の太刀を持ち出した事で、普通の相手ではない事を。しかしあの時は……。
「何、文句があんの? ったく、女がこんなキズ作ったら嫁の貰い手が無くなるっつの」
 文句は色々あるが。それより、涁、今なんて言った?……女? 誰が?
「涁、今、なんて? あ? 声?」
 声が明らかに俺のではなく、高い? そう思って自分の手だというのに重く感じる手を挙げ、のど元をさすった。のど仏が無い。俺だって二十歳前とは言え男だ。のど仏くらい出ている、いや、出ていた。それが無い。
 出血のために血の気の無い顔が、もっと青くなっていたに違いない。俺は身体のあちこちをのろのろと、探った。
 ……上に二つ、無いものがあった。下に、あるものが無かった。
「お、おやじ殿っ、しん! 俺、俺、女に!」
 痛みも一切構わず、あらん限りの力を振り絞りおやじ殿と_の腕を掴んで、叫んだ。けれど、二人は顔を見合わせて眉間に皺を寄せただけ。
「だから、男なのに、身体が、女になってるっ」
「お前、大丈夫か? 元々女だろうが」
 いつでも俺に厳しく接して来た双子の兄だった筈の_は、いつにも増して冷ややかに言った。
 そして、俺の混乱をよそに、その日を境に俺の環境は一変したのだった。

* * * * * * * * * * * * * * * *

「はぁ……」
不必要な溜め息を吐いたのはこの数週間で何度目だろう? 抗生物質の点滴と尿道へ直接刺さっていた管のせいと、刀傷のために起き上がれなかった時には、そんなに違和感はなかった。看護士との会話の時だけ、その声が耳に入った場合に感じたくらいだ。
しかしこうして洗面所の鏡の前に立つとその変わりっぷりに戸惑ってしまう。短かく刈り込んでいた髪は長くまっすぐに背中に達し、細い眉は三日月のように形良く、ちょっと気の強そうな目には長い睫が反り返って鳶色の瞳を守っている。鼻筋は通り高からず低からず、唇はほんの少しふっくらとしている。そして、洗面台が高い……と言うより今の背が低いのか……。やっとシャワーの許可が下りた時には、色んな意味で痛かった。その体型が……。
どう考えても別人にしか映らないはずなのに……この姿を「玲」だと言う。俺が知っている「玲」の姿とは大違いだというのに。おやじ殿にも涁にも何度も言ったが、結局頭部のMRIを撮られるにいたっただけだった。
「はぁ……」
その時の事を考えるとまた溜め息が。「男だ」と言えばおやじ殿も涁もハモって「お前は女の子だ」と言われ、「俺」と言えば涁に小突かれた。涁が何度も「わたしと言え」と強要してきたから、一人称を「玲」として使い始めたが、涁には「似合わないからやめろ」と言われるに至っている。
誰にも信用されないと、自分が間違っていたのかと思ってしまう。ましてや、自分以外の事柄は、全て記憶にある通りなのだから。
俺が守れなかった魔封の太刀は、入院中色々と事件を起こして各地を巡っているようだった。勿論、刀による殺傷事件ではなく、封印していた魔を次々と解放してそれが人々に憑き事故や事件を引き起こしていた。
涁からその様子を聞く度に、ベッドで苦々しく思って来たが、今日それが解消される。退院だ。これでヤツを追える。

 パジャマのボタンを外すと、ささやかに出っ張っている乳房が見えた。毎度の事とはいいながら、慣れない。しかしこれは「房」とは言い辛い……。肩口の傷跡を見ながら、シャツに手を伸ばした。
「玲、迎えに……全然成長してないな。でもわたしは構わないぞ。そういうのも好きだからな。しかしブラはしなさい。少しはごまかせるから。あ、着替え続けて続けて」
 頭からシャツを被っただけの、上半身裸の状態の時、おやじ殿が扉を開けてカーテンの脇から顔を覗かせた。俺は元来男だから、男に裸を見られても構わない、が、おやじ殿は女の子だと認識している筈。この状況は明らかにおかしいのではないか?
「……おやじ殿。出てってください」
「イヤ玲。可愛いお前の着替えも手伝わないと」
「普通は手伝いません! 出て行かないならせめてカーテン閉めてください!」
 大声で言うなり手近なものを投げ付けたが、おやじ殿は怯む事無く指先で摘むように受けた。
「減るもんじゃなし、いいと思うんだが」
 いかにも不承不承という感じでおやじ殿は出て行った。
「……はぁ……」
 これから何度くらい溜め息がでるのだろう。

 着替えを済ませ一通り病室を片づけ、お世話になった看護士さん達に挨拶し、おやじ殿を回収し階下へ降りて行くと_が車の前で待っていた。
 何やら_とおやじ殿がどちらが運転するかで揉めていたが、結局涁が運転席へ、俺とおやじ殿が後部座席へ座った。おやじ殿は俺の足を見てスカートがどうのと小声で言っていたが、それは敢えて無視した。スカートなんて誰が穿くか。そんな事より大事な事がある。
「……太刀の行方、どうなってますか」
 入院中の情報は、二人が俺に気を使ったのか、殆ど貰えなかった。だからニュースがある度に封魔の太刀が使われたせいだと、自分の失態を呪っていた。
「大まかには分ってるんだ。でもな、解き放たれた魔をどうやって倒して封じるのか問題もあるし、おまけに太刀と正面から戦えるかどうか」

 ルームミラーで俺を覗き見ながら、涁が頭を掻きながら言った。その目の下にはクマが出て、ここ最近の苦労を物語っていた。
「正直、手を拱いてる感じだ、なぁおやじ」
「いや、拱いてるのは涁だけ。方法はあるんだよ、玲。(問題もあるんだけど)」
 その方法を知っているのは俺だけだとでも言わんばかりに、おやじ殿は笑みを浮かべ俺の肩を抱き寄せた。……おやじ殿ってこんな人だっただろうか?
「それってどんな方法なんですか?」
 おやじ殿の手をどかし、少しドア側に腰を移動させつつ尋ねた。涁も聞かされていなかった事に腹を立てているのか、むすっとしながら視線を投げ付けた。
「御神刀は封魔の太刀だけじゃあない。実はもう一振り、小太刀がある。二振りとも同じ人物の作だと言い伝えられててな。力も太刀と同じ位あるらしい。実際使った事もないし、真偽は分らんが」
「初めて聞いたな。俺にも使えるのか?」
「知らん。使った事がないって言ったろうが」
 涁は何か言いかけたが、そのまま黙って運転に集中していた。

<つづく>

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