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投稿TS小説 魔封の小太刀(4)

by.luci

「ハカラレタ……」
 校長の見事に禿あがった頭が俺の目の前にあった。
 一昨日おやじ殿の話を聞いた時、ピンとくるべきだった。
 極近い場所で変死が続いている事。魔の力が働いている可能性があること。これはいいんだ。それが学校だというところで、こうなる事を考えるべきだったんだ。
「おい、玲。取り合えず聞いとけよ」
 小声で涁の諌める声。既におやじ殿の友人だとか言う高校の理事長から聞いている事件の概要や、自分の心配事をひとしきりしゃべり、喉が枯れたのか、校長は湯飲みを手にしていた。
「――ですので、理事長の手前校内での活動を許可しますので、どうか、事を大きくせず収めてください」
 生徒が数人死んだというのに、この事なかれ主義はどうかと思う。テレビや雑誌の取材で疲れているのは解るが。
「では後の事は担任に任せます。木崎先生、お願いします」
「あなたのクラスは、亡くなった二人の生徒のクラスです。まぁ、短い間ですが、せいぜいがんばってください」
 校長の横に憮然と立っていた神経質そうなメガネの男が、胡散臭そうな目を俺に向けた。この小娘が、というところか。俺だってそう思った。この姿を鏡で見たときは。
「玲、俺はこれで。……なかなか似合ってるぞ」
 校長室を出しな、真剣な表情で涁が言った。なるべく考えないようにしているところに、そんな風に言われると返って傷つく気がした。
『吾も良いと思うぞ』
(うるさいな。――おまえは魔の残気でも調べててくれ)
 昨日から宝珠丸は何かと姿の事をからかってくる。そんな事よりレーダーのようにどこにいるか探っていて欲しい。
『してもいいが、男の記憶を貰いうけるが』
(――やはりやめよう。静かにしててくれ)

 今回の件で、学校という閉鎖空間で自由に内偵をする方法として選ばれたのが、「生徒として紛れ込むこと」だった。おやじ殿は論外として(教師としてならありだが)、涁では年齢が上過ぎた。残ったのが俺という訳だ。
 しかもおやじ殿も涁も今朝まで「女子高生」する事を言わなかったのだ。
 生徒に戻って内偵する。それ自体は苦痛でも何でもない。しかし、女子高生としてクラスに仮編入となると話は別だ。
 家ではなるべく胴着と袴を穿いて、おやじ殿が買ってくる可愛い服を着ないようにしていたくらいなのだ。大分女性の姿が慣れたからと言って、女性らしく振舞っている訳ではないし、そうあろうと思ってもいない。何しろ、男に戻りたいのだから。それ故に早く事件を片付け、太刀を追いたいのに。
 ところがどうだ。紺のブレザーに赤のリボンタイ。プリーツスカートは膝上十センチ。おまけにニーソまで着用して。既成品だというのに、俺の体が一般的サイズなのか、胸以外はぴったりだった。それがなんとも情けない。
 結局、校長とのアポの差し迫った朝の時間に、おやじ殿に家計が火の車だとか、玲の服をたくさん買いすぎただの言われると、折れるしかなかった。先立つ物がなくては生きていけない。大体、考える暇も与えられてない。
 着替え終わった俺を見るおやじ殿のやにさがった目が全てを物語っていた。これがおやじ殿の計略でなくてなんだというのだ。
「――やさん? 御厨さん? 教室はここですよ」
 若干怒りに震えながら考え事をしていたせいか、いつのまにか教師を追い抜いていた。俺は踵を返し急ぎ足で戻る。ふと廊下のガラスに映った小柄な少女は、少しだけ不安そうにこちらを見ていた。

「今日から転入してきた御厨玲さんです」
 教師が俺に挨拶をと促した。転校というのは初めての経験で、しかも高校生ではないし、あろう事か女の姿。人前で話すのが不得意な訳ではないけれど、緊張する。
「あ、の、御厨です。……初めてで、わからない事が多いので、色々教えてください……」
 言いながら少しざわつくクラスを見渡した。そんなに変な自己紹介だったか?
「じゃぁ、あそこの空いてる席に座って」
 そのざわつきも、俺が座るべき席の指示で消えていく。その席が誰のだったのか、前もって聞いていた事もあり驚きはなかった。
 色々な視線を感じつつ、一瞬躊躇しつつ席に着く。
『……好ましからざる影があるぞ』
 宝珠丸の言うとおり、魔の残差とも言うべきものが漂っていた。ただそれは普通の人には感じ取れないだろうものだった。
(俺も気づいた。昼休みから、色々と話を聞き始めるか)
 そう思いつつ、顔を上げると一人の少女と目が合った。その澄んだ射るような視線は忘れようがない。
『どうした? 見知った顔か?』
(――ああ。ちょっとした、な)
 遠藤朋花。数年前まで道場に通っていた。高校受験で忙しくなるからと来なくなり、そのまま辞めてしまった。その彼女と一緒のクラスとは……。
 家の近所の学校なのだから、知り合いがいてもおかしくない。せめて偽名にすべきだった。
『性別が違っておる。分かる筈もなかろう』
 そうじゃない。宝珠丸、お前は分かってない。その恥ずかしさが解ってない。
『大体、お前が男だと言う事は、お前に近づいた時点で消えてしまう。今、このとき、あの小娘が何かを感じたとしても、それはお前が男だったという疑いにはならん』
 そうか、そうだった。俺への呪詛は、俺が男だった事を周りが忘れてしまうんだった。
 ばれないという安堵の他に、誰も男の俺を覚えていない事に寂しさを覚えていた。

 一人の食事になるかと思っていた昼食だったが、世話好きな人間はどこにでもいるもので、お弁当を抱えた数人が俺の机に集まってきた。
 どこから来たの? 彼氏は? どこに住んでるの? まるで身元調査のようだ。それにしても女の子ってのは直ぐ打ち解けられるんだな。男だとここまではできないな。
 それによくしゃべるし、よく笑う。話題が尽きないからなかなかこちらの思う話題に行けない。
 男子も俺に興味があるようで、遠巻きに聞き耳を立てているようだった。
「御厨さんて静かだよね」
 女子の会話展開のスピードについていけず、聞き役になっていた俺に、ショートカットの娘が言った。
「そう、ですか? あまり気にした事はないんですけど」
 女歴が短いから、どう話していいか分からない、とは答えられない。話し方で男だとばれたりはしないと思うが、必然的に丁寧語になってしまう。「~だわ」とか「~よねぇ」とか絶対言えない。言いたくない。
「なんか、かたいんだよね」
「前からこうだから……ところで」
 俺の話方は取りあえずどうでもいいんだ。それより仕事だ。
「わたしの席の他にもう一つ机が空いてますけど、あれはどういう?」
 一つの机に花瓶が二つ。それがどういうことなのか、俺は知っているが敢えて聞いた。教師の知っている話より、近しい人間の話の方が生々しいし、意外な発見があるかも知れないから。
 女の子たちは各々の顔を見ながら、誰が言うかを決めているようだ。リーダー格なのか押しつけられ役なのか、またショートカットの娘が口を開く。
「あれはねぇ……、クラスの男子が二人、死んだんだよ。それで」
「そうなんですか。わたし、てっきりいじめかって思って」
「いじめならまだいいよ。うちのガッコ、呪われてるもん」

 今度はロングの娘。
「馬場くんと安西が学校の七不思議を確かめに行くって言って。次の日に馬場くんが……。で、ひどいのが安西で、自分は馬場くんと一緒に行ってないって」
「そうそう。あいつが一緒にいたのみんな見てたのにねぇ。それで警察たくさん来てさ。取り調べ」
「でも、翌日には今度は安西が……」
「一番悲惨なのって、千草だよね。彼氏死んでわんわん泣いて」
「で、次の日自分も自殺しちゃって」
「あれって絶対馬場くんが連れてったんじゃね?」
「怖~~!」
 彼女たちの早口の会話も、俺が知っている事と同じだった。
 2年3組馬場高志、頭部損傷による脳挫傷。2年3組安西紘一、心臓損傷。2年1組千草奈緒香、頭部損傷による脳挫傷。2年1組大東文香、心臓麻痺。四件の校内死亡事件の犠牲者たちだった。
「そういえばさ、知ってる? 千草のお葬式の時、文香が、あれは自殺じゃないって、見たって」
「え、マジぃ?」
「それって何を見たんですか?」
 死んだ生徒の人数や名前、自殺他殺、その位は知っていた。しかし、「文香」という少女が何かを見た事は知らない。新しい情報だ。
「? あー、あたしあとから何度か聞いたんだけど、結局何を見たかは聞いてないんだけど」
 そうですか、と肩を落とす俺に、幾分引き加減で少女は言った。
「御厨さんて、もしかして、『ムー』とか好き?」
「?……よく分からないですけど、お化け関係は好き、かな?」
 考えた末の返答だったが、この瞬間からクラスでの俺の位置づけは「おしい怪奇オタ美少女」になったのを、後日知った。

<つづく>

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