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「カレーライス」 第三章(1) <18禁>

作.ダークアリス キャライラスト&挿絵:キリセ

第3章 葵:破壊
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(1)

「誰? 私を殺しに来てくれたの?」

 うつろに見上げていた天井の一角に、人の気配を感じて、私はそう呟いた。

「僕は君を、生かすために来たんだ」
「生かす? 冗談は止めて。私、死にたいの。それ以外は何も望んでいない」
「誰も君を殺すことなんかできない。それに、僕はこれでも一応医者なんだ。君の体のことも、どんな仕打ちを受けてきたかも知っている。だから余計に、君を殺せない」
「あなたが、私を地獄に堕としたの?」
「君をこんな酷い目にさせたのは僕ではないが……、確かに僕にも罪はあるかもしれない。いや、ある。君の体を作ったのは、僕だからだ」
「あなたが?」

 私はわずかに動かせる頭をめぐらせ、声の主を確かめた。眼鏡をかけた中年の男だった。見覚えがあるような、無いような……。

「君の体を作り変え、瀕死の君を何度も蘇生させていたのは僕だ」
「なぜ、私をこんな体にしたの?」
「ごく普通のGID患者。そう説明を受けて、新しい方法の性別再判定術を行ったのが、最初に君を診た時の事だった。それがこんなことのために利用されているなどとは、夢にも思わなかった」
「あなたは私が、連続強姦殺人の元犯罪者だったって、知らなかったっていうの?」
「さっき知った。君が何度も瀕死の状態で、体に酷い傷を負って運ばれてくるのを不審に思って、ここの所長を問い詰めたんだ。いつも君を運んで来る男は、ノイローゼによる自傷行為だとか言っていたが、明らかに不自然な点が多かった」
「右腕が無かったり、膝から下が無かったりしたこともあったのよ。そんなことが自分にできる人が、いると思っていたの?」
「“事故にあって”という説明だった。それにプライバシー保護のためという名目で、君にはマスクが被せられていることが多かった」
「そんなこと、覚えていないわ」
「多分、薬で眠らされていたんだと思う。でも、僕は君がこんな酷い目に合わされていたことは知らなかった。差別主義者に酷い迫害を受けた患者の、再生術を手伝っているのだとばかり……」
「私は死刑判決を受けた、犯罪者だったのよ」
「ああ、それもさっき聞いたよ」
「そう。なら判ったでしょう? 今すぐ殺してよ。もう私を生き返らせないで!」
「そんな事は僕にはできない。君が犯罪者であると言う記憶を持ったままなら、尚更だ。君が何も覚えていなければ、僕が何かしらの口実を付けて、“実験体”として君を引き取ることもできたかもしれないが……」
「実験体? そうね、私は人なんかじゃないものね」
「いや、それは口実だ! 僕は君を……」
「出てって! 私を殺してくれないのなら出て行って! 出てけっ!」
「また、来るよ……」


 その後も、先生は毎日、何度も私の病室を訪れた。
 でも、私のささやかな希望すら叶えてくれない、役立たずの先生に暴言を吐き、何度でも追い返した。
 けれど、私を気遣う先生が病室を訪ねてきてくれている間は、レイプされることも殴られることも無かった。
 そして私は、情けないことに、先生が病室を訪ねてくるのを、心待ちにするようになっていた。

 優しい言葉をかけられ続け、陵辱でない抱擁を受けているうちに、私の心はまた作りかえられようとしていた。

 決してもう自傷行為はしないと約束させられ、引き換えに先生は私の拘束衣を解いてくれた。
 頭を撫でられ、低い声で諭すように話しかけられると、先生の言うことだけは、聞かなくてはいけないような感じがした。
 忘れかけていた、自分の手の感触に戸惑いすら感じながら、私は何となく呟いた。

sashi4.jpg

「カレーライスが、食べたい……」
「そうか、わかった。用意させるよ。だから早く元気になるんだ」

 先生はにっこりと笑って、そう言ってくれた。
 ずっと点滴だけで生かされていたから、あまり食欲は感じてはいなかった。
 でも、毎日を怯えながら暮らしていたあの牢屋で、“いつかまた本物のカレーが食べたい”と、思い続けていたからなのかもしれない。
 本物の香辛料の香りを嗅いで、暖かくて白い、やわらかなご飯を口にしたかった。


 その日の夕方、太った機嫌の悪そうな看護婦が持ってきたのは、確かにカレーライスだった。
 けれど恐らく、その看護婦がやったのだろう。ぐちゃぐちゃにかき混ぜられていた。
 ドレッシングだけが底に僅かに残った空の小皿を見ると、添え付けのサラダも混ぜられているらしかった。

「本当なら、お前のようなゴミが口にできるような物じゃないんだから!」

 太った看護婦は鼻を鳴らしながら、吐き捨てるように言って、サイドテーブルの上に投げ出すように置いていった。
 それでも、あの独房で食べていたものと違って、本物のカレーの匂いと味がした。
 あの先生が用意してくれたものだからと思うと、なぜかとてもおいしく感じた。

 次の日もカレーが出された。あの太った看護婦は私の目の前でトレーの上に載っているものを全部ぶちまけて、ぐちゃぐちゃにかき混ぜたものを私の鼻先に突き出した。
 私は言った。

「あなた、レイプされたことある?」
「なに?」
「石をぶつけられたり、殺されかけたりしたことがある?」
「無いわよ。私はそんなことをされる理由なんか無いもの。あんたなんかと違ってね!」

 私は静かな怒りを感じていた。“先生のカレー”を汚されたことに、腹が立っていた。

「そうよ! 私は罪を犯し、そのせいでこんな目にあっている。でも、私があなたに何をしたっていうの? あなたがやっていることは、自分に無関係な他人をレイプしたり暴力をふるったりしても、当然だと思っている、私のような最低人間と同じことよ!」

 私がそう叫ぶと、看護婦は投げつけるようにして私にトレーを押し付けて、出て行った。


 その次の日。昨日までとは別の看護婦が、食事を運んできた。
 また同じカレーライスだったけど、混ぜられてはいなかった。
 やせ気味の看護婦は一言も発せずに、食事の載ったトレーを置いていった。
 私は勝ったと思った。
 そして自分で、トレーに乗っていたものを全部お皿にぶちまけて、ぐちゃぐちゃにかき混ぜて食べた。

<つづく>

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