Latest Entries
「カレーライス」 第五章(1) <18禁>
作.ダークアリス キャライラスト&挿絵:キリセ
-----------------------------------------------------------
第5章 恵:冷たい家族
-----------------------------------------------------------
(1)

「では、恵君か。よろしく頼むよ」
「はい、先生。何なりとおっしゃってください」
私は深々と頭を下げた。施設を出ることになり、私の後見人として目の前の人物が引き取ってくださったおかげで、何とか社会復帰を果たすことができた。
私が元OOLだとは言え、専属メイドとして召抱えることが出来るということは、この人物はよほどの金持ちか、力のある人物に違いない。なんとしても気に入られなければ……。
派遣先のこの家には目の前の人物。今は病気のため、非常勤の研究医師である先生と、記憶を無くしたせいで、人見知りの激しい自殺願望の少女が一人、住んでいるだけだということだった。
あまり大きい屋敷ではないが、家事と子守が必要なので、たまたま保母の資格も取っていた私に、声がかかったのだった。
メイド兼保母。それが今度の私の新しい仕事だ。
その前は、公娼兼AVモデルだったそうだ。
伝聞なのは、私に過去の記憶が無いからだった。
公娼の前は、福祉施設の性ボランティア。その前はまた公娼。
そして監督官が私に見せたファイルの一番最初の欄にはこう書かれていた。
“23歳、男性。連続婦女暴行致死の罪で起訴。2審で有罪が確定。OOL法適用第58号。”
たったそれだけ。それがどうやら本当の、元の自分だったらしい。
一行しか書かれていないプロフィールには顔写真すらなく、自分がかつてどんな人間だったのか、知る術は無かった。
いや、自分は性犯罪者だったのだ。
だから、その罪の償いとして、性にかかわる仕事に、強制的に心身を供させられていたのだ。
OOLの証である、銀色の腕輪を嵌められて……。
――この体で目覚めた時、私は記憶を失っていた。
そして何も知らされないまま受けさせられた、施設での教育カリキュラム。
自分がなぜこんな目に会わなくてはならないのか、その理不尽さに徹底抗議したところ見せられたのが、例のファイルだった。
なぜ自分は何度も記憶を奪われ、同じような事を繰り返させられているのか、その経緯を一つ一つ詳しく説明された。
始めのうちは監督官の言葉を、身に覚えの無い他人事のように聞いていた。
だが、記憶をリセットされる原因になった経緯についてのくだりを聞かされたとき、私は泣き出していた。
耳をふさぎ目を閉じても、監督官はそれを許さず、過去に繰り返された陵辱と暴行の様子を事細かに説明していった。
そして同じ事を、私も受けてきたのだという。その度に私は体を変え、記憶を奪われて、それを罪の数だけ繰り返してきたのだという。
それからの私は、監督官に逆らうことはせず、ただひたすら従順に、どんなことでも素直に従った。
たとえ覚えていなくても、また同じ経験をするのは嫌だと、強く思っていた。
凄惨な“私の”殺害現場写真……。あんな目に、“自分は”会いたくないと思っていた。
そして数ヵ月後、監督官の“おめでとう”という笑顔とともに、私の左腕に嵌められていた銀色の腕輪が外され、求人票を見せられた――
そして今、私はここにいる。
「では、お嬢様にもご挨拶をしてまいります」
「葵にかい? もうそろそろ昼寝から目覚めるころだとは思うが……」
「では、様子を伺って、起きていらっしゃるようでしたら、ご挨拶をしてまいります」
「あ! いや……、なんでもない。よろしく頼むよ」
「はい」
先生の態度がちょっと気になったが、私は教えられた部屋のドアをノックした。
返事が無いのは、まだ寝ているのだろうか?
『失礼します』と一言声をかけてから、ドアを開け部屋に入った。
「こ、これは……」
部屋の中は先生で埋め尽くされていた。壁と天井は先生の顔や全身を大きく伸ばした写真で埋め尽くされ、至るところに写真立てが並んでいる。そのどれもが先生の姿を捉えたもので、先生の個人的なアルバムからなのか、若い頃の写真もあった。
そして床には、用途の良くわからない、しかし淫具であることが一目でわかるそれらが、無造作に散らかされていた。
私は異常な部屋の光景に、不安を感じた。
部屋の真ん中にはベッドが置かれていて、山の形になった毛布の塊がごそごそと動いていた。
<つづく>
-----------------------------------------------------------
第5章 恵:冷たい家族
-----------------------------------------------------------
(1)

「では、恵君か。よろしく頼むよ」
「はい、先生。何なりとおっしゃってください」
私は深々と頭を下げた。施設を出ることになり、私の後見人として目の前の人物が引き取ってくださったおかげで、何とか社会復帰を果たすことができた。
私が元OOLだとは言え、専属メイドとして召抱えることが出来るということは、この人物はよほどの金持ちか、力のある人物に違いない。なんとしても気に入られなければ……。
派遣先のこの家には目の前の人物。今は病気のため、非常勤の研究医師である先生と、記憶を無くしたせいで、人見知りの激しい自殺願望の少女が一人、住んでいるだけだということだった。
あまり大きい屋敷ではないが、家事と子守が必要なので、たまたま保母の資格も取っていた私に、声がかかったのだった。
メイド兼保母。それが今度の私の新しい仕事だ。
その前は、公娼兼AVモデルだったそうだ。
伝聞なのは、私に過去の記憶が無いからだった。
公娼の前は、福祉施設の性ボランティア。その前はまた公娼。
そして監督官が私に見せたファイルの一番最初の欄にはこう書かれていた。
“23歳、男性。連続婦女暴行致死の罪で起訴。2審で有罪が確定。OOL法適用第58号。”
たったそれだけ。それがどうやら本当の、元の自分だったらしい。
一行しか書かれていないプロフィールには顔写真すらなく、自分がかつてどんな人間だったのか、知る術は無かった。
いや、自分は性犯罪者だったのだ。
だから、その罪の償いとして、性にかかわる仕事に、強制的に心身を供させられていたのだ。
OOLの証である、銀色の腕輪を嵌められて……。
――この体で目覚めた時、私は記憶を失っていた。
そして何も知らされないまま受けさせられた、施設での教育カリキュラム。
自分がなぜこんな目に会わなくてはならないのか、その理不尽さに徹底抗議したところ見せられたのが、例のファイルだった。
なぜ自分は何度も記憶を奪われ、同じような事を繰り返させられているのか、その経緯を一つ一つ詳しく説明された。
始めのうちは監督官の言葉を、身に覚えの無い他人事のように聞いていた。
だが、記憶をリセットされる原因になった経緯についてのくだりを聞かされたとき、私は泣き出していた。
耳をふさぎ目を閉じても、監督官はそれを許さず、過去に繰り返された陵辱と暴行の様子を事細かに説明していった。
そして同じ事を、私も受けてきたのだという。その度に私は体を変え、記憶を奪われて、それを罪の数だけ繰り返してきたのだという。
それからの私は、監督官に逆らうことはせず、ただひたすら従順に、どんなことでも素直に従った。
たとえ覚えていなくても、また同じ経験をするのは嫌だと、強く思っていた。
凄惨な“私の”殺害現場写真……。あんな目に、“自分は”会いたくないと思っていた。
そして数ヵ月後、監督官の“おめでとう”という笑顔とともに、私の左腕に嵌められていた銀色の腕輪が外され、求人票を見せられた――
そして今、私はここにいる。
「では、お嬢様にもご挨拶をしてまいります」
「葵にかい? もうそろそろ昼寝から目覚めるころだとは思うが……」
「では、様子を伺って、起きていらっしゃるようでしたら、ご挨拶をしてまいります」
「あ! いや……、なんでもない。よろしく頼むよ」
「はい」
先生の態度がちょっと気になったが、私は教えられた部屋のドアをノックした。
返事が無いのは、まだ寝ているのだろうか?
『失礼します』と一言声をかけてから、ドアを開け部屋に入った。
「こ、これは……」
部屋の中は先生で埋め尽くされていた。壁と天井は先生の顔や全身を大きく伸ばした写真で埋め尽くされ、至るところに写真立てが並んでいる。そのどれもが先生の姿を捉えたもので、先生の個人的なアルバムからなのか、若い頃の写真もあった。
そして床には、用途の良くわからない、しかし淫具であることが一目でわかるそれらが、無造作に散らかされていた。
私は異常な部屋の光景に、不安を感じた。
部屋の真ん中にはベッドが置かれていて、山の形になった毛布の塊がごそごそと動いていた。
<つづく>
コメント
コメントの投稿
トラックバック
http://okashi.blog6.fc2.com/tb.php/6376-63811855