fc2ブログ

Latest Entries

チェンジ・ライフ・ラプソディー (1)~(4)

20100211初出

作.エイジ 
キャラクター作成.倉塚りこ

        
 竹刀がぶつかり合い、かん高い音が道場に鳴り響く。
「面! 小手ぇっ!」
 相手の連続技が襲い掛かるが、俺はこれを余裕を持って捌く。そして次々にくる打ち込みも俺は余裕で捌き続けた。
 相手が弱いわけじゃない。打ち込みの速さは十分だし、力もそれなりにある。剣道を始めて一年の人間にしてはよくやっているほうだと思う。
 だがそれでも、俺とは力量差がありすぎた。
 それは経験の差(俺は小学校の頃から剣道をやっている)であり。
 そして―――
「胴ぉっ!」
 バァン!
 相手の一瞬の隙をついて放った俺の胴が相手に炸裂し、
「胴あり! それまで!」
 審判が一本と認めて試合が終了する。
 両者、面を脱いで一礼。
「飛鳥 仁次郎(あすか にじろう)対 御島 雪緒(みしま ゆきお)の練習試合は飛鳥 仁次郎の勝利! 両者! 礼!」
『ありがとうございました!』
 そして相手が女子だということだ。


 改めて自己紹介しようと思う。
 俺の名前は飛鳥 仁次郎。今年から三年になり、一応剣道部主将だ。
 剣道の腕はそんなに悪くないと思う。過去何回か個人戦で全国にも行ったしな。
「飛鳥先輩」
 呼ばれて視線を向けると、近づいてくる女の子達の姿が目に映る。
「雪緒。それに月夜(つくよ)、花穂(かほ)も。いったいどうした?」
 先程の対戦相手である御島 雪緒の他に、その姉妹である月夜、花穂も一緒だった。
 ちなみにこの三人は三つ子で、今でこそ区別がつくものの、知り合った当初は左サイドの髪を三つあみにしているのが雪緒。ショートカットが月夜。ツインテールが花穂、と区別していた。
「あの…よかったら一緒に帰りませんか?」
「ついでに夕ご飯も一緒にどーでしょー?」
 雪緒の言葉に花穂が続く。
「夕飯?」
「そうです」
 頷いたのは月夜だ。
「今日はすき焼きだから。私達三人じゃ余っちゃうし…」
「三人って…おじさん達帰ってきてないのか」
 姉妹達はそろって頷く。
 実を言えば、こういう誘いは初めてじゃない。姉妹達の両親はよく家を空けることが多いので、今までにもこうやってお呼ばれされている。
 俺は実家を出て一人暮らしだから正直に言えば凄くありがたいし助かるが…
「いいのか?」
「誘ってるのは私達なんですからいいに決まってるじゃないですか」
「何も問題ありません」
「帰ったらゲームやりましょ、ゲーム。今日こそ勝ちますよー!」
 俺の質問に三人は口々に返してくる。
「わかった。ならごちそうになるな」
 俺がそう言うと、三人は「やった」と手を叩いて喜んだ。


 陽の光が差し込んで俺は目を覚ます。
「う………」
 周りを見てみると、そこにはやっぱり寝転んでいる三姉妹の姿があった。
「…あちゃ~…」
 俺は思わず顔を覆う。どうやら昨日晩御飯を食べた後そのまま寝てしまったらしい。やってしまったって心境だ。
 時計を見ると時刻は五時半を回ったところだった。今から家に帰って今日の学校の準備をしても十分な時間がある。
 よし。そうと決まれば行動あるのみだ。俺は立ち上がり、移動しようとして、
「…ん?」
 違和感に足を止める。順番にその違和感を確かめる。
 まず違和感その1。制服の裾が長い。手足がすっぽりと隠れてる。昨日まではこうじゃなかった。
 続いて違和感その2。髪が伸びている。たぶん腰ぐらいまであるんじゃないか? いくらなんでも伸びすぎだ。俺はこんな長髪じゃなかった。
 最後に違和感その3。胸が膨らんでいる。明らかにおかしい。どう考えてもこれは男の胸じゃない。これは――
 嫌な予感がふくれ上がり、俺はそーっと洗面所へと移動する。そこに鏡があるからだ。鏡を見れば今の自分の姿を見ることができる。
 そして見なきゃよかったと後悔した。
「なんだこれは!?」
 俺の口から悲鳴とも怒号ともつかない声が飛び出す。
 鏡に映っていたのは、今まで見たこともない『女』だったからだ。

飛島仁次郎
(2)
 男なら―――いや、誰でも一度くらいは異性の身体に興味を持ったことはあると思う。もちろん俺もその一人だ。
 部屋にはエロ本の一つや二つはあるし、ビデオもある。これでも思春期真っ盛りの健康な男子だからな。ないほうがおかしいだろう。
 …そう確かに異性の身体には興味があった。知りたいとも思ってた。だからこの状態は念願叶ったと言えなくもない。
 腕は細いし、胸は膨らんでるし、股間にあるはずのものがなくなっている。正真正銘、女の身体ってわけだ。
 だが、だがしかしだ! 俺は「女になりたい」なんて願った覚えは一度もない!!
「どあぁぁっ! 起きろぉぉぉぉっ!!」
 寝こけている三人を俺は乱暴に叩き起こす。
「…う~ん…。もう食べられないよぉ~…」
 ………ぷち。
「そんなこと言ってる場合じゃない! いいから起きろ~!!」
 ふざけた寝言をほざく頭を激しく揺さぶる。
 それが効果があったのか、三人はゆっくりと目を覚ました。
 そしていきなりの沈黙。
「だ、誰ですか!?」
「なにぃ!?」
 雪緒の口から飛び出したのはそんな一言だった。
「…泥棒?」
「きっとそーだよ!」
 そして続く月夜と花穂。
 って。ちょっとまて!?
「…そうですか…泥棒ですか…」
 雪緒はいったいどこから取り出したのか、竹刀を構えて俺を睨みつけていた。
「大方、女しかいないからって一人で侵入してきたんだね。…命知らずにも」
「やっちゃえ! 雪緒ねぇ!!」
 そして残り二人も俺が逃げられないように取り囲んでいた。
 …やばい。退路がなくなった。
 雪緒が竹刀を振り上げる。
「待っ―――!」
「問答無用ー!!」
 バァン!!
 竹刀が俺の頭に炸裂し、俺の意識は闇へと落ちた。


 …え~と…これはどういうことなんだろうな?
 俺は自問自答して、ため息を吐き出す。
「あ。気がついたみたい」
 俺が目を覚ましたことに月夜が気がつく。
 その言葉に雪緒と花穂の二人もこっちに視線を向けた。
 …相変わらず雪緒は竹刀持ってるし。やめてくれよ。おっかない。
「目覚めの気分はどう?」
 最悪だ。それに尽きる。
 だけど俺はそれには答えず、変わりに、
「…なに? この状況?」
「自分でわからない?」
「…わかるが、言いたくない」
「そう。じゃあ花穂。説明してあげて」
 はーい。と陽気に花穂は返事をし、
「えっと。一言でいうと、椅子に縛りつけてます♪」
「これで身動き取れない」
 ああそうだな。ご丁寧にも手首、足首まで縛ってるからな! 身動き取れませんよ、ええ!!
「さて、と。現状確認もできたみたいだし、いくつか聞きたいことがあるの。素直に答えた方がいいわよ? じゃないと…」
「…拷問でもするのか?」
「しないわ。そんなこと」
 さらっと雪緒は言う。
 よかった。どうやらひどい事にはならなさそうだ。
 俺はほっと息を吐く。
「安心してるみたいだけど、拷問しないっていうのは他に方法があるってことよ」
「他?」
 なんだろうか。俺は首を捻る。
 そんな俺の様子に雪緒はにやりと笑みを浮かべて、
「花穂」
「は~い」
 呼ばれた花穂はゆっくりと俺に近づいて…
 ってちょ! ま、まさ―――
「んん!?」
 花穂と俺の唇が重なる。
 こ、これって…もしかしなくても…キス!? な、なんで!?
 俺の頭はパニックになる。
 そしてさらに驚くことが起きた。
「ん、んん~!?」
 な、なんと花穂は舌まで入れてきやがった!
 なんとか押し返そうとするけど、花穂はそれを巧みに避けて俺の口内をなぶっていく。
 くちゅ、くちゅ、くちゅ…。
 ちゅぽ。
「…はあ。はあ。はあ…」
 花穂の唇が離れた時、俺は必死に呼吸を繰り返していた。
「こういう目に合うわ。―――花穂。どうだった?」
「こういう事に慣れてないみたい。処女なのは間違いないね」
 ―――あ
「あたり前だ! キスだって初めてだったんだぞ!?」
 怒鳴りつける。
 俺の言葉に三人は目をパチクリさせて、
『あはははは!!』
 笑いやがった。…うう。悔しいやら恥ずかしいやら…。
「…かわいい…」
 そう言って月夜が近づいてくる。…まったく嬉しくないぞ…。
「やめなさい月夜。…さて、じゃあ質問するわね? 答えなかったら…どうなるかはわかるでしょ?」
 月夜がにじり寄ってくる。
「じゃあ質問。あなたは誰? なんでこの家に入ってきたの? 飛鳥先輩をどこにやったの?」
「…え?」
 意外な質問が雪緒の口から飛び出し、俺は目を丸くする。
 雪緒はその態度に若干苛立った様子で、
「あなたが着てる制服、飛鳥先輩のでしょ? なんで先輩のをあなたが着てるわけ? 先輩をどこにやったの?」
 そう。確かに今俺が着てるのは学校の男子制服だ。そしてこの制服のポケットには名札を入れていた。だから俺のものだと特定することは不可能じゃない。
 だけど言って信じるか? 今の俺がその本人だ、なんてこと…。
「黙秘? ならどうなるかわかってるわよね? 言っておくけどその子、花穂より容赦ないわよ」
「月夜ねぇはタフだからね~。ギプアップなんてさせてくれないよ?」
「…二人共、失礼…」
 月夜は二人に不満気な声を上げる。
 そして俺に視線を戻し、目を細めた。…それは獲物を狙う蛇を連想させた。
 や、やばい! このままだとマジでやばい!!
「ま、まて! 言う! 言うからちょっとまて!!」
「…まったく。最初からそうしてればいいものを…。それで? 質問の答えは?」
 呆れた様子で言う雪緒。
 それに色々と思うところはあるが…ひとまず保留だ!
「俺が飛鳥 仁次郎なんだよっ!」
 ………………
「へえ…。面白いこと、言うのね…」
 沈黙を破ったのは雪緒だ。その声は静かだが…
「あなた自身が飛鳥先輩? へえ~…」
 間違いなく怒ってるぞ、これ!?
「そ、そうだ! 信じてくれ!!」
 俺がたじろぎながらも必死に出した声は、
「ふざけないで! 飛鳥先輩は男よ!!」
 雪緒の怒声によってかき消されてしまう。
「あなたの態度はよ~くわかったわ。―――月夜!」
「ん」
 月夜が近づいて…うわ~!?
「やっ! ん。んん~!?」
 またキス~!?
「手加減しなくていいからね! 徹底的にやっちゃいなさい!!」
 月夜はこくりと頷くと、花穂の時と同じように舌を入れてくる。
 そして、それだけじゃなく、月夜は制服のボタンを外すと胸を揉んできやがった!
 ふにゅふにゅと月夜の手によって形が変わっていく乳房の様子がわかる。それに伴って頭に霞がかかってくる。
 …や、やばい…思考がまともにできない…。身体に力も入らない…。
「んっ…ふぅ…くぅ…」
 いつの間にか月夜はキスをやめ、胸を弄ぶことに集中していた。
 月夜の手が動くたびに身体に痺れが走り、声が漏れそうになるのを必死で堪える。
 だけど、
「声、出して」
 月夜がそう言って乳首を甘噛みすると
「あうっ!?」
 俺の抵抗など無意味、とばかりに声が漏れてしまった。
 それに気をよくしたのか、月夜はさらに激しく責め立てる。
「ふぁっ。あっ。ああっ」
 声が止まらない。止められない。
 どうしたら。どうすれば…。
「や…め…ろ…。月夜…」
 弱々しく静止の声をかけるのが精一杯だった。
 もちろん、そんな声で月夜は止まらない。
 右手で胸をいじりながら、左の乳首を吸い、残った左手をゆっくり股間へと移動させていく。
「だ…めぇっ…! や…め…てぇ…!」
 必死に哀願するが、月夜の手は止まらず、股間へと…
「月夜ねぇ、ストップ!」
 ピタッ。
 花穂の声に月夜の動きが止まる。
「…なに?」
 たずねる月夜の声は明らかに不機嫌そうだ。
「その人の言ってること、本当かも」
 花穂のその言葉に、残りの二人は目をパチクリさせた。
「…花穂。先輩は男よ? そんなバカなことあるわけないでしょう」
「まあ、確かにそうなんだけど…。でも私、昨日ちょっと先輩のお皿にこれを入れてね?」
 そう言って取り出したのは小さな瓶だ。中には透明な液体が入っている。
「なにそれ?」
「え~と…。なんでも性転換する薬…だとか?」
 …は
「はあ!?」
「お父さん達が送ってくれたものの一つで…。月夜ねぇも知ってたでしょ!?」
 花穂は月夜に話題を振る。
「月夜!?」
「あ、うん。知ってた。…忘れてたけど」
「なんで止めないの!!」
「だって効くとは思わなかったし…。私は先輩が女の人になってくれたら嬉しかったし」
「私も~。まさか効くとは思わなかったな~♪」
「…じゃあ…この人は正真正銘…」
 おそるおそるといった様子で雪緒はこっちを振り向く。
 俺はただ一言、
「…ほどけ」
「は、はい!」
 雪緒はあたふたと縄をほどく。
 自由になると俺はすくっと立ち上がり、乱れた服を直すと、
「バカたれ~!!」
 力一杯怒鳴って外へと飛び出した。

(3)
 バカバカバカバカくそバカァ~!
 俺は胸中で叫びながら路上を爆走していた。
 さっきの事が頭から離れない。
 キスをされ、胸を愛撫され、それに感じてしまい、あんな声まで上げて…
「~~~っ!!」
 恥ずかしさのあまり顔から火が出そうだ。
 しかも相手は月夜と花穂…。
 正直言って信じられない。…信じたくない。
 あの様子だと雪緒もなんか慣れてるっぽかったし…
「ああ…」
 足を止め、がっくりと肩を落とす。
 こんな身体になったことといい…夢なら早く覚めてくれ…
「…そこの君。一体なんの用かね?」
「…え?」
 うなだれていた所に声をかけられ、俺は驚いて声の方向に視線を向ける。
「うげ」
 その途端、自分の顔が歪むのがはっきりとわかった。
 声の主はそんな俺を見て、
「なんだそのゴキブリの死骸でも見たような顔は。失礼極まりないな、まったく…」
 なんつー嫌なたとえだ。…そしてそれがあながち外れてもいないから恐ろしい。
 こいつの名前は―――面倒だし、口にも出したくないから省略。要は俺が嫌いな先生で、そして多くの生徒にも嫌われている先生だという事だけを認識していればいい。
 ―――なぜか極一部の生徒には好かれているようだが。
 本当に、なぜか。
 まあ、それはさておき、
「すみませんでした。では、俺はこれで―――」
 早々に退散しようとしたが、
「待ちたまえ。君はまだ私の質問に答えていない。一体なんの用でこの学校に侵入した?」
「…学校?」
 言われて辺りを見回してみると、成程、確かに学校の校舎裏だった。
 どうやらいつもの習慣で無意識に来たらしい。
 考えてみれば当然だよな。先生(こいつ)がいるくらいだし。
「とぼけるな。その制服はうちの学校のものだろう。なぜ男子用を着ているのかは不明だが…」
 それは昨日まで俺が男だったからです。
「まあ怪しい事に変わりはない。では再度聞くが、君は一体なんの目的でこの学校に侵入した?」
「え、えっと…それは…」
 答えられない。というより答えようがない。
 そんなうやむやな俺の態度に、
「答えない…か。まあいいだろう。答えは指導室で聞かせてもらおうか」
 うげ!?
 先生の言葉に顔が引きつる。
 冗談じゃない! 指導室になんか誰が行くか!
 即時撤退! 逃げるが勝ちだ!!
「あ、こら!!」
 背後から聞こえた声は当然無視。
 俺は猛ダッシュで逃げ出した。


 背後、人影なし。左右も同様、人影なし。
 少なくとも俺の視界に映る範囲内に人影はなし、と。
 どうやら逃げ切ったと判断してよさそうだな。
「ふう」
 息をつき、警戒を解く。
 …しかしこれからどうするか…。
 確かにアイツが言った通り、今の俺は不審者そのものだからな…。長く学校にいるのは得策じゃない。
 …だけど今帰るのもなぁ…。なんか雪緒達が待ち伏せしてそうだし…。せめて帰るのは授業が始まる時間まで待ちたいところだ。
 そうなると問題はどこで時間を潰すか、だが…。
 部室は論外。町中は今の時間何もやってないだろうし。…そうなると…。
「―――おっ」
 一人の男子生徒の姿を捉え、俺は声を上げる。
 知り合いだ。友人と言ってもいい相手だった。
 ちょうどいい。あいつの所に匿ってもらうとしよう。
 俺は近づいて、
「よう」
 といつも通りに声をかけた。
 そして帰ってきたのは…沈黙。
 ………………
「…誰だ? あんた」
 ………やっちまったぁぁぁぁ!!
 俺は思わず頭を抱えて座り込んだ。
 そうだ。そうだよ! 今の俺の姿を見ても誰だかわかるわけないんだよ!!
 ああああぁぁぁぁどうしよおおおぉぉぉぉ…
「おい…?」
 声をかけてくる。…その声に若干の怯えと不審があるのはしょうがないよな。
 でもホント、どうすれば…
「っ!?」
 かすかな足音が耳に届き、俺はビクッ! と身をすくませた。
 や、やばい! 先公が近づいてくる!!
 俺はすくっ! と立ち上がり、
「じゃ、じゃあまたな!!」
 そう言い捨てて逃げようとするが、
 ガシ。
「待て」
「は、離せ!」
 振り解こうとするができなかった。いつもならこいつに力で負けることなんかないのに。
「なんで逃げるんだ」
「追われてんだよ!」
「誰に…って、ああ」
 俺の格好を見て、追ってくる相手が誰なのか悟ったらしく、成程と頷いている。
 そして予想外な事を言い出した。
「ならうちの部室に来い。匿ってやるよ」
 …は?
「いいのか?」
「かまわないさ。今、部室には誰もいないはずだしな」
「いや、そういうことじゃなくて…」
 はっきりいって不審者以外の何者でもないぞ? 俺。
「かまわないと言ったろ。それに…」
「それに?」
「あんたとは初めて会った気がしない」
 …不覚にもじ~んときたぞ。今の言葉。
「こっちだ」
 先導していくその背中が…やけに頼もしく見えた。

(4)
 目の前に扉には『柔道部』の文字が書かれたプレートが貼り付けてある。ただそのプレートは古ぼけていて、もうほとんど文字が読めないくらい色あせているけど。
「ここだ。早く入ってくれ。誰かに見られると厄介だ」
「あ、ああ」
 言われて入ると、まず最初に感じたのは臭いだった。強烈な汗の臭い。そして部屋全体の湿気臭さ。…きついにもほどがある。
 俺は思わず、
「すまんが窓開けてくれ」
「あ…悪い」
 そう言って窓を開けてくれる。…外から入る風が気持ちいい。
「…やっぱり臭いか? この部屋」
「あ、いや…」
 そう答えながらも俺はしまったと思った。
 こっちは助けてもらった身で、一応初対面(実際は違うけど)なのに。図々しかったかもしれない。
 俺のそんな心を読んだのか、そいつは笑って、
「別に怒ってるわけじゃないさ。ただこの部屋は臭いっていつも言ってくるやつがいるんだよ。あんたと一緒で窓を開けろって言うのも同じ」
 その『いつも言ってくるやつ』とは間違いなく俺のことだろうな。ここに来る度いつも言ってるし。
 …ただ正直、ここまで臭くはなかったはずなんだが…。いったいどれだけ放置してるんだ、ここは。
「俺は特に臭いとは思わないんだが…」
「…最低限の換気はしておけ。それだけでも大分違うから。個人的には消臭もオススメするけどな」
 俺はジト目を浮かべてそう言ってやった。
 …『慣れ』って怖いな…。
「さて」とそいつは前置きして、
「本来なら飲み物でも出すところなんだろうが、あいにくこの部屋にはそんなものはなくてな。だから自己紹介から始めさせてもらう。俺の名前は高島 直樹(たかしま なおき)。あんたは?」
「………」
 答えようとして…言葉に詰まる。
 どう答える? 素直に事情を説明するか? だが説明して信じてもらえるのか? 俺自身、未だに信じられないのに。
 それなら偽名を使うか? 当たり障りのない事を適当に言って誤魔化すか?
 ―――この場ではそれが最善だろうな。わざわざ相手を混乱させる必要は―――
「名乗れない…か。まあ、当然だな。不審者だし、あんた」
「あ…その…」
「気にしなくていい。こっちが勝手に助けただけだから。ほとぼりが冷めるまでここにいてくれ」
 そう優しく言う直樹の言葉に、俺の若干の怒りを感じ取り、焦る。
 このままじゃダメだ。信じてもらえるかなんて問題は後回し。まずは説明しなくては。
 直樹が立ち上がろうとし、
「まっ―――」
 それを止めるため、俺も慌てて立ち上がろうとして―――
 
 グキ。

「っと!」
 足首を捻り、バランスを崩して直樹に受け止められる。
「大丈夫か?」
 尋ねてくるが、それに答える余裕は俺にはなかった。直樹の顔を見据え、ただ必死に、
「説明する。俺が誰なのか、どうしてこんな姿になってるのか全部説明するから。だから待ってくれ。頼む」
「わ、わかった。わかったから離れてくれ」
「本当だな? わかってくれたんだな!?」
「嘘は言わないっ。だから離れてくれっ!」
 じーっと俺は直樹を見つめる。―――言葉通り、嘘はなさそうだな。ならよしっ。…でもなんでそんなに顔が赤いんだ?
 疑問に思いつつ、俺は離れようとし、
「っ!」
 響いた足の痛みに動きが止まる。
「…どうした?」
「…足をくじいた。動けない…」
 直樹はため息を吐いて、
「…保健室、行くか?」
「行けるわけないだろ。…多分しばらくすれば治まるはずだから。悪いけどもう少しこのままでいさせてくれ」
「…わかった…」
 直樹が頷いたのを確認し、俺は直樹の胸の中で痛みが治まるのを待つ。
 う…。しかし冷静になるとめっちゃ恥ずかしいぞ、この体制。まるで直樹に抱きしめられてみたいじゃないか。
 耳に響く心臓の音は一体どっちの音なのか…。
 ああ…頼む。このまま何も起きないでくれ…。
 だが、そんな俺の祈りは届くことはなかった。
 突如なんの前触れもなく扉が開き、
「おう、直樹。仁もいるんだろ。遊びにきたぜ~♪」
 入ってきたのはサッカー部の主将で友人の一人でもある鳳 勇助(おおとり ゆうすけ)だ。
 勇助は俺達を見るなり驚愕して、沈黙。そして次に真顔になり、

飛島仁次郎挿絵01


「すまん。邪魔したな」
 そう言って右手を上げ、あっという間に部屋から出て行った。
 その時間、およそ数秒。驚異の早業だ。
 そのあまりの早さに俺達は呆然としていたが、しばらくして我に帰り、
『ちょ、ちょっと待てえええぇぇぇぇっ!!』
 慌てて追いかけた。


「ほほう…。つまりさっきのは倒れたその娘を抱きとめただけで、それ以上の他意はないと?」
 柔道部部室。
 去っていった勇助をとっ捕まえ、連行した俺達は先程のことを説明していた。
 もちろんそれだけじゃなくて、どうして俺がここに来ることになったのか、そのあらましも説明してある。
『当然だ!』
 俺達二人の声が重なる。そしておそらく想いも同じだ。
 すなわち『それ以上のことがあってたまるか!』。
 そんな俺達の態度に勇助はやれやれと首を振り、
「で、そこの変な格好の君は大丈夫なわけ? 足」
「ああ…平気みたいだ」
 言われて気づく。もう足がまったく痛まないことに。
「そりゃよかった。―――じゃあ聞いてもいいかな? 君の正体と目的を」
 勇助が言う。直樹はなにも言わないが、きっと同じ気持ちだろう。
 俺は意を決して、
「俺の名前は飛鳥 仁次郎。おまえらが知ってる正真正銘の飛鳥 仁次郎だよ。学校に来た目的は、特にない。なんでこんな姿なのかは…一言でいえば、薬を盛られたからだ」
 俺の言葉に二人の反応は、
『………………は?』
 …だよな…。
「…信じられないのも無理はないが、俺としては信じてくれ…としか言いようがない」
「…信じてくれって言われてもな…。まあ、確かに色々と重なるところはあったが…」
 直樹はそう言って複雑な表情を浮かべる。
 一方、勇助は、
「………………」
 ただ無言で俺をにらみつけていた。
 かと思いきや、
「…一つ確認、いいか?」
「かまわないが…」
「俺達二人が女子の身体で一番好きな場所ってどこだ?」
 なんだそんなことか。
 俺は拍子抜けしつつも、
「直樹が腰。勇助がうなじ、だろ?」
 ちなみに俺が好きなのは尻だ。どうでもいい事だが。
 俺があっさり答えると、二人は驚愕して、
「…おいおい…」
「マジで仁かよ…」
「って信じるのか? 今の答えだけで?」
 正直簡単すぎる問題だったぞ。
 二人は頷いて、
「こんなこと、女子が知り得るはずないからな」
「俺達二人は特殊だし、あてずっぽうじゃ答えられねぇよ」
 成程。そういうもんか。
 まあ、経緯はどうあれ信じてもらえたみたいでなによりだな。
 俺はホッと息を吐く。
 すると、勇助がずいっと近づき、
「しっかし…まあ…」
「な、なんだよ…」
「いやあ、ほんとに女だよな~って。―――触ってもいいか?」
 そう言って勇助はわきわきと手を動かす。
 俺はもちろん、
「死ね」
 と一言で切り捨てた。
「ケチだなあ。直樹には抱きついたりしたくせによ~」
 ぶっ!?
「あれは違うと言っただろうが! 事故だ事故!!」
「でも抱きついたのは事実だろ? 女になった仁の感触はどうだった? 直樹」
「柔らかかったな」
 うおおお~い!? 
「…女っていうのはみんなあんなに柔らかいのか? それとも仁が柔らかいのか?」
 首を捻る直樹。…そんなの俺が知るかぁっ!?
 勇助は笑いながら、
「さあ? もう一回抱きしめて確認すればいいんじゃね?」
「そうか。仁、すまないがもう一度―――」
「誰がするかぁっ!!」
 アホなことを言う直樹を蹴り倒し、
「勇助! それ以上ふざけたこと抜かすなら今ここで締め上げる!!」
「きゃ~♪ 仁ちゃんこわ~い♪」
「誰が仁ちゃんだ!!」
 ふざけた調子で逃げる勇助を俺は追いかける。
「…あまり部室で暴れるなよ」
 倒れたままの直樹がポツリとそう呟いた。 

<つづく>

コメント

多忙の中再編集の要望を聞いて下さってありがとうございます
エイジさんの文章も倉塚さんのイラストも大変美味しゅうございました

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

http://okashi.blog6.fc2.com/tb.php/6776-15ed09f0

この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

«  | HOME |  »

FANZAさんの宣伝

 

初めての人はこちら

ts_novel.jpg

 

性の揺らぎに関する作品でお勧めのもの

ts_syouhin_20090318225626.jpg

 

性の揺らぎに関する作品(一般)

ts_syouhinもと

 

FANZA専売品コーナー

ブログ内検索

 

最近のコメント

プロフィール

あむぁい

  • Author:あむぁい
  • 男の子が女の子に変身してひどい目にあっちゃうような小説を作ってます。イラストはパートナーの巴ちゃん画のオレの変身前後の姿。リンクフリーです。本ブログに掲載されている文章・画像のうち著作物であるものに関しては、無断転載禁止です。わたし自身が著作者または著作権者である部分については、4000文字あたり10000円で掲載を許可しますが、著作者表記などはきちんと行ってください。もちろん、法的に正しい引用や私的複製に関しては無許可かつ無料でOKです。適当におだてれば無料掲載も可能です。
    二次著作は禁止しません。改変やアレンジ、パロディもご自由に。連絡欲しいですし、投稿希望ですけど。

 

全記事表示リンク

月別アーカイブ

 

最近の記事

 

カテゴリー

新メールフォーム

イラスト企画ご案内

20080810semini.jpg

 

リンク

RSSフィード

2024-02