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投稿TS小説 魔封の小太刀(5)

 秋の日は釣瓶落としとはよく言ったもので、五時を過ぎると大分暗くなる。俺は涁が来るまでの間、校舎の北東側に来ていた。
「ここみたいだな」
 目の前には風雪に角が削れた四十センチ程の高さの石があった。振り向き、見上げると校舎の非常階段が少し錆びた姿をさらしていた。
 馬場高志、千草奈緒香、大東文香の三人の遺体が相次いで発見された場所だ。
『元々何かを封じていたのだろう』
 宝珠丸の言うとおり、何かが「いた」感じはあった。それもよくない何かが。空気が澱みあまり気分がいいところではない。
 その原因がどこに行ったのか、俺には今近くにいない位しか解らなかった。宝珠丸が何も言わないところを見ると、奴も解らないのだろう。
 亡くなった三人の想いが伝わってくるかと思い、石のそばで膝を折った。地面に触れても何も残っていない。
『おい、見られているぞ』
 背後の気配は俺も気づいていた。
「何、してるの? 一人で来ることじゃないよ」
 明らかに不信感のある声だった。以前は良く聞いた声の主が背後から尋ねてきた。
「……昼間、話に聞いたので、ちょっと。えぇっと……」
「遠藤。ここ、みんな怖がって来ないんだよね、呪われるって。御厨さんて呪われたい人?」
 隙のない歩きで音もなく近づいて、立ち上がった俺と殆どぶつかるくらいで止まった。
 今の俺の身長が155センチ。それよりもかなり高いところから見下ろされている。瞳を逸らさないその視線は、真実を知っていると訴えているようだ。
「呪われたい訳じゃなくて……」
 そんなことじゃない。俺は男に戻るために目の前の仕事を片づけたいだけだ。しかし、それを言うことはできない。替わりに何を言えば……あ、そうだ。
「ムーが好きなだけです」
 未だにムーが何か解らないが、取りあえずこれで良い筈。
 しかし遠藤は顔を歪めていた。
「ふぅん? 御厨さんて、真性のあっちの人なんだ」
 言いながら彼女は一瞥をくれて立ち去って行った。
『お前、シンセイノアッチとは何だ?』
「さぁ? なんだろうな?」
 宝珠丸も俺もたくさん疑問符をつけながら、そこをあとにした。

「はははっ、お前『ムー』好きって言ったのか?! 笑わせ過ぎだ!」
 迎えに来ていた涁が、今日の教室内での話を聞いた途端笑い出した。滅多に笑わない奴に何を大笑いされたのか解らない俺は、ぶすっとして少し早歩きで、そして涁から視線を外した。
「まぁ、いいか。その方が話しも聞き易いだろ?」
「……涁の方は何か判ったのかよ」
「話し方気をつけろ。安西のことを中心に聞いてきた。大分魔に取り込まれてたみたいだな」
 それまでとは打って変わって真面目な表情になる。
「どんな感じだったって?」
「安西は怪奇系のサークルを作っててな、学校の怪談を探ってたらしい。特に鬼門にある石な。人喰い石とか言われていて、何年か前に生徒がいなくなったと」
 あの石には魔が潜んでいた蹟はあったけど、人が取り込まれた感じは無かったな。
「最初は一人で調べてたようだ。それが一月くらい前か、人が変わったように攻撃的になったらしい」
「馬場はどこに出てくるんだ?」
「スポーツもできる、勉強もできる馬場君は、安西の中学からの友人だった。仲も良かったらしい。安西はあんまり明るくなかったみたいで、周囲とも壁があったようだ」
 何となく解った。魔に魅入られた要因は安西は妬みにあったんだろう。あいつらは心の隙を上手く突き、取り入って、そして最後には喰らう。
「という話から推察すると、馬場は安西に、安西は魔に、その他二人も魔に殺されたんだろう。対外的には安西以外は自殺になるだろうけどな」
「毎度のことだけど、よく調べてくるよな」
 こと、調査に関して涁の能力はすごいと思う。しかし折角褒めたのに顔を背けてしまった。
「あ、あぁ。これが仕事だ。で、どこに潜んでるのかは解らないのか? 動向が解らないのはあまり好ましくねぇしな」
『それ程心配する相手でもなかろう。小物に過ぎぬ。こちらが動いていれば、気になって自ら出て来よう』
 どちらかと言えば、俺も涁の意見に近い。なるべく慎重に事を運びたい。しかしあまり悠長に時間を使うのも本意ではないのだ。
 できれば相手から出てきて欲しい。その方が早く片づけられる。
「こっちは石の方をもう少し見てみる。涁は大東の方。あ、もしかしたらそっちに出ることもあるかも知れないから、取りあえず気をつけて。学校にいると助けに行けないから」
「自分の身くらい自分で守る」
 注意を促しただけだというのに、何か気に入らないのか涁は大股で先に行ってしまった。

* * * * * * * * * * * * * * * *

 二三日の間、安西の意志を持ち、人外の力を振るう魔は、なかなか現れなかった。
 その間の学校生活では生徒たちとも大分打ち解けてきた。からかい半分か興味本位なのか、お化けの話や怪奇現象について語ってくる男子や女子が多くなっていた。
 楽しくないと言えば嘘になる。それ自体はいいのだ。ただ、俺の仕事にとって実りある話では無かった。
 俺自身がみんなに対して負い目がある事もその理由の一つだろう。正体を偽っているというのは、結局、騙しているのと変わらない。
 それに、次第に女としての生活に慣れているのがイヤだった。話をすればするほど、女言葉を使わなくてはならないのだ。涁やおやじ殿の前で自然に女言葉がでてしまった時は、暫く落ち込んでしまった。
 学校では遠藤の視線がどこにでもあり気が抜けず、家では自分の「慣れ」に気をつけなくてはならず、気を抜けるのは部屋くらいしかない。それすらも、おやじ殿がいつ覗きに来るか判らない。
 しかし、今日、その状況も変化の兆しを見せた。
 他のクラスか上級生か、見覚えのないいわゆるヤンキーな生徒が安西の事で話しがあると言ってきた。時間は放課後、場所は遺体発見現場。
 次の展開が読めそうで、早く授業が終わって欲しいと願ってしまった。
 何が起こるにせよ、これが足がかりになって、仕事を終えられる。終われば本当の自分を取り戻す為に動ける。
『吾の言った通り、動きが出てきたのぅ』
 嬉しそうに宝珠丸が言う。
(ああ、これで進展しそうだな。今日は力を借りるかも知れないぞ)
『吾はいつでも構わん。喰えればそれでよい』
(太刀と同じ働きをしてくれればいいさ)
 俺は頭の中で話をしながら、いそいそと指定の場所に向かう。
 あ、涁に一応メールを出しておくか。
 携帯メールには短く「事件を知っている生徒と現場にて会う」とだけ打ち込み、送信した。
『良いのか? 待たずとも。一応兄だろう』
(相手は子どもだ。何も案ずる事などないだろう?)
『過度な自信は慢心に通ずる』
 慢心などしていない。己の剣の腕を考えての事だ。涁の力を借りなくても、できる。

 これまで封魔の太刀を使っていた時には、太刀を振るうだけで魔を封ずる事ができていた。ある程度力のある魔の場合、複数の人間を操る事ができるのだが、俺は構わず太刀を振るってきた。後先を考えずに。
 しかし太刀のない今、それではだめなのだ。宝珠丸の力がどの程度か判らないし、その度に力を借りていたら、いつか俺は男の記憶を喰われ尽くし女でいる事を当然と思ってしまうだろう。
 だから俺はやり方を変える事にした。安西を殺した魔はどこかに潜んで、新たな獲物を探しているだろう。そこに俺が来たのだ。当然、何者かを探りに来る。別の無くしてもいい人間に憑いて。だから封じる素振りだけ見せれば、人間から出ていき本体のところに戻るに違いない。
 それを追えば確実に追い込める筈。
 ただ憑かれた人間の気を失わせても魔は出ていかない。その方法は宝珠丸が知っていた。
『吾の言う通り呪符を書け。それを貼れば魔は出て行かざるをえんし、再び入れぬ』
 宝珠丸がなぜ知っているのか疑問だが、今はその知識が心強かった。

 現場は校舎の角が重なり死角になっている。しかし複数の人の気配があった。
「話があるとは言われてましたが、こんなにたくさんの話が聞けるとは思いませんでした」
 三人の男子たちが目の前にいるが、それ以上の気配を感じる。見ればそれぞれ魔にとり憑かれて、目が死んでいる。
「すごく重要な話なんだぞ。重要なんだ、お前にとって、俺たちにとって重要」
 言動がおかしい上に涎を垂らし手招きしている奴ら。まともな神経なら近づかないだろう。でも、俺は違う。
(宝珠丸、頼むぞ)
『任せろ』

<つづく>

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