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投稿TS小説 魔封の小太刀(6)

 身を低くして一番近い男子に向かってダッシュした。肩から下げたカバンから素早く呪符を取り出したのと同時に呪符を相手に叩き付ける。
 崩れ落ちる男子から黒い気が抜けだしていく。
『おい! 来るぞ』
 背後から放たれた蹴りをバッグで受け止めた。そう思った。
「うっ?!」
 バッグごと一メートルくらい飛ばされ、尻餅をついてしまっていた。体術の稽古でも涁にだって倒されたことは無かったのに。
 素早く立ち上がり再度ダッシュしつつ、バッグを相手の顔目掛けて投げ、死角を利用して呪符を貼った。
 これで二人。視界の端に新手が三人見えた。男子が倒れた左方から三人目が掴みかかろうと手を伸ばす。そこにタイミング良く右回し蹴りで中段を狙う。
 ところがまたはじき飛ばされ相手に背を向け倒れていた。
『お前、今の自分を忘れたか』
 そう、だった。今は見た目通り、力の出ない女の子でしかない。それなのに男の時と同じ攻撃をしては通用するはずもない。俺の培ってきた体術は、人より力のある魔を相手にしては効果がない。どんどん不利な状況になっていく……しかし剣術なら。
(小太刀!)
 左手が熱くなったと思うと、白鞘の柄じりが現れそれを掴んで抜き出し、立ち上がりながら構えようとした。
「!」
 脇腹に強烈な痛みが走り、思わず跪いていた。そして男子三人に手足を押さえ込まれてしまった。
『馬鹿め! 油断しおって』
 宝珠丸に言われても言い返せない自分が情けない。
 俯せの体に力を入れてもビクともしない。……これが女の力なのか……。
「あはははは。女、変な技を使うが、お前なんか目じゃないぞ。俺は力を手に入れたんだ」
 こいつは安西の意識なのか? それとも喰われた彼の意識をトレースしているだけの魔なのか。
「自分の力じゃないだろう? 使わせて貰っているだけのくせに」
「……直ぐに殺してやろうと思ったが、止めた」 
 一人、手の空いた者が背後に回った。
「何を、ひゃあ?!」
 内腿に少しひんやりとした不気味な感触が走った。撫でられた!
 これから起きる可能性がある、色んな事が頭を一杯にしていた。そして。
(犯される?!)
 そう思った途端、パニックを起こしていた。
「女子の癖に儂の事を詮索したのが間違いだ! たっぷりとその身に教え込んでやるっ」
「わあああああっ」
『下郎! 吾に触れるな!』
 スカートの中に手を入れられるのと同時に宝珠丸が叫び、何事か唱える。次の瞬間には手足の戒めは無くなっていた。同時に、自分の体だと言うのに自分の意志とは違う言葉が口から飛び出した。
「吾の体に触れるとは……不埒千万よ。その罪、自らの命で償え!」
『か、体が?! 宝珠丸、お前なのか?』
 宝珠丸はそれに答えず、俺の体は小太刀を抜きさり手足を押さえていた三人の胴を次々と薙いだ。俺は目を瞑る事もできず切られていく奴らを見た。
 血しぶきを上げながら、それが黒い霧のように霧散していく。
 残りの一人が視線に入る。体は小太刀を振り上げ猛然と突進した。
 目の前の男子生徒も迎え撃とうと、普通では考えられないくらい大きく口を開け、長い牙が見えた。
 小太刀が振り下ろされた刹那、生徒の体が横に飛んで行った。
「やめろっ、玲!」
 叫びながら体当たりを喰らわせた涁が立ち上がり俺の両肩を掴む。
 その声に反応するかのうように、俺は自分の体の感覚を取り戻した。
「宝珠丸、一体どういう事なんだ!?」
『今はそれどころではないぞ』 
 涁の背後で倒れた生徒が立ち上がるのが見えた。迎え撃とうとすると涁に押しとどめられた。
「お前は手を出すな! いいな!」
 言い放ちながら振り返り、掴みかかってくる相手の懐に当て身を喰らわせた。それでも動く生徒に、涁はどこに持っていたのか呪符を叩き付けていた。

 魔に支配されていた生徒は、それが抜けると自分が何故ここにいるのか解らない風だった。涁は残った生徒を帰らせると、その場に座り込んでいた俺に向かって言った。 
「お前、自分が何をしたか解ってんのか?」
「あれは……俺じゃなくて」
「いいか、俺たちは人に徒なす魔を祓うのが仕事だ。魔が取り憑いているからって人を傷つけて良い訳じゃないぞ。ましてや」
「解ってるよ。けど、あれは俺じゃない」
 そんな事をわざわざ言われなくても解ってる。生徒を切った時のシーンが目に焼き付いて離れない。
 生徒の肉体はこの世からなくなりはしたが、俺が、俺の身体が殺した事実は変わらない。
 両の掌を見ながら、俺は今さらながらに事の大きさを想い、震え出していた。
『全く、気の弱いことよ』
 元はと言えば宝珠丸がしたことだ。今まで黙っていた癖に。
 涁にも聞こえたのかきょろきょろしながら、誰の声だと聞いてくる。
「宝珠丸、どういうことなんだ? 俺の体を好きに使えるなんて聞いて無いぞ」
 立ち上がりながら、目の前にはいない者に向かって言った。あまりに怒っているためか声が震えていた。しかし宝珠丸は気にした風でもない。
『話しておらぬからの。掻い摘んで言えば、お前の体に取り込まれている吾は、一心同体のようなもの。もし、お前が傷つき死にでもしたら、吾も二度と日の目を見ること叶わぬ』
「て事は、玲の体はお前の支配下にあるのか?」
 事態を把握しかねている涁が、俺に向かって言った。
『そうではない。こいつの心の隙が無くては如何に吾でも無理だ。先ほどは乳を揉まれて泡を喰っていたからのぅ』
「ぅうるさいっ、びっくりしただけだ! 二度と無い!」
 頬が熱くなるのが解った。それを隠すために怒鳴っていた。
「セクハラなんぞ、おやじで慣れてるだろうに」
「女がそんなの慣れる訳ないだろ?!」
 自分で言っておきながら、もの凄く違和感を感じた。この場合の違和感、それは、自分の性別を女と言っておきながら、違和感が全くない事だ。俺は「男が」と言うべきじゃなかったのか? 俺は元々男なんだから。
「なんだ? どうした?」
 突然、フリーズしたように動かなくなった俺に、涁が不思議そうな顔を見せていた。
「あ、や、ちょちょっと待って。え? あれ?」
 自分が今の性別になったのは、例の賊のせいだ。今は女でもその時まで男だった。その記憶をどんどん遡っていくと、ある時期に女の子だった自分に突き当たる。
 ある筈の無い少女時代の記憶が、何故ある?
『何を混乱しておる。吾の力を貸したのだ。約束通り戴いたまでの事』
「あ……」
 俺はぺたりと座り込んでいた。頭の中で宝珠丸の笑い声がこだまする。
 過去の記憶の性別が反転している。涁と一緒に稽古をしていた姿。しかしそれは男の子ではないのだ。それなのに、イヤだとか、戻せとか、そんな感情が生まれてこない。意識と記憶の上流では女である事を容認しているせい? 俺の思い出の筈なのに、他人の過去を振り返っているような、覗きをしているような感じがしていた。
 宝珠丸と約束したとき、考えていたようで考えていなかったのか。
 今はだま、「違っている」と、「そうじゃなかった」という事実を認識できている。しかしこの先、宝珠丸の力を借りていれば、何れは……記憶の不整合に違和感を感じなくなる、そんな日が来るのだろうか。
 俺は白刃の前に丸裸で立っているような、そんな怖さを急に感じて背筋が寒くなっていた。
「大丈夫か? 玲?」
「あ、うん……」
 よたよたと涁に伴われ、学校をあとにした。頭が一杯になって、まともな考えも纏まらない俺には、周囲に気配を押し殺した人物がいたことを気づけなかった。

<つづく>

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