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いつきといつみ(1)
by.ありす
キャラデザ&挿絵 まさきねむ

双子の兄妹、いつきといつみ。
俺はいつきと大の親友で、いつみの方は俺の彼女だった。
俺にとっては、どちらもかけがえの無い、二人だった。
二人は珍しい異性一卵性双生児で、顔も姿かたちも、とても良く似ていた。
本人たちもそれを楽しむかのように、同じ髪型、同じ服を着たり、あるいは男女互いの制服を交換しては、周囲を戸惑わせたりしていた。
俺も何度、いつみたちにだまされたことか……。
けれど突然、妹のいつみのほうが事故で死んでしまった。
あまりにも唐突な不幸から、俺は立ち直れずにいた。
いつきのほうは比較的早く立ち直ったようだが、俺は駄目だった。
俺にとって、いつみはかけがえの無い、恋人だったのだから。
いつきはそんな俺を心配して慰めてくれたが、それは俺の救いにはならなかった。
実の兄であるいつきのほうが本当は辛い筈なのに、俺は自分でも情けなかった。
夜になると俺は、いつみと良くデートをした公園で、一人で考え事をしていることが多かった。
そんなある日のことだった。
いつもの様に公園のベンチにうつむいて座り、いつみとの思い出に浸っていた。
街灯の明かりが作った影が、俺の足元に伸びてきて止まった。
「健くん」
聞き覚えのある声に、俺ははっとして顔を上げると、そこにはセーラー服を着たいつみが立っていた。
「い、いつみなのか?」
「いつまでもこんなところにいたら、風邪をひいちゃうよ?」
「じょ、冗談はよせよ……。いつきなんだろう?」
「私は、いつみよ。健くん」
「じゃあ、幽霊なのか? とうとう俺、おかしくなっちまったのかなぁ?」
俺は顔を両手で覆い、俺の心が生み出した幻ならば、消えて欲しいと思った。
だが、いつみの姿をした「誰か」は俺の手を握り、自分に触れさせた。
彼女の手は、生きている人間と同じように、温かかった。
「幽霊なんかじゃ、ないよ」
「いつきのいたずらなんだろう? じゃなきゃ、他人の空似だろ。からかうのはやめてくれよ!」
俺は頭を振って、握られた手を振り払った。
「見て……」
そういうと、彼女はセーラー服の胸元をはだけ、下着を見せた。
淡いピンク色のブラジャーに包まれた小さなふくらみに、俺の目は釘付けになった。
「これで、いつきじゃないことは判ってくれた?」
彼女の声に我に返った俺は、慌てて顔をそらし、手を振って言った。
「わ、わかった。もういいよ」
彼女もやはり下着を晒したのが恥ずかしかったのか、こちらに背を向けてセーラー服を直した。
「じゃあ、今度は私がいつみに良く似た、他人ではないことを証明する番ね」
そういうと、彼女は俺との思い出を話し始めた。
初めて告白したときの事。
遊園地での初めてのデート。
夕暮れの公園で初めてキスした日のこと。
二人でこっそり家を抜け出して見に行った、真夏の夜の流星群。
どれもこれも、いつみと俺しか知らない、二人だけの時間だった。
「いつみ……。本当にいつみなんだな?」
「だから、はじめからそう言っているじゃない」
「いつみ……いつみぃ~!!」
おれは、いつみを抱きしめた。
いつみを確かめるように。
いつみがもう二度と、俺のそばからいなくなってしまわないように。
「痛いよ、健くん……」
「…… ご、ごめん」
いつみのくぐもった苦しそうな声に、おれはようやく落ち着きを取り戻し、いつみの体から離れた。
いつみは胸に手を当て、少しうつむいて言った。
「私ね、夜の間しかこうしていられないの」
「夜の間、だけ?」
「この体はね、いつきの体を借りているの。いつきが眠った夜の間だけ、体を借りているのよ」
「いつきの……?」
「そう。私たち双子だったからね。死んだ後もつながっているの」
「そ、そんなことが……?」
いつきといつみは、確かにとても兄妹仲が良かった。
兄弟のいなかった俺は、そんな二人がうらやましくて、だからこそ俺も二人と友達に、近くにいたいと思ったのだった。
「だからね、健くんが私のこと忘れることができなくて、ずっと悲しんでいてくれたことも知ってた」
「……」
「だからいつきも、とっても心配していた。健くんのこと。だからね、『僕が眠っている間、いつみに僕の体を貸してあげるよ』って言ってくれたの。だから、私はこうしてまた、健くんの前に現れることができたのよ」
「いつきが?」
「あんまり親友に心配かけちゃ、駄目だぞ! 私だって心残りになって成仏できないわ」
そう言って、俺の額を人差し指で小突いた。
俺が落ち込んでいた時、いつみはよくこうして元気付けてくれたっけ……。
「そ、そんなこといっても……。俺は」
「駄目だなぁ、健くんは……。じゃあ、しょうがない。暫くの間だけ、夜になったらいつきに体を借りてあげる」
「本当か? 本当に、これからも会ってくれるのか?」
「うん。でもあんまり長くは、駄目だよ? 健くんが元気になったら、おしまい」
「う……、それじゃ、俺元気になりたくない……かも?」
「元気になってくれないのなら、もう会ってあげない」
「そ、そんな……」
「ねぇ、判ってる? いつみはもう死んじゃったの。だから判って。ゆっくりで良いから……」
「あ、ああ」
「“はい”でしょ?」
「は、はい」
「うふふ……」
「え、えへへ……」
彼女がにっこりと笑うと、俺もつられて笑った。
俺の心の中に、暖かいものが戻ってきたような気がした。
それが、俺たちの再会だった。
<つづく>
キャラデザ&挿絵 まさきねむ

双子の兄妹、いつきといつみ。
俺はいつきと大の親友で、いつみの方は俺の彼女だった。
俺にとっては、どちらもかけがえの無い、二人だった。
二人は珍しい異性一卵性双生児で、顔も姿かたちも、とても良く似ていた。
本人たちもそれを楽しむかのように、同じ髪型、同じ服を着たり、あるいは男女互いの制服を交換しては、周囲を戸惑わせたりしていた。
俺も何度、いつみたちにだまされたことか……。
けれど突然、妹のいつみのほうが事故で死んでしまった。
あまりにも唐突な不幸から、俺は立ち直れずにいた。
いつきのほうは比較的早く立ち直ったようだが、俺は駄目だった。
俺にとって、いつみはかけがえの無い、恋人だったのだから。
いつきはそんな俺を心配して慰めてくれたが、それは俺の救いにはならなかった。
実の兄であるいつきのほうが本当は辛い筈なのに、俺は自分でも情けなかった。
夜になると俺は、いつみと良くデートをした公園で、一人で考え事をしていることが多かった。
そんなある日のことだった。
いつもの様に公園のベンチにうつむいて座り、いつみとの思い出に浸っていた。
街灯の明かりが作った影が、俺の足元に伸びてきて止まった。
「健くん」
聞き覚えのある声に、俺ははっとして顔を上げると、そこにはセーラー服を着たいつみが立っていた。
「い、いつみなのか?」
「いつまでもこんなところにいたら、風邪をひいちゃうよ?」
「じょ、冗談はよせよ……。いつきなんだろう?」
「私は、いつみよ。健くん」
「じゃあ、幽霊なのか? とうとう俺、おかしくなっちまったのかなぁ?」
俺は顔を両手で覆い、俺の心が生み出した幻ならば、消えて欲しいと思った。
だが、いつみの姿をした「誰か」は俺の手を握り、自分に触れさせた。
彼女の手は、生きている人間と同じように、温かかった。
「幽霊なんかじゃ、ないよ」
「いつきのいたずらなんだろう? じゃなきゃ、他人の空似だろ。からかうのはやめてくれよ!」
俺は頭を振って、握られた手を振り払った。
「見て……」
そういうと、彼女はセーラー服の胸元をはだけ、下着を見せた。
淡いピンク色のブラジャーに包まれた小さなふくらみに、俺の目は釘付けになった。
「これで、いつきじゃないことは判ってくれた?」
彼女の声に我に返った俺は、慌てて顔をそらし、手を振って言った。
「わ、わかった。もういいよ」
彼女もやはり下着を晒したのが恥ずかしかったのか、こちらに背を向けてセーラー服を直した。
「じゃあ、今度は私がいつみに良く似た、他人ではないことを証明する番ね」
そういうと、彼女は俺との思い出を話し始めた。
初めて告白したときの事。
遊園地での初めてのデート。
夕暮れの公園で初めてキスした日のこと。
二人でこっそり家を抜け出して見に行った、真夏の夜の流星群。
どれもこれも、いつみと俺しか知らない、二人だけの時間だった。
「いつみ……。本当にいつみなんだな?」
「だから、はじめからそう言っているじゃない」
「いつみ……いつみぃ~!!」
おれは、いつみを抱きしめた。
いつみを確かめるように。
いつみがもう二度と、俺のそばからいなくなってしまわないように。
「痛いよ、健くん……」
「…… ご、ごめん」
いつみのくぐもった苦しそうな声に、おれはようやく落ち着きを取り戻し、いつみの体から離れた。
いつみは胸に手を当て、少しうつむいて言った。
「私ね、夜の間しかこうしていられないの」
「夜の間、だけ?」
「この体はね、いつきの体を借りているの。いつきが眠った夜の間だけ、体を借りているのよ」
「いつきの……?」
「そう。私たち双子だったからね。死んだ後もつながっているの」
「そ、そんなことが……?」
いつきといつみは、確かにとても兄妹仲が良かった。
兄弟のいなかった俺は、そんな二人がうらやましくて、だからこそ俺も二人と友達に、近くにいたいと思ったのだった。
「だからね、健くんが私のこと忘れることができなくて、ずっと悲しんでいてくれたことも知ってた」
「……」
「だからいつきも、とっても心配していた。健くんのこと。だからね、『僕が眠っている間、いつみに僕の体を貸してあげるよ』って言ってくれたの。だから、私はこうしてまた、健くんの前に現れることができたのよ」
「いつきが?」
「あんまり親友に心配かけちゃ、駄目だぞ! 私だって心残りになって成仏できないわ」
そう言って、俺の額を人差し指で小突いた。
俺が落ち込んでいた時、いつみはよくこうして元気付けてくれたっけ……。
「そ、そんなこといっても……。俺は」
「駄目だなぁ、健くんは……。じゃあ、しょうがない。暫くの間だけ、夜になったらいつきに体を借りてあげる」
「本当か? 本当に、これからも会ってくれるのか?」
「うん。でもあんまり長くは、駄目だよ? 健くんが元気になったら、おしまい」
「う……、それじゃ、俺元気になりたくない……かも?」
「元気になってくれないのなら、もう会ってあげない」
「そ、そんな……」
「ねぇ、判ってる? いつみはもう死んじゃったの。だから判って。ゆっくりで良いから……」
「あ、ああ」
「“はい”でしょ?」
「は、はい」
「うふふ……」
「え、えへへ……」
彼女がにっこりと笑うと、俺もつられて笑った。
俺の心の中に、暖かいものが戻ってきたような気がした。
それが、俺たちの再会だった。
<つづく>
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