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アリスドール最終話(18禁)

アリスドール最終話



「はいセンセ、お弁当」
「ああ、ありがとう」

午前中、ハルカさんに教わった料理の成果をお弁当箱に詰めて、ボクはカズヤと二人で研究所の屋上でランチタイムを過ごしていた。
ボクは制服のスカートが汚れないように、雨ざらしのベンチにハンカチを敷いて、自分の分の弁当箱を取って座った。

「やっぱりお弁当は外で食べる方がおいしいよね。 カズヤ先生もそう思うでしょ?」
「ああ、そうだな」
「相変わらず、そっけないなぁ。たまには気の利いたセリフの一つぐらい、言ってみたらぁ?」
「オマエ、オレが女たらしみたいなセリフ言うのを、聞きたいのか?」
「そうじゃなくて! もう、いいよ!」


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今回のドールの設定はなぜか女子学生だった。そのおかげで毎日難しい勉強だの体育だの料理だのと、学生時代に戻ったかのような生活を続けさせられている。カリキュラムのモデルは、お嬢様学校(?)のそれらしく、アナクロチックな良妻賢母を育てるための、華道だとか茶道とか社交ダンスなど、”この時代にいったい誰がやっているんだ?”と首をかしげるようなものも多かった。振袖や大胆なカットのナイトドレスを着せられるのはまだいい。だけど体育の授業で、スクール水着だとかレオタードまで着せられるのには閉口した。それを”先生役の一人”である、カズヤにもじろじろ見られるわけだ。で、もってその夜には必ずボクを求めて来る。カズヤとエッチするのもいい加減慣れたけど、そのキッカケがイヤだ。プライベートルーム以外では、ほとんどしたことがなかったのに、最近ではスキあらば何処でもボクを求めてくる。そんなときの会話は決まってこんな感じだった。
『この変態ロリコン教師!』
『変態のそしりは甘んじて受けるとしても、ロリコンなのはオマエのせいだ』
『ボクのせいじゃないよ。製造コストの問題だって、いつもいってるだろ!』
何体ものドールを調律してきたことによって、リンクシステムのデータベースも充実してきた。だから、必ずしもエッチなことをしなくても良いのだけど、そうはいっても若いボクらの好奇心が満足することはなかった。むしろ積極的に奇妙で新鮮な性生活を楽しんでいた。しかしいくらなんでも限度ってもんがあるだろうに!!


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カズヤはボクの作ったお弁当を、ほとんど無言で食べ終えた。

(やっぱりおいしくなかったのかな? 別にほめてくれなくても良いけど、なんか傷つくよな。こういうの!)
「なぁ、オレのこと、好きか?」
「え? なぁに? やぶから棒に。 ……キライなわけ、ないじゃない?」

さては、エッチの前フリか? と一瞬警戒したけど、ボクはドールの心理パターンに、ヘンな癖が付かないように少し感情を込めていう。まぁ、素直に”スキ”って言ってもよかったんだけど、ちょっとぐらい拗ねたっていいよね。

「それが、オレが設定した”心理暗示”であってもか?」
「どうしたの? 先生と生徒の禁断の恋人関係に飽きたとか? それともこれも何かの心理テスト?」
「まじめに聞いてくれ、オレのこと、信じられるか?」

カズヤの声には、いつにない緊張感があった。

「信じてるよ、友達だから。長い付き合いだもんね。例えドールの心理暗示に影響を受けていなくたって、ボクはカズヤのこと信じてるよ」
「オレも、オマエを信じている」
「何か、あったの?」
「さっき、新しい心理暗示を設定した。もうすぐ効果が出てくる」
「ええ? いったい、今度は何を始め……」
「オレはこれから、オマエをレイプする」



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アリスドール5 ~友達だから~

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「カズヤ、何を言ってるんだよ。ヘンな冗談は止めてよ」

だけどカズヤは、じっとボクの顔を見ているだけで、何も答えなかった。
やがて、唐突にボクの心に変化が起きた。不快感とそれよりももっと大きな恐怖を感じて、全身が小刻みに震え始めたのだ。原因は……カズヤ!?
ボクは持っていた弁当箱を落としてしまった。あわてて拾おうとするボクの手をカズヤが掴んだ。同時に凄まじい嫌悪感がボクを襲う。

「いやぁっ、離して!」

思わずボクは叫んでしまった。こんなことで自分が叫んだことが信じられなかった。そしてカズヤを見ると、恐怖の感情は更に倍化させられた。カズヤの顔を見るだけで、背筋を冷たいものが走る。

「……なんで? こんな事……」

さっきまで楽しいランチタイムを過ごしていた記憶は確かにある。それだけじゃない、愉快な会話、研究所のみんなとの馬鹿騒ぎ、ロマンチックな夜……。同じ時間を共有したはずの目の前の人物から、激しい負の感情が奔流となって僕に流れ込んできている。こんなの有り得ない筈だった。
こんなの、おかしいよ!

「大人しくしていれば、痛い目にはあわせない」

ボクはその言葉を聴くなり、ドアに向かって駆け出していた。カズヤの声を聞くことさえ辛くなっていた。カズヤがボクを追いかけ、後ろから叫ぶ。

「待て、逃げても無駄だ! オマエの位置は常にリンクシステムと、この建物の警備システムが把握しているんだからな!」

そんなことはボクだってわかってる。だからといって逃げ出さずにはいられなかった。

屋上から逃げ始めたボクは、次第に階下へと追い詰められていった。研究所の玄関のドアは、ボクがいくら叩いても開くことはなかった。もっともリンクシステムの中継器を持って出ない限り、外へ出たとしても動ける範囲は限られている。それよりも所内に人の影が無いことのほうが不気味だった。ハルカさんの姿もどこにも見えない。いつもなら、呼ばなくても困っているボクの傍に、いつの間にか現れて助けてくれたりするのに。そしてそのことは、この忌まわしい出来事が、カズヤの気まぐれなんかではなくて、研究所で計画された”調律”プログラムであると言う事を示していた。
(どこにも逃げ場は無い、誰も助けてはくれない!!)
それでもボクは、本能的に逃げるということをやめることが出来なかった。”その時”を少しでも遅らせようと体を動かし続け、不安と絶望がすぐそばに迫りながらも、諦めきれない。”狩られる者”の恐怖を、ボクは味あわされていた。

ロビーやカフェテリアのある地上階から中庭へ抜け、更に換気塔を兼ねた地下へと続く非常階段を、息を切らせて駆け下りた。最下層の鉄のドアを開けると、小さな緩衝部屋の向こうに物々しいドアが現れた。完全に行き止まりだった。ここで追いかけてくるカズヤに反撃し、隙を突いて今来たのと反対方向に逃げ出せば、まだ逃げられるかもしれない。だけど、それを何度繰り返せばいいんだろう? いずれはやはり追い詰められ、カズヤの餌食となることは明らかだった。
第一、ここに逃げ込んできただけで、ほとんど体力を使い果たしてしまっている。
ボクは行く手をさえぎる、大きなドアのプレートをうらめしげに見つめた。



ALICE-DOLL PROJECT
LINK SYSTEM
Central Institution

AUTHORIZED PERSONS ONLY 



「ここは……? リンクシステムの本体?」

ドール体を移り変わるときに使うチャンバールームや、リンクシステムの端末は、地上の施設にあったが、ボクと直接接続されている本体は地下にあった。厳重に管理されている区域のため、ボク自身も立ち入ったことはなかった。いや正確にはボクの記憶にはなかった。
生体認証式のロック装置に手をかざし、小さなカメラホールを覗くと、意外にもドアはあっさりとボクを認識して開いた。大型の冷蔵庫のような機械が立ち並ぶ迷路を辿っていくと、その中心に薄明るく光る硝子のシリンダーがあった。近づいてみると中には人の形をした何かがいた。



「これは……、ボク?」

液体に満たされた硝子のシリンダーにゆらめいていたのは、生身の……本当のボクの体だった。

「こんなところに、ボクはいたんだ……」

体のあちこちに何本ものケーブルが繋がれ、シリンダーの上下へと伸びていた。
目は閉じられていて、まるで眠っているかのようだった。
奇妙な感じだった。今のボクはドールの体にリンクされて、体の外から本当のボクを見つめている。

「髪、伸びたな……」

ドールの調律を始めて、既に1年以上がたっていた。伸びた髪が肩の辺りにまで届いていたが、不思議なことにほとんどひげは伸びていなかった。それになんだか体全体がほっそりとしていて、胸の辺りが僅かに膨らんでいるようにも見える。

「……まさか、本当に女の子になっちゃったんじゃ?」

股間の辺りは排泄でシリンダー内が汚れないためだろう、男の象徴は太いチューブのようなものに隠れてよくはわからなかった。

シリンダーの中の自分に、気をとられていたのがいけなかった。
いきなりボクは強い力で二の腕を掴まれた。振り返ると薄暗い照明に、青白く光るカズヤの険しい表情が浮かんでいた。

「……カ、カズヤ」
「もう、逃げられないぞ」
「やめて! 放してよっ!」

自由になる方の腕で、カズヤの手を振りほどこうと精一杯抵抗するが、細い腕をがっちりと握られてしまっていてビクともしない。
ボクはカズヤの足を踏みつけて逃げようとしたが、次の瞬間頬を叩かれていた。
一瞬目の前が明るくなり、僕は気を失いそうになった。ジリジリと痛む頬を押さえながら、ボクはカズヤを睨み付けた。

「……思いっ切り、ぶったね」

だけど、カズヤはまったく動じようともせずに睨み返す。
掴まれていた二の腕に加えられていた力が、ふっと緩んだ。逃げるチャンスとばかりに身構えた瞬間、今度は反対側の頬をさっきよりももっと強い力で張り倒された。ぼくはその力に耐え切れず、シリンダーのすぐ傍まで転がされてしまった。
短いスカートがまくれ上がり、履いていた下着が露になる。痛む頬をさするよりも、両手で広がったスカートに手がいったのは、ボクに施された調律の成果だった。カズヤはスカートの裾を押さえたボクの両手を片手で掴んで、ボクの頭の上で床に押さえつけた。

「おとなしくしていれば、痛い目にあわずに済んでいたのに」
「な、何勝手なこと言って、ぎゃっ!」
ボクの頬に3度目の衝撃が走る。
そしてカズヤは、ボクの制服の胸のところに手をかけると、一気に引き裂いた。ブラに包まれた胸の膨らみが晒される。

「や、やめてよ、こんなところで!」
「うるさい! まだぶたれたいのかっっ!!!」

カズヤの大きな怒鳴り声が、耳だけでなく、ボクの全身を震え上がらせた。
ボクは涙が溢れてくるのを抑えることができなくなっていた。痛いほどに締め付けられている両の手首にも力が入らず、細くて長い両足もがたがたと震えて、例え立ち上がれたとしても、歩くこともできなかっただろう。

「おねがいだよ、こんなことやめてよぉ……」

開いた口から出るのは、恐怖に震える小さな懇願の叫びだった。
それを全く意に介さないかのようにブラが引きちぎられ、体格の割には大きめの乳房が震えるようにこぼれ出た。そしてスカートの下の、貞操を守る唯一のささやかな防壁さえ乱暴に剥ぎ取られてしまった。
そしてカズヤはズボンのファスナーを下ろし、猛り狂った凶器をとりだした。

「ううぅっ……、カズヤぁ。ひっく、やめてよぉっ! せめて……、こんなところでだけは……」
泣きながら訴えるボクを、透明な筒の中の”本当のボク”が見下ろしていた。薄開いたように見える目が、男に陵辱されようとしている自分をあざ笑うかのようだった。
何の前技もなく、カズヤがボクの中に無理矢理侵入してくる。その痛みに耐えかねて悲鳴をあげると、剥ぎ取られた下着を口に突っ込まれた。激しく腰を打ちつけられながら、ボクはどうしてこんなことになってしまったのかを考えようとしていた。
意に反して強姦される放心状態のボクでは、カズヤも満足できなかったのだろう。乱暴な行為を中断し、ボクをうつぶせに転がすと、こういった。
「そういえば、こっちはまだしたことがなかったな」

そう言って、後ろの穴に指を突っ込んだ。それは今までに感じた最高のショックだった。
口枷代わりに押し込まれた下着がこぼれ、ボクは絶叫した。

「いやぁーーーーっ!!」

だがその叫びもむなしく、ボクは本当のボクの前で汚された。

ボクが奪われたのは、アナルバージンだけじゃなかった。



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カズヤは惨めに乱れた制服を体に巻きつけたボクを背負い、部屋へと連れ帰った。
おぼろげながらに、その道中にハルカさんが、悲しそうにボクの頬に残った、乾いた白い筋を指で辿ったのだけを覚えている。
部屋のベッドに転がされたボクは、理不尽で辛いこの出来事が、”これはただの調律の一つに違いない。部屋に戻れば、いつものカズヤに戻ってくれる”と、僅かな期待をしていた。だが、そのささやかな望みも絶たれた。破かれた制服も下着も全て乱暴に剥ぎ取られ、手に手枷を、首には首枷を嵌められ、鎖でベッドに繋がれた。
そしてあらかじめ用意していたのか、さまざまな道具でボクを弄り始めた。
両の乳首にはローター。前後の穴に同時にバイブレータを突っ込まれて捻りまわされ、クリトリスはクリップのようなものでつまみ出された。執拗な淫撃に何度も気絶させられては、頬をたたかれたり、電気ショックで無理矢理に意識を取り戻させられる。嵐のような性拷問が終わっても、股間の2つの穴には常に何かが挿入され、一時も快感を搾り出そうとする淫具の蠕動が、止む事はなかった。

カズヤはリンクシステムに何度も干渉し、さらに過酷な”調律”を加えた。
刺激を受けすぎて感度の鈍ったボクを、バイブやオモチャで否応なく感じさせられる体に再設定した。同時にカズヤを見たとたんに快感が苦痛に変わり、ボクの痴態をなじる言葉は憎悪と怒りを掻きたてる様にもした。ボクの体は気持ちいいと言う信号を送り続けてくるのに、ボクの心はそれを断固拒否しようと抵抗するのだ。
そうかと思うと、今度はカズヤの顔を見つめ、その手で直接弄ばれないと感じない体に再設定される。恐怖と憎しみの対象から受ける性的陵辱以外の手段では、ドール体に投与された薬物で疼き続ける体を満足させてはくれない。そしてその行為は毎日毎日、気を失うまで繰り返された。ボクの反応が弱まれば、また新たな陰虐の手段を試されて、絶叫するまで性器を弄ばれる。
物理的刺激や電気パルス、薬物、得体の知れない拷問器具まがいの装置、想像を絶する肉体への蹂躙。自分でもよく耐えられたと思った。

そしてひととおりのことを試し終わったのか、カズヤは男性型のVR体を持ち出して、輪姦行為まで始めた。誰がリンクしていたのかは知る由もなかったが、複数を相手に無理矢理に体を開かされ受ける辱めは、この上ない羞恥心と屈辱だった。泣いて叫んでも強引に押さえつけられ、同時に何箇所もの穴を、飢えた人獣たちによって思いのままに蹂躙された。VR体は無言で機械的な反応しかしなかったのが、せめてもの救いだった。




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何日が過ぎたのだろう。ある日目覚めると、ボクはきちんと服を着せられ、陽の光の差し込むベッドでまどろんでいた。
僅かに開けられた窓からはさわやかな風が舞い込んでいて、穏やかな雰囲気に満たされていた。
(ボクは、夢を見ていたのか?)

「起きたか?」

いつの間にか、カズヤがやってきて、そばに立っていた。

「カズヤ……」

カズヤがボクを見てにっこりと微笑む。いつものカズヤだ。

「起きたのなら、セックスしようか?」
「え? 今なんて??」
「セックスだよ」
「カズヤと?」
「そうだよ。いつもしてたじゃないか、これからしよう」
「え、ちょっ、ちょっと待って、カズヤ何を言って……」

何かがおかしい、この時ボクは初めて違和感に気づいた。着ている服は女の子のものだったし、そう言えばなんだか声も高い、自分の声じゃないみたいだった。それにここ何日か分の記憶が無い。いや、そもそもどうしてボクはこんなところにいるんだろう?

「いったい、ボクどうしちゃって? 何でこんな格好してるんだ?」
「うまく行ってるみたいだな。リンクシステムの記憶領域を一部だけブロックしてみたんだ。もっとも効果は長続きしないけどな」
「な、何言ってるんだ? カズヤ……う、んむむぅ~」

疑問の言葉の後半はキスで塞がれた。カズヤとキスしてる? どうして? 男同士なのに!?

「ぷはっ! や、止めろよ ! こんなこと!!」
「どうしてだ? いつもしていたじゃないか?」

そういいながらカズヤがボクに迫り、背中に手を回しておとがいを持ち上げてまたキスをした。
痺れるような、甘酸っぱいような感覚が全身を駆け抜ける。感じてるのか? カズヤにキスされて?
カズヤが服のなかに手を入れて、ボクの胸に触れる。下着を付けられていない胸のふくらみに直接触れられると、快感が波のように広がった。なんで? どうして、ボクにオッパイがあるんだ?

「や、やめてくれよ!」

抱きしめようとするカズヤを力いっぱい突き放して、ボクはベッドの上を後ずさった。短いスカートがまくれ上がり、無意識にそれを直そうとして、気が付いた。下も履いてない?

「なかなか、こういうのもそそられるな」
「ちょ、ちょっと、待ってくれよ! 一体、何がなんだか、説明してくれよ、カズヤ! 何でこんなことになってるのか!」
「直ぐに思い出すさ。ちゃんと、オマエの体が覚えているよ」

”体が覚えてる”、カズヤの言葉に、ボクはゾクゾクっとした。カズヤが言っていた”セックス”。それが何を意味しているのか、その時のボクにはわからなかった。だけどそれが気持ちよくて、危険なものであることだけは認識できた。

「か、体って……”せっくす”とかいうのをすれば、思い出すって言うのか?」
「そうだよ、そんなことも忘れてしまったのか?」
「忘れてしまうってなんだよ? だいいち、そんなこと一度だってしたこともな……?」

なぜだろう? 思い出そうとしてもなかなか思い出せない。そんなことは良くあることだ。だけど今ボクが感じている、これはなんなんだろう?

「さ、服を脱いで」
「ええ? どうして?」
「脱がなきゃセックスは出来ないぞ、それとも脱がせてやろうか?」
「じ、自分で脱ぐからいいよ。本当にちゃんと説明してくれるんだろうな?」

上着はシャツのように一枚着ていただけだったから、直ぐに脱げた。だけどカズヤの視線を感じて、”恥ずかしい”という感覚がこみ上げてきた。自然に膨らんだ胸に手をやって隠す。

「こ、こっち見るなよ!」
「いいねぇ、久しく忘れていた感覚だ。興奮するぜ。早く下も脱げよ」
「し、下も?」

下といっても短いタオルを腰に巻いているようなものだった、脇のホックを外してファスナーをおろしスカートを脱ぐと、女の子の下半身が現れた。やっぱり全身が女の子になってるんだ。顔は? ボクの顔はどうなってるんだろう? 頭に手をやると、後ろでまとめられていた髪のリボンが解けて肩を覆い、顔にもかかった。髪も伸びてる?
戸惑うような仕草のボクに、カズヤが品定めをするように、ねっとりとした視線を絡ませた。

「あ、あんまりじろじろ見るなよ。恥ずかしいんだから」
「なに、直ぐに気にならなくなるさ。ふふふ、おとなしく全部脱ぐなんて、無防備な奴だな」
「そ、そんなこといったって……。無防備ってどういう意味だよ?」
「男の前で、何も知らない女が裸になることだよ」
「カ、カズヤが脱げって言ったんだろ」

この時のボクは”言葉攻め”ということすら忘れて……いや、忘れさせられていた。カズヤの言っている言葉の意味すら半分も理解できないのに、どういうわけか、ゾクゾクするような期待感と不安の入り混じった感情が胸の中を駆け巡っていた。カズヤが迫ってきてボクをベッドに仰向けに寝かせた。

「な、何をするんだ? 男同士でこんなこと……」
「今のオマエは女になってるだろ。わけを知りたかったら、手をどけな。邪魔になる」

しぶしぶボクが手をどけると、カズヤが膨らんだ胸に手を沿わせ、胸の頂点を甘噛みした。

「ひゃうっ!」
「感じるか? どうした? 顔が紅くなってきているぞ」
「ヘンなこと言うなよ、おかしくなりそうだよ」
「おかしくなるんじゃなくて、気持ちよくなっているんだよ。刺激を受けてオマエのカラダが思い出してきているんだ」
「お、思い出すって何を?」

カズヤがぐっとボクを抱き寄せて、耳元で囁くように言った。

「セックスの快感だよ」

ぞわぞわとする快感が背筋を駆け抜けた。何が起きたのか一瞬理解できないほどだった。カズヤはそんなボクの表情を満足げに見下ろすと、開きかけた口を三度目のキスで塞いだ。嫌悪感ではなく快感の波が再度ボクの全身に広がる。下腹部に何か熱いものがこみ上げてくる感覚がする。何の感覚なのかを確かめようとしたら、カズヤがいつの間にか腰に回していた手を滑らせて、滑らかな股間の谷間をなぞりあげた。

「ふわぁああっ!!」

あまりに強い刺激に体がのけぞった。二度やられたら気を失いそうだった。思わず両手に力が入り、カズヤを押しやった。

「どうだ、気持ちいいだろう?」

カズヤが薄笑いを浮かべながらボクに言う。気持ちいいっていうのは間違いないのかもしれない。だけど、口からよだれが出そうになるほどの快感って、なんなんだ? カズヤがボクに何をしようとしたのかを確かめようと下腹部を見ると、濡れて光っているのが見えた。さっきから感じている下腹部の熱く疼くような感覚は、間違いなくここからなんだろう。それをカズヤに確かめられたんだ。

「ほら、もう体のほうは準備できているみたいだぜ」

ぬめぬめと光っているのは、カズヤの指も同じだった。さっき拭い取られたんだ。ボクは頭に血が上り頬が熱くなるのを感じた。カズヤは獲物を狙うような鋭い眼光をボクに放った。肉食獣が空腹を満たすために獲物を狩る時の目。ボクは魅入られたように動けなくなった。
カズヤは服を脱ぎ、ボクと同じように全裸になった。そして、カズヤの股間にいきり立つ、凶器を見せ付けられた。

「な、何をするの?」
「何って、セックスだよ。さっきからそういってるだろう?」
「ボクの体がこうなったわけを、教えてくれるんじゃなかったの?」
「だから教えてやるのさ、オマエの体に」

ボクの目は、カズヤの顔ではなく、禍々しく屹立するものを見つめていた。なんだっけ? たしかあれはボクにもあったはず。だけど、どういうわけか今は無い……女の子だから?? だめだ、記憶が混乱している! それにカラダが熱くなっていて、少しずつ考える力が弱くなってる。

「コレが気になるのか?」
「そ、それをどうするの?」

それは、何も知らない“うぶな女性”が発してはいけない言葉だった。
カズヤはニヤリと笑うと、ボクににじり寄り、その凶器をボクの股間にあてがった。

「あぅっ! や、やめて、なにすんだよ!」
「大丈夫だ、直ぐに気持ちよくなって何も考えられなくなるよ」
「やめろって!」

ボクは腰を捻ってカズヤの行為を阻止した。両手に力を込めてカズヤを思いっきり突き飛ばそうとした……筈だった。

「暴れるなよ、うまく入らないだろ」

そういって、カズヤはボクの手を難なく捕まえると、ベッドに押し付けた。

「な、んで……?」

確かにボクはカズヤよりは体が小さかったから、力ではかなわない。だけどこんなに非力じゃなかった筈だ……体が女になってるから?
カズヤがボクを見る目が怖く感じるのか、体が震えた。同時に熱く疼き始めた股間から、何かがたれてくるような感覚がする。それはこれから行われる、凶事の警告のように感じられた。

「や、やっぱりやめよう! な?」
「いまさらそれは出来ないよ。いくぞ!」
「ふわあああっ!」

カズヤは逃げようとするボクの腰を掴み、一気に挿入してきた。灼け付くような熱い塊が胎内をなぞりあげて進入してくる刺激に、ボクは全身を貫かれていくような感覚がした。だが決して苦痛ではなく、まるでそれこそがボクが望んでいた刺激であるかのようだった。挿し込まれたカズヤのモノの形がハッキリと意識され、脈打つ鼓動はボクのリズムとは違った刺激を伝えてくる。

「あはぁっあ、き、きもちいい……」
「おいおい、”処女”のくせにもう感じているのか? イヤラシイやつめ」

カズヤは腰を使って律動を始めた。ボクの髪と二つの乳房が振り乱される。そして、何よりも内臓をこねくり上げられるような刺激に、ボクはどんどんと高みに押し上げられていくような感覚がした。何度も何度も痺れるような快感の波が全身を駆け巡り、更にもっと強い何かが迫ってくるような、恐怖にも似た期待感がこみ上げてくる。

「はっ、はぁっ、か、カズヤ、だ、だめっ、なんか、クる。も、やめ……」
「怖く、ないさ。はっ……、今より、もっと、気持ちよく、なるぜっ……」
「い、いまよりも? もっと?」
「あ、ああ……、そうだ。 くっ」

平気そうに見えて、カズヤも限界に近かったのだろう、ひときわ高くボクを突き上げたかと思うと、強い力で抱きしめられた。

「くぁうっっはぁっー!!」
「くっ!」

ボクの中で何かが弾けた!! カラダの奥深くに何かが流し込まれていく感覚がする。そして、同時にボクの記憶も蘇ってきた。どうしてこんなことになっているのか、忘れていたと思っていた、この数日の間の出来事も。圧倒されるような情報量と、熱く滾る熱湯のような奔流が、ボクの脳と体を埋め尽くしていった。

「……はぁ、はぁ、はぁ」

カズヤが息を切らせながら、ボクの乱れた髪をかき上げた。
ボクは交錯するあらゆる感情の衝撃に打ちのめさせられていた。その余韻に押し流れそうになりながらも、気力を絞ってカズヤを睨み付けた。悔し涙で、カズヤの顔も滲んで見えた。

「カズヤなんて……、大嫌いだ」
「ようやく思い出したか?」



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カズヤのボクへの調教はまだ終わりじゃなかった。
ボクは再び鎖につながれ、自由を奪われた。そしてカズヤはドールの心理暗示を弄らなかった。ドール体にリンクした、”素のボク”を調教したのだ。自分の表情を読み取られまいと考えたのか、カズヤは仮面をつけていた。卑怯で非道の振る舞いをするカズヤに、ボクは無駄と知りながらも抵抗を続けた。だけど、ドールの体に押された性奴の烙印は、ボクの心を蝕むのに十分だった。次第に抵抗する気力も失われ、カズヤの調教を無抵抗に受け入れるようになっていた。そして自分を辱めるような行為を望む言葉を、無理矢理に言わされた。誰にも言いたくない様な破廉恥な言葉も、ドール体にすら危険な薬物を注射されて、ボク自身の意識から搾り出された。

「あはぁん、カズヤさまぁ、きもちいいですぅ……」

「カズヤさまぁ、もっとワタシをメチャクチャにして、くださいませぇ……」

「あぁん、かずやさまぁ、こんなにいっぱい……。シアワセですぅ」

「かずやさま? きょうはどんなふうに、きもちよくしてくださるんですかぁ?」

際限の無い性宴の果てに、ボクはいつしか考えることをやめていた。
与えられる快感に身を溺れさせ、乾けばまたそれを求める。
絶えず性器を弄ばれてさえいれば、それで他には何も望まなくなっていた。
この体を気持ち良くさせてくれるのであれば、それが何であってもよかった。
ムチで叩かれ、硬い棒を捻じ込まれ、ドールの骨格が軋むほどの苦痛に喘いでも、最後に絶頂に達することが出来れば、どんな仕打ちに晒されることも厭わなくなっていた。

何をされても、喜んで受け入れるようになってしまった奴隷のボクに、カズヤはこういった。

「スナッフ・ムービーって、知っているか?」


そして……ボクは”コワ”れてしまった。



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ボクが正気を取り戻したのは、あの日から10日後の事だった。
絶え間ない性的刺激と薬物と物理的な責めが、ドール体のボクを完全に壊してしまっていた。
研究所のスタッフの総力を上げて、リンクシステムにつながれた本当のボクを一時的に目覚めさせたあと、リンクシステムを再起動して新しいドール体にリンクしなおし、綿密な心理操作を施すことで、ボクはようやく正気を取り戻したのだそうだ。その間のことは全く記憶になかった。
カズヤに陵辱の限りを尽くされたドール体は、記憶領域と心理パターンのバックアップを録った後、廃棄処分が決まった。

目を覚ましたボクを、直ぐにカズヤが見舞いに来てくれたが、経験した禍々しい恐怖と陵辱の記憶はそう簡単に消えず、泣きながらカズヤを部屋から追い出させた。新しいドール体には、いつもよりもずっとカズヤと親密になれるように心理暗示がなされていたにもかかわらず。
そしてそのことが、かえってボクを苦しめることになっていた。
大好きな相手を、深層意識下の自分が激しく拒絶するという苦しみ。
カズヤの顔を見たくて仕方が無いのに、いざカズヤを見るなり苛立ち、いてもたってもいられなくなってしまう切なさ。
カズヤに抱きしめられてキスして欲しくてたまらないのに、手を触れられたとたんに憎悪がこみ上げてくる悲しさ。
カズヤと過ごした楽しい思い出は、カズヤの顔を見たとたんに、禍々しい過去へと変化した。


「酷いよ、ハルカさん。ボクたちにこんな事、するなんて……」

あの出来事が、研究所の計画に沿ったものであった事も、それがハルカさんに責任の無いことも、ボクは知っていた。知っていても、ボクはカズヤに次いでもっとも身近に感じられる、今のボクが唯一会話を交わせるハルカさんを責めずにはいられなかった。

「ごめんね。なんと言って弁明したとしても、あなたたち二人を深く傷つけてしまった償いには、ならないかもしれない」
「どうしてこんな事したの? どうしてカズヤは、こんな酷いことがボクにできたの?」
「詳しくは私も知らないの。ごめんね。でもこれが性犯罪の抑止効果に役立つ貴重なデータだと、そういう説明だったわ」
「性犯罪……?」
「そう、この国の、いえ世界的に性犯罪が急速に多発しているの。原因は良くわからないけど、ある人たちはVR体やアンドロイドがその原因の一つだって主張しているわ」
「VR体が?」
「そう、だからこの研究所だけじゃなくて、いろんなメーカや研究所が、真の原因を突き止め、性犯罪を抑制するためのデータを欲しがっている。あなたたちの貴重な調律データは、どこの研究所も欲しがっているわ」
「だからって、どうしてボクなの?」
「残酷なようだけど、アリスドールのリンクシステムで、ある程度の心理操作が可能な、あなただからできることなのよ。VR体に使うような普通のリンクシステムだったら、人格が崩壊してしまって元へは戻れないでしょうね。ここほどの設備を持っているのは、この研究所だけなのよ」
「…………」
「あなたは、あなたにだけしか出来ないことを、私たちのためにしてくれたのよ。そして、それは世界中の誰かのためにも、きっと役立つことなの」
「……ボクと、同じような目に遭ってる人が、たくさんいるんだ」
「そうね。私もその危険から、無縁じゃないわ」
「ハルカさんも? ……そうか、そうだよね。そんなこと、ちっとも……」
「そうね、ここは安全だから……。だからもう、あなたを酷い目に合わせる人はもういないわ。安心して……」
「カズヤは!? カズヤはどうしてOKしたの? ドールの設定を書き換えれば、あんなこと無かったことにできるって思っていたの?」
「ドールの設定をいくら書き換えても、リンクシステムの記憶領域を破壊しなければ、あなたが体験したことを、あなたから消すことはできないわ」

リンクシステムの記憶領域破壊……それが何を意味するのか、ボクにはわかっていた。
うつむいたボクの手をとり、ハルカさんは続けた。

「カズヤ君はね、最初はこんなことをするの、反対したのよ。でもね、この調律の意義を所長に説得されて、同意せざるを得なかったの。でもね、カズヤ君はこうも言っていたわ。『アイツは友達だから絶対にわかってくれる』ってね。だからね、お願い。私たちはいいけど、カズヤ君だけは赦してあげて。でないと私……、いえ、他のみんなだって……」

いつも明るい笑顔しか見せないハルカさんが、悲しみと後悔の織り交ざった表情でボクに謝った。ボクはそれ以上ハルカさんをなじることはできなかった。見境なく誰も彼をも憎悪するようにならなかっただけでも良かったかもしれないけれど、長年の友情を貫き、それ以上の関係になっていたカズヤと、元通りの関係になれなかったら意味がなかった。

だけど、頭ではわかっているつもりでも、それが何かの足しになるわけでもなかった。それほどボクに刷り込まれた忌まわしい記憶は、鮮明で強力にこびりついていた。

カズヤは、何度ボクが罵声を浴びさせても、物を投げつけて追い出しても、以前と全く変わらない素振りで、毎日何度もボクの病室を訪ねた。あの出来事がなかったかのように、普段どおりの調子で現れるカズヤに、ボクはかえって怒りを募らせていた。



*************************************************

「カズヤ君も毎日、あれだけ怒鳴られながら、よく続けられるわね」
「それが、オレがアイツにしてやれる唯一のことですからね。オレは長年付き合ってきたアイツを、失いたくは無い」
「カズヤ君や私たちには、その方が都合がいいものね」
「ハルカさん?」
「ごめんなさい。私も女性だから、あの子の気持ちが痛いほどわかるの。だからあなただけを責めているんじゃないのよ」
「…………」
「……あの子ね、毎日昔のビデオを見て、声も出さずに泣いているの」
「何の、ビデオですか?」
「『例えオマエがオレのことを忘れてしまっても、オレはお前を忘れない。例えオマエが別人になったとしても、オレは生まれ変わったオマエの傍にいる……』」
「”硝子のキス”ですか……」
「カズヤ君は、あの子みたいに、ビデオを回収しろって騒がないのね」
「本当はオレも、そうして欲しい」
「どうして?」
「あのセリフはアイツだけのものだから。だけど、オレまでビデオを回収しろと言ったら、アイツはオレの言葉が嘘だった、と思ってしまうかもしれない」
「そうかしら?」
「アイツは……、本当は悩んでいるんだ。体を乗り換えたり、オレが調律に都合の良いように心理暗示を設定したりするたびに、違和感を感じながらも、その状況に順応している自分に不安を感じてる。もしかしたら本当の自分は、もうどこにもいないのかもしれないって、怯えているんだ。だからオレは、オレだけはアイツのために変わったりしちゃいけないんだ。アイツが自分を見失ったとしても、オレだけは見失わないように、アイツと約束したことは、無かった事にはできないんだ」
「そう……。うらやましいわ、あなたたちが。私からもお願いよ、あきらめないで。必ず以前の二人に戻って!」
「ええ、もちろん。オレは絶対に諦めない。アイツとは”友達”だから」



*************************************************

ボクは毎日を、泣きながら過ごしていた。
ボクの中にある二人のボク。引き裂かれたボクの胸に、もどかしさと苛立ちと深い悲しみが渦巻いていた。
そしてある日の午後、花瓶の水を取り替えていたハルカさんに、とうとうこんなことを言ってしまった。

「ボクはもうこの仕事辞める。ボクを元の体に戻して!」
「辞めてどうするの? カズヤ君とはもう別れちゃうの?」
「あんなヤツ! カズヤなんか、もう恋人でも友達でもないよ! もう二度と会わないっ!」
「バカッ!」

ぴしゃん! とハルカさんがボクの頬を叩いた。
ジリジリとする頬に手を当てながらハルカさんを睨むと、ハルカさんも目に涙を浮かべていた。

「もう、カズヤとは……。一緒には、やっていけないよ……。どこか違うところへ行って、一人で暮らす」
「そんな悲しい事いわないで! 私ね、あなたたち二人が本当にうらやましいと思っていたわ。仲が良くて、息もぴったりで、信じあっていて。親友同士、いえ恋人同士、ううん、そんな単純なものじゃない。あなたが違う体に乗り移っても、例えドールの心理暗示の影響を受けていても、あなたたち二人の間に通じ合っているものは変わらなかったでしょう? それが何物にも代えがたいほど大切な物だって、なぜわかってくれないの?」
「うぅっ、だけど……。ひっく、だけど……」
「研究所のみんなもね、あなたたち二人が大切だと思っているわ。それはあなたたちが腕のいい調律師だからじゃない。二人が理想のパートナーだからよ。あなたたちは、たまたま男同士に生まれたけれど、どちらか一方が女だったとしても、いいえ、二人とも女同士で生まれたとしても、きっとあなたたちは今と同じように、最高のパートナーになると思うわ。例えどちらかが死んで、どんなかたちに生まれ変わったとしてもね」

泣きじゃくるボクを抱きしめながら、ハルカさんも涙声で続ける。

「永遠の愛と友情……なんて、ドラマの中にしかない夢物語だと思ってた。でもね、少なくとも私は……、ううん、みんなだって、あなたたちにその夢を見ていたのよ。だから、こんな悲しい形で、二人がすれ違ったままだなんて、そんな……悲しいエンドマークなんて、つけないでよっ!」

ボクだって、本当はカズヤと永久に別れてしまうなんて考えられなかった。だけど、このままじゃ、カズヤとはもう……。
ハルカさんに抱きつきついたまま、ボクはどうすればいいのかわからなくて、大声で泣いた。
ボクの心にこびり付いた負の感情を、忌まわしい思い出ごと、涙で流してしまいたかった。
そして泣いて、泣き続けて、いつの間にか泣き疲れて寝てしまっていた。



*************************************************

新しいドール体で歩けるようになるまでは、いつもの倍以上の時間がかかった。
ハルカさんも、研究所のスタッフたちも、今は心のリハビリが必要だからと、調律を急くようなことはしなかった。
そして、一通りの日常生活や家事が出来るようになった頃には、カズヤに対する恐怖心も嫌悪感もかなり薄らいでいた。そうした感情の変化が、2つに引き裂かれてしまったボクの心を緩やかに結合していくようだった。そして以前の自分に戻れるという期待感を芽生えさせていた。カズヤを忌み嫌うボクは本当のボクじゃない。この試練を乗り越えて、元の関係に戻らなくっちゃいけない! ボク自身も、そう考えられるようになっていた。

さらに数日が経ち、言葉少なくもぎこちない会話を、カズヤとすることが出来るようになっていた。
カズヤのくだらない冗談に、多少表情をこわばらせながら、笑顔を見せることができるようになったボクを、ハルカさんは抱きしめて喜んでくれた。
それでも手を触れられると反射的に身を引いてしまうボクに、カズヤは悲しい顔ひとつせずに頭を掻き、笑いながら謝った。それは以前と全く変わらない、カズヤの失敗のごまかし方だった。
記憶のなかにあるカズヤを再発見するたびに、ボクの心は少しずつ癒されていった。


そしてある日の夜。ボクは意を決して、カズヤと暮らしていた部屋に向った。

「カズヤ、起きてる?」
「どうしたんだ? こんな夜中に」
「……一緒に、寝てくれない?」
「怖く、ないのか?」

ベッドから起き出して、部屋の明かりをつけようとするカズヤを、ボクは声で遮った。

「電気はつけないで!」



カズヤはベッドに戻ると、一人には広すぎるベッドの端に寄った。
ボクはゆっくりと、カズヤの隣に横になった。カズヤがそうっと毛布をかけてくれる。
ボクは震える手で、カズヤの手に触れた。カズヤの体にも緊張が走るのがわかったけれど、ボクは恐怖と嫌悪に負けまいと、カズヤの手を握り締めた。カズヤもそっと手を握り返しながら言った。

「無理しなくても、いいんだぞ」
「お願いだから何も言わないで! 何もしないで! 黙ってボクのしたいようにさせて!」

ボクはそう叫ぶと、カズヤに抱きついた。懐かしい匂い、カズヤの匂い。ボクはカズヤの胸に頭をうずめ、カズヤの鼓動を聞く。何よりもボクを落ち着かせる、静かなリズム。
(良かった。まだキライになっていないカズヤの部分がある……)
ボクはパジャマ代わりの大きなシャツを脱いで、直にカズヤを抱きしめた。薄布一枚を隔てて触れ合う刺激が、胸の頂を尖らせる。肌着一枚のカズヤにもそれが伝わっているはずだ。カズヤの手をとり、緩やかな乳房の感触を確かめさせる。一瞬あのときの陵辱劇が脳裏を掠めるが、”何もしないで”というボクの言葉どおりに、カズヤの指が動くことはなかった。そして、カズヤの足に自分の足を絡ませるようにして、腰を押し付けた。
そう、これはカズヤの手を使った自慰行為だった。カズヤがボクを犯すんじゃなくて、ボクがカズヤを使って自分に触れさせているんだ。だからこの行為はカズヤの望んでいる事じゃなくて、ボクが望んでいること。そうでもしなければ、カズヤと肌を重ねることなんてできなかった。そうでもしなければ、以前のようにカズヤとは……。
ボクは毛布の中からずり上がり、カズヤと唇を重ねた。

そして、ボクたちの間に決定的な破局が訪れた。

カズヤの手がそっとボクの背中に回され、重ねあわされた唇の間から、カズヤの舌が求めるようにボクのなかに差し入れられたのだった。ボクは毛布を跳ね飛ばすように起き上がった。空調器の静かな音だけが埋めていた空間に、ぴしゃん!という平手打ちの音が響き渡った。体が震え、熱い雫がボクの両頬を伝った。

「何も……、しないでって、言ったのに……」

じりじりとする右手を押さえながら、泣き崩れるボクを置いて、カズヤは上着を羽織って部屋を出て行った。
そしてその晩は二度と戻ってこなかった。



*************************************************

その夜から1週間たったけれど、ボクはカズヤと会話することが出来なかった。それまで何度追い出しても直ぐにボクの部屋に顔を出していたカズヤも、あの晩以来一度もたずねてくることはなかった。時々食堂で出くわすことは会ったけれど、何か言いたげな様子のカズヤを無視して、離れた席に背を向けて座った。ハルカさんも残念そうに、ボクたちを黙って見守るだけだった。


新しいドールの調律も、ハルカさんや他のスタッフとで終わらせた。退職願いを書いて所長のところへも行ったけど、ハルカさんや他のスタッフも総出で説得された。そしてボクはまた、新しいドール体にリンクして、調律を続けることになったけど、次もカズヤと一緒にするかは決まっていなかった。


そして、”出荷”に向けて次のドール体へとボクの意識を移し変える日が来た。
これからボクが入る空のチャンバー(人工体培養槽)の隣には、同じ型のチャンバーに入った新しいドール体が、目を閉じて眠っている。ウェーブのかかった長い金髪の、妖精のような少女。これが次の体か……。

『新しい体になって、カズヤのこと好きじゃなくなっていたら、イヤだよぉ』

不意に、前にここであった出来事を思い出す。あれは、今思い出しても恥ずかしい。あれは3体目のドールに移り変わる時だったっけ。限定されたスタッフしか入れない完全無菌のこのチャンバールームに、無理矢理カズヤも入れさせた。新しい体で目覚めた時に、カズヤに傍にいて欲しかったから……。仲良しだった頃の二人の思い出が次々と思い出される。思い出は美化されるって言うけど、ボクたちの間にあったことはどれも真実だった。だからこそ、今までずっと互いに助け合って生きてきたんだ。

「どう? 次の体は気に入った?」
「ハルカさん。……うん、まぁね。ちょっと胸が小さいみたいだけど」
「ふふ、カズヤ君は巨乳マニアだもんね」
「ふん! そんなこと関係ないよ。胸が大きい方が、見栄えがいいからさ!」
「あら、ファッションモデルは、みんなスレンダー体型なのよ」

ボクはスタッフに促されながら服を脱ぎ、体にセンサーやプローブをつける準備をした。何人かのスタッフがボクの体の回りに取り付いて、チャンバーとの接続をする。これでこの体ともさよならだ。ボクはまた新しい体になって、また違う自分になって、今度は……。

「次も、……ハルカさんが付き添ってくれるの?」
「ええ、覚醒時に記憶があいまいになったり、心理的に不安定になったりするのを抑えるのは、まだ難しいのよ。だから親しい人が傍にいないとね」
「……そう」
「私では、役立たずかもしれないけど」
「そんなこと、無いよ」
「ねえ、ちゃんとお別れを言った方がよかったんじゃないの?」
「別に……。どうせこの研究所のどこかにいるんでしょ? 3日経って目が覚めたら、いやでもまた会うよ! いいよ、始めて」

ボクは別のスタッフに声をかける。チャンバー本体の台の上に載ると、透明なシリンダーが下りてきて、ボクの周りを囲む。
台の下の方から暖められた液体が少しずつ満たされていく。上部の蓋がされ、チャンバーが密閉状態になる。液体が上までいっぱいに満たされる前に、苦しくならないようにボクの体に接続されたチューブやコネクタから催眠モードへ入るための薬液や、制御信号が送られ始める。ハルカさんが丸めた手に口をくっつけて、シリンダー外筒にあてた。くぐもった声が、ボクに伝わってくる。

「本当は口止めされていたんだけど、カズヤ君は明日転勤よ。前回の調律データを持って、国外の研究機関へ行くの。あなたが会いたく無いって言っていたから、カズヤ君には今日のことは知らせてないわ」
「え? なんだって、ちょっと、止めて!! 待ってよ!!」

ボクは内側からシリンダーを叩いた。しかし充填液がもう腰にまで来て、少しずつ眠くなってきていた。もうこの段階にまできたら途中で止めることはできない。だけど……会いたい! もう一度カズヤと会って話がしたい!

「これは素直になれなかった、あなたへの罰よ。でもね……」

ざわざわというスタッフたちのくぐもった声がしたかと思うと、白衣の男性がチャンバールームに飛び込んできた。
薄れていく意識の中、その人物が誰か……、ボクにははっきりと……わかった。何かを……ボクに伝えようとしている……。
シリンダー越しに……、何を言おうとしているのかは……わからなかったけど、それでも……今のボクにできる方法で……、ボクの気持ちを、伝えたかった……。二人を隔てる透明な壁に唇を寄せて……。

カズヤと……


硝子越しの、キスをした。



*************************************************


3ヵ月後、ボクは研究所のロビーで、ある人物を待っていた。
短期の海外生活を終え、今日この研究所に赴任することになっていた。

「ねぇ、ハルカさん。この服、ちょっと派手じゃないかなぁ?」
「あら、そんなこと無いわ。似合ってるわよ」
「そうかな? 胸元が気になって……。それにヒールは履きにくいよ。やっと歩けるようになったばかりなのに」
「文句言わないの。今日に備えて、とびっきりの衣装を準備したんだから。ほら、車が着いたわよ」

ロビーの中央に立つ、真っ赤なドレスに身を包んだボクを見て、件の人物は一瞬怪訝そうな顔をしたが、すぐに察したようだった。
ハイヒールを履いたボクよりも、頭一つ以上背の高い人物がボクの前に立ち、優しく微笑む。
ボクにとっては懐かしい、でも彼にとっては新鮮な出会いが始まる。
ボクは高鳴る胸を両手で抑えながら、一歩を踏み出した。


「はじめまして、カズヤさん。私はアリスっていいます。 お友達から、始めてくれますか?」




ありす
2005年12月08日(木) 01時19分49秒 公開

<ご本人と支援所管理人さんのご許可を得て転載させていただいてます>

テーマ:官能小説 - ジャンル:アダルト

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