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アリスドール第4話 (18禁)
アリスドール4 ~ 日々是平穏? ~
□10月10日(リンク初日)-------------------------------------------------
「目が覚めたか?」
「……んん、カズ、ヤ……?」
「体の具合はどうだ? 感覚系に異常はないか? 」
カズヤがボクの裸の胸に手を宛てて軽く揉む。ピリッとした感覚に少しだけ声が漏れる。
裸……? 胸? あれ?
「あにやってんら、このふけぺぇっーーーーー!!!!!」
まだ呂律の回らない叫び声とともに、ボクはカズヤを張り飛ばした。
カズヤは新型の人工心臓の拍動を確かめるために、胸に手を当てただけだって後で弁明したけど、『小さいな』と小声でつぶやいたのをボクは聞き逃さなかった。ロリ体形なのはボクのせいじゃなくて、製造コストの問題だってのに!
後で聞いたけど、リンク直後の体で叫び声をあげるばかりか、殴られた方が気が遠くなるほど手を振り回せたのは、奇跡なんだそうだ。 □10月17日(朝)--------------------------------------------------------
目覚めの時にあまりカズヤに良い印象を持たなかったせいか、この体になってからというもの、ボクらはいつもケンカしていた。ドールの設定では今回もカズヤに好意を持つ様に設定されていたから、キライになるほどじゃなかったけど、こんな状態で今回の調律はうまくできるのだろうか?
今朝も着替えの時に、胸を揉んだとか揉んでないとかでケンカして絶交状態。ボクは朝からカフェテリアで、ハルカさんを相手に愚痴をこぼしていた。
「だいたいさ、カズヤはデリカシーと言うものが欠落しているんだよね。女の子と生活しているっていう自覚が無いんだよ!」
「いいじゃないの、胸ぐらい触らせてあげなさいよ。恋人同士なんだから」
「”仕・事・上・の”だけどね。それにいくら恋人同士だからって、マナーってもんがあるでしょ!」
「やれやれ、前の体の時には、周りが見ていて恥ずかしくなるほど、最後はラブラブだったんだけどねぇ……」
「ね、みんなに言われるけど、それホントなのかなぁ?」
「忘れちゃったの? チャンバールーム(人工体培養槽室)でのこと」
「そりゃあ、覚えてるけど……」
それは記憶バンクから消し去って欲しい悪夢だった。”出荷”のために、前のドール体から今のドール体にリンクし直す時のことだ。調律中に構築されたドールの記憶ネットワークが、あまりに成長しすぎていて、施設側(つまりボクに直結されているリンクシステム本体側)との分離が完全には行えないことが解った。そのドールの体で記憶したこととか、感情パターンだとかが変質する可能性があったのだ。新しい体になったら、カズヤのことまで忘れてしまうかもしれない。そんな不安から”カズヤと恋人同士だった前のボク”は、チャンバールームで”醜態”を演じてしまった。
実際その心配は、半分ぐらいはその通りだったんだけど、それでもボク自身の体験としては記憶に残っていた。けれど現実感がなくて、まるで本か映画で見たことを、自分の体験と錯覚しているような感じだった。
「あれは感動したわぁ。何回見ても、涙を誘うわよねぇ……」
「あんなこと、一回だけで十分……って、何回もってどういうこと? ハルカさん」
「しっかりとビデオはコピーさせていただきました。たぶん研究所の全員が、一度は見てるはずよ」
「げ、最悪……。それでか。事ある毎にみんなに、『前のアリスちゃんはかわいかったのに』とか言われるのは……」
「そうよ、”硝子のキッス”。ただいま好評レンタル中~!」
「回収してっ! 今すぐ回収して!」
「まぁまぁ、そんなに激昂しないの。情事の痕が見えるわよ」
そう言ってハルカさんは、テーブルに身を乗り出したボクの、ワンピースの襟元から覗いてたキスマークを指差した。
ボクは胸元を手で隠しながら、椅子に座りなおした。
くそっ! これだから女の子用の服ってのは……。
「うふふ、なんだかんだ言っても、ヤることはヤってるのね。少しは安心したわ」
「ううぅ……」
……ボクは何も言い返せなかった。
□10月18日(正午)-------------------------------------------------
「で、ハルカさん、アイツの様子はどうですか?」
「カズヤ君、心配ならば迎えにきたら? 意地張ってないで」
「いや、別に意地張ってるわけじゃないんですけどね。アイツ、突然怒り出したりするからなぁ」
「彼女は、”デリカシー”がカズヤ君には欠けているって、言っていたわよ」
「”デリカシー”ねぇ……。ハルカさん。アイツって、男だと思いますか? それとも女だと思いますか?」
「今は”女の子”でしょ。何言ってるのよ」
「いや、そうなんですけどね。オレたち、ずっと一緒に暮らしてきたんですよね。だからいまさらアイツが女になったからって、どう接していいのか、正直良くわからないんですよ」
「まだそんな事言ってるの?」
「そうは言いますけど、どうにも慣れなくって。だいたい毎月のように見た目も性格も別人みたいにコロコロ変わるんじゃ、なんだか浮気を繰り返しているみたいで」
「ふぅん。”浮気しているみたい”って言うことは、カズヤ君は彼女のこと、 ”恋人だ” って思っているんじゃないの?」
「そう割り切れればいいんですけどね、でも普段アイツと話したり過ごしたりしてると、やっぱり元通りのアイツなんですよ。そりゃ、必要な時には心理設定解除したりしているし、当たり前といえば当たり前なんですけど……」
「ふうん、それで?」
「だけど、せっかくそのギャップに慣れたかと思ったら、また最初からやり直しって言うのが、どうも……」
「つまり、カズヤ君としては、いつまでも変わらない、自分の良く知っている友達でいて欲しいって、ことかしらね?」
「はぁ、……まぁそうですかね。見た目はともかく」
「こう考えたらどう? カズヤ君が知っていたのは、本当のあの子じゃなくて、あの子の一部だけだったのよ。それで体を変えるたびに、あの子の中に隠れていた、カズヤ君の知らないあの子の分身と出会うわけ。カズヤ君は長年付き合っていた古い友達が、何かのきっかけで変わるようなことがあったからって、その友達のこと”キライ”になったりするの?」
「いや、そんなことは……」
「じゃあ、いいじゃない。どんな彼女でも受け入れてあげたら? ”親友”なんでしょ?」
「はぁ、そうですね……」
「しっかりしなさいよ。 そうだ! ひとつ聞いてもいい?」
「なんですか?」
「今の仕事、契約が切れてあの子が元の男の子に戻ったら、あの子と私、結婚してもいいかな?」
「はぁ? 何を突然言い出すんですか? 馬鹿馬鹿しい。だいいちアイツとうまくやっていけるんですか?」
「あらぁ、ここで女の子として暮らしてきた実績があるんですもの。女性思いの、いいダンナさんになると思うけどなぁ」
「そうかなあ……? ま、恋愛は自由ですから、別に邪魔したりはしませんけどね。だけど、アイツがハルカさんと夫婦になるなんて、想像もできないなぁ、あっははははは」
「そうねぇ……。じゃ、こういうのはどう? 退職しても、あの子にはそのまま女性型のドール体にリンクしたままでいてもらって、私が男性型ドールにリンクするの。彼女、これからも調律を兼ねて花嫁修業もバッチリしてもらうから、きっといいお嫁さんになってくれるわね」
「ハルカさん、そんなこと……」
「あら、コワイ目。 うふふ、よーくわかったわ、カズヤ君の気持ち。 じゃ、もう行かなきゃ。 お昼ご馳走様!」
「え? あ、ハルカさん!! くそっ! タカられたか……」
□10月20日(午後)-------------------------------------------------
『いい加減に仲直りしなさい!』
別居生活も3日目。ハルカさんの部屋に転がり込んでいたボクは、痺れを切らしたハルカさんに怒鳴られ、とうとう追い出されてしまった。
でも、カズヤと仲直りするって言っても、なんて切り出せばいいんだろうか? 下手をすれば逆に大喧嘩の再開にもなりかねない。
自分たちの部屋に戻り、ドアをそうっと開けて中を窺ってみたが、カズヤは留守のようだった。
部屋に入ると惨憺たる状況が眼に飛び込んできた。脱いだ服はあちこち適当に散らかされ、いたるところにゴミが落ちている。
「あ~あ、もうこんなに散らかして……」
カズヤは『家事一般をこなすのも調律のうちだ』とか何とか言って、掃除にしろ洗濯にしろ一切合切をボクにやらせていた。それって、ボクをいいようにコキ使ってるだけなんじゃないのか?
「ま、これをネタにとりあえず恩を売って、仲直りのキッカケにでもするかぁ」
ぶつぶつ言いながらも、部屋を片付け始めた。
ベッドの下を掃除すると、どこから調達してきたのか、エロ本が隠してあった。
「ベタだなぁ、こんなところに。そういえば昔は時々カズヤとこんな本買ってたっけ。まぁ、いまは間に合ってるけど……」
パラパラとめくると、胸の大きな女性のヌード写真が眼に飛び込んできた。いかにもカズヤ好みのタイプだ。
「あの、オッパイ性人め。でも大きさはともかく、感度はボクの方が……」
つい自分の胸に手を当て、少しだけだけ揉んでみた。
「あン! ……って何やってんだ、馬鹿カズヤめ、ヘンなもの隠しやがって! 後で捨ててやる。 さて、掃除掃除……」
自分の頭をコツンと叩いて、掃除を再開したけれど、さっきの本についつい目が行ってしまう。
(ボクの中の、男の部分が出てきてるのかな?)
ボクは女性のヌードにまったく興味を失ったわけではなかったけど、女性として調律されていると、同性(?)に対する性的興味が薄れてしまうのも確かだった。たぶん、そういうのはある程度抑制されないと、調律に影響が出るからなんだろうけど。
考えてみれば、3日もご無沙汰ってことになる。カズヤもさぞかし溜まっていることだろう。そう思うと、たかがエロ本に腹を立てていても仕方が無い。考え方が男に戻りつつあるのか、些細なことでケンカ始めた自分が馬鹿馬鹿しく思えてきた。
「へへ、もうちょっと見てみよ」
好奇心が掃除の義務感を押し流し、エロ本を手にとってパラパラとめくる。
「うわぁ、この人縛られてるよ……。こういうのってどんな感じなんだろ。痛いのは嫌だけど、少しだけなら……ってボクにもMっ気が少しあるのかなぁ?」
ページをめくりながら、ボクの手はいつの間にか股間に伸びていた。最初は無意識のうちだったけど、体がより強い刺激を求めて小さな突起に触れたとたん、体がビクンッとなり、自分の行為に気がついた。そういえば自分でって、まだあんまりシタことなかった。女の体でオナニーしているなんて、絶対にカズヤには知られたくない。もっとも、そのカズヤとエッチするようになってからは、それで性欲が解消されていたから……。
「んはっ! やべー、止まらなくなりそう……。っていうか、ハァ……、もう止まんないや」
ボクはティッシュの箱を汚れたタオルの下から見つけ出してベッドの枕元に置き、毛布を被って続きをすることにした。
ミニスカートだったから、ショーツを脱ぐだけで行為に耽れそうだ。胸は今日は窮屈なブラをしていないから、とりあえず服の上からでもいい。
まずは枕を抱きかかえて、体をくねらせながら自分を高めていく。こうするとじんわりとするような快感が湧き出してくるのを発見したのは、つい最近だ。わざわざマクラカバーを高価なシルクに替えてもらっただけあって、肌触りがすごくキモチイイ。ぐっと力を込めて、マクラを強く抱きしめながら、もじもじと太股をよじると濡れ始めてきた。こうしているだけでも普段なら、もやもやが少しは晴れるんだけど、今はそれだけじゃ我慢できない。もぞもぞとティッシュの箱から一枚を取り、股間に当てて溢れているものを拭い取る。そうっと指を差し入れると、膣内は熱を帯びて潤っていた。感じやすいイヤラシイ体だ。指でぬるぬるとした分泌液を掬いとりながら、一番敏感な肉の芽に擦り付ける。
「はうんっ!」
クリトリスはわかりやすい性感帯だ。そうっと、だけど時々強く刺激することで、難なく軽いアクメへ到達できる。ボクは膣口のほうへも軽く指を出し入れしながら、時々強く突起を刺激する。わざとイヤラシク動かしていた腰の動きは、もう意識しなくても勝手に動く。そうしないと我慢できないほどに体が疼いてしまう。何回か単調な繰り返しを続けると、体の奥からこみ上げてくるものが大きくなって、全身に痺れるような感覚が広がっていった。
「はあっ、はぁっ……」
軽い絶頂に達したボクは、被った毛布の中で呼吸を整える。甘く酸えた様な女の香りが充満しているのが自分でもわかる。そして毛布にはカズヤの僅かな体臭も染み付いていて、ボクの発した熱気がその残り香を燻し出す。記憶を呼び起こす情事の臭いが、まだ満足しきれていない体の火照りを再び熾し始める。オッパイ性人のカズヤがいつもするように、今度は自分の乳房に手を伸ばす。最初は手のひら全体で包み込むように膨らみを確かめる。そうしたら、今度は根元を絞るようにして強く揉む。巨乳好きのカズヤは、いつもこうしながら乳首を吸うんだ。だけど、胸への刺激だけで達するのは難しい。利き腕の方じゃない手の甲で、お腹から下腹部の小丘に向かって無造作に撫でると、ちょっとだけ他人の手でされているような感覚になる。
(受け身の自分を思い浮かべながら、自慰に耽るなんて、完全に女の子になってるなぁ……)
そんなことを考えながらも、誰かにされている想像をやめることができない。自分じゃない誰かに……。
「あぁん、カズヤぁ、もっとぉ……」
ボクは睦言でカズヤにおねだりした事はなかった。だけど、いまはその相手はいない。ボクの妄想の中の人物だ。だから呼んでも応えることはない。ここには自分ひとりで、どんなに恥ずかしい言葉を口にしても、聞き咎める者はいない。
「ああぁん……はうーん! はにゃあ~ん……んくぅ~ん、んふっ……」
ボクは半ば意識しながら、甘ったるい声を出して悶える。応えてくれるものの無い寂しさを埋めるように、わざと……。痛くなるほど尖り始めた乳首が、インナーの生地で擦れるたびにビクンっとなり、思わず背中をよじってしまう。ボクはうつぶせになって抱えていた枕に胸を押し付けて、体をくねらせる。乳房への刺激は火がつくのが遅いけれど、それは体の奥深くにある別の性感帯へも結びついている。クリトリスで味わえるアクメよりももっと激しい、気が狂うような快感に。そして開いた両手で、股間をいじくり始めた。左手で陰唇を開き、右手で膣に指を入れる。マクラに乳房を擦り付けるよう上半身をくねらせる。全身を使った激しいオナニーで、少しでもセックスへの快感へと近づこうと、自分で自分を快感の海に投じる行為に、夢中になっていた。
「はぁっ、はぁ、も、もっと、もっとぉ~」
他人にはとても聞かせられない、淫らな声を上げながら自分を昂ぶらせる。指を二本に増やして、腱がつりそうにながらも、更に奥へと届かせようとする。もうちょっとでイケそうなんだけど、どうしても届きそうに無いもどかしさに切なさがこみ上げ、目から涙が溢れ出す。
「……あ、あアン……カズヤあ……、ゆび、だけじゃ……。イヤ……んくっ!」
その時、不意に入り口の方から、物音と声がした。一瞬でボクの意識が現実へと引き戻される。
「ごほん。 か、帰ってきていたのか?」
ヤバイ!!カズヤが戻ってきたっ!!!どうしよう……こんなことしてるの見つかったら……。
ボクは眠ったフリしてごまかそうとした。だけど掻いた汗が冷え込んでいく体に拍車をかけた。
「くしゅんっ!」
(ああん! この体、どうしてこんなに精巧にできているんだよぉ~っ!)
「風邪、か? 体の調子、悪いのか?」
カズヤがベッドに近づいてくる。もうごまかしきれない。
「な、なんでもない。ちょっと疲れただけだから」
突然に行き場を失った性欲を何とか体から押し出そうと頑張るが、股間から愛液が溢れ出て太腿を伝うのを感じる。ボクは万が一にも、被っていた毛布を引き剥がされないように、必死で掴んだ。
「ドール体だから、調子が悪ければリンクシステムが警告出すと思うけど、ムリすんな」
「う、うん。心配してくれてありがと。大丈夫、なんでもないから」
毛布からちょっとだけ顔を出して、立ったままいたわりの言葉をかけてくれたカズヤの足元を見ると、さっき脱いだショーツが転がっている。
(あああ、もうオシマイだ! なんてボクはバカなんだろ!)
だけど、カズヤはそれには気づかなかったらしく、こう言った。
「忘れ物を取りに来ただけだから、すぐにまた出かけてくるよ」
「う、うん。じゃ、その間にボクは部屋を片付けておくから……。い、いってらっしゃい」
「ああ、いつもすまないな」
毛布に半分顔を隠して、カズヤを見送った。
「はぁ……、びっくりした。カズヤが鈍感な奴で助かったよ」
すっかりソノ気もどこかへ吹き飛んでしまったボクは、のろのろと部屋を片付け始めた。
どうあれ、これで元通りの生活に戻れると思った。
□10月20日(夕刻)-------------------------------------------------
『仲直りの記念に、一緒に食事にしましょう』
と、ハルカさんが提案したのは、研究所のランドリールームで洗濯を手伝ってくれていた時だった。
外出中のカズヤにケイタイで聞いたら、『3日もハルカさんに迷惑かけたんだし』ということで、カズヤの奢りで外のレストランで待ち合わせて食事することになった。
”保護者つきで、近所ならば”ということであっさりと外出許可も出た。女の子の服装で知らない人の前に出るのは、まだちょっと抵抗があったけど、せっかくの外へ出る機会だからと、ボクは浮かれていた。
「ふー、おいしかったわね。カズヤ君ご馳走様」
「ええ、どういたしましてハルカさん」
「ホント、おいしかった。やっぱり食事が楽めるっていいよね」
そういいながらボクは、デザートのチーズケーキを食べ終えた。
ふと、カズヤの手元にある黒ビニールの手提げ袋が気になった。
「カズヤ、買い物に行ってたの? 何買ってきたの?」
「ああ、これは……。いや、後でな」
「なあに、カズヤ君? もしかして、仲直りのプレゼント?」
「そうなの? カズヤぁ」
「あ、いや、これは違うんだ。何でもない!」
妙に狼狽して袋を隠そうとするカズヤがちょっと気になったが、ハルカさんがカズヤを取り押さえながら言った。
「怪しいぞ。 よし! 調べちゃいなさい」
「わ、やめろ! 大したもんじゃない!」
ボクが袋の中を探ると、中からファンシーな包み紙で丁寧にラッピングされた箱がでてきた。
やっぱりプレゼントなんだ! 相手はボク以外ありえないだろう。ボクは嬉しくなって、カズヤに聞いた。
「ね、ね? これ、ボクにでしょ?」
「……あ、ああ。まあな」
「ありがとう、カズヤ。嬉しいよ。開けてもいいかな?」
「ば、馬鹿! こんなところで開けるな!」
「あら、カズヤ君ったらテレちゃって。いいじゃない、あけちゃえあけちゃえ!」
ボクは期待とともにラッピングを解いた。だけど中から出てきたのは、男性器を模したピンクの“バイブレータ”だった。
その場に、最も相応しくないだろう逸品の登場に、沈黙が訪れる。
「あ、いや……。そのだな、オマエ、指じゃ物足りないとか、言ってた……から」
「……カ、ズヤの ばかあぁっっーーっ!!!! うわぁあ゙あーーーん!!」
オナニーしていたことをハルカさんにまで知られてしまい、やりきれない情けなさと恥ずかしさとで何をどうすればいいのかわからず、ボクは大声で泣き出してしまった。ハルカさんが何とかなだめようとしてくれたけど、研究所に戻ってもボクは泣き続けた。
せっかくの仲直りの機会も半日と保たず、別居生活の再開となった。
今度ばかりはハルカさんも、追い出したりはしなかった。
□10月25日(午後)-------------------------------------------------
研究所では、ボクたちが開発しているアリスドールの技術的成果を反映した、VR体の試作モデルを作ることになった。
VR体は普段ボクがリンクしているアリスドールと比べて、機能も感覚も大幅に簡略化されているが、それでも体に重大な障害を抱えている人や、極限作業、自律型アンドロイドのベース体として使われ始めている。もちろんそれだけじゃなくて、もっといろんな用途に使えないかと言うことで、今もこの研究所だけでなく、大学や複合企業などでさまざまな研究がされている。
「へーえ? カズヤ似合うよ! かわいいじゃん!」
「あら、ホント!」
「くくく、よもやオレまで、こんなことをするハメになるとは……」
そしてカズヤはその新型VR体にリンクしていた。カタログに使うためのプロモーションビデオやスチル写真を撮るためだった。
「だいたい、なんでオレがこんなことやらなきゃいけないんだ?」
「なんでかって、見ればわかるじゃん。新型VR体、今のボクにそっくりでしょ? だからほら、二人並べば姉妹にみえるもんね」
「そうじゃなくて、なんでオレなんだよ。ハルカさんだっていいじゃないか!」
「あら、私はイヤよ。めんどくさいもの」
「へへへ、実はボクが所長に言ってみたんだ。ほら、カズヤはいつもボクを調律する側”だろ? だから、たまにはされる側”を経験しておくのも役に立つんじゃないか、ってね」
「ほほう、オマエもう忘れたのか? 採用試験の時に、どんなだったかを」
「ぐっ。そうそうやられてばかりじゃないよ。これでどうだっ!」
ボクはカズヤの胸に手を伸ばして揉んだ。
「んはぁっ! へ、へん! 感じる、わけ、ないだろ」
「ムリしちゃって。実はさっき、カズヤのリンクシステムに細工して、感度を最大にしといたんだ」
「ひ、卑怯な! だが、感じやすいのは、オマエだって一緒だろ!」
カズヤがボクのスカートに手を突っ込む。
「わっ何すんだよ! このっ!」
ボクはカズヤの上着を剥ぎ取った。負けじとカズヤがボクのスカートを脱がせる。
「やっ、やめっ!! パンツ脱げちゃうじゃないかっ!」
「……く、くるしい。ブラジャーを引っ張るなっ!」
「へんだ! たまにはぐにぐに揉まれる方の身にもなってみろっ! このオッパイ性人め!」
「うるせぇ! 少しは女らしく”きゃぁっ”とか悲鳴上げてみろ! この大人のオモチャ!」
「なんだってーっ!!!」
ボクたちは撮影もそっちのけで、取っ組み合いの大ゲンカを始めた。
「……あれ、止めさせてくださいよ」
あきれた撮影スタッフが、ハルカに助けを求めた。
「何言ってんのよ、シャッターチャンスを逃さないように、気張って撮影しなさいよ!」
「しかしですねぇ、こんなのカタログには使えませんよ?」
「バカねぇ、そんなのいつでも撮れるでしょ。私が2人をひん剥くから、バッチリ録るのよ! こら~、あんたたち! 私も混ぜなさい!」
「あ、ハルカさん! 所長~。どうします?」
「うむ、ハルカくんのベストショットも、逃さん様にな」
「……しょ、所長?」
□10月25日(夜)-------------------------------------------------
結局ハルカさんが乱入してから後は、撮影とは名ばかりの研究所のスタッフまで巻き込んだ、なんだか良くわからないお祭り騒ぎになってしまった。タオル一枚のAVさながらのポーズから、どこから調達してきたのか、セーラー服やバニースーツ、ハルカさん秘蔵の悩殺下着(?)やら、キワドイ水着、ネコミミメイドのコスプレまでさせられた。カズヤもスタッフのみんなにさんざんおもちゃにされて、どこかおかしな悩殺ポーズをさせられては、スタジオに爆笑の渦を巻きちらしていた。ボクらと一緒のフレームに納まりたいっていうスタッフは後を絶たず、衣装を変えればまた一緒に記念撮影だとかで、誰がカメラマンで誰がモデルなのかさっぱりわからなくなっていた。ケンカ三昧の日々を送っていた、ボクとカズヤも、いつの間にかそんなことは忘れて、学生時代の頃のように、仲良く笑い転げていた。数時間後にさすがにみんな騒ぎ疲れて、撮影を終わらせたものの、所長発案の大宴会に突入した頃には、何がなんだかわからない事態に発展していた。
お酒の飲めないボクは、ハルカさんと早々に宴会場を後にして、ハルカさんの部屋でくつろいでいた。時折階下から聞きなれた声質の、オカマな悲鳴が聞こえてくる。きっとカズヤがVR体のリンクを解いても、まだ遊ばれているんだろう。
部屋に入ると、ハルカさんはグラスに少しだけ薄いお酒を、ボクには甘いジュースを入れて手渡してくれた。
「……しかしケッサクだったわね、カズヤ君の悩殺ポーズ」
「いくら基本プログラムがしてあったって、中身はカズヤだもんね」
「でも、女性型のVR体にリンクしたカズヤ君も、なかなかの美女ぶりだったわね。あれならアナタと入れ替わっても、何とかやっていけるんじゃないの?」
「えええ~? カズヤには絶対ムリだよ! 細やかな気配りとか、デリカシーとかそういうのまったく無いもん」
「あら、それはドールの心理設定次第じゃない? あんなガサツで無神経な男には、一度強烈な心理暗示でもかけてやった方がいいわ。アナタもそう思うでしょ?」
「う、うーん、まぁ少しは……。だけど、今のままのカズヤだって、そんなに悪くないと思うんだけどなぁ……」
「ふーん。……そうね。きっとそうよね。うふふふふふふ」
「あぁっ、今のナシ!! もう! ハルカさんってば、そんなにニヤニヤした顔して笑わないでよっ!!!」
「はいはい。ああ、でも久しぶりにバカ騒ぎしたわ」
「うん、とっても楽しかった。学生だった時だって、こんなに騒いだことなかったよ」
「カズヤ君と仲直りできて、よかったわね」
「え? ……うん、いつまでもケンカばかりしていられないしね」
もしかしたら撮影会の馬鹿騒ぎも大宴会も、ハルカさんや所長、それに研究所のスタッフの人たちが、ボクたちを仲直りさせてくれる為にしてくれたんじゃないのかな? ボクはそんな風に思った。
「ありがとう、ハルカさん」
「んふふ、なぁに? ねぇ、ところでさぁ、カズヤ君のこと、どう思ってるの?」
「なんだい、突然に。どうっていわれても、……スキだよ」
「元、男同士でも?」
「うん、……そういう風に、設定されているから」
「それだけ?」
「……この体にリンクして、カズヤと毎日、……ケンカとかしながら過ごしてみて、思ったんだ。ずっとカズヤと一緒に暮らしてきて、ひょんなことから調律師になって、体は女の子になっちゃったんだけど。友達からだんだんと恋人になるのって……ううん、男だとか女だとかそんなことはどうだっていいんだ。心理設定でもなんでもいい。今感じていることを素直に認めて、……これからもずっとカズヤと一緒にいれたらいいな、ってさ」
「でもカズヤ君って、むっつりスケベなんでしょ? 男とエッチするのって、イヤじゃないの?」
「それは最初のドール体にリンクして、調律始めたときからずっと悩んでる。今でも男とセックスするなんて、ホントはイヤだよ。でもカズヤはさ、ボクのこと裏切ったことは一度も無いんだ。どんなに大変な時だって、カズヤはボクのこと見放さずに、助けてくれたんだ。もし、カズヤがいなかったら、ボクなんかとっくに……。だからこの仕事をカズヤと続けていくにはさ、そのあたりは割りきらなきゃって思ったんだ。ボクも、ボクにできることならカズヤにしてあげたい。セックスだってカズヤがしたいのなら、この体ならばできるよ。」
ハルカさんの前では、何故かカズヤにも言えないような恥ずかしいことも、ついつい口にしてしまう。
「それに、……女の子の体でエッチするの、ソンナニ イヤジャナイカモ……」
「ほう~、実はハマってるなコイツ。うりうり~」
ハルカさんがゲンコツでボクの頭をグリグリする。
「ああ~ん、痛いよぉ。もう降参!」
「それじゃさ、女性にはもう興味ないの?」
ハルカさんは胸元を強調するように手を当てた。ボクはちょっとだけ目を奪われたけど、こういった。
「そんなことは無いけど、とりあえず今は間に合ってるかな。あ、でもハルカさんがイヤってわけじゃないよ。男に戻ったら、ハルカさんとデートしたいな」
「うふふ、ありがと」
ハルカさんがそっと抱き寄せて、オデコにキスしてくれた。こういう手馴れた一連の仕草は、まだボクには真似できないことだった。たわいも無い恥ずかしい会話も、こうしたコミュニケーションも、ドールの”調律”に役立っているんだろうな、とボクは思った。ついつい仕事と結び付けてしまうのは、ボクの悪いクセかもしれなかったけど、こうしてハルカさんと過ごす時間も、とても心地良く感じていた。
だからこの仕事、ボクはもうイヤじゃない……。
「じゃ、そろそろ部屋に戻るね」
「あら、今夜もおねーさんと一緒に、寝てくれるんじゃないの?」
「そうしたいけど、カズヤが部屋に戻ってくるかもしれないから……。おやすみなさい、ハルカさん」
「そう……。おやすみ」
パタンと閉じたドアを見送り、ハルカは少し残念そうにつぶやいた。
「……フラれちゃった、のかな?」
グラスの氷が少し溶けて、『カラン』と音を立てた。
□10月25日(深夜)-----------------------------------------------
ボクは自分たちの部屋に戻り、軽くシャワーを浴びた。バスタオル姿のまま髪を手入れしていたら、カズヤが戻ってきた。
「お帰り、カズヤ……うわっ、お酒クサっ!」
「おお、帰っていたか。ただいま」
「……結構飲んだみたいだね」
「ああ、久しぶりだ。こんなに飲んだの。あ、あんまり近づくな、臭いだけでも酔っ払うかもしれんから。シャワー浴びてくるよ。悪いが薬箱から薬出して来てくれ、アルコール分解する奴」
「うん、わかった」
ボクはカズヤがシャワーを浴びている間に、バスタオルとカズヤの着替え、そして言われた薬をシャワールームの脱衣所に準備して置いた。そして自分もパジャマに着替えて、カズヤが戻ってくるのをベッドに座って待っていた。シャワーの音が止むと、冷蔵庫からレモン水の入ったボトルを出してコップに注いでいる自分に気がついた。一連の作業が澱みなくできていることに、ちょっとした気恥ずかしさを感じた。
(なんだか長年連れ添った夫婦みたいだな……)
バスタオルで頭を拭きながらカズヤがやってきた。ボクがコップを差し出すと、カズヤは黙ってそれを受け取り、一気に飲み干してまたボクに差し出す。お代わりが欲しいのだろうと思って、受け取ろうと手を伸ばすと、カズヤはその手を引っ張りボクを抱き寄せた。
「酒くさくないか?」
「え?う、うん、大丈夫、みたいだよ……」
急に抱き寄せられたことにビックリして、胸がどきどきしてくる。
「すまんな、オレばかり楽しんで。お前が帰ってるとわかっていたら、こんなに飲まなかったんだが」
「う、ううん。気にしないで。きっと次の次ぐらいのドールになったら、飲めるかもしれないからさ」
シャワーを浴びて火照ったカズヤの体の温もりが、ボクに伝わってくる。いや、これはもしかしたらボク自身も……。
「キスして、いいか?」
「ど、どうしたの? まだ酔……んんむむ……」
舌を絡ませない、唇を合わせるだけの普通のキス。でも、いつもよりもずっと長く感じた。
背中に回されたカズヤの手が優しくボクを撫でる。激しくもなければ、軽くも無いキス。ただ相手を愛おしいと言う気持ちだけが、純粋に伝わってくるようなピュアキッス。穏やかな感覚に包まれながら、こんなキスもできるんだ、とボクは思った。
「ねぇ、カズヤ。……しようよ」
「え?」
「んもう! エッチしようって言ってるの!」
「め、珍しいな。お前からそんなこと言うの。何か悪いモンでも食ったか?」
「いいでしょ、そんなこと!」
ムードもへったくれも無いけど、今回のボクらはこんな関係だから仕方が無い。
1週間も禁欲生活を続けたからか、カズヤも直ぐにノってきた。
カズヤがボクの背中に回していた手を腰の下に回して抱き上げ、お姫様抱っこでベッドに運ぶ。
「なんだか恥ずかしいよね、こういうの」
「誘っておいて言うなよ……」
カズヤが優しく笑いかけながら、ボクのパジャマのボタンを外していく。ボクもちょっとテレながら、カズヤにされるままにしている。
こんなに柔らかい雰囲気で始めるなんて、この体になってからは初めてかもしれない。いつもはもっと殺伐としていたような気がする。突然怒鳴られたり、手をつねられたりしないと言う安心感からか、カズヤもなんだか嬉しそうにしているようだった。セックスってホントはこんなに楽しいものの筈だったんだと、改めて反省してしまう。
露になったボクの乳房を、カズヤがそっと両手で包みこむ。指の間に乳首を軽く挟むようにして、全体を満遍なくマッサージするようにしてそっと揉み始めた。まるで感触を楽しむかのように、強くはないけどしっかりと力を加えてくる。
「次は、もっと大きい体にしてもらおうか?」
「いや、これはこれで、オレは好きなんだ。手にぴったりとくる感じがするからな」
「最初っから素直にそういえば良いのに」
「後ろから抱きかかえてもいいか?」
「うん、ついでに全部脱がせてよ」
「電気消そうか?」
「……消したくなければ、消さなくてもいいよ」
カズヤはいつもつけてしたがったけど、そんなの恥ずかしいからいやだといって、ボクは必ず消させていた。だけど、カズヤが気遣ってくれるんなら、たまにはカズヤのしたいようにさせてあげたくなった。
カズヤはボクを一旦ベッドに寝かせて、パジャマのズボンに手をかけた。ボクは目を閉じて、カズヤにハダカにされるのを待っていた。そして、覚醒したときのままの姿になったボクの体を起こして、後ろから抱きかかえた。そしてさっきやっていたように、両手で左右の乳房をそっと包み込んで、愛撫を始めた。確かにこの体勢のほうが、しっくりと来る感じがする。直に触れ合うカズヤの体温が背中と胸から伝わってくる。
(おかしいな、カズヤにエッチな事されているのに、なんだかとっても落ち着いた、いい気持ちになってる……)
「いい匂いだ、オマエの髪」
不意に耳元でカズヤの低い声と吐息を感じた。なんだかくすぐったい。
「シャンプーの香りでしょ? カズヤだって同じ匂いがするよ」
「いや、これはオマエの匂いだ」
そういって、カズヤは片方の手をボクの頤にあて、後ろを向かせてキスをした。今度は舌を入れる大人のキスだった。
そして、もう片方の手を下のほうへ伸ばして、ボクの体にあるもう一つの口を弄り始めた。いつもよりもずっと丁寧で、とにかくボクをイカせようというような、乱暴さがなかった。ボクはキスを中断させて、カズヤに言った。
「今日はなんだか……やさしいね」
「そうか? オレも今日はすごく楽しいよ、オマエとするの。 もう少し続けていいか?」
「……うん」
そういってカズヤはボクの2箇所の唇を、舌と手を使って優しく撫で始めた。そうか、カズヤってこういう愛撫の仕方が好きなんだ……。
やがて、ボクの中に眠っている、激しい性感の塊が目覚め始める。少し息が上がり始めたので、後ろ手にカズヤのモノを探り当てて、そっと握る。カズヤが後ろからの愛撫をやめて、仰向けにボクを倒すと、覆いかぶさるような体勢になった。
「もう欲しくなったか?」
「……ばか」
カズヤはふっと鼻で笑うと、ボクの両足を掴んで、ぐっと押し広げた。
「やだ、こんなの恥ずかしいよ。丸見えじゃん」
「オマエの全部、見せてくれよ」
そういって、ボク股間に顔をうずめた。毛の生えていない、童女のような谷間を舌でなぞられる。とたんにぞわぞわと快感が背筋を駆け抜けて、ボクは背中を反らせてしまう。
「ふあぁっ!」
「気持いいか?」
「……そんなこと、聞かないでよぉ」
まだもう少し、快感で我を忘れる前に、もっとカズヤとの児戯を続けていたかったボクは、体を動かして抵抗を試みる。だけどカズヤの秘裂への責めは容赦なく、段々と体が上り詰めていきそうになる。本当に感じやすい、困った体だ。このままじゃ、一方的にボクが攻められて終わる、いつものパターンだ。ボクは何とか体をひねってカズヤの腰を引き寄せ、股間のものを咥えた。
「わっ、なにしてるんだ」
「んむむ……、むはぁ。こういうのも、たまにはいいでしょ?」
「でも、オマエ、その……」
「イヤ? それならやめるけど」
「……続けてくれ」
カズヤは体勢を入れ替えて、ボクがやりやすいように仰向けになった。ボクはゆっくりとカズヤの怒張に舌を這わせて、ゆっくりと舐った。カズヤにこんなことしてるなんて、なんか自分でも信じられない。でも、ボクはそれを一生懸命、真剣に、歯を立てないように、舌でカズヤを気持ちよくしようと、頑張った。しばらくすると、カズヤがボクの頭に手を添えて、その行為をやめさせた。
「ごめん、下手だった?」
「いや、出ちまいそうなんだ。いくらなんでもそれはイヤだろ?」
「うん……。まだ、ちょっと抵抗あるかな」
カズヤは口元に笑みを浮かべながら、ボクを抱き寄せて再びキス魔になった。
その合間にも、ボクの胸や股間を弄ぶのに余念が無い。ボクも負けじと、カズヤのモノを掴んで刺激を続ける。ふたりの息遣いが段々と荒々しくなっていき、時々喘ぐ声が混じる。一方的でない、2人でするセックスに、ボクたちは夢中になっていた。
やがてカズヤが、我慢しきれなくなったのか、ボクをベッドに仰向けに押し倒した。
「ねぇ、……なんかいってよ」
「なんかって……。 あ、愛してるぞ」
「んふ、カズヤぁ、だいすきぃ……」
「デリカシーの無いのは、キライなんじゃなかったのか?」
「いじわる。キライだよ、そういうの」
好きだといったり嫌いといったり、怒ったり泣いたり、甘えたりケンカしたりと、今度のボクは本当に忙しい。
それでもカズヤは、ボクに付き合ってくれる。だけど、本当にいつまでも一緒にいられるのかな?
ボクが本当の女の子で、カズヤとの間に子供でもできたら、きっと別なんだろうけど。
「ねぇ、挿れるんならゴム付けて」
「は? 意味無いだろ」
「言ってみただけだよ」
「ああ?……そうか」
といいつつも、カズヤは枕もとのサイドボードに手を伸ばし、何かを取り出してごそごそとやっている。
「じゃ、行くぞ」
そういってボクの腰を引き寄せた。そして膣内に、ひんやりした感触のモノが侵入してくる感じがした。ちょっとゾクっとするような違和感はいつもの挿入感と比べると、あまり気持ちよくはなかった。やっぱり生の方がキモチイイんだ……。と思っていたら、突然にそれは細かく振動を始めた。
「はぅっ! な、何これぇ! カズヤ、いったい何を……」
「この前買ったバイブ。せっかくだから使わないともったいないだろ。ちゃんとゴム被せたから、衛生的だよ」
「んんっ、ばかぁ、早く、抜いてよぉ、こんな……の、痛いよ、カズヤ」
ボクの狭い膣内で、微振動が快感を高めようとするが、ごりごりとするような痛みがそれを阻もうとせめぎ合う。
「力を抜かないからだよ。あまり締めずに、身を任せるんだ」
「だ、だって……、んんん~、はぁっ……。んくっ! いやあっ!」
カズヤがバイブをゆっくりと挿れたりだしたりしながら、時折、敏感に膨れ上がった肉芽を刺激する。急峻な山を駆け上がるように、ボクは登り詰めていく。
「うぁあっ!やっ、いっちゃう! こんなの……ああぁっーっ!」
あまりに激しい責めにボクはなす術もなくイかされてしまった。
息を切らしていると、今度はカズヤが自分のモノをボクにあてがい、覆いかぶさってきた。
「はぁっ、……だめぇ、カズヤぁ、はぁ、ボ、ボク……、はぁ、んっ、ま、まだ……」
「まだまだ、気持ちよくなれる筈だ。今度は、本当にイかせてやる」
カズヤの熱くたぎった”ホンモノ”が、ゆっくりとボクの中へと挿れられていく。オモチャなんかじゃない、カズヤのモノが挿れられていくことを、ボクの体は歓喜を持って受け入れていた。全身にぴりぴりとした刺激が広がり、”キモチイイ”という感覚で思考が埋まっていく。こんなこと初めてだった。
「はぁ、アツいよ、カズヤぁ……」
「ああ、オマエも、ドロドロだ……」
カズヤがゆっくりと抽挿を始める。ボクはまだ、バイブでイかされた余韻が覚めやらず、力なくカズヤにされるがままだった。敏感に疼く体に加えられる、さらなる刺激に何度も気が狂いそうになる。ボクは息を続けるのもやっとぐらいの有様で、カズヤにも気持ちよくなってもらうどころじゃなかった。だけどカズヤが時折不規則に体を捩り、それがボクの胎内にある別の性感帯を刺激すると、膣がカズヤへ快感を分け与えるかのように勝手に蠢き、それがカズヤの理性を少しずつ破壊していた。段々と、ケモノがするように荒々しく、カズヤが僕を蹂躙し始め、ただひたすら互いの性器をむさぼり味わうかのように、腰を動かし続けていた。部屋は二人の荒々しい息遣いで満ち、ボクもカズヤも限界に近づいていた。体の奥底に点火された快感の塊が広がり始めるのを感じて、ボクはカズヤの背中に回した手と、腰に絡ませた足に精一杯の力を入れ、絶頂で吹き飛ばされないようにしがみついた。
「あぁあぁぁっーっ!」
「ううぅっ!」
カズヤのアツい粘液の迸りが胎内を埋め尽くし、人工子宮の奥深くを満たしていく感覚がした。かろうじて意識を取り留めていたものの、ボクは何も考えられないほどの衝撃を受けていた。カズヤも、体全体で息をしている。ボクはカズヤの頬に手を当てて、にっこりと微笑みかけた。カズヤも満足そうな笑みを浮かべて僕の乱れた前髪を掻き揚げ、キスをしてくれた。そしてボクは今までに無い幸福感に包まれながら、少しずつ緩やかに変化する2人の息継ぎと、カズヤの心臓の音を聞きながら、深い眠りに落ちていった。
□10月26日(朝)-------------------------------------------------
翌日の朝、目が覚めるとカズヤはまだ目を閉じていて、規則正しいリズムで寝息をたてていた。
部屋の明かりは、いつの間にかきちんと消されていたけど、窓のカーテンの隙間から差し込む朝日が、ぼんやりと部屋を明るくしている。
なんだかとっても気持のいい朝だった。こんな時がいつまでも続けば良いのに。カズヤといつまでもこんな風に……。
「昨夜はとても気持ち良かったゾ」
ボクは小声でそういって、寝ているカズヤの額に軽くキスをした。そして起こさないようにそうっとベッドから抜け出し、床に脱ぎ散らかされていた大きめのシャツを羽織ってコーヒーを淹れた。マグカップを2つ持ってベッドサイドに座り、カズヤを起こそうと思ったけど、床に落ちているマクラを見て、ちょっとしたイタズラ心が浮かんだ。手を伸ばしてそれを着ていたシャツの中に入れてから、熱いコーヒーに馴染んだマグカップをカズヤの頬に押し付けた。
「あちっ! ……んあ、もう朝か?」
カズヤはまだ眠そうな目をこすりながら体を起こして、マグカップを受け取る。
ボクはにっこりと笑いかけながら、膨らんだお腹をさするようにして撫でた。
「……なんのマネだ? いくらなんでも早すぎるだろ、っていうか、ありえないし」
「セキニン、とってくれる?」
カズヤは一瞬面食らったような顔をしたけれど、面倒くさそうに頭を掻きながら言った。
「責任も何も、オマエとの腐れ縁は”一生モン”だろ?」
ありす
2005年11月06日(日) 21時52分00秒 公開
□10月10日(リンク初日)-------------------------------------------------
「目が覚めたか?」
「……んん、カズ、ヤ……?」
「体の具合はどうだ? 感覚系に異常はないか? 」
カズヤがボクの裸の胸に手を宛てて軽く揉む。ピリッとした感覚に少しだけ声が漏れる。
裸……? 胸? あれ?
「あにやってんら、このふけぺぇっーーーーー!!!!!」
まだ呂律の回らない叫び声とともに、ボクはカズヤを張り飛ばした。
カズヤは新型の人工心臓の拍動を確かめるために、胸に手を当てただけだって後で弁明したけど、『小さいな』と小声でつぶやいたのをボクは聞き逃さなかった。ロリ体形なのはボクのせいじゃなくて、製造コストの問題だってのに!
後で聞いたけど、リンク直後の体で叫び声をあげるばかりか、殴られた方が気が遠くなるほど手を振り回せたのは、奇跡なんだそうだ。 □10月17日(朝)--------------------------------------------------------
目覚めの時にあまりカズヤに良い印象を持たなかったせいか、この体になってからというもの、ボクらはいつもケンカしていた。ドールの設定では今回もカズヤに好意を持つ様に設定されていたから、キライになるほどじゃなかったけど、こんな状態で今回の調律はうまくできるのだろうか?
今朝も着替えの時に、胸を揉んだとか揉んでないとかでケンカして絶交状態。ボクは朝からカフェテリアで、ハルカさんを相手に愚痴をこぼしていた。
「だいたいさ、カズヤはデリカシーと言うものが欠落しているんだよね。女の子と生活しているっていう自覚が無いんだよ!」
「いいじゃないの、胸ぐらい触らせてあげなさいよ。恋人同士なんだから」
「”仕・事・上・の”だけどね。それにいくら恋人同士だからって、マナーってもんがあるでしょ!」
「やれやれ、前の体の時には、周りが見ていて恥ずかしくなるほど、最後はラブラブだったんだけどねぇ……」
「ね、みんなに言われるけど、それホントなのかなぁ?」
「忘れちゃったの? チャンバールーム(人工体培養槽室)でのこと」
「そりゃあ、覚えてるけど……」
それは記憶バンクから消し去って欲しい悪夢だった。”出荷”のために、前のドール体から今のドール体にリンクし直す時のことだ。調律中に構築されたドールの記憶ネットワークが、あまりに成長しすぎていて、施設側(つまりボクに直結されているリンクシステム本体側)との分離が完全には行えないことが解った。そのドールの体で記憶したこととか、感情パターンだとかが変質する可能性があったのだ。新しい体になったら、カズヤのことまで忘れてしまうかもしれない。そんな不安から”カズヤと恋人同士だった前のボク”は、チャンバールームで”醜態”を演じてしまった。
実際その心配は、半分ぐらいはその通りだったんだけど、それでもボク自身の体験としては記憶に残っていた。けれど現実感がなくて、まるで本か映画で見たことを、自分の体験と錯覚しているような感じだった。
「あれは感動したわぁ。何回見ても、涙を誘うわよねぇ……」
「あんなこと、一回だけで十分……って、何回もってどういうこと? ハルカさん」
「しっかりとビデオはコピーさせていただきました。たぶん研究所の全員が、一度は見てるはずよ」
「げ、最悪……。それでか。事ある毎にみんなに、『前のアリスちゃんはかわいかったのに』とか言われるのは……」
「そうよ、”硝子のキッス”。ただいま好評レンタル中~!」
「回収してっ! 今すぐ回収して!」
「まぁまぁ、そんなに激昂しないの。情事の痕が見えるわよ」
そう言ってハルカさんは、テーブルに身を乗り出したボクの、ワンピースの襟元から覗いてたキスマークを指差した。
ボクは胸元を手で隠しながら、椅子に座りなおした。
くそっ! これだから女の子用の服ってのは……。
「うふふ、なんだかんだ言っても、ヤることはヤってるのね。少しは安心したわ」
「ううぅ……」
……ボクは何も言い返せなかった。
□10月18日(正午)-------------------------------------------------
「で、ハルカさん、アイツの様子はどうですか?」
「カズヤ君、心配ならば迎えにきたら? 意地張ってないで」
「いや、別に意地張ってるわけじゃないんですけどね。アイツ、突然怒り出したりするからなぁ」
「彼女は、”デリカシー”がカズヤ君には欠けているって、言っていたわよ」
「”デリカシー”ねぇ……。ハルカさん。アイツって、男だと思いますか? それとも女だと思いますか?」
「今は”女の子”でしょ。何言ってるのよ」
「いや、そうなんですけどね。オレたち、ずっと一緒に暮らしてきたんですよね。だからいまさらアイツが女になったからって、どう接していいのか、正直良くわからないんですよ」
「まだそんな事言ってるの?」
「そうは言いますけど、どうにも慣れなくって。だいたい毎月のように見た目も性格も別人みたいにコロコロ変わるんじゃ、なんだか浮気を繰り返しているみたいで」
「ふぅん。”浮気しているみたい”って言うことは、カズヤ君は彼女のこと、 ”恋人だ” って思っているんじゃないの?」
「そう割り切れればいいんですけどね、でも普段アイツと話したり過ごしたりしてると、やっぱり元通りのアイツなんですよ。そりゃ、必要な時には心理設定解除したりしているし、当たり前といえば当たり前なんですけど……」
「ふうん、それで?」
「だけど、せっかくそのギャップに慣れたかと思ったら、また最初からやり直しって言うのが、どうも……」
「つまり、カズヤ君としては、いつまでも変わらない、自分の良く知っている友達でいて欲しいって、ことかしらね?」
「はぁ、……まぁそうですかね。見た目はともかく」
「こう考えたらどう? カズヤ君が知っていたのは、本当のあの子じゃなくて、あの子の一部だけだったのよ。それで体を変えるたびに、あの子の中に隠れていた、カズヤ君の知らないあの子の分身と出会うわけ。カズヤ君は長年付き合っていた古い友達が、何かのきっかけで変わるようなことがあったからって、その友達のこと”キライ”になったりするの?」
「いや、そんなことは……」
「じゃあ、いいじゃない。どんな彼女でも受け入れてあげたら? ”親友”なんでしょ?」
「はぁ、そうですね……」
「しっかりしなさいよ。 そうだ! ひとつ聞いてもいい?」
「なんですか?」
「今の仕事、契約が切れてあの子が元の男の子に戻ったら、あの子と私、結婚してもいいかな?」
「はぁ? 何を突然言い出すんですか? 馬鹿馬鹿しい。だいいちアイツとうまくやっていけるんですか?」
「あらぁ、ここで女の子として暮らしてきた実績があるんですもの。女性思いの、いいダンナさんになると思うけどなぁ」
「そうかなあ……? ま、恋愛は自由ですから、別に邪魔したりはしませんけどね。だけど、アイツがハルカさんと夫婦になるなんて、想像もできないなぁ、あっははははは」
「そうねぇ……。じゃ、こういうのはどう? 退職しても、あの子にはそのまま女性型のドール体にリンクしたままでいてもらって、私が男性型ドールにリンクするの。彼女、これからも調律を兼ねて花嫁修業もバッチリしてもらうから、きっといいお嫁さんになってくれるわね」
「ハルカさん、そんなこと……」
「あら、コワイ目。 うふふ、よーくわかったわ、カズヤ君の気持ち。 じゃ、もう行かなきゃ。 お昼ご馳走様!」
「え? あ、ハルカさん!! くそっ! タカられたか……」
□10月20日(午後)-------------------------------------------------
『いい加減に仲直りしなさい!』
別居生活も3日目。ハルカさんの部屋に転がり込んでいたボクは、痺れを切らしたハルカさんに怒鳴られ、とうとう追い出されてしまった。
でも、カズヤと仲直りするって言っても、なんて切り出せばいいんだろうか? 下手をすれば逆に大喧嘩の再開にもなりかねない。
自分たちの部屋に戻り、ドアをそうっと開けて中を窺ってみたが、カズヤは留守のようだった。
部屋に入ると惨憺たる状況が眼に飛び込んできた。脱いだ服はあちこち適当に散らかされ、いたるところにゴミが落ちている。
「あ~あ、もうこんなに散らかして……」
カズヤは『家事一般をこなすのも調律のうちだ』とか何とか言って、掃除にしろ洗濯にしろ一切合切をボクにやらせていた。それって、ボクをいいようにコキ使ってるだけなんじゃないのか?
「ま、これをネタにとりあえず恩を売って、仲直りのキッカケにでもするかぁ」
ぶつぶつ言いながらも、部屋を片付け始めた。
ベッドの下を掃除すると、どこから調達してきたのか、エロ本が隠してあった。
「ベタだなぁ、こんなところに。そういえば昔は時々カズヤとこんな本買ってたっけ。まぁ、いまは間に合ってるけど……」
パラパラとめくると、胸の大きな女性のヌード写真が眼に飛び込んできた。いかにもカズヤ好みのタイプだ。
「あの、オッパイ性人め。でも大きさはともかく、感度はボクの方が……」
つい自分の胸に手を当て、少しだけだけ揉んでみた。
「あン! ……って何やってんだ、馬鹿カズヤめ、ヘンなもの隠しやがって! 後で捨ててやる。 さて、掃除掃除……」
自分の頭をコツンと叩いて、掃除を再開したけれど、さっきの本についつい目が行ってしまう。
(ボクの中の、男の部分が出てきてるのかな?)
ボクは女性のヌードにまったく興味を失ったわけではなかったけど、女性として調律されていると、同性(?)に対する性的興味が薄れてしまうのも確かだった。たぶん、そういうのはある程度抑制されないと、調律に影響が出るからなんだろうけど。
考えてみれば、3日もご無沙汰ってことになる。カズヤもさぞかし溜まっていることだろう。そう思うと、たかがエロ本に腹を立てていても仕方が無い。考え方が男に戻りつつあるのか、些細なことでケンカ始めた自分が馬鹿馬鹿しく思えてきた。
「へへ、もうちょっと見てみよ」
好奇心が掃除の義務感を押し流し、エロ本を手にとってパラパラとめくる。
「うわぁ、この人縛られてるよ……。こういうのってどんな感じなんだろ。痛いのは嫌だけど、少しだけなら……ってボクにもMっ気が少しあるのかなぁ?」
ページをめくりながら、ボクの手はいつの間にか股間に伸びていた。最初は無意識のうちだったけど、体がより強い刺激を求めて小さな突起に触れたとたん、体がビクンッとなり、自分の行為に気がついた。そういえば自分でって、まだあんまりシタことなかった。女の体でオナニーしているなんて、絶対にカズヤには知られたくない。もっとも、そのカズヤとエッチするようになってからは、それで性欲が解消されていたから……。
「んはっ! やべー、止まらなくなりそう……。っていうか、ハァ……、もう止まんないや」
ボクはティッシュの箱を汚れたタオルの下から見つけ出してベッドの枕元に置き、毛布を被って続きをすることにした。
ミニスカートだったから、ショーツを脱ぐだけで行為に耽れそうだ。胸は今日は窮屈なブラをしていないから、とりあえず服の上からでもいい。
まずは枕を抱きかかえて、体をくねらせながら自分を高めていく。こうするとじんわりとするような快感が湧き出してくるのを発見したのは、つい最近だ。わざわざマクラカバーを高価なシルクに替えてもらっただけあって、肌触りがすごくキモチイイ。ぐっと力を込めて、マクラを強く抱きしめながら、もじもじと太股をよじると濡れ始めてきた。こうしているだけでも普段なら、もやもやが少しは晴れるんだけど、今はそれだけじゃ我慢できない。もぞもぞとティッシュの箱から一枚を取り、股間に当てて溢れているものを拭い取る。そうっと指を差し入れると、膣内は熱を帯びて潤っていた。感じやすいイヤラシイ体だ。指でぬるぬるとした分泌液を掬いとりながら、一番敏感な肉の芽に擦り付ける。
「はうんっ!」
クリトリスはわかりやすい性感帯だ。そうっと、だけど時々強く刺激することで、難なく軽いアクメへ到達できる。ボクは膣口のほうへも軽く指を出し入れしながら、時々強く突起を刺激する。わざとイヤラシク動かしていた腰の動きは、もう意識しなくても勝手に動く。そうしないと我慢できないほどに体が疼いてしまう。何回か単調な繰り返しを続けると、体の奥からこみ上げてくるものが大きくなって、全身に痺れるような感覚が広がっていった。
「はあっ、はぁっ……」
軽い絶頂に達したボクは、被った毛布の中で呼吸を整える。甘く酸えた様な女の香りが充満しているのが自分でもわかる。そして毛布にはカズヤの僅かな体臭も染み付いていて、ボクの発した熱気がその残り香を燻し出す。記憶を呼び起こす情事の臭いが、まだ満足しきれていない体の火照りを再び熾し始める。オッパイ性人のカズヤがいつもするように、今度は自分の乳房に手を伸ばす。最初は手のひら全体で包み込むように膨らみを確かめる。そうしたら、今度は根元を絞るようにして強く揉む。巨乳好きのカズヤは、いつもこうしながら乳首を吸うんだ。だけど、胸への刺激だけで達するのは難しい。利き腕の方じゃない手の甲で、お腹から下腹部の小丘に向かって無造作に撫でると、ちょっとだけ他人の手でされているような感覚になる。
(受け身の自分を思い浮かべながら、自慰に耽るなんて、完全に女の子になってるなぁ……)
そんなことを考えながらも、誰かにされている想像をやめることができない。自分じゃない誰かに……。
「あぁん、カズヤぁ、もっとぉ……」
ボクは睦言でカズヤにおねだりした事はなかった。だけど、いまはその相手はいない。ボクの妄想の中の人物だ。だから呼んでも応えることはない。ここには自分ひとりで、どんなに恥ずかしい言葉を口にしても、聞き咎める者はいない。
「ああぁん……はうーん! はにゃあ~ん……んくぅ~ん、んふっ……」
ボクは半ば意識しながら、甘ったるい声を出して悶える。応えてくれるものの無い寂しさを埋めるように、わざと……。痛くなるほど尖り始めた乳首が、インナーの生地で擦れるたびにビクンっとなり、思わず背中をよじってしまう。ボクはうつぶせになって抱えていた枕に胸を押し付けて、体をくねらせる。乳房への刺激は火がつくのが遅いけれど、それは体の奥深くにある別の性感帯へも結びついている。クリトリスで味わえるアクメよりももっと激しい、気が狂うような快感に。そして開いた両手で、股間をいじくり始めた。左手で陰唇を開き、右手で膣に指を入れる。マクラに乳房を擦り付けるよう上半身をくねらせる。全身を使った激しいオナニーで、少しでもセックスへの快感へと近づこうと、自分で自分を快感の海に投じる行為に、夢中になっていた。
「はぁっ、はぁ、も、もっと、もっとぉ~」
他人にはとても聞かせられない、淫らな声を上げながら自分を昂ぶらせる。指を二本に増やして、腱がつりそうにながらも、更に奥へと届かせようとする。もうちょっとでイケそうなんだけど、どうしても届きそうに無いもどかしさに切なさがこみ上げ、目から涙が溢れ出す。
「……あ、あアン……カズヤあ……、ゆび、だけじゃ……。イヤ……んくっ!」
その時、不意に入り口の方から、物音と声がした。一瞬でボクの意識が現実へと引き戻される。
「ごほん。 か、帰ってきていたのか?」
ヤバイ!!カズヤが戻ってきたっ!!!どうしよう……こんなことしてるの見つかったら……。
ボクは眠ったフリしてごまかそうとした。だけど掻いた汗が冷え込んでいく体に拍車をかけた。
「くしゅんっ!」
(ああん! この体、どうしてこんなに精巧にできているんだよぉ~っ!)
「風邪、か? 体の調子、悪いのか?」
カズヤがベッドに近づいてくる。もうごまかしきれない。
「な、なんでもない。ちょっと疲れただけだから」
突然に行き場を失った性欲を何とか体から押し出そうと頑張るが、股間から愛液が溢れ出て太腿を伝うのを感じる。ボクは万が一にも、被っていた毛布を引き剥がされないように、必死で掴んだ。
「ドール体だから、調子が悪ければリンクシステムが警告出すと思うけど、ムリすんな」
「う、うん。心配してくれてありがと。大丈夫、なんでもないから」
毛布からちょっとだけ顔を出して、立ったままいたわりの言葉をかけてくれたカズヤの足元を見ると、さっき脱いだショーツが転がっている。
(あああ、もうオシマイだ! なんてボクはバカなんだろ!)
だけど、カズヤはそれには気づかなかったらしく、こう言った。
「忘れ物を取りに来ただけだから、すぐにまた出かけてくるよ」
「う、うん。じゃ、その間にボクは部屋を片付けておくから……。い、いってらっしゃい」
「ああ、いつもすまないな」
毛布に半分顔を隠して、カズヤを見送った。
「はぁ……、びっくりした。カズヤが鈍感な奴で助かったよ」
すっかりソノ気もどこかへ吹き飛んでしまったボクは、のろのろと部屋を片付け始めた。
どうあれ、これで元通りの生活に戻れると思った。
□10月20日(夕刻)-------------------------------------------------
『仲直りの記念に、一緒に食事にしましょう』
と、ハルカさんが提案したのは、研究所のランドリールームで洗濯を手伝ってくれていた時だった。
外出中のカズヤにケイタイで聞いたら、『3日もハルカさんに迷惑かけたんだし』ということで、カズヤの奢りで外のレストランで待ち合わせて食事することになった。
”保護者つきで、近所ならば”ということであっさりと外出許可も出た。女の子の服装で知らない人の前に出るのは、まだちょっと抵抗があったけど、せっかくの外へ出る機会だからと、ボクは浮かれていた。
「ふー、おいしかったわね。カズヤ君ご馳走様」
「ええ、どういたしましてハルカさん」
「ホント、おいしかった。やっぱり食事が楽めるっていいよね」
そういいながらボクは、デザートのチーズケーキを食べ終えた。
ふと、カズヤの手元にある黒ビニールの手提げ袋が気になった。
「カズヤ、買い物に行ってたの? 何買ってきたの?」
「ああ、これは……。いや、後でな」
「なあに、カズヤ君? もしかして、仲直りのプレゼント?」
「そうなの? カズヤぁ」
「あ、いや、これは違うんだ。何でもない!」
妙に狼狽して袋を隠そうとするカズヤがちょっと気になったが、ハルカさんがカズヤを取り押さえながら言った。
「怪しいぞ。 よし! 調べちゃいなさい」
「わ、やめろ! 大したもんじゃない!」
ボクが袋の中を探ると、中からファンシーな包み紙で丁寧にラッピングされた箱がでてきた。
やっぱりプレゼントなんだ! 相手はボク以外ありえないだろう。ボクは嬉しくなって、カズヤに聞いた。
「ね、ね? これ、ボクにでしょ?」
「……あ、ああ。まあな」
「ありがとう、カズヤ。嬉しいよ。開けてもいいかな?」
「ば、馬鹿! こんなところで開けるな!」
「あら、カズヤ君ったらテレちゃって。いいじゃない、あけちゃえあけちゃえ!」
ボクは期待とともにラッピングを解いた。だけど中から出てきたのは、男性器を模したピンクの“バイブレータ”だった。
その場に、最も相応しくないだろう逸品の登場に、沈黙が訪れる。
「あ、いや……。そのだな、オマエ、指じゃ物足りないとか、言ってた……から」
「……カ、ズヤの ばかあぁっっーーっ!!!! うわぁあ゙あーーーん!!」
オナニーしていたことをハルカさんにまで知られてしまい、やりきれない情けなさと恥ずかしさとで何をどうすればいいのかわからず、ボクは大声で泣き出してしまった。ハルカさんが何とかなだめようとしてくれたけど、研究所に戻ってもボクは泣き続けた。
せっかくの仲直りの機会も半日と保たず、別居生活の再開となった。
今度ばかりはハルカさんも、追い出したりはしなかった。
□10月25日(午後)-------------------------------------------------
研究所では、ボクたちが開発しているアリスドールの技術的成果を反映した、VR体の試作モデルを作ることになった。
VR体は普段ボクがリンクしているアリスドールと比べて、機能も感覚も大幅に簡略化されているが、それでも体に重大な障害を抱えている人や、極限作業、自律型アンドロイドのベース体として使われ始めている。もちろんそれだけじゃなくて、もっといろんな用途に使えないかと言うことで、今もこの研究所だけでなく、大学や複合企業などでさまざまな研究がされている。
「へーえ? カズヤ似合うよ! かわいいじゃん!」
「あら、ホント!」
「くくく、よもやオレまで、こんなことをするハメになるとは……」
そしてカズヤはその新型VR体にリンクしていた。カタログに使うためのプロモーションビデオやスチル写真を撮るためだった。
「だいたい、なんでオレがこんなことやらなきゃいけないんだ?」
「なんでかって、見ればわかるじゃん。新型VR体、今のボクにそっくりでしょ? だからほら、二人並べば姉妹にみえるもんね」
「そうじゃなくて、なんでオレなんだよ。ハルカさんだっていいじゃないか!」
「あら、私はイヤよ。めんどくさいもの」
「へへへ、実はボクが所長に言ってみたんだ。ほら、カズヤはいつもボクを調律する側”だろ? だから、たまにはされる側”を経験しておくのも役に立つんじゃないか、ってね」
「ほほう、オマエもう忘れたのか? 採用試験の時に、どんなだったかを」
「ぐっ。そうそうやられてばかりじゃないよ。これでどうだっ!」
ボクはカズヤの胸に手を伸ばして揉んだ。
「んはぁっ! へ、へん! 感じる、わけ、ないだろ」
「ムリしちゃって。実はさっき、カズヤのリンクシステムに細工して、感度を最大にしといたんだ」
「ひ、卑怯な! だが、感じやすいのは、オマエだって一緒だろ!」
カズヤがボクのスカートに手を突っ込む。
「わっ何すんだよ! このっ!」
ボクはカズヤの上着を剥ぎ取った。負けじとカズヤがボクのスカートを脱がせる。
「やっ、やめっ!! パンツ脱げちゃうじゃないかっ!」
「……く、くるしい。ブラジャーを引っ張るなっ!」
「へんだ! たまにはぐにぐに揉まれる方の身にもなってみろっ! このオッパイ性人め!」
「うるせぇ! 少しは女らしく”きゃぁっ”とか悲鳴上げてみろ! この大人のオモチャ!」
「なんだってーっ!!!」
ボクたちは撮影もそっちのけで、取っ組み合いの大ゲンカを始めた。
「……あれ、止めさせてくださいよ」
あきれた撮影スタッフが、ハルカに助けを求めた。
「何言ってんのよ、シャッターチャンスを逃さないように、気張って撮影しなさいよ!」
「しかしですねぇ、こんなのカタログには使えませんよ?」
「バカねぇ、そんなのいつでも撮れるでしょ。私が2人をひん剥くから、バッチリ録るのよ! こら~、あんたたち! 私も混ぜなさい!」
「あ、ハルカさん! 所長~。どうします?」
「うむ、ハルカくんのベストショットも、逃さん様にな」
「……しょ、所長?」
□10月25日(夜)-------------------------------------------------
結局ハルカさんが乱入してから後は、撮影とは名ばかりの研究所のスタッフまで巻き込んだ、なんだか良くわからないお祭り騒ぎになってしまった。タオル一枚のAVさながらのポーズから、どこから調達してきたのか、セーラー服やバニースーツ、ハルカさん秘蔵の悩殺下着(?)やら、キワドイ水着、ネコミミメイドのコスプレまでさせられた。カズヤもスタッフのみんなにさんざんおもちゃにされて、どこかおかしな悩殺ポーズをさせられては、スタジオに爆笑の渦を巻きちらしていた。ボクらと一緒のフレームに納まりたいっていうスタッフは後を絶たず、衣装を変えればまた一緒に記念撮影だとかで、誰がカメラマンで誰がモデルなのかさっぱりわからなくなっていた。ケンカ三昧の日々を送っていた、ボクとカズヤも、いつの間にかそんなことは忘れて、学生時代の頃のように、仲良く笑い転げていた。数時間後にさすがにみんな騒ぎ疲れて、撮影を終わらせたものの、所長発案の大宴会に突入した頃には、何がなんだかわからない事態に発展していた。
お酒の飲めないボクは、ハルカさんと早々に宴会場を後にして、ハルカさんの部屋でくつろいでいた。時折階下から聞きなれた声質の、オカマな悲鳴が聞こえてくる。きっとカズヤがVR体のリンクを解いても、まだ遊ばれているんだろう。
部屋に入ると、ハルカさんはグラスに少しだけ薄いお酒を、ボクには甘いジュースを入れて手渡してくれた。
「……しかしケッサクだったわね、カズヤ君の悩殺ポーズ」
「いくら基本プログラムがしてあったって、中身はカズヤだもんね」
「でも、女性型のVR体にリンクしたカズヤ君も、なかなかの美女ぶりだったわね。あれならアナタと入れ替わっても、何とかやっていけるんじゃないの?」
「えええ~? カズヤには絶対ムリだよ! 細やかな気配りとか、デリカシーとかそういうのまったく無いもん」
「あら、それはドールの心理設定次第じゃない? あんなガサツで無神経な男には、一度強烈な心理暗示でもかけてやった方がいいわ。アナタもそう思うでしょ?」
「う、うーん、まぁ少しは……。だけど、今のままのカズヤだって、そんなに悪くないと思うんだけどなぁ……」
「ふーん。……そうね。きっとそうよね。うふふふふふふ」
「あぁっ、今のナシ!! もう! ハルカさんってば、そんなにニヤニヤした顔して笑わないでよっ!!!」
「はいはい。ああ、でも久しぶりにバカ騒ぎしたわ」
「うん、とっても楽しかった。学生だった時だって、こんなに騒いだことなかったよ」
「カズヤ君と仲直りできて、よかったわね」
「え? ……うん、いつまでもケンカばかりしていられないしね」
もしかしたら撮影会の馬鹿騒ぎも大宴会も、ハルカさんや所長、それに研究所のスタッフの人たちが、ボクたちを仲直りさせてくれる為にしてくれたんじゃないのかな? ボクはそんな風に思った。
「ありがとう、ハルカさん」
「んふふ、なぁに? ねぇ、ところでさぁ、カズヤ君のこと、どう思ってるの?」
「なんだい、突然に。どうっていわれても、……スキだよ」
「元、男同士でも?」
「うん、……そういう風に、設定されているから」
「それだけ?」
「……この体にリンクして、カズヤと毎日、……ケンカとかしながら過ごしてみて、思ったんだ。ずっとカズヤと一緒に暮らしてきて、ひょんなことから調律師になって、体は女の子になっちゃったんだけど。友達からだんだんと恋人になるのって……ううん、男だとか女だとかそんなことはどうだっていいんだ。心理設定でもなんでもいい。今感じていることを素直に認めて、……これからもずっとカズヤと一緒にいれたらいいな、ってさ」
「でもカズヤ君って、むっつりスケベなんでしょ? 男とエッチするのって、イヤじゃないの?」
「それは最初のドール体にリンクして、調律始めたときからずっと悩んでる。今でも男とセックスするなんて、ホントはイヤだよ。でもカズヤはさ、ボクのこと裏切ったことは一度も無いんだ。どんなに大変な時だって、カズヤはボクのこと見放さずに、助けてくれたんだ。もし、カズヤがいなかったら、ボクなんかとっくに……。だからこの仕事をカズヤと続けていくにはさ、そのあたりは割りきらなきゃって思ったんだ。ボクも、ボクにできることならカズヤにしてあげたい。セックスだってカズヤがしたいのなら、この体ならばできるよ。」
ハルカさんの前では、何故かカズヤにも言えないような恥ずかしいことも、ついつい口にしてしまう。
「それに、……女の子の体でエッチするの、ソンナニ イヤジャナイカモ……」
「ほう~、実はハマってるなコイツ。うりうり~」
ハルカさんがゲンコツでボクの頭をグリグリする。
「ああ~ん、痛いよぉ。もう降参!」
「それじゃさ、女性にはもう興味ないの?」
ハルカさんは胸元を強調するように手を当てた。ボクはちょっとだけ目を奪われたけど、こういった。
「そんなことは無いけど、とりあえず今は間に合ってるかな。あ、でもハルカさんがイヤってわけじゃないよ。男に戻ったら、ハルカさんとデートしたいな」
「うふふ、ありがと」
ハルカさんがそっと抱き寄せて、オデコにキスしてくれた。こういう手馴れた一連の仕草は、まだボクには真似できないことだった。たわいも無い恥ずかしい会話も、こうしたコミュニケーションも、ドールの”調律”に役立っているんだろうな、とボクは思った。ついつい仕事と結び付けてしまうのは、ボクの悪いクセかもしれなかったけど、こうしてハルカさんと過ごす時間も、とても心地良く感じていた。
だからこの仕事、ボクはもうイヤじゃない……。
「じゃ、そろそろ部屋に戻るね」
「あら、今夜もおねーさんと一緒に、寝てくれるんじゃないの?」
「そうしたいけど、カズヤが部屋に戻ってくるかもしれないから……。おやすみなさい、ハルカさん」
「そう……。おやすみ」
パタンと閉じたドアを見送り、ハルカは少し残念そうにつぶやいた。
「……フラれちゃった、のかな?」
グラスの氷が少し溶けて、『カラン』と音を立てた。
□10月25日(深夜)-----------------------------------------------
ボクは自分たちの部屋に戻り、軽くシャワーを浴びた。バスタオル姿のまま髪を手入れしていたら、カズヤが戻ってきた。
「お帰り、カズヤ……うわっ、お酒クサっ!」
「おお、帰っていたか。ただいま」
「……結構飲んだみたいだね」
「ああ、久しぶりだ。こんなに飲んだの。あ、あんまり近づくな、臭いだけでも酔っ払うかもしれんから。シャワー浴びてくるよ。悪いが薬箱から薬出して来てくれ、アルコール分解する奴」
「うん、わかった」
ボクはカズヤがシャワーを浴びている間に、バスタオルとカズヤの着替え、そして言われた薬をシャワールームの脱衣所に準備して置いた。そして自分もパジャマに着替えて、カズヤが戻ってくるのをベッドに座って待っていた。シャワーの音が止むと、冷蔵庫からレモン水の入ったボトルを出してコップに注いでいる自分に気がついた。一連の作業が澱みなくできていることに、ちょっとした気恥ずかしさを感じた。
(なんだか長年連れ添った夫婦みたいだな……)
バスタオルで頭を拭きながらカズヤがやってきた。ボクがコップを差し出すと、カズヤは黙ってそれを受け取り、一気に飲み干してまたボクに差し出す。お代わりが欲しいのだろうと思って、受け取ろうと手を伸ばすと、カズヤはその手を引っ張りボクを抱き寄せた。
「酒くさくないか?」
「え?う、うん、大丈夫、みたいだよ……」
急に抱き寄せられたことにビックリして、胸がどきどきしてくる。
「すまんな、オレばかり楽しんで。お前が帰ってるとわかっていたら、こんなに飲まなかったんだが」
「う、ううん。気にしないで。きっと次の次ぐらいのドールになったら、飲めるかもしれないからさ」
シャワーを浴びて火照ったカズヤの体の温もりが、ボクに伝わってくる。いや、これはもしかしたらボク自身も……。
「キスして、いいか?」
「ど、どうしたの? まだ酔……んんむむ……」
舌を絡ませない、唇を合わせるだけの普通のキス。でも、いつもよりもずっと長く感じた。
背中に回されたカズヤの手が優しくボクを撫でる。激しくもなければ、軽くも無いキス。ただ相手を愛おしいと言う気持ちだけが、純粋に伝わってくるようなピュアキッス。穏やかな感覚に包まれながら、こんなキスもできるんだ、とボクは思った。
「ねぇ、カズヤ。……しようよ」
「え?」
「んもう! エッチしようって言ってるの!」
「め、珍しいな。お前からそんなこと言うの。何か悪いモンでも食ったか?」
「いいでしょ、そんなこと!」
ムードもへったくれも無いけど、今回のボクらはこんな関係だから仕方が無い。
1週間も禁欲生活を続けたからか、カズヤも直ぐにノってきた。
カズヤがボクの背中に回していた手を腰の下に回して抱き上げ、お姫様抱っこでベッドに運ぶ。
「なんだか恥ずかしいよね、こういうの」
「誘っておいて言うなよ……」
カズヤが優しく笑いかけながら、ボクのパジャマのボタンを外していく。ボクもちょっとテレながら、カズヤにされるままにしている。
こんなに柔らかい雰囲気で始めるなんて、この体になってからは初めてかもしれない。いつもはもっと殺伐としていたような気がする。突然怒鳴られたり、手をつねられたりしないと言う安心感からか、カズヤもなんだか嬉しそうにしているようだった。セックスってホントはこんなに楽しいものの筈だったんだと、改めて反省してしまう。
露になったボクの乳房を、カズヤがそっと両手で包みこむ。指の間に乳首を軽く挟むようにして、全体を満遍なくマッサージするようにしてそっと揉み始めた。まるで感触を楽しむかのように、強くはないけどしっかりと力を加えてくる。
「次は、もっと大きい体にしてもらおうか?」
「いや、これはこれで、オレは好きなんだ。手にぴったりとくる感じがするからな」
「最初っから素直にそういえば良いのに」
「後ろから抱きかかえてもいいか?」
「うん、ついでに全部脱がせてよ」
「電気消そうか?」
「……消したくなければ、消さなくてもいいよ」
カズヤはいつもつけてしたがったけど、そんなの恥ずかしいからいやだといって、ボクは必ず消させていた。だけど、カズヤが気遣ってくれるんなら、たまにはカズヤのしたいようにさせてあげたくなった。
カズヤはボクを一旦ベッドに寝かせて、パジャマのズボンに手をかけた。ボクは目を閉じて、カズヤにハダカにされるのを待っていた。そして、覚醒したときのままの姿になったボクの体を起こして、後ろから抱きかかえた。そしてさっきやっていたように、両手で左右の乳房をそっと包み込んで、愛撫を始めた。確かにこの体勢のほうが、しっくりと来る感じがする。直に触れ合うカズヤの体温が背中と胸から伝わってくる。
(おかしいな、カズヤにエッチな事されているのに、なんだかとっても落ち着いた、いい気持ちになってる……)
「いい匂いだ、オマエの髪」
不意に耳元でカズヤの低い声と吐息を感じた。なんだかくすぐったい。
「シャンプーの香りでしょ? カズヤだって同じ匂いがするよ」
「いや、これはオマエの匂いだ」
そういって、カズヤは片方の手をボクの頤にあて、後ろを向かせてキスをした。今度は舌を入れる大人のキスだった。
そして、もう片方の手を下のほうへ伸ばして、ボクの体にあるもう一つの口を弄り始めた。いつもよりもずっと丁寧で、とにかくボクをイカせようというような、乱暴さがなかった。ボクはキスを中断させて、カズヤに言った。
「今日はなんだか……やさしいね」
「そうか? オレも今日はすごく楽しいよ、オマエとするの。 もう少し続けていいか?」
「……うん」
そういってカズヤはボクの2箇所の唇を、舌と手を使って優しく撫で始めた。そうか、カズヤってこういう愛撫の仕方が好きなんだ……。
やがて、ボクの中に眠っている、激しい性感の塊が目覚め始める。少し息が上がり始めたので、後ろ手にカズヤのモノを探り当てて、そっと握る。カズヤが後ろからの愛撫をやめて、仰向けにボクを倒すと、覆いかぶさるような体勢になった。
「もう欲しくなったか?」
「……ばか」
カズヤはふっと鼻で笑うと、ボクの両足を掴んで、ぐっと押し広げた。
「やだ、こんなの恥ずかしいよ。丸見えじゃん」
「オマエの全部、見せてくれよ」
そういって、ボク股間に顔をうずめた。毛の生えていない、童女のような谷間を舌でなぞられる。とたんにぞわぞわと快感が背筋を駆け抜けて、ボクは背中を反らせてしまう。
「ふあぁっ!」
「気持いいか?」
「……そんなこと、聞かないでよぉ」
まだもう少し、快感で我を忘れる前に、もっとカズヤとの児戯を続けていたかったボクは、体を動かして抵抗を試みる。だけどカズヤの秘裂への責めは容赦なく、段々と体が上り詰めていきそうになる。本当に感じやすい、困った体だ。このままじゃ、一方的にボクが攻められて終わる、いつものパターンだ。ボクは何とか体をひねってカズヤの腰を引き寄せ、股間のものを咥えた。
「わっ、なにしてるんだ」
「んむむ……、むはぁ。こういうのも、たまにはいいでしょ?」
「でも、オマエ、その……」
「イヤ? それならやめるけど」
「……続けてくれ」
カズヤは体勢を入れ替えて、ボクがやりやすいように仰向けになった。ボクはゆっくりとカズヤの怒張に舌を這わせて、ゆっくりと舐った。カズヤにこんなことしてるなんて、なんか自分でも信じられない。でも、ボクはそれを一生懸命、真剣に、歯を立てないように、舌でカズヤを気持ちよくしようと、頑張った。しばらくすると、カズヤがボクの頭に手を添えて、その行為をやめさせた。
「ごめん、下手だった?」
「いや、出ちまいそうなんだ。いくらなんでもそれはイヤだろ?」
「うん……。まだ、ちょっと抵抗あるかな」
カズヤは口元に笑みを浮かべながら、ボクを抱き寄せて再びキス魔になった。
その合間にも、ボクの胸や股間を弄ぶのに余念が無い。ボクも負けじと、カズヤのモノを掴んで刺激を続ける。ふたりの息遣いが段々と荒々しくなっていき、時々喘ぐ声が混じる。一方的でない、2人でするセックスに、ボクたちは夢中になっていた。
やがてカズヤが、我慢しきれなくなったのか、ボクをベッドに仰向けに押し倒した。
「ねぇ、……なんかいってよ」
「なんかって……。 あ、愛してるぞ」
「んふ、カズヤぁ、だいすきぃ……」
「デリカシーの無いのは、キライなんじゃなかったのか?」
「いじわる。キライだよ、そういうの」
好きだといったり嫌いといったり、怒ったり泣いたり、甘えたりケンカしたりと、今度のボクは本当に忙しい。
それでもカズヤは、ボクに付き合ってくれる。だけど、本当にいつまでも一緒にいられるのかな?
ボクが本当の女の子で、カズヤとの間に子供でもできたら、きっと別なんだろうけど。
「ねぇ、挿れるんならゴム付けて」
「は? 意味無いだろ」
「言ってみただけだよ」
「ああ?……そうか」
といいつつも、カズヤは枕もとのサイドボードに手を伸ばし、何かを取り出してごそごそとやっている。
「じゃ、行くぞ」
そういってボクの腰を引き寄せた。そして膣内に、ひんやりした感触のモノが侵入してくる感じがした。ちょっとゾクっとするような違和感はいつもの挿入感と比べると、あまり気持ちよくはなかった。やっぱり生の方がキモチイイんだ……。と思っていたら、突然にそれは細かく振動を始めた。
「はぅっ! な、何これぇ! カズヤ、いったい何を……」
「この前買ったバイブ。せっかくだから使わないともったいないだろ。ちゃんとゴム被せたから、衛生的だよ」
「んんっ、ばかぁ、早く、抜いてよぉ、こんな……の、痛いよ、カズヤ」
ボクの狭い膣内で、微振動が快感を高めようとするが、ごりごりとするような痛みがそれを阻もうとせめぎ合う。
「力を抜かないからだよ。あまり締めずに、身を任せるんだ」
「だ、だって……、んんん~、はぁっ……。んくっ! いやあっ!」
カズヤがバイブをゆっくりと挿れたりだしたりしながら、時折、敏感に膨れ上がった肉芽を刺激する。急峻な山を駆け上がるように、ボクは登り詰めていく。
「うぁあっ!やっ、いっちゃう! こんなの……ああぁっーっ!」
あまりに激しい責めにボクはなす術もなくイかされてしまった。
息を切らしていると、今度はカズヤが自分のモノをボクにあてがい、覆いかぶさってきた。
「はぁっ、……だめぇ、カズヤぁ、はぁ、ボ、ボク……、はぁ、んっ、ま、まだ……」
「まだまだ、気持ちよくなれる筈だ。今度は、本当にイかせてやる」
カズヤの熱くたぎった”ホンモノ”が、ゆっくりとボクの中へと挿れられていく。オモチャなんかじゃない、カズヤのモノが挿れられていくことを、ボクの体は歓喜を持って受け入れていた。全身にぴりぴりとした刺激が広がり、”キモチイイ”という感覚で思考が埋まっていく。こんなこと初めてだった。
「はぁ、アツいよ、カズヤぁ……」
「ああ、オマエも、ドロドロだ……」
カズヤがゆっくりと抽挿を始める。ボクはまだ、バイブでイかされた余韻が覚めやらず、力なくカズヤにされるがままだった。敏感に疼く体に加えられる、さらなる刺激に何度も気が狂いそうになる。ボクは息を続けるのもやっとぐらいの有様で、カズヤにも気持ちよくなってもらうどころじゃなかった。だけどカズヤが時折不規則に体を捩り、それがボクの胎内にある別の性感帯を刺激すると、膣がカズヤへ快感を分け与えるかのように勝手に蠢き、それがカズヤの理性を少しずつ破壊していた。段々と、ケモノがするように荒々しく、カズヤが僕を蹂躙し始め、ただひたすら互いの性器をむさぼり味わうかのように、腰を動かし続けていた。部屋は二人の荒々しい息遣いで満ち、ボクもカズヤも限界に近づいていた。体の奥底に点火された快感の塊が広がり始めるのを感じて、ボクはカズヤの背中に回した手と、腰に絡ませた足に精一杯の力を入れ、絶頂で吹き飛ばされないようにしがみついた。
「あぁあぁぁっーっ!」
「ううぅっ!」
カズヤのアツい粘液の迸りが胎内を埋め尽くし、人工子宮の奥深くを満たしていく感覚がした。かろうじて意識を取り留めていたものの、ボクは何も考えられないほどの衝撃を受けていた。カズヤも、体全体で息をしている。ボクはカズヤの頬に手を当てて、にっこりと微笑みかけた。カズヤも満足そうな笑みを浮かべて僕の乱れた前髪を掻き揚げ、キスをしてくれた。そしてボクは今までに無い幸福感に包まれながら、少しずつ緩やかに変化する2人の息継ぎと、カズヤの心臓の音を聞きながら、深い眠りに落ちていった。
□10月26日(朝)-------------------------------------------------
翌日の朝、目が覚めるとカズヤはまだ目を閉じていて、規則正しいリズムで寝息をたてていた。
部屋の明かりは、いつの間にかきちんと消されていたけど、窓のカーテンの隙間から差し込む朝日が、ぼんやりと部屋を明るくしている。
なんだかとっても気持のいい朝だった。こんな時がいつまでも続けば良いのに。カズヤといつまでもこんな風に……。
「昨夜はとても気持ち良かったゾ」
ボクは小声でそういって、寝ているカズヤの額に軽くキスをした。そして起こさないようにそうっとベッドから抜け出し、床に脱ぎ散らかされていた大きめのシャツを羽織ってコーヒーを淹れた。マグカップを2つ持ってベッドサイドに座り、カズヤを起こそうと思ったけど、床に落ちているマクラを見て、ちょっとしたイタズラ心が浮かんだ。手を伸ばしてそれを着ていたシャツの中に入れてから、熱いコーヒーに馴染んだマグカップをカズヤの頬に押し付けた。
「あちっ! ……んあ、もう朝か?」
カズヤはまだ眠そうな目をこすりながら体を起こして、マグカップを受け取る。
ボクはにっこりと笑いかけながら、膨らんだお腹をさするようにして撫でた。
「……なんのマネだ? いくらなんでも早すぎるだろ、っていうか、ありえないし」
「セキニン、とってくれる?」
カズヤは一瞬面食らったような顔をしたけれど、面倒くさそうに頭を掻きながら言った。
「責任も何も、オマエとの腐れ縁は”一生モン”だろ?」
ありす
2005年11月06日(日) 21時52分00秒 公開
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