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僕の秘密日記(14)  by A.I

 クリスマスイブ。あちらこちらにクリスマスツリーが飾られ、大通りではサンタの衣装をした店員が客引きをしている。街は賑わいを見せて、クリスマス関連の商品が店頭にこれでもかと並べられていた。夜となればイルミネーションが灯され、星を散りばめたように光り輝くことだろう。
 今日は家族や恋人と過ごす人が大半に違いない。ケーキとチキンとゴムの消費が多くなりそうだ。
 そんな聖なる日に僕は恋人でも家族でもない男と会おうとしている。約束だから仕方ないとはいえ、ちょっと前までは僕も男だったのだ。別次元の僕がいるならば、今頃はゆうきとデートをしているかもしれない。どこで運命の歯車が狂ったのだろう。
 嘆いていても仕方ない。可愛らしいフェミニンな服を着ると、防寒のために袖を通したコートのボタンは外しておいた。多少は中身も見せたいからね。気合の入った格好をすると、玄関でキュートなロングブーツを履いて準備は完了だ。今の僕は上下左右どこから見ても女の子。僕を見て男だと断定するのは一人しかいないだろう。
 いよいよ約束の日。僕が女の子になったのはこの日のためだ。たった一日、デートの真似をするために女にさせられたと知れば両親は仰天するだろう。そりゃ僕やとおるにだってそれ以上の思惑はあったのだけど、今日という日がなければ女にならなかったに違いない。
「女の子を待たすなんてひどい男だね」
 口に出してみると、男を待つ女というシチュエーションに何となく笑ってしまった。もちろん怒っているわけではなく、待ち合わせ時間まであと二十分ほどはある。僕が早く来すぎただけだ。
 いつもは直接とおるの家に行くことがほとんどだから、場所を決めて待ち合わせなんてまずない。とおるは従兄を連れてくるので、八楠公園のシンボルとなっている大きな楠で会うことになっていた。ちなみにこの木の下で告白すると幸せになるというジンクスはない。
「……えーっと、何のつもりだろう?」
 実験着としてよく使われる白衣に作業用の保護メガネをかけて、とおるはひょっこりと現れた。確かに実験が趣味とは知っているけど、あの格好でデートに行くつもりなんだろうか。こいつのセンスを疑う。
「バカァァッ!」
「ぐふぁぁっ!」
 せっかく僕が張り切っておめかししてきたのに、デートにはそれなりの格好ってものがあるだろう。断じて白衣なんかで行くようなものじゃない。気づいたらとおるを殴り飛ばしていた。今日は手ぐらいなら握ってあげようと思っていたのにっ!
「待たせてすまん」
 金太郎飴のように倒れたとおるの背後にとおるが立っていた。白い蝶ネクタイに後部が燕のような長いジャケット、白無地のシャツとどこから見ても燕尾服を着こんでいる。まるでどこぞの舞踏会にでも行くかのような格好だ。
「……あれ?」
 とおるが二人いた。白衣姿のとおるは普段なら即座に復活するというのに未だ立ち上がらない。
「ああ、紹介する。あそこで倒れているのが従兄のすばるだ」
「へっ?」
 淡々と従兄を紹介するとおる。気絶したすばるさんを見ると、双子のようにとおるとよく似ている。うん、これなら勘違いしても無理はないね。これは不幸な事故だ。仕方ない。では、済ませられないよなぁ、やっぱり。
「うわぁぁっ、大丈夫ですか?」
 頬に見事な青あざをこしらえたすばるさんを助け起こす。あいにくと驚異的な回復力を持っているのはとおるだけのようで、すばるさんは白目を剥いたままだった。
「とおる、ベンチまですばるさんを運ぼう!」
「……ん、わかった」
 身内に対してつれない態度を取るとおるをどやしつけ、僕らはすばるさんをベンチで寝かせると濡らしたハンカチを頬にあてがった。僕の膝枕で気絶したままの従兄を、とおるは面白くなさそうな表情で見ている。
「う、あ、わぁぁっ!」
 うなされながら目覚めたすばるさんは僕の顔を見ると、器用にも腹筋の力だけで横っ飛びに逃げた。恐怖で足がすくんでいるのかシャクトリムシのように腰を折り曲げて僕から離れようとしている。こんな奇抜な行動を取るなんて、やっぱりとおるの血縁者に違いない。
「あ、あの。先ほどは申し訳ありませんでした。大丈夫ですか?」
「すばる君、こちらが俺の恋人のあきらだ。どうだ素敵で可愛くて超絶無敵だぞ!」
 とおるは意味もなく胸を張って、錯乱気味の従兄に僕を紹介する。すばるさんは青ざめた顔でポツリと呟いた。
「……はっ、あ、ああ、殴られた挙句に関節技をかけられた夢を見ていた」
「俺のあきらに密着してもらえるとは夢でも許しがたいな」
「待て、とおる。私は悪夢にうなされていたんだぞ。何かおかしくはないか?」
 まるで恋人を寝取られたかのような幽鬼の表情で、とおるは手にメスやら注射器やらを握っている。
「待て待て。あとで関節技ならいくらでもかけてやるというか、腕ぐらいは組んでやるから大人しくしていろ!」
「……わかった。あきらと腕組み……ふふふふふふっ……」
 暴走しかけているとおるを肘で小突くと、僕はもう一度すばるさんに頭を下げた。
「本当にごめんなさい。あの、頬は大丈夫ですか?」
「これくらいならどうってことないよ。君がとおるの恋人のあきらさんか」
 頬の痛みに顔をしかめながら、すばるさんは白衣の埃を払いながら立ち上がった。こうして見るととおるより僅かに背が高くて、目元が穏やかな気がする。
「初めまして。会えて嬉しいですよ」
 と言うわりには腰が引けていて、目には隠しきれない恐怖の色が浮かんでいる。初対面の印象は衝撃的だったに違いない。それもマイナスのベクトルに向けてだ。
「初めまして。とおるとおつき合いさせてもらっています」
 僕としては精一杯の微笑みを浮かべてみせたつもりなのだけど、握手をしたすばるさんの手は震えていた。
「お似合いの二人だね。とおるに相応しいお嬢さんじゃないか」
 まったくもって褒められている気がしないのはどうしてだろう。
「とおる、デジカメを持ってきているだろうから私が撮ってあげるよ。そろそろ仕事に戻らないといけないからね」
 大きな楠の下でとおると腕を組んだ僕は、にっこりと可愛く笑ってみせた。今さら遅すぎるかもしれないが、せいぜい仲が良い風を装おう。すばるさんが帰るまでの辛抱だ。
「な、なかなかうまく撮れないな。何枚か撮らせてくれ」
 すばるさんは十枚近くの写真を撮ってくれたけど、一枚目と二枚目は手ぶれで画像が歪んでいた。はぁ、きっと死神と悪魔のカップルとでも思っているんだろうなぁ。早とちりしたばっかりにとんだ誤解だ。
「これからもとおると仲良くしてくださいね」
 最後に人好きのする柔和な笑みで手を振りながら、すばるさんはチェルノブイリから離れるように駆け足で去っていった。
「……最悪だったね」
「…… 完璧だったな」
 すばるさんに強く僕の印象を植えつけたのは間違いない。別れろと言い出されても不思議ではないけど、似た者夫婦と思われている可能性のほうが高そうだ。可愛い女の子を演じるつもりだったのに、これじゃ痛い女の子じゃないか。
「邪魔者は消えたしランチにでも行くか」
「今度すばるさんと話す機会があったら、もう一度謝っておいてよ」
「……覚えていれば」
 こいつ伝える気がこれっぽっちもないな。
「それより髪型を変えたんだな。可憐で愛くるしくて俺のハートを捕らえて離さないぞ」
「えへへ、そ、そうかなぁ」
 容姿を褒められて悪い気分にならない女の子はいないと思う。とおるの褒め言葉はいつものことかもしれないけど、今日は特に気合を入れてきたからね。やっぱり嬉しい。
「…… とおるは正装もいいところだね。今日はイブだからそこまで目立たないかもだけど」
 わざわざデートのために用意したんだろうけど、間近で燕尾服を着ている人を見るなんて初めてだよ。燕尾服を着る人なんて、オーケストラの指揮者ぐらいしか思い浮かばない。
「今日は張り切ってみた」
「クリスマス限定なら似合ってると思うよ」
 仮装大賞じゃないんだから、何かのたびにその格好では悪目立ちし過ぎる。とおるは気合が空回りしているよ。
「この間は僕の服を買いに行ったわけだし、今度はとおるの服を選びに行ったほうがいいかもね」
 ここでとおるをあまり褒めると、このバカは毎日燕尾服で現れかねない。こいつはそれぐらいのことは平気でやる男だ。
「あきらの元旦の着物を見に行きたいしな」
「着物なんてここ何年も着た覚えがないよ」
 七五三のときに着たっきりじゃないかな。まさかとおるが着物姿を見たいと言い出すとは思わなかった。
「着物って高いだろ。たった一日のために買うなんてもったいないよ」
「お殿様遊びもしてみたいんだがな」
「着物を着た女の子をくるくると回して脱がしたいのか!」
 それで僕が「お殿様おやめになって」とは言いたくない。
「憧れないかっ」
 そこで同意を求められても困る。先々月までなら僕も興味を持ったかもしれないけど、自分が回されるほうなら遠慮したい。
「バカなことを言ってないでどこに食べに行く?」
「良さげな店を見つけたんでな。そこに行くとしよう」
 とおるが僕に掌を差し出してきたので、一分ほど逡巡したあとに手を取った。すばるさんは帰ったけれど、今日一日はつき合うという約束だ。ここでいきなり態度を豹変させるというのも、あまりに情けない話だろう。
 その店に向かうために商店街の大通りを横切ると、僕たちと同じように手を繋いだ男女の姿が見えた。はたから見れば僕ととおるもカップルに見えたりするのかな。
「ここがそうだ」
 ちょっとお洒落な佇まいを見せる洋風レストランに入ると、木調で整えられたレトロ漂う暖かな空間があった。木の壁で仕切られた個室のような席に通されると、イケメンな店員さんがグラスに水を注いでくれた。
「何を頼もうか迷っちゃうね」
 行くとしたらファミレスばかりだから、大人の雰囲気が漂うレストランだと緊張してしまう。お値段もそれなりにするしね。
「僕はこれにするよ」
 メニューに書いてあるデザートとサラダがつくエビとキノコのドリアセットを指差すと、とおるも注文するものを決めたようで店員さんを呼んだ。
「お子様ランチ一つ、エビとキノコのドリアセット一つですね」
 とおるの注文に、顔色一つ変えずに注文を復唱する店員さん。畏まりましたと言って下がっていったけど、僕は頬が熱くなってきたのを感じたよ。
「……何故にお子様ランチ?」
「そこにお子様ランチがあったからだ」
 確かにメニューにはお子様ランチと堂々と書かれていたけどね。まさか頼むとは思わなかった。周りの目があったなら帰りたくなったかもしれない。
「お待たせしました」
 僕がサラダを食べ終わってしばらくすると、香ばしい匂いとともにドリアが運ばれてきた。とおるのお子様ランチもほぼ同時にやってくる。
 ホットプレートの上にハート型のオムライス、エビフライ、ハンバーグ、タコさんウィンナーなどが綺麗に飾りつけられている。子供だましの品ではなく一品一品が丁寧に作られていた。
「大人のお子様ランチがあると聞いていたからな。以前から興味があった」
「思ったよりちゃんとした料理だったね。驚いたよ」
 しっかりとしたレストランで手抜きの料理が運ばれてくるはずもないか。正直あなどっていたかもしれない。これなら僕でも頼みたくなるかも。
「うまい、うまいぞぉぉっ!」
 大人のと書いてあるけど、食べるほうは精神的にお子様なんだけどね。
「あーあ、口の周りがソースでべとべとだよ。困ったやつだね」
 まったく手のかかる子供みたいだ。誰も取りはしないから、もっとゆっくり食べればいいと思うけどね。苦笑しながら僕はナプキンでとおるの口を拭いてやった。今日は一緒に歩くのだからそれぐらいしないと恥ずかしいだろ?
 ドリアはチーズがいっぱい、エビがぷりっとして美味しかった。デザートのミニパフェもアイスと生クリームにかかったキャラメルソースが絶品だったよ。
「すっごく美味しかったね」
 ほっぺたが落ちそうな料理に、にへらと頬が緩んでしまう。不思議なもので美味しいものを食べると心が軽やかになって、今ならたいていのことを許せてしまいそうだ。
「僕も半分だすよ」
 食後のコーヒーを飲み干し割り勘でいいかなと声をかけると、
「今日はデートだからな。こういうときは男が出すもんだ」
 紳士の皮をかぶったお子様は、僕に先立ってレジの前に出ると会計を済ませていた。素早い。男友達だったからあまり甘えて奢られるって気になれないんだよね。今現在でも男友達と言われたほうがしっくりくる。
 ちょっとやそっとじゃ十年以上続いている感覚は変わらない。女としての自覚を持たなきゃいけないのだろうけど、もう少しこのぬるま湯のような関係でいいかな。せめて新学期が始まるまでは。

<つづく>

コメント

感想ありがとうございます。励みになります。
あきらは気に入っているキャラなので、少しずつ心を溶かしていきたいものですね。
果たして恋する女の子になれるでしょうか。

続き来てますね。まだ「男の子」の心がかなり残っているようですが、これがどう「女の子」に溶かされていくのか、楽しみです。

続編きてたー!いつも楽しみにさせてもらってます(っ_ _)っ
がんばってください!

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