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僕の秘密日記(15)  by A.I.

 お腹を満たして気分も良くなった僕らは、腹ごなしに街をあちこち散策していた。当初の予定ではすばるさんも一緒についてきて、遊園地か動物園か水族館に行く予定だったらしい。急な仕事ということで去ってしまったけどね。
 遊園地は混んでそうだし、動物園は白熊やペンギンならともかくほかの動物は動きが鈍そうだ。水族館はここ数日母親の特訓で魚をさばいてばかりいたから、どうも行く気になれない。今魚を見るとさばき方を頭のなかでシミュレートしそうだ。
 そういうわけで商店街を冷やかし歩くということに落ち着いた。ウィンドウショッピングなら財布も傷まないからね。
「とおる、足を止めてどうしたの?」
 ゆっくりと歩きながら店を眺めていたとおるの足がぴたりと止まった。こいつの見ている方向を向くと、スポーツショップの店頭にマネキンに着せてスキーグッズが飾られている。
「今は冬だ。冬といえばっ」
「こたつ」
「冬といえばっ」
「みかん」
 間違ってはいない。
「……そこでわざと外さないでくれ」
「はいはい、スキーだね」
「行かないか?」
「いちおー僕は退院直後ってこと忘れてないかな?」
 激しい運動は禁じられているからね。行きたくても行けない。
「黙っていればわからない」
「日帰りでスキーに行くとしたら夜のうちに出ないといけないからね。また両親に嘘をつくのは気が引けるよ」
 それに元からそんなにスキーをやったことがないのに、体格が変わったばかりで滑ろうとしたら転びまくって僕が雪だるまになりそうだ。
「この辺は雪が降らないからな。近場にスキー場があればすぐに行きたかった」
「ホワイトクリスマスなんてありえないからね。降って粉雪だしすぐ溶けちゃうからなぁ」
 風が少しあるけど空はよく晴れている。雨も雪も降りはしないだろう。
「スキーなら来年になってから行けばいいんじゃないかな」
「あきらに手取り足取り腰取り口取りじっくりスキーを教えたかったぞ」
「来年なら一緒に行ってもいいかと思ってたけど、あんまり不穏な台詞を言うと行かないよ」
 こいつはまたどんなスケベな妄想をしているんだか。つむじを曲げて握っている手に力をこめてみたけど、とおるには大して効きもしない。男の手を握りつぶせるほど僕の掌はもう広くはないんだけどさ。
「今年はアウトドアスポーツに行けないなら、温泉という手もあるな。温泉療養って言葉もあることだし、行ってもおかしくはないだろ」
「よく次から次へと行きたい場所が出てくるね。その意欲だけは感心するよ」
 以前は遊ぶことにさほど積極的ではなかったと思うんだけどね。
「もっと褒めてくれい」
「褒めちゃいないからね。でも、温泉ってのは悪くないか」
 ここ一ヶ月の疲れを温泉でリフレッシュさせるのはいいかもしれない。
「混浴のあるところを探しておく」
「……ふーん、とおるはほかの男に僕の裸が見られてもいいんだ」
「貸し切りのあるところを探してみる……」
 他愛もない話をしながら、目的もなくぶらぶら街をほっつき歩いた。あまりデートらしいといえないかもしれないけど、とおるの目は青星のように輝いている。無表情フェイスはいつもと変わらないんだけどね。
「あ、イルミネーションが灯されたね。一斉に点灯されると幻想的だなぁ」
 日が落ちかける午後四時過ぎになると、商店街は一気に光の粒が瞬いた。サンタやトナカイ、靴下や星をかたどったライトは、子供でなくても心がはしゃぐ。
「サンタさんはとおるにプレゼントを持ってきてくれるかな?」
「毎年靴下は吊るしておくんだがな。プレゼントが入っていた試しはない」
 とおるの目を見た限りでは本気か冗談かわからない。
「そ、そうなんだ。まだサンタさんを信じてるの?」
「夢のある男だろ。靴下にサンタ姿のあきらが入っていてくれとお願いしたんだがな」
 そんなお願いをされてもサンタが迷惑だろう。
「……それはどんなミニチュアサイズの僕だよ」
「ちゃんと手編みで二メートルサイズの靴下だぞ」
 机と本棚、ベッドぐらいしかない殺風景な部屋に、巨大な靴下が吊るしてあるというのはシュールな光景だと思う。
「まっ、サンタからのプレゼントはなくとも、俺からあきらへのプレゼントはあるさ」
「そこで婚約指輪とか出されても受け取らないからね」
 とおるは出しかけた白い小箱を再びポケットに仕舞いこんだ。
「……そういうこともあろうかとほかにも用意してきたさ」
「学習能力がないわけでもないのは褒めてもいいけど、何を持ってきたの?」
「手製の――」
「マフラーとか? それは女性が編むもんじゃない?」
 僕はまだ裁縫とかはできないけどね。料理を覚えるだけで手一杯です。
「豊乳クリーム」
「それは意表を突いたつもりなのかな? かな?」
「あきら、金物屋さんから鉈を持ち出して虚ろな目で笑わないでくれ。さすがの俺も怖いぞ」
 おかしいな、手がいつの間にか鉈をつかんでいたよ。
「……そりゃ多少は気にしているけどね。人から言われるとショックなことってあるじゃん」
「そういうものか。ではこれはしまっておくとしよう」
「成長の兆しがまるでなかったらまた考えるよ」
 ちっとも心が動かなかったと言ったら嘘になるけどね。とおるにしたって悪意はなかっただろう。下心はあったかもだけど。
 金物屋さんに謝って鉈を返却して店を出ると、もう外は真っ暗闇だ。
「どっかで食べてく? それともケーキやチキンでも買ってく?」
「あきらの手作りのケーキが食べたいな」
「そこまで手間暇かけていられないけど、とおるのところでシチューぐらいなら作ろうか?」
 シチューは僕の好きな料理の一つだ。イブだしクリームシチューってのも悪くない。
「あきらの手料理が食べられるならそれでいい」
「親父さんも一人寂しくしているだろうからね。退院してから顔出ししてないしなぁ」
 野菜のうまみが溶けこんだ具だくさんのシチューを作ろう。大なべに作ってとおると親父さんが翌日も食べられるようにすればいいかな。市販の弁当だけじゃ栄養が偏るからね。
 デパートからの帰り道では、ケーキの箱と買い物袋でとおるの両手は塞がっていた。もちろん手は繋げないわけで、こいつの目は死んだ魚のように淀んでいる。
 僕の家の前を通ってとおるの家に行こうとすると、
「あきらぁぁっ!」
 背後から元気な声が僕を呼びかけた。僕ら二人にとっては幼なじみにあたる人物の声だ。たたたたっと駆け寄ってきた足音は僕の真後ろで止まると、いきなり僕を抱きしめてきた。柔らかいおっぱいの感触が背中越しに伝わってくる。
「ケーキを買ってきたから一緒に食べるわよ!」
 猪突猛進な元気娘ゆうきは確定事項のように僕の手を引っ張ろうとした。
「困るよ。今からとおるの家に行く約束なんだ」
「あ、いたんだ」
 路端の石ころのようにとおるの存在を認識してなかったらしい。とおるとゆうきは仲が悪いってわけじゃないけど、僕が絡むとなるとお互い譲らない。
「なによ、あたしと食べたくないっていうの。駅前のケーキ屋で一時間も待って買ったのよ。すっごく美味しいんだから」
「そんなことは言ってないよ。ただ先約があってとおるとこれから夕飯を食べるんだ」
「これから俺とあきらは一緒の食卓を囲むんだ。残念だったな」
 とおるは頼むからそこで勝ち誇った目をしないでくれ。バチバチと目に見えない火花が二人の間に弾けているような気がする。
「イブの夜に男だけで過ごすなんて不毛と思わない? 仕方ないわね。あたしも一緒に行ってあげるわよ。感謝なさい!」
 とおるとどっこいの我が道を往く女傑は、怯むことなく言い放ってみせた。天晴れなほどの大口を開けて破顔している。
「そうと決まったらさっさと行くわよ」
 ずかずかと歩いていくゆうきに、僕ととおるは顔を見合わせた。
「今日の最後ぐらいはゆうきがいてもいいんじゃない?」
「……あきらがそう言うなら仕方ないな」
 ゆうきの勢いに毒気を抜かれたようで渋々とおるはうなずいた。

「ただいま」
「お邪魔します」
「邪魔するわよ」
 三者三様の言い方でとおるの家にあがると、僕は早速台所に立った。ゆうきも手伝うと言ったが丁重にお断りしておく。以前に油揚げとネギの味噌汁を作ってもらったら、ゴマ油まみれの溶かした味噌を出されたことがあった。軽いトラウマだ。
「台所は誰も使ってないんだね」
 やかんでお湯ぐらいは沸かすだろうが、使われない鍋や食器は埃をかぶっている。おばさんがいなくなってからは誰も使ってないのだろう。
 さびの浮いた包丁を砥石で磨いてから野菜の皮むきを始める。皮ごと実を剥き過ぎてしまうことはあるけど、前よりは包丁が手に馴染んできた。
「よし、こんなものかな」
 まだアレンジとかするような技量はないから、基本に忠実にクリームシチューを作ってみた。にんじん、たまねぎ、じゃがいも、マッシュルーム、コーンがたっぷり入った鶏肉のシチューだ。味見をした限りではうまくできたと思う。ローストチキンはレンジでチンして終わり。あとはフランスパンを切り分けるだけだ。
「とおる、シチューを入れるお皿を洗って机に持っていってもらえない?」
「はいはい、あたしがそれぐらいやったあげるわよ」
 テレビを見ていたゆうきがぶんぶんと手を振り回すが、黙ってとおるは台所に向かっていた。
「なによ、あたしがやるって言ってるじゃないの」
 それほど広くもない台所で三人が所狭しと並んでいる。ゆうきはスポンジに洗剤を思いっきり染みこませ、ごきゅごきゅと力をこめて皿を洗っていた。その皿をとおるは水洗いして布巾で拭いている。いがみ合わずにやってくれるなら、僕としては一安心といったところだ。居間にいるとおるの親父さんも、にこにこと台所に立つ幼なじみ三人組を眺めていた。
「美味しい、この味なら一皿千円は取れるわね」
 クリームシチューを一口食べたゆうきがうなる。
「大げさだなぁ。シチューの素を使ったよくある味だよ」
「……おかわり」
 僕が二口目を味わっている間に、とおるの皿は空になっていた。
「とおる、レディーファーストって言葉を知らないの?」
「まだたくさんあるから喧嘩しないで仲良く食べてね」
 親父さんにもおかわりを勧めてから、皿を差し出した二人に交互にシチューをよそう。
「あきらちゃん、お義父さん、こんなに暖かいご飯は久しぶりに食べたよ」
「確かに溶鉱炉みたいのがいますけどね。ゆうきも一緒でしたけど良かったです?」
 彼女がいるだけで室温は上がりそうだ。
「もちろんだよ。ゆうきちゃんが遊びに来るのは久しぶりだね」
「あ、はい、おじさんもお元気そうですね」
 親父さんが笑顔を向けると、夢中でスプーンを動かしていたゆうきはぺこりとお辞儀をした。
 大なべいっぱいに作ったシチューだが食事が終わるころには空になっていた。このところ小食な僕はおかわりしなかったんだけどね。親父さんが一回おかわりしたのは覚えているけど、あの二人は胃がブラックホールにでも通じているのだろうか。
「ほら、ケーキを食べるわよ。好きなのを選んでちょうだい」
 ゆうきが買ってきたケーキは、潰れかけていたけどちゃんと四つあった。僕の両親の分も買ってきたのか、それとも彼女が三つ食べるつもりだったのか。後者でないことを祈るよ。
「僕らもケーキ買ってきたんだけどね。それもワンホール」
「美味しいものはいくら食べてもいいじゃない。そのぶん体を動かせばいいだけよ」
 ゆうきの一日の消費カロリーは多そうだ。
「お義父さんは残ったのでいいから、先に選んでくれればいいよ」
「俺はモンブランを貰う」
「なかなかいいチョイスするじゃないの。あそこはいい栗使っているわよ。それじゃあたしはショートケーキを貰うわ」
「僕はフルーツケーキにしようかな」
 最後に残ったチーズケーキは親父さんが食べることになった。ゆうきが太鼓判を押すだけあって、素材の甘みを生かしたケーキで食後でも美味しく食べられた。僕の選んだケーキは抑えた甘みと爽やかな酸味があとを引いて、いくらでも胃に入りそうだったよ。
 僕らが買ってきたチョコレートケーキは、とおるとゆうきが果敢に挑戦していたけど半分残ってしまった。食い意地の張った二人でも、シチュー鍋を空っぽにしたあとでは撤退を余儀なくされたらしい。
「悔しいわ、とおるほらもっと食べなさいよ」
「……ぐむぅ」
 とおるはケーキを飲みこもうとしていたが、胃がもう受けつけないらしい。
「いやそんなに無理して食べるもんでもないよ」
「むぅ、出されたものを残すなんて屈辱だわ……」
 下唇を噛んで、ゆうきは悔しそうだった。
「…… 太らないよう気をつけてね」
「あたしは明日からスキーに行くから大丈夫よ。よければあきらも一緒に行かない?」
「僕は退院したばかりだからね。まだ体力がないよ」
 せっかくのお誘いだったけど断るしかない。
「だらしないわね。しっかり食べてしっかり遊んでしっかり寝るのが元気の秘訣よ」
「心がけとくよ」
 勉強してはないんだねと心で思いつつ、ケーキにラップをして調味料しかないがらんどうの冷蔵庫に入れておく。小腹が空いたときにとおるか親父さんが食べるだろう。
「じゃ、そろそろ帰るわね。あきら、とおると遊ぶのはいいけど、ほどほどにしなさいよ」
「なんで?」
「……そりゃあたしとあきらの関係を考えたら当たり前でしょ」
「ゆうきととおるの関係も同じだと思うけどね」
 幼なじみであることに変わりはない。もっとも、ゆうきの心を知っていて僕ははぐらかしていた。
「もうつれないわね。ほら、おやすみのキスをしていってよ」
「あきら、俺にもしてくれ」
 ゆうきは目を閉じて顎を少しあげた。隣のとおるも口をラッパのように突き出し、目を閉じている。僕は一歩引いてとおるの向きを微調整してから、軽く押してやった。
「額にするの……? ってきゃあぁぁっ、なんでとおるがいるのよっ!」
「…… うわぁぁっ!」
 ゆうきのおでこにとおるの唇がぶつかると、二人とも驚いた顔で飛びすさった。両方とも心の底からまずそうな顔をしている。
「二人とも仲がいいね。ゆうき、それじゃおやすみ」
「そんなわけあるわけないじゃない!」
 とおるを蹴飛ばしたあと、ぷりぷり怒りながら駆け足でゆうきは玄関を出ていった。悪いことをしたかなと思うけど、今の体では好意に応えられない。
「ううっ、口直しがしたい」
「お茶でも入れるからそれを飲んどけ」
 僕にまた唇を向けようとするとおるに、思いっきり濃く渋いお茶を進呈しておいた。ゆうきは性格に向こう見ずなところはあるかもしれないけど、見た目だけならモデルみたいに高水準で整った容姿をしてるんだから、もっと喜んでもいいのにね。
「僕もそろそろ帰るよ」
「あきら、今日は泊まってかないか?」
「遠慮しとく。ああ、でもクリスマスプレゼントがまだだったね」
 玄関前で振り返り、背伸びをして触れるか触れないかという微妙な接触。
「これで今日のデートは終わり。明日からはまた友達だよ。おやすみっ」
 石像のように硬直したとおるに背を向けて、僕は火照りだした顔を冷ますように風を切って走り出した。


<つづく>

コメント

感想ありがとうございます。
じっくりねっとりとした関係になれるんでしょうかね。
ぼけ漫才やっている方が似合っているという気もするけど。

性別反転カップルというと、候補としてはゆうきなのかな。
そのまま女同士というのもありでしょうけどね。そういう展開になるかは置いておくとしても。

お約束だととおるとあきらのカップルだけど、違うパターンに期待してたりします。
お約束以外だと性別反転カップルかなぁ、ここのHPの傾向だと。

手取り足取り腰取り口取りじっくり・・w
いい雰囲気で進んでいますなぁヾ(´ー`)ノ
続きを期待しております!

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