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星の海で(6) ~古き良きオーガスタ~ <1>

作.ありす
イラスト.東宵由依

(1)-------------------------------------------------------
 フランチェスカは艦隊の戦闘副官として幕僚幹部を勤めていたが、その任務の傍らで、ラヴァーズを統括して様々な便宜を図ってもいた。
 そのため、しばしばラヴァーズを自室に呼び、自分の代わりにラヴァーズに関する管理業務の代行や、他のラヴァーズへの伝言を頼んでいた。

「失礼します」
「ああ、メリッサ。悪いわね、わざわざ。入って頂戴」
「はい、あの、先日はそのぉ、お風呂で……。失礼しました」
「え? ああ、あのこと? 楽しかったわね。途中で邪魔が入ったけど」
「私、酔っ払って大尉にいろいろとその、失礼な事を……」
「別にかまわないわ。また機会があったらやりましょう。今度はちゃんと見張りも立てて」
「はい。ところで大尉、何の御用でしょうか?」
「まぁ座って。コーヒーでいい?」
「ありがとうございます。お気遣い無く」

 フランチェスカは、メリッサにコーヒーを用意すると自分も座り、1冊のファイルを手渡した。

挿絵3(完成)

「これを見て頂戴」
「葉月・ファリーナ? 戦艦ピエンツァのラヴァーズですね。彼女が何か?」
「知り合い?」
「いえ。1度ラヴァーズの連絡会で会った事がありますけれど、特には」
「彼女、病気に罹っていてね。彼女の乗艦では適切な治療が行えないから、設備の整ったこの艦に転籍してくるの。ああ、もちろん検査と療養のためだけどね」
「それで?」
「貴女に、彼女の世話をお願いしたいの」

 メリッサは軍属(民間人)とは言え、艦隊所属のラヴァーズの中でも一番階級が高い曹長待遇であったため、フランチェスカからラヴァーズの管理に関する、さまざまな代行役を任されることが多かった。

「私にですか? それはかまいませんが、病気って何の病気でしょうか?」
「彼女の担当医師の話では、体に痺れがあって、歩行や手の動作に支障があるそうなの。そして良く幻覚を見るんだそうよ」
「幻覚?」
「とてもリアルな夢と言うか、白昼夢を見るらしいの。気がつくと自分はどこか別の場所にいて、男になっているんだって」
「男に? それって、昔の事……ラヴァーズになる前の事を、思い出しているって言うことでしょうか?」
「それはどうかしら? でもプライベートに関わることだから、これから話す事は、他言無用にしておいて欲しいのだけど……」
「はい、判っています」
「うん、では続けるわ。彼女がラヴァーズになったのは10年前。ある星系で起こした犯罪の裁判の結果、終身刑かラヴァーズになるかを選択する事になったんだそうよ」

 フランチェスカは、カップのコーヒーの残りを飲み干すと、話を続けた。

「そして、彼女はラヴァーズになる事を選んだ。その時、新しい体での生活を受け入れられるように、記憶の一部操作も望んだそうよ」
「一部操作?」
「本人に強い罪の意識がある場合や、再犯率の高い犯罪を起こした場合、本人の同意の元に、記憶の一部、または大部分をロックされることがある。それは、あなたも知っているわね?」
「ええ……」

 メリッサもラヴァーズになった時、記憶のほとんどをロックされたままだった。
 ラヴァーズになる前の自分がそう望んだのか、それとも強制的に奪われたのか、それすらも今となっては判らなかった。
 自分がどんな人間で、どうしてラヴァーズになったのか詳しい事は、自分自身も知らなかったのだった。
 それはメリッサにとっては辛い過去ではあったが、なるべくそれは考えないように、今まで生きてきた。

「彼女の場合は、犯行は衝動的な物で、犯意は無かったそうよ。だから、人生をやり直したいと思ったんじゃないかしら。死ぬまで自分の罪を悔いて牢獄で暮らすよりも、ラヴァーズになる事を選択したのだと思うわ」
「それで、記憶の一部ロックですか?」
「そう」
「それで、私はどうすればいいんですか?」
「彼女の病気が、今以上に進行しないようにして欲しいの」
「どうやって?」
「艦医のブルーノ先生は、彼女が見る幻覚が、症状を重くしているのではないかといっているわ。“病は気から”というでしょ?」
「過去を、元の自分を思い出すことが、葉月さんの病気の原因だって言うんですか?」

 メリッサは身を乗り出すようにテーブルに手を付き、責める様な口調で言った。

「そうは言っていないわ。ただ……」
「“ただ”、何でしょう?」
「“心の病”である可能性が高いのでは無いかと言うのが、ブルーノ先生の意見なのよ」
「“心の病”?」
「カルテのコピーをもらったのだけど、脳CTでは特に異常はないそうだし、パーキンソン症に良く似た症状ではあるけれど、それともちょっと違う。けれど、若干の記憶障害や、手足の痺れや麻痺といった症状は確かにある。特徴的なのは、明らかにはっきりとした幻覚を見る事」
「幻覚? 彼女には幻覚を見ていると言う認識は、あるんですか?」
「それも不思議なの。彼女が見ているのは、“オーガスタ”という星で、開拓民をしていた頃の事らしいわ。けれど本人は、それはありえないことだと言っている」
「その“ラヴァーズになる前の記憶”も操作されたものなんじゃ?」
「それはなんとも言えないわ。だから彼女も悩んでいる。そして、それが精神的な重荷になっているんじゃないかというのが、ブルーノ先生の所見なの」
「精神的な重荷?」
「彼女の言う幻覚が症状を引き起こしているのなら、それは取り除かなくてはならないと、ブルーノ先生はおっしゃっているの」
「もう一度、記憶をロックする必要があると?」
「彼女が見ているのが、彼女の過去であると言う保証は無いわ。いえ、その可能性はほとんどありえない。それに本人自身が意識のはっきりしている間は、それが幻覚だと言う自覚がある」「……判りました。でも具体的にはどうすれば?」
「空き時間に葉月の病室へ行って、彼女のケアをしてあげて欲しいのよ。体に麻痺が始まっているようだから、着替えやシャワーを手伝ってあげたり、話し相手になってあげて欲しいの。大変だろうけど」
「それは、かまいませんけれど……」
「もちろん、あなたのローテーションは少し減らしましょう。その分、エミリアや亜里沙たちにはがんばってもらわなければだけど、それは私の方からも伝えておくわ」
「判りました」
「治療法が見つかるまでは、彼女をあまり刺激しないようにね」
「はい、気をつけます」

<つづく>

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