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幸福な王子と不幸なメイド 1 by.黒い枕

「ルイズさん――どうか、僕と結婚して下さい!」

告白された。堂々と。
しかも、相手は、それなりに権力のある貴族跡取り息子である。
もし、『ルイズ』が普通の女の子で、なんら特殊な事情でメイドとして働いてなければ、
問題なく――むしろ、光栄至極の申し出である、が。

「いえ、わ、わた、くしめ……っ私めのような身分の低い娘を妻に娶るなど……いけません!」

内心では腸が煮えたぎり、その余波で震える肩を必死に宥めさせ彼女――『ルイズ』は、断った。
その健康的に実った胸元に可愛らしく、両手を置き、頭を下に向ける。
だが、相手も本気。
彼女の思いを重々承知で、否、だからこそ、強引に腕を掴む。

「ぶれ――うぐっ! なっ…なにを為さいますか!?」

他人の視線を注意しないといけない彼女は、怒りを押し殺し、言葉を選んだ。
ビンタの一つでも返したい気持ちを抑え、男の汗まみれの腕を黙認した。

「構いません。――貴女の美しさなら、父上も母上も納得してくれます。どうか、どうか、僕の妃にぃ」
「で、ですから――わたくしめは……ぼくはっ!!」

執拗な告白は、唯の有害である。
『ルイズ』は接近する男の鼻息の荒さに、腰を引いた。
瞳は怒りよりも、純粋な恐怖に涙を溜める。
もっとも、興奮した男の目線は――改心して、自分に惚れたのだと、自分勝手な様子に見えた。

「さあ――直ぐに結婚の準備をォ」
「だからああ!! ぼくはああっ――おっ俺はぁぁ!!」
「こら――ロイド。俺のメイドを誑かすな」
「るぅ…ルイジスさま!?」

決定的な秘密を危うく、というか目の前の男の勢いに負け暴露してしまった『ルイズ』。
だが、そこは機会を狙っていたかのように、彼女の主――『ルイジス』が、廊下の角から現れたことで有耶無耶になった。
彼女は『彼』にメイド呼ばわりされることを悔しく思いながら、いそいそと彼の背に隠れる。
腕に抱きつき、迫った男を涙目で睨み上げる。
主人に、一国の第一王子に、許可なく触れること自体は、民はおろか、王子直属のメイドでも許し難い暴挙なのだが、唯一の目撃者である騎士は、体を引き、困惑した。
王子の手前のためだろうか。
一気に冷めた脳が伝える彼女が、告白に同意して感涙する者――ではなく、むしろ、怖い何かに震えている光景。
怖い何か――それが、分からないほど男は愚者でもなかった。

「失礼しました、王子――」
「ああ…」

騎士は、これまでの熱意を押さえ込むと、礼儀ただしく王子とすれ違う。
王子も、軽く反応して、見送った。
通り過ぎる間際、騎士は『ルイズ』に瞳で愛を伝えるも、望んだ応えを得られず、とぼとぼ去っていく。

「まったく。時間をかけていると思えば、騎士といちゃつくなとあれほど言っていただろう!」
「も、申し訳御座いません。――ルイジス様」
「まあ、いい。戻るぞ!」
「は――はい」

二人だけとは言え、ここは渡り廊下。
いつ誰と、会うかも分からない――実際に騎士と遭遇してしまったし――二人は見事に『王子』と『メイド』を演じる。
王子は振り向き様にため息をつき、メイドは悔しさに涙目を一層、ひどくさせて、主人に従っていく。
方向性は違うものの、お互いが、『王子』と『メイド』が――嫌だった。

~~~

「もう――なんども言っているじゃないですか!? 気をつけてくださいって!! 分かっているんですか!?ご自身の立場がッ!!」
「わっ――分かっているよ。勿論――」

ルイジス王子に与えられた一室のひとつで、喧嘩する二人。
一人は、その部屋の持ち主であり、片方は清楚ながら、持ち前のグラマーさで魅惑的なメイドとなっている召使の女。
だが、相互の関係は完全に逆転していた。

「いいえ! 分かっていません――私が何のために王子になっていると思ってるんですか!!」

王子が言う。だが、その口調は君主のものではない。
身分の高いものに助言する敬語の上、女性口調である。
そのことを恥じらいもせず、王子『ルイジス』は荒々しくも、メイドに言葉を捧げる。
メイドも、真摯に非を認め、終わり頃の花のように頭を下げた。
反省ではなく――悲しみと悔しさから、涙ぐむ。

「けど…俺の……僕のせいじゃない!!」

王子に対して敬語も使わず、喧嘩口調で言葉を返した。激情のまま。
大罪である。
しかし彼は、そんな不遜なメイドを叱らない。
まるで意中の相手のように、『ルイズ』の体を、純血を気遣う。思いやる。
怒りに、そして焦りに、彩られながらも、その視線には確かな母性愛が交じっていた。

「いいえ、女性はちゃんと殿方の視線――視姦も含めて、ちゃんと把握しておくのが嗜みです。仮とは言え、ルイジス様は今は女性なのですから、そこは警戒心を持って……」

決定的な言葉――ルイジス様と『ルイズ』を、そう呼んだ王子。
その途端、『ルイズ』は激情にまま、顔を赤面させ、体震わす。
これでも、彼女は我慢しているのだ。
もう僕、でもダメだった。無理だった。
禁じられた言葉を使い、『ルイス』は激しく――荒れた。

「女って言うな!! ――俺は…俺は…」

どうしようもない現実にに泣くように……掠れた声で、彼女は呟いた。

「俺は……男だ」
「ルイジス様――」

その姿に同情したのか、王子は申し訳なさそうに感情を消し、彼女に詰め寄った。
自分を男だと名乗る、美女メイドに。ルイジス様と、言いながら。

「……出過ぎたまね…申し訳御座いません」
「いや…いい。キミにも――カリーナにも、大変なことを一任しているんだし……」

彼女が、カリーナと呼び、王子を励ました時、それで喧嘩は終わった。が――しかし。

(どうしよう……)

逆に居心地に悪い空気に、『ルイズ』は、そして『ルイジス』は深刻な顔すればいいのか、
苦笑いを見せ合えばいいのか、迷った。
緊迫的な焦燥が、二人の間を行き交う。
なんせ――性別が変わった同士であり、偽りの自分を演じている同士なのだから、普通の会話では続かなかった。
否、そもそも『王子』と『メイド』なのだ。会話が続くわけがなかった。
今、二人が共通する思いは一つだけ。
『なんで――私が王子なんですかぁぁ!?私はただのメイドなのにぃぃ!』と、
『どうして俺がメイドなんだ!? 執事ならまだ納得できるけどメイドはないだしょう!父上えェェ!!』――と言う、現状への不満だった

「…ぁ…ぅう」

沈黙に負けて、『ルイジス』は――ルイジスにされた一人のメイドは己が体を軽く弄り、呻いた。
一方、『ルイズ』も――ルイズと言う名の架空のメイドにされた王子も、『ルイジス』と同じように、自分の体を観察し、沸き立つ劣等感を文字通り、噛み殺す。

「――っ」

ごくん。
息を忘れて眼下を見やる。
似合うメイド姿と大きな胸元。それだけで『ルイズ』は恥辱を露わに悶えた。
大きさの、感じ方の差異こそあるものの、『ルイジス』も同じように、落ち着かない。
お互いの体が異性へと、変貌しているから、である。
――そう『ルイズ』と呼ばれるメイドが本当の王子であり、王子とされる外見をした青年が、『カリーナ』と言う名のメイドだった。
ほんの二週間前までは……。

「もう二週間か……」
「二週間と二日ですぅ!」

なんとか言葉を振ったものの、卑屈なのか、皮肉なのか。
王子役を、『自分』を任せているとは言え、かなり反抗的な口調である。
だが、彼は怒らない。注意しない。
申し訳ない気持ちで彼は、一杯だからだ。
持ち前の巨乳を持ち上げ、ため息を吐く。

(はああ…この身体になって二週間以上たっているのか…)

二週間前、事故が起きた。
魔術実験で、本来なら王族に被害が及ぶことはない筈だった。
しかし、興味本位の自業自得と言うか、間が悪かったというか――事故に巻き込まれ、眼が覚めたらルイジスは『ルイズ』になっていた。
正確には母君似のグラマーで、清爽な美女と変貌していたのだが、『女』になっていること事態が問題だった。
王家には様々な制約や掟がある。
剣は嗜むべきであり、功労者には褒美を与えよ。
その中の一つに、王族の娘が孕んだ場合、その相手は王の後継者候補になれる、と言うものだ。
この掟のお陰で、王族の女性はなんども襲われ――レイプされそうになった。
歴史上、全て未然に防げたことになっているが、王族の女性と恋に落ちた騎士が、王になったことは何度もあった。
しかも、今の王家にはルイジス以外の男子が居らず、『女』であることが、問題あり過ぎた。
早く元に戻りたい――が、隠密が義務付けられた上、事故のため、元に戻る方法を探すのも時間が掛かる。
今、直ぐに出来ることはなんの魔法も受けていない、つまり魔力的な影響を受けていない者の姿を変えること。
彼も悩んだし、国王も母君も困惑した。
しかし、そこで偶々、話を聞いてしまったのが、メイドの――カリーナである。
そこで国王はカリーナに、そしてルイジスに命じた。
カリーナ、暫くの間、お前が王子であり、我が息子だ。そして、お前は息子のメイドの『ルイズ』として暮らせ、良いな――である。
なにが良いのか、二人は困惑したまま、カリーナは、ルイジスに変身させられ、ルイジスはルイズと、言う新人メイドとして働くことに。

ルイジス
キャライラスト.しん

<つづく>

初出20100923

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