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My Little Princess (1)

作.うずら
キャライラスト&挿絵.いずみやみその

<1>
「姫様、なりません!」
「なぜです?」
 静止する私に向かって、姫様は華やかに笑んだ。普段からこの笑顔のためなら死ねる、と思ってはいる。だが、いくら主筋とはいえ、してはいけないことは諭さなければならない。ましてや、歳若い方であれば、なおさらのこと。
「なぜ、も何もありません。下々の者と交わるなとは申しません。しかし、他国の、それも旅商人などとそのように親しくされては」
 王族であるが故に、敵も多い。山脈を越さねば攻めては来られないとはいえ、隣国は強大なスマルン王国。いままで戦争になったことはないが、統率の取れた軍隊は近隣にその名をとどろかせている。隙を見せれば、つけこまれないという保障はない。
 湖をはさんだ対岸にはデフロット商国。この国とは直に面した耕作地の水利権や漁獲権を巡って、何度も小競り合いを繰り返していた。商業国であるため、軍事力はそれほど大きいものではないが、財力の差は歴然としている。野蛮な傭兵も多いと聞く。わが国になにかあれば、一気に攻め寄せてくる可能性もある。
 頭痛の種はそれだけではない。国内にも、姫様がいなければ次の王位は……と考える不埒な輩が少なからず存在する。情けないことだが、権力は時に人を狂わせる。私とて若輩だが、王宮に仕えて十年余り。その程度のことはわかっていた。
 何があろうと、姫様の身にもしもが無い様にしなければならないのだ。それが不興を買うことになろうとも、だ。宰相補佐官としての役目……執事であり、盾であり、教育係である私にとって、それが何よりも大事な使命だった。
「たしかに彼女は遠い異国の人間です。ですが、いつも見聞を広めよと言っているのは、アレック。あなたではないですか」
「それは」
 言葉に詰まる。そう、たしかに常日頃からそのように指導はしている。それは間違いない。
 態度に若干の不遜さがにじむものの、彼女はおそらく信用に足る人物なのであろう。不在であったため経緯までは聞かされていないが、陛下や王妃様の信頼も勝ち得ている。姫様とも何度も謁見はしているし、私もその折には同席していた。悪辣な人間ではないことは、わかっていた。
 ただ、それでも二人きりというのはよろしくない。そう諭そうとしたとき、黙っていた客人が口を開いた。離れた場所で、会話も小声だったが、聞こえていたらしい。
「それでは、こういうのはどうでしょうか」
「アレックを納得させる、なにかいい案があるのですか」
「はい。そのメイフィールド殿にもいていただくのです。ただし、女同士の会話を聞きたい、ということであれば」
 この女……っ!
 できないだろう、と暗に挑発をこめて私に笑みを浮かべてくる。癪に障る。癪に障るが、その程度の理由で人を切り捨てるわけにもいかない。
「それは名案ですね」
 ぽふっとシルクのグローブにつつまれた手をたたく暢気な姫。やはり世俗から離れた方だ。皮肉や言葉の棘というものについても、今後は教えなければならないだろうか。できることならば、その様な無粋な物とは無縁でいて欲しいものだが。
「イルマもこう言っていますし、そうしてはどうですか、アレック?」
 さすがに真に受けるとまでは思っていなかった様だ。が、その当のイルマも目を丸くしておりますよ、などと告げるわけにはいかない。さて、どうしたものか。
 それでなくとも数の少ない女性兵士は、王妃様の公務の護衛。メイドなどでは何かあったときに、対処できまい。今日の夕方には陛下も王妃様も戻ってこられるというのに……間の悪い。
 思案にふけっている間にも、姫様はすっかり乗り気になっていた。そうしましょう、そうしましょうと、舞い上がってしまっている。
 一方のイルマは最初こそ驚いていたが、今は高みの見物といった風情だ。まさかお姫様をがっかりさせるなんてこと、ないですよね。目がそう物語っていた。
 仕方があるまい。十を超えてからはしたこともないが、細身なこの身体だ。なんとかなろう。それに、宮殿深くでの帯剣を許されている者はそうはいない。私がやるしかないだろう。
「わかりました。それでは、私が戻るまでしばしお待ちを」
 喜ぶ姫様と、本気なのかと目をむく旅人。まあ、イルマのそんな顔が見られただけで、満足とすべきか。


「よくお似合いですわ、メイフィールド様」
「そうか?」
「はい、とても男性とは思えません」
 少し複雑な思いを抱えながら、鏡を覗き込む。ふむ。女性と比べると無骨な作りの顔かたちはどうしようもない。だが、化粧とウィッグで、なんとか十人並みにはなったか。健康に育つようにと女装させられていた幼少期には、もっとかわいかったものだが。時とは残酷なものだ。
 持ってこさせた女性用のプレートメイルも着用することができた。多少のきつさやゆるさはあるものの、そこは我慢するしかない。本来はオーダーメイドの物を着られただけでも、御の字とすべきだ。もっとも、本当に何かあることはないだろうから、これで十分だとも言えた。
 手伝ってくれたメリーに礼と心づけを渡し、部屋を出る。彼女ならこれまでも面倒事を頼んでいるし、黙っていてくれるだろう。
 ……しかし、目立つか。すれ違う官や兵たちの視線が痛い。これで私が女装趣味、それも宮廷内をその格好でうろつく異常者だと思われるとすれば、やるせない。たった二部屋分の距離が、かつてないほどに長く感じた。だが、それもあと数歩で――
「おっ、ねぇねぇねぇねぇ」
 たどり着いたと思った矢先、呼び止められた。ここは宮廷内部でも奥に位置する。出入りできるのは、地位のある者、文武ともに認められた警備兵、そうでない場合は知性・品性が認められた者、客人に限られる。その割には軽薄な声だ。……いや、聞き覚えのある声、と言うべきか。振り向く必要も感じず、そのまま進む。が、肩に手をかけられ、強引に止められた。
「お、後姿で美人だと思ったけど、やっぱりかわいいね。今夜、暇? あ、そう。空いてるんだ。じゃあ、正門から南に下ったところにある月桂宮ってお店で食事でもしようよ。ああ、もちろんお金はボクに任せて。いやいやいやいや、遠慮なんてしなくていいんだ。ボクはキミみたいにかわいい人といっしょに夕食を食べられるだけで満足なんだ。うん、そう、夕方、待ってるよ。ああ、鎧姿でもそれだけ輝いてるんだ。キミの私服だったら、どれだけ素敵なんだろう。そんじょそこらの貴族の小娘なんかが見たら、恥ずかしくて逃げてしまうかもしれないね。それじゃあ、待ってるよ。あ、その前にキミの名前を聞いていいかな?」

My Little Princess 1

「私の顔を忘れたか」
「お、声はちょっとハスキーで、うん、キミみたいなクールな美人にはよく似合ってるよ。でも、キミとは初めて会ったと思うんだ。あ、もしかして、運命を感じちゃったとか? いやぁ、照れるな。んふふふ」
 気色の悪いことに、指輪をつけた手が私の頬をいやらしく撫でる。ぞわぞわと全身に鳥肌が立った。これ以上、この勘違い男に好きにさせるわけにもいかない。腕をひねり、あごに拳を入れる。
 無様な悲鳴を上げて、男が床に転がった。手加減していたというのに、情けない。ん、ああ、今は鉄甲をしていたのだったか。まあ、女性は私以上の嫌悪感に加えて、恐怖も覚えるだろうから、これぐらいは我慢してもらおう。
「が、ガストン領主たるボクに手を上げるなんて! 貴様、女だと思っていれば!」
「それはお父上のことだろう」
「な、なぜそれを……ではない、無礼な! えぇい、誰か」
「人を呼んで後悔するのはお前だぞ。もう一度言う。私のことを、忘れたか?」
 あまりにも目の前の女兵士が堂々としているのを不審に思ったのだろう。ようやく私にはっきりとした視線をくれた。だが、まだ訝しげだ。
「これでもまだわからんか」
 それならそれで仕方がない。陛下から賜った護剣をつきつけてやる。次第に眉間の皺が深くなり、目が丸くなる。
「アレック、殿……、その、それは、その、趣味ですか?」
「久しぶりに会った従兄に挨拶もなしか、ディーン。まあ、良い。これは姫様のわがままに付き合うための、苦肉の策、と言ったところだ」
「そ、そうでしたか。申し訳ありません。それでは、私はこれで」
 一刻も早く立ち去りたいという風情だ。びしっと礼をして、私の横をすり抜けていく。その背に忠告を投げつけておく。
「ひとつ言っておく。変に言いふらそうものなら……わかっておろうな?」
「な、なにをでしょう」
「貴様が男を、それも肉親を食事に誘うけだものだと、尾ひれに背びれ、胸びれもつけて話を流してやろう。くっくっ、厳格なお父上が知ったら、どうなるかな」
 短い悲鳴を上げると、ばたばたと走り去ってしまった。無様な。もう少し学をつけて、もう少し立場をわきまえて、もう少し女癖を良くし、もう少し……、そればかりだな。なんにつけ、頼りない。アレが領地を継ぐことになるとすれば、民が哀れだ。叔父上がそれまでにはなんとかすると思うが、国としても対策を考えねばならんか。

<つづく>

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