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My Little Princess (2)

作.うずら
キャライラスト&挿絵.いずみやみその

<2>
 と、考えに浸ってしまっていた。いかんな、悪い癖だ。ディーンのことばかりではなく、私も精進せねば。なにはともあれ、今は姫様だ。
「失礼いたします」
 応じる声がして、扉が開いた。私が待機させておいた兵が出てくる。
 さすがに怪訝な顔をしていたが、持ち場に戻るようにとの私の言に従った。反応からして、私が誰だかわかっていなかったのだろう。それは良いのだが、相手の身分も問わずに護衛対象から離れるのは褒められたものではない。後で注意しておくとするか。
「あら、見ない顔ですね? あなたはお母様について行かなかったのですか?」
「メイフィールド殿に言われて?」
 ほう、二人とも気がつかないとは。たしかに面食いのあやつも最初は気がつかなかったし、案外上手く化けられたのかもしれない。このままからかってみるのも一興だが、すねられると面倒だ。素直に名乗るとしよう。
「そのアレック・メイフィールドです。姫様、イルマ殿」
 沈黙。普段見慣れているからだろうか、頭を整理するのは姫様の方が早かった。私が知っている中でも、一番驚いた顔かもしれない。手を口に当てて固まってしまった。
 ついで、イルマ。失礼なことに私を指差しぱくぱくと、まるで魚のように間抜け面をさらしている。
「この格好でしたら、お二方も緊張はされないでしょう? それとも、似合いませんか?」
「そんなことは。とても素敵です、アレック」
「ぷっ、ぶは、あははははっ、いい! あんた、いい!!」
 姫様の言葉に一礼する私の頭に、イルマの笑い声が降ってきた。顔を上げると、ひーひーと苦しそうに笑っている。
「ねえ、イルマ。これなら本当に試してみてもいいかもしれません」
「ひっ、あははっ……はぁ……そ、そうですねぇ」
 引き継いだ際に、出て行った彼から話の内容を教えてもらっておくべきだった。なんのことだか訊くのもはばかられる気がして、黙るしかなかった。
「それでは、寝室に参りましょう。そこならだれの邪魔も入りませんから」
 姫様に初潮が来てからは踏み入れていない聖域。許可自体はされているのだが、あらぬ噂を広められては王家にキズがついてしまう。それゆえ、自制していた場所だ。
 このような格好とはいえ、その禁を破る。別にどうこうしようなどと不遜な気持ちは一切無いが、ほのかに甘美な感覚を覚えた。
 歩き出した姫様とイルマの間に割り込む形で後に従う。こそこそとイルマがささやきかけてきた。
「そんなにアタシのこと、お嫌い?」
「そういうわけでは……。職務ですので」
 やれやれ、このカタブツは。本当にそう呟いたのか、幻聴か。定かではないが、まあ、おそらくそのようなことはイルマも思っただろう。実際に自分でもまじめが過ぎることもあるというのは、よく分かっている。もっとも、賓客ならいざ知らず、旅人が私のことをどう認識しようとかまわないのだが。
「ここです、イルマ」
 手ずから扉を開け、われわれを招きいれてくれる。部屋で待機していた側付きたちが何事か告げられ、しずしずと出て行く。三人だけになって、姫様が椅子を指し示した。本来置いていないはずのテーブルや椅子があるところを見ると、私が戻るまでに用意をさせたのだろう。
「どうぞ、かけてください。ああ、イルマとは話していたのですが、アレックも紅茶でよかったですね?」
「しぃー、姫様、その名で呼んでしまっては、"カノジョ"がメイフィールド殿だと知られかねません。ここは別名で呼んで差し上げたほうがよろしいですよ」
 またいらぬことを……。にらみつけるが、イルマはそ知らぬ顔だ。
 ただ、メイドの情報能力はすさまじい。王宮内の話であれば、大抵のことは彼女らを頼れば方がつく。そのことを考えたら感謝すべきなのかもしれないが、いたずらっ子のような顔が気に障る。
「そうですね。……では、アリッサというのはどうでしょう。ねぇ、アリッサ?」
 姫様はすっかりその気になってしまっていた。この方の無邪気さはほほえましいが、同時にひどく脱力感に襲われることもある。ただ、この場では首を縦に振る以外の選択肢は、なかった。
「ありがたく」
「うふふ、アリッサ、アリッサ」
 随分と気に入ったのだろう。まるで歌うようにその名を口ずさんでいる。たきつけたイルマは相変わらずにやにやとことの推移を楽しんでいる様だった。
 テーブル同様、湯を前もって用意してあったのだろう。待つことも無く、ティーセットが運ばれてきた。そのまま、メイドたちは部屋の外へと消えた。
「どうぞ」
「ええ、いただきますわ」
「それでは、失礼して」
 さすがに手甲をつけたままでは、カップは持てない。止め具を外し、両手とも解放する。やはり、普段から慣れていない鎧は窮屈に感じてしまう。代々文官が多い家柄とはいえ、もっと鍛えなければならないか。
「ああ、アリッサ、このジャムを舐めながら、紅茶を飲んでみて。おいしいから。ある国の風習ね」
 貴様までその名で呼ぶか。しかも、先ほどの無礼ではあったが慇懃な態度から、対等な……むしろ年下に対するような口調に変わっている。姫様がいなければ、食って掛かるところだ。感情を制御し、イルマに微笑む。
「そうですか、ありがとうございます」
 何か皿があると思っていたが、そういうことか。二人は各々自分の食器にジャムを取り分けている。では、すでに盛ってあるこれを私のにしろということだろう。
「これは何のジャムなのですか?」
「北の国にある、トランスベリーという果実のジャムよ」
 イルマが持ち込んだものか。そう思うと、なぜだか鮮やかな赤が毒々しく感じられる。が、まあ、いくらなんでも有害なものではないだろう。そこは信頼するしかない。
「では、いただきます」
 スプーンの先にちょいっとつけて、舐めてみる。それほどきつい甘さではない。どちらかというと、酸味の方が勝っている。これなら、十分食べられそうだ。
 紅茶を飲みつつ、ジャムを食べる。最初はなんだそれはと思ったが、存外悪くない。おもしろい風習だ。姉上たちに教えたら、喜ぶかもしれないな。
 ふと会話がないことに気がついて顔を上げると、姫様とイルマ、二人揃ってこちらを見ていた。なにか無作法なことでもしただろうか。
「どうか、されましたか?」
「メイフィ……、いえ、アリッサがあまりにおいしそうに食べるものだから」
「そんな顔をしておりましたか?」
「ええ。本当の女の子のようで、とても愛らしいです」
「あ、愛らしい……」
 化粧をしているとはいえ、その形容はどうなのだ。女性としては長身のイルマならともかく、姫様と私は頭ひとつは違う。その姫様にそのように言われるとは……。けなされるよりはましとでも、思っておくべきか。
 二人より先に紅茶とジャムの皿を空にする。ふぅ、満足だ。
 そういえば、とイルマが旅先での話を始めた。私にとってはそれほど興味をそそられるものではなかったが、姫様はその手の話題に目がなかった。まるで問い詰めるように、イルマに先をねだっている。
「ほかには、そうですね……。とある貴重なジャムととある貴重な紅茶を同時に摂取すると、姿が異性に変わってしまう、などという話も」
 くすりという小さな笑いとともに、私の方に意味深な視線が飛んできた。イルマだけではない。姫様まで、きらきらとした目でこちらを見つめていた。不審に思い、問いかけようとしたときだ。
「なん、っ!?」
 視界が急にさえぎられ、体勢を崩してしまった。鎧の重さに耐え切れず、絨毯の上に転がる。音はそれほどでもなかったが、反響のような耳鳴りが頭に響いた。
 非礼をわびるために立ち上がろうとしたが、感覚がおかしい。手足を動かすたびに、窮屈だった鎧の中に異常に大きな隙間があるのがわかる。いくら力を入れても音がするだけで、持ち上がることはない。
 さらに、光が見えるのが頭上のみ。身体どころか、全身がプレートメイルの中に収まっているということになるのだろうか。私が小さくなったのか、鎧が大きくなったのか。……金属が膨れることより、人間が縮むほうがまっとうだろう。
 混乱していて、思考がおかしい。まっとうとは何に対してなのか。常識的に考えて、どちらもありえない。しかし、実際に私が直面している現実がある。さてどうしたものか。
 悩んでいると、外側から胴部が開かれた。明暗の差で目がくらむが、それ以上に呼吸が楽になったことがうれしかった。
 文字通り這い出して、床に座ったまま辺りをうかがう。すぐさま姫様にわびるべきだが、それどころではなかった。鎧の下に来ていた服が袖も丈も、すべてがだぼだぼになっていた。相対的に、私の今のサイズも知れようと言うもの。
 おそらくこの状況を仕組んだ二人が、すぐに視界に入ってきた。なにやら顔を赤くして、こちらを見ている。
「イルマ」
「はい、姫様」
「素敵です」

My Little Princess 2


<つづく>

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