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My Little Princess (5)

作.うずら
キャライラスト&挿絵.いずみやみその

<5>
「イ、イルマ、アリッサが震えてしまっています。なにか間違っていたでしょうか」
「きっと恥ずかしいのですよ。ね、アリッサ?」
 拘束がゆるんだおかげで座ることはできたが、とても二人の顔を見ることができない。
 なにかしゃべっているのはわかるが、言葉が意味として入ってこない。気を落ち着かせようとしてみても、冷たく濡れた服と下半身が邪魔をする。
 これもすべて、イルマのせいだ。そう思うと、無性に腹が立ってきた。なるべく姫様が視界に入らないように、睨みつける。はずが、じわぁっと視界がにじんできた。
「え、あれ、ち、ちが」
 何度瞬きを繰り返しても、拭っても拭っても、ぼやけるのが止まらない。泣きたいわけではない。ただ、怒りをぶつけたいだけだ。それが、どうして。
「ふっ、ぅぅ、ぐすっ」
「な、泣かないでください、アリッサ」
 この身体のせいなのか。結局何も言えず、何も意思表示できないまま、俯かざるを得なかった。だが、絨毯のシミが先ほどの痴態を思い出させ、余計に情けない気分になってしまう。いっそ逃げ出すことができれば、どれだけよいか。
「ほら、いいこいいこ。泣かなくてもいいのですよ、アリッサ」
 姫様がそっと私を包み込んでくれた。暖かさと柔らかさが、私の心を落ち着かせる。後ろから頭をなでられていると、だんだんと涙が収まってきた。
 ふと視線を感じて見上げると、しめしめという顔のイルマ。絶対に許さん。今は何もできないが、元に戻ったら、きっとひと泡吹かせてやる。
「姫様、もう、大丈夫です」
「そうですか?」
 なぜそこで残念そうな顔をするのですか。私も名残惜しいのは事実だが、いつまでもこうしてはいられない。
「んんっ、さて、私が言うのもなんですが、まずはこの絨毯と服をなんとかしなければなりませんね」
「それなら心配ありません。お風呂に入っている間に代えてもらいましょう。準備はお茶の前にお願いしてあります。服は……イルマ?」
「え、ちょ、まっ」
「買い取っていただけるということですし、別のものを用意しましょう。同じタイプでしたら、何着か持っております」
「ああ、それはよかったです。いまのアリッサがかわいくて、他の衣装など想像できません」
 私が固まっている間に、勝手に話が進んでいく。
 まず浴室までこのまま歩かなければいけない。もちろん、構造上、王家の人間以外は入れない位置に作られている。が、どうしたところでメイドは居る。
 つぎに先ほどの発言からすると、私は戻るまでこの格好のままらしい。とすると、下着も履けぬまま、脚をさらし続けなければならない。非常に心もとない。
 さらに、他の者に注目される可能性も嫌でも高まってしまう。姫様のそばに見慣れぬ少女がいる。それだけで恰好の話題の種だろう。冗談ではない。もしそのような話が両親や姉上たちに伝わ――
 ノックの音。止める間もなく、姫様は来客を迎え入れてしまう。反射的にはだけていた服をたくしあげる。
 イルマも姫様がすぐにひとを入れるとは思っていなかったらしい。制止しようとした手が空をさまよっている。
「失礼いたします。お湯の準備が整いまし……た……?」
 入ってきたのはメイド。それも、悪いことに、私の女装を手伝ってくれたメリーだった。用意した鎧やウィッグが転がっていて、不審に思わない道理がない。さまよっていた視線はやがて、私に固定される。
 さきほどとは違う湿り気が背中を這いあがってくる。子どもらしい笑顔を、とも思ったが顔中の筋肉が強張って、しゃべることすら難しそうだ。
「あの、姫様、一つ質問してもよろしいでしょうか」
「なにかしら? わたくしに答えられることですか?」
 あぁっ、そんな簡単に! 物事はきちんと考えてから返事をすることと、あれほど申し上げていたというのに。そこは凛と断るべきところです!
 い、いや、落ち着け、たとえ質問が私のことだったとしても、さすがに誤魔化してくださるはず。
「メイフィールド様は、その、どちらに」
 ありえない。でも、だけど。もしそうだったら。
 そういった疑惑と困惑の入り混じった目が、私をくぎ付けにする。
「色々あって女の子になってしまいました」
 な!? ひ、姫様、大事なことは易々と言葉にしないようにと、あれほどっ!
 弁解したい。せめて自発的なものでないことだけでも伝えたい。だが、口は自然に開閉するだけで、一音たりとも出てこない。
「そうですか……。女装されていた時もお綺麗でしたが、実に可憐になられて」
 ほうっとため息。さきほどのマイナスの温度を持った視線が、ゆったりとしたものに変わった。居心地が悪いというわけではないが、愛玩動物になったかのような錯覚を覚えてしまう。
「まったくです。この少女がメイフィールド殿だと思うと、つい可愛がってしまいたくなりますね」
 イルマはイルマで、意味深長なことをつぶやいた。遊びたくなる、の間違いであろう。……むしろ、それを姫様に悟られぬように婉曲に言っているだけなのか。
 それぞれ温度は違えども、ほんわかとした三方からの空気がむずがゆい。子供は知らぬがゆえに平然としていられるが、私は大人だ。相当に気恥ずかしい。
 この状況をどう打開しようかと考えていたところ、ふと姫様が手を打った。
「アリッサの魅力で忘れるところでした。はやくお風呂に入らなくては、風邪をひいてしまうかもしれません」
「アリッサ……ああ、メイフィールド様の……?」
「ええ、そう呼んであげると喜びます。皆にもそのように」
 喜びませんよ!? いつ私がそのようなそぶりを見せましたか! しかも、今、さらりと聞き捨てならないことをおっしゃいましたね? 皆って、コレを既成事実にするおつもりですか!?
「かしこまりました。今後はアリッサ様、とお呼びいたします」
「ええ、ぜひそのように」
「お召し物は後ほどお持ちいたします。お二人のものはいかがいたしましょう」
「あたしたちの分は、ここに」
 ぽんっとイルマが自分の荷物を叩いて見せた。かしこまりましたとメリーが一礼する。そして、そのまま部屋を出て行こうとするのを、姫様が呼びとめた。
「すみません。絨毯を代えてもらえますか。少し、汚してしまいました」
 ああ……ここはさすがにフォローしてくださった。これで私が漏らしたなどと言われたら、世捨て人にでもなるところだ。
「はい、お戻りになるまでには」
 再び礼をし、今度こそメリーは出ていった。おそらく、私のことは小一時間もあれば宮廷中に広まることだろう。閉鎖空間におけるメイドの情報収集能力は、常軌を逸しているとしか表現のしようがない。そこから男連中の耳に入るのは、しばらくかかるはずだが……。うう、気が重い。
「さ、それでは行きましょう?」
「そうですね。ほら、アリッサ」
 互いに目配せをした二人に、手を握られた。逃がさない、ということか。そんなに信用がないのだろうか。そんなことをせずとも、今の私ではどこにも行きようがないのに。
 そのまま寝室を出る。普段は気にしたこともないし、そもそも必要もなかったのだが……。つややかな石材の床がうっすらと我々の姿を反射していた。もちろん、鏡のようにはっきりと映るわけではない。しかし、それでも、誰かにスカートの中が見えてしまうのではないかと気が気ではなかった。

<つづく>

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