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My Little Princess (8) 最終回

作.うずら
キャライラスト&挿絵.いずみやみその

 目を覚ました私は、手厚い看護を受けていた。
 眠りこけていた二日間、一度だけ目を覚ましたらしい。が、男性医師を見るなり、手がつけられないほど暴れたとか。さっぱり記憶にない。しかし、わざわざ数少ない女医が派遣されているあたり、本当なのだろう。
 そもそも何度か殴られた後から、まったく何も覚えていない。思い出そうとすると頭が痛い。そう言うと、それなら知らない方が良い、と経緯を話してもらえなかった。私としては知っておくべきだと思うのだが、断固として拒否されてしまった。
「結論だけ言います」
「……はい」
 伝えられたのは、ディーンが国外追放となったこと。叔父上の隠居宣言が、陛下によって取り消されたこと。そして。
「はい?」
「ですから、あなた様が正式に王子の婚約者として発表されました」
 持っていたグラスが手から滑り落ちる。空でよかった。割れてもいないし。
 ではなく、人の寝ている間に、そのような勝手なことを。いや、そもそも、姫が王子になったことを臣民ともに受け入れたというのか? 陛下が理と論と威厳を以って説明すれば、不可能なことではないのか。だが、しかし……まるで与太話だ。それも相当に性質が悪い。
「そうなると、もちろんお披露目をしなければなりません。ですから、私がアリッサ様の体調を診て、問題ないと判断すれば、すぐにでも」
「私の心の準備については」
「アリッサ様。あなた様はすでに公人なのです。それにいつも言ってらしたそうですね。他国に隙を見せてはならない、と。では、あなた様自身のお言葉に従ってください」
 ぐうの音も出なかった。拒否するのは簡単だったが、それでは以前の言葉を裏切ることになる。それは私自身がアレック・メイフィールドとして、許せなかった。
 男を見ても錯乱しないと確認された後、連れ出される。寝間着から着替えさせられたキモノ姿で、宮廷を歩く。通りすがる兵士たちが、最敬礼をしてくる。メイドたちも同じように、深々と。どうにも、居心地が悪くて仕方がなかった。
 すでに連絡がいっていたのだろう。連れて行かれた部屋では、陛下と王妃様が待っておられた。心なしかやつれて見える。それだけ心配をかけたということだろうか。
「まずは最初に謝りたい。アレック、君を謀るつもりはなかった。だが、結果としてそうなってしまった。しかも、あのようなことに……。もし君が今からでも、我が愚息の下へなど来るものか、と言うのであれば、すべてなかったことにしよう。もちろん、そうなった場合、君には何不自由のない生活を約束する」
「い、いえ、そのようなっ! 私のようなものを迎えてくださるだけで、光栄です」
 いきなり陛下が頭を下げられた。そのようなお姿は、いままで見たことがなかった。咄嗟に快諾してしまう。もっとも、こうなった以上、後に退くという選択肢などあろうはずもない。
「本当にすまない。君の意思も尊厳も踏みにじった私が言えることではない。だが、もし許してもらえるなら、ぜひ、パパと!」
「あなたっ」
 ぴしゃりと王妃様に押さえつけられる陛下。このような姿……見たことなど、あるわけがない。どうしたものかと戸惑うしかなかった。
 そんな私の肩に、膝をついた王妃様が手を載せられた。
「わたくしたちは本来であれば、男のあなたを迎えたかったのです。ですが、王位を狙う貴族たちから反乱までにおわされてしまいました。そのような者の息子など、到底、王座につけるわけにいきません。」
「わかり、ます」
 相当お悩みになられたということなのだろう。お二人の顔を見れば、そのぐらいは理解できた。姫様の婿にどこぞの高位の貴族をと考えていた、そして、その苦悩を察することのできなかった、私自身のおろかさが恨めしい。私のことを、ここまで思ってくださっていたというのに……。
「そんなとき、イルマが現れたのです。わたくしたちにとってみれば、救いの神のようでした。もちろん彼女は旅商人として商機を見越してのことだったのでしょうけれど」
「もちろん最初は追い返そうとした。だが、実際にイルマという男が女性に変わるのを見てしまったのだ。信じずにはおれまい? 安い買い物ではなかったが、国の安定と比べれば余りある商品だと思ったよ」
「それは……」
 あの、イルマが、オトコ? 仕草も口調も到底、そのようには見えなかった。それが商人としての面の皮の厚さ、なのだろうか。だとしたら私もまだまだ世間というものを知らねばならないらしい。
「ちなみに君が意識を取り戻したと聞くなり、彼女は出て行ったよ。止めたのだがね、合わす顔がないそうだ。ああ、伝言を預かっている。“アリッサが立派なお姫様になったら、また来ます”……だと」
「そう、ですか」
 かきまわすだけかきまわして、なんと勝手な。まあ、あの猫みたいな女のことだ。そのうちふらっと顔を出すだろう。そのときまで、文句は仕舞っておくとしよう。
「失礼します」
 ノックと同時に扉が開き、スマートな若者が入ってきた。金色の長い髪を翻し、さっそうと歩く姿。女性どころか男性まで魅了しそうな美男子っぷりだ。あのときは混乱していたせいでよく見ていなかったが……これが私の伴侶になる方なのか。
「あぁ、アリッサ。もう大丈夫なのですか?」
 姫、もとい王子様はわき目も振らず私のもとへ一直線にやってきた。抱えあげ、そして抱擁。
 音の高低こそあれど、いつもの姫様のトーンだった。失礼だが、男として見てしまうと、少し気持ちが悪い。
 やがて、ゆっくりと床に戻された。今度はひたすらあたたかく抱きしめられる。顔をうずめられた肩が、じわぁっと湿り気をおびてきた。
「よかった……よかった、アリッサ……。わたくしのせいで、アリッサがむごい目にあってしまって、あぁ、どれだけお詫びをすればよいのでしょう。もう目を覚まさないのではないかと、怖くて、怖くて、たまりませんでした」
「姫様……。私は平気です。もう大丈夫ですから。最初にお誓いした通り、私は姫様の下を、離れません」
「アリッサ、ん」
「ちゅ、ん……」

4_20101007225956.jpg

 舌が入ってくる。私を征服するかのように攻撃的に、って、あぁ、陛下と王妃様がっ!
 すっかり私たちだけの世界に入りかけてしまっていた。慌てて顔を離し、姫様の愛撫から逃れる。
「も、申し訳ありませんっ、陛下、王妃様っ」
「いいのですよ、可愛らしいアレック、ああ、アリッサでしたね。ねぇ、あなた」
「うむ。それより私のことはパパと……」
 妻と元娘から冷たい目でにらまれ、陛下が口をつぐむ。どこの家でも女性は強いものらしい。
「そんなことより、アリッサ。行きますよ」
「え、ちょ、ちょっとお待ちください! いったいどこ、ぁっ」
 ひょいっと抱えあげられた。文字通りのお姫様だっこ。
「ふふふっ、わたくしのかわいいお姫様を、皆に自慢しに行くのです」
「まって、待ってください、せめて自分の脚で」
「だめです。そんなことをしたら街の方々にもみくちゃにされてしまいます」
「ちょ、ちょっと、え、お披露目って、大臣たちにでは」
「違いますよ。もっともっと多くの人にわたくしのアリッサを知ってもらうのです」
「へ、だめですっ、いやです! い、いやああぁぁっ!」
 扉が開き――私は姫となった。

<おしまい>





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コメント

遅くなってしまいましたが…

こんばんは、うずらです。
このたびはお付き合いいただき、ありがとうございました。

投票でコメントを下さった方、拍手を下さった方、ありがとうございます。
以下にお返事などを……。
>感動的な結末だと思います。イルマは他作品でも使えそうですね。
やっぱり物語はハッピーエンドがいいですよねぇ。
幸せじゃなくても、救いは欲しいです。
イルマはそういうのもちょっと意識して作ってみました。

>続きが読みたいです!
続き……うれしいことに毎回のように言ってもらえるのですが、
彼らのお話はここまで、です。
その後どうなったかは、読んでくださった方の中に続いていけばいいなぁ、なんて。

>毎回うずら師匠には驚かされます。すごすぎです。ありがとうございました。
し、師匠!? 畏れ多いのですが……。
こちらこそ、ありがとうございますー。

>ディーンのシーンは酷すぎたかなと感じました・・・。
あー……すみません。書いてる自分自身もつらかったです。
たぶん、よっぽどのことがない限り、ああいうシーンは書きません。


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