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僕の秘密日記(23)  by A.I.

僕の秘密日記(23)

 夜遅くまで起きていたので朝が辛い。僕はあくびを何度も噛み殺しながら、リビングに降りていった。台所で母親と新年の挨拶を交わす。
「お正月から眠そうね」
「ゆうきがやってきてね。話しこんじゃったから」
 母親と一緒にお雑煮を作っていると、父親も起きだしてきた。テーブルにお雑煮とお屠蘇を並べて席につく。
「これからの松沢家の繁栄と健康を祈って」
 父親からお屠蘇を飲んでいき、最後に僕にも朱塗りの杯が回された。毎年の行事ではあるが、お屠蘇というのは美味しいとは思えない。変に甘ったるくて薬だと思って一気に飲み干すことにしている。
「では、お雑煮を食べようか」
 お餅を食べると新年という気がするね。うちでは一月でないとまずお餅は食べない。
「ふわぁぁっ」
 眠そうな顔で僕は口をもぐもぐと動かしていた。体が横揺れしてポロリと箸を落としそうになる。お雑煮を作っていたときは気が張っていたけど、お餅を黙って噛み続けていると眠気が襲ってくる。
「あきら、神社に行くときになったら声をかけてあげるから、少し寝てきたほうがいいわよ」
「そうさせてもらうよ」
 朝食が終わるとパジャマに着替えなおしてベッドに潜りこんだ。意識が闇に沈んでいく。体を弛緩させて布団の温かさに身を委ねたが、幸せな時間は長くは続かなかった。
「くぅっ、むうぅっ」
 不穏な気配がする。目を閉じていたい。僕は呻きながら眠気にあらがい片目を薄く開いた。朝陽に照らされて白銀に光る物体がいる。
「おやすみっ。半径一メートル以内に近づいたら容赦しない」
 顔を見なくても気配だけでわかる。僕は再び目を閉じた。体感時間でベッドに入ってから三十分ほどしか経っていない。一時間は眠れると思ったのに、やけに来るのが早すぎる。
「……理由だけ聞かせろ。どうしてこんなに来るのが早いんだよ?」
 ベッドに入ったまま不機嫌な声で侵入者に声をかける。
「親父が喜びそうなことをするには時間がかかりそうだったんでな」
 そういやとおるにそんなことを頼んだんだっけ。僕は親父さんにもらったお年玉のことを思い出して、もぞもぞと布団から這い出した。
「……しょうがない。起きるか」
「おはよう。そのパジャマを着ているあきらはチャーミングだな」
 デパートで一緒に服を買いはしたけど、着ているところを見せたのは初めてだったか。
「……とおるはやけに凛々しいというか、気合の入った格好をしているね」
 長着に丸組みの羽織紐を巻きつけ、九曜紋のついた白銀の羽織を着ている。腰には白い扇子を差していた。正月でも着物を着て参拝する人は少なくなっているというのに仰々しい姿だ。
「黒羽織じゃないんだね」
「正月というめでたい日だしな。白のほうが見栄えがすると思ったんだ」
 確かにとおるの男ぶりが上がっている気はする。色男だと褒めたくはなるよ。図に乗るから言わないけどさ。
「それで親父さんの喜ぶことって何かな?」
「もちろんあきらが着飾っている姿を見せることだな。そのための衣装を用意してきたぞ」
 朱塗りのつづらが部屋に置かれている。嫌な予感しかしない。
「中身は着物だと見当がつくけど、今度帯をほどいたりしたら承知しないよ」
「親父のためだからな。そんなことはしないさ」
 とおるの羽織姿を見ると、親父さんのためではなくお前自身のためだろうと言いたくなった。親父さんが喜ぶことは、とおると僕がセットで並ぶことだから間違いではないんだろうけどね。
「でも、僕は着物の着付けなんてできないよ。誰かに手伝ってもらわないと難しいんじゃない?」
「俺ができなくもないが、お義母さんに手伝ってもらったほうがよさそうだ」
「もう僕の両親には会ってきたんだよね?」
「先に新年の挨拶を済ませておいたぞ。まるで新郎のようだと言われた」
 やれやれ僕はまだ結婚とかする意思はないんだからね。あまりとおるをのぼせないでもらいたいな。
「振袖を着る前に化粧をしたほうがいいだろうな」
「すっぴんじゃ駄目だよね。新年に初化粧とはなぁ」
 自惚れるわけじゃないけど、素顔のままでも見られる顔だと思っている。しみやそばかすもないしね。化粧について覚えるのは、もっとあとでいいかなと考えていた。
「とおるが目立つ格好をしてつづらなんて持ってくれば、何をしたいか丸わかりだろうからね。母さんに化粧を手伝ってもらうよ」
 パジャマのまま一階に降りると、僕は洗面所で目が覚めるまで顔を洗った。普段着のまま神社に行こうとしていたのに、とんでもないことになってしまったよ。
「母さん、化粧と着付けを手伝ってもらえないかな?」
 とおるの姿で薄々事情を察知していた母親は、両親の部屋にある化粧台の前に僕を座らせた。とおると父親はリビングで将棋を打っている。
「あきらなら薄化粧でいいでしょうけどね」
 母親は美白化粧水と美容液で下地を整えてから、ファンデーションを塗った。顔と心の両方がこそばゆい。まぶたに薄いアイシャドウを施すと、顔の陰影がはっきりして見栄えが良くなった気がする。
「化粧のノリがいいわ。こんなにあきらが女の子らしくなるなんてね……」
 内心では母親も複雑な思いを抱えているのだろう。語尾に一抹の寂しさが感じられた。
「高校生ですからね。化粧には凝らなくてもいいとは思うけど、覚えておいたほうがいいわよね」
 マスカラで目元を際立たせてから、最後に口紅を塗った。
「……自分に惚れちゃいそう」
 唇が宝石のように輝いて鮮やかなピンクに彩られていた。気品溢れる潤った唇は、僕が男なら口づけしたくなる。
「お母さんには若すぎて似合わなかったけど、あきらにはちょうどいいわね。そのルージュはあげるわ」
 本物の宝石を砕いて口紅に配合してあるらしい。道理で輝きが違うはずだ。僕はしばらく自分に見惚れていた。こんな可愛い娘がいたら口説きたくなるよ。
「シニヨンにするとしたら髪が足りないかしらね。ウィッグはあったかしら?」
 母親は僕の髪を束ねてまとめると、ウィッグでシニヨンに仕上げてくれた。僕はほぅと息を吐く。髪の下のほうで作られたシニヨンは、上品な印象を僕に与えていた。
「……これが僕?」
「ええ、とっても素敵よ。男の子ならきっとほっとかないわね」
 僕ってナルシストの気があったのかなぁ。いつまでも鏡を見ていたくなるよ。
「とおる君が持ってきた着物はどんなものなのかしらね」
 つづらを開けてみると、赤地に桜の花と鶴が描かれた振袖が入っていた。お正月らしく華やかでおめでたい模様といえる。
「振袖はね。未婚の女性が着るものなのよ」
「はぁ、華やかな衣装だね。これを今から僕が着るのか……」
 白い長襦袢をまず着てから、きらびやかな振袖を羽織る。母親は帯をキュートな羽根を持つ蝶文庫の形に結ってくれた。
「これでいいかしらね。よく似合っているわ」
「あ、ありがとう」
 三面鏡には目をやや伏せて気恥ずかしげに微笑む着物姿の女性がいた。どこか幼さを感じさせながらも、人を惑わすような色気を匂わす少女。この少女が成長したら、傾国の美女とでも呼ばれる妖しさを秘めているように思われた。
 ちょっと言いすぎか。それが僕自身だというのがね。美人に越したことはないんだろうけど、災いを招きかねない気がするよ。化粧をするのはほどほどにしておこう。特に母親からもらった口紅がやばい。
「お父さんたちを待たせてしまっているわね。あきら、行きましょう」
 放心状態で鏡を見ていた僕に母親が声をかけた。予定出発時刻をかなり超過してしまっている。きっと退屈しているだろう。
「お待たせしたわね。着付けなんて久しぶりにやったから手間取ってしまったわ」
 母親のあとに続いて僕もリビングに入る。とおるに将棋で苦戦しているようで、父親は難しい顔をしていた。
「とおる君、ここまでにしようか。神社に行くとしよう」
 父親はもうお手上げの状態だったようだ。頭を使うゲームでとおるに勝つのは難しいからね。二人は腰を上げると、女性陣のほうを見た。
「な、何か言ってよ」
 カップラーメンが作れそうな時が流れて、僕はためらいがちに声を出した。男性陣は立ち上がったまま僕をじっと見詰めている。
「……娘を持つというのはいいものだな」
「……俺も最初の子供は女の子がいいです」
 ぼそぼそと小さな声で父親ととおるは話している。よく聞き取れない。
「むぅ、似合っているかな?」
「……ああ、お母さんの若いころに似ているよ。とても美人だ」
「あきら、これから結婚式をあげよう! これから行くのは神社だからちょうどいい!」
 とおるは言葉のステップを何段階かすっ飛ばしたようだ。というか両親のいる前で爆弾発言は止めて欲しい。
「母さん、とおるが病気みたいだよ」
「まぁ大変。お釈迦様でもお医者様でも治せない病のようね」
 手をパンと叩いてみせたけど、母親の顔は慌てているようには見えない。父親はとおるの発言を聞いてなかったようだ。男性陣は未だに僕のほうを食い入るようにして見ている。
「あきらも罪な娘よね。とおる君の気持ちもわからなくはないわ」
「そこで達観しないでさ。神社に行こうよ」
「お母さんはお父さんの手を握って引っ張っていくから、あきらはとおる君をよろしく頼むわ」
 母親が父親の手を取って玄関まで連れていくと、ようやく父親は正気に戻ったようだ。それでこの状況だと僕がとおるの目を覚まさないといけないわけね。厄介な。
「水をかぶせたんじゃ着物が台なしだし、殴るのも遠慮したいしね。よし、置いていこう」
 家に帰ってくるころには正気に戻ってくれるだろう。僕が無視して行こうとすると、
「魂を奪われるとはこういうことを言うんだろうな……」
 とおるは感嘆のため息を吐いて、よろよろと歩き出した。魂が現世に戻ってきたらしい。
「俺はあきらに惚れ直した。いや今まで以上に惚れたぞ」
「……まだ言ってない言葉があるんじゃないの?」
「え?」
 僕は少し意地悪な顔をしてとおるの顔を下から覗きこんだ。こいつは虚を突かれたようで、何を言い忘れたのか真剣に考えている。
「……俺にとって当たり前すぎることだからな」
 とおるは頬をかいていた。改めて言うとなると、こいつでも照れくさいらしい。
「それでも言ってもらいたいのが女の子だよ」
「……なかなか難しいな」
 一つ咳払いをすると、とおるは僕の目を見た。
「あきら、綺麗だ。振袖に合わせた髪形がよく似合っていて、とても可愛らしい。現実とは思えないほど可憐だな」
「うん、合格としておきましょうか」
 表情をなごませて僕はにっこりと微笑んだ。
 僕は赤い鼻緒の草履。とおるは白い鼻緒の草履を履いて玄関を出た。夫婦仲の良い両親は、両手を繋いでかなり先の方を歩いている。
「ほら、今度はぼうっとして立ち止まらないようにね」
「……気をつける」
 僕はとおるの手を軽く握ると、神社に向けて歩き出した。

<つづく>

コメント

感想ありがとうございます。
自分もあきらやとおるの着物姿は見たかったですね。

精神女性化が進んでいますね。
この回は画像がほしいなぁ。

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