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僕の秘密日記(24)  by A.I.

僕の秘密日記(24)

 徒歩で十五分。日本武尊を主神として祀ってある神社の鳥居に到着した。市内では一番大きな神社で千六百年の歴史があるらしい。
「元旦ということもあって初詣客は多いな」
「でも、前に除夜の鐘が鳴るころに行こうとしたら、足の踏み場もないほど人がいたよ」
 鳥居をくぐると参拝客で賑わっているが、これでも落ち着いているほうだ。大晦日の深夜だと拝殿の前に置いてある賽銭箱まで行こうとする人で、押し合い圧し合いで揉みくちゃにされる。
「せっかく振袖で神社に詣でるわけだからね。着崩れはしたくないよ」
「着物姿の参拝客はあまり見られないな」
 参道を白羽織で威風堂々と歩くとおると、赤い振袖で寄り添う僕の組み合わせは、目立って仕方ないような気がする。こいつは物怖じしない性格で堂々と歩けるから、羽織姿がよく似合っていた。
「二人して着物で歩いていると、人目を引くよね?」
 これだけ初詣客が多いならば、同級生がいてもおかしくない。もっとも、とおるは友達がほとんどいないし、僕は化粧をして振袖姿だから友人でも「松下あきら」だとはわからないだろうけどね。
「気にしないほうがいいぞ。あきらはうつむくより顔を上げたほうがいいな」
「そうだね。参道には屋台が並んでいるし、見て歩くのも楽しそうだよ」
「気に入った店があるなら参拝したあとに寄っていこうか? 俺は一つ見つけたぞ」
 食べ物を売っている屋台がほとんどで、たこ焼きや綿飴なんかが売られている。とおるは子供っぽいから駄菓子でも買っていきたいのかな。
 参道を歩き終わると広い境内があり、あちこちに初詣客が分散していた。主神である日本武尊の他にも神を祀ってあるから、そちらの社に行く人もあるのかもしれない。
「拝殿の前には大のぼりが何本もはためいていて勇壮だね」
「大漁、豊作を祈願して立てられるそうだ」
 立派な構えの拝殿に近づくと初詣客で賽銭箱が見えないほどだ。そこから少し離れたところで巫女さんが破魔矢や熊手などの縁起物を販売している。ひっきりなしに客が訪れるので、巫女さんたちは忙しそうに立ち働いていた。
「巫女さんのほうをじっと見て、もしかしたら気に入った子でもいたの?」
 とおるは足を止めて巫女さんを観察しているようだった。
「あきらが巫女装束を着たら似合うかどうか考えていた」
「神様の前でまた不敬な妄想をしているね。雷に打たれても知らないよ」
 除夜の鐘を聞いたばかりだというのに、とおるのスケベ根性はちっとも治ってない。ほとほと手を焼くお子様だ。
「そんなよこしまな考えばかり思い浮かべてないで、ちゃんと参拝しようよ」
 立ち止まったままのとおるの手を引いて賽銭箱まで行こうとすると、こいつはすたすたと僕に先立って歩き出した。人に当たらないようゆっくりと確実に歩を進める。僕が男だったときは、人の波をかき分けて強引に隙間をぬって進んだのにね。そんな僕が人に守られるなんて奇妙な感じだ。
 とおるは賽銭箱までの道を切り開きながら、焦らず慎重に僕を先導した。人がぶつかってきてもこいつは体を張って僕にだけは当たらないようにしている。まるでボディーガードのようだ。
「……助かるよ」
「これくらいなんてことはない」
 どうにか賽銭箱の前まで辿り着くと、僕は手に提げた巾着袋から小銭を取り出した。お賽銭を投げてから、拍手を打って頭を下げる。心を静かにして今年一年の抱負と幸せを祈った。僕が顔を上げると、とおるも祈りを終えたところだった。
「もうじき僕らは二年だからね。勉強のほうも力を入れたいと目標に掲げたよ。あとは秘密かな。とおるは?」
「俺はあきらの健康を願っておいた」
「あれ、恋愛成就は?」
 とおるが恋愛を祈らないなんて、明日の天気は荒れるんじゃないのか。
「完璧を期したつもりでも万が一のこともあるからな。こればかりは神頼みをするさ」
 珍しい。自信家のとおるでも神様の前だから殊勝な気持ちにでもなったんだろうか。
「僕はとおるの人格はともかくとして、腕のほうは信用しているからね」
 今のところは薬の副作用は出ていない。それが生涯続く保証はないけど、とおるならもしものことがあっても何とかしてくれるだろう。
「嫁の信頼には応えるぞ」
「誰が嫁だーっ!」
 思わず大人数の前で叫んでしまって、僕は体を縮ませて小さくなった。
「……早くここから離れようよ。とおるは屋台で綿飴でも買ってくの?」
「それは魅力的な提案だな。ただ俺が行きたいのは他の店だ」
 綿飴でないとすると、何だろう?
「りんご飴? お好み焼き? たこ焼き? 焼きそば?」
「……あきら、食べ物の店しか出てないぞ」
「あれ、違うの?」
 食べ物の屋台ではないとすると、なかなか難しい。夏祭りの屋台ではないから、金魚すくいやヨーヨー釣りはなかったはずだ。
「ヒーロー物のお面でしょ?」
 宇宙刑事に憧れているとかありそうだ。
「それも悪くはないがな。残念ながら違う。そろそろ着くぞ」
 とおるが足を止めたのは他の出店とは毛色の違う店だった。髭ぼうぼうの怪しげな白髪のおじさんがアクセサリを売っている。たいていは子供向けのキャラグッズだが、ちゃんとしたブローチやイヤリングもあった。ただどれも色あせて見える。
「これならあきらに似合いそうだと思ったんだ」
 とおるは店頭に並んだ商品を手に取ると、僕の髪に挿した。こいつのセンスは当てにならないことがあるからなぁ。はなはだ不安だ。
「どんなのを選んだの?」
 僕は巾着袋に入れておいた小さな鏡を取り出した。鏡で髪を見ると、僕の頭に可憐な花が咲いている。とおるが選んだのは髪飾りのようだ。
「これをください」
 僕が感想を述べるまえに、とおるは屋台のおじさんに代金を支払っていた。
「もう、勝手だなぁ」
「まるであきらのためにあつらえたようだったからな」
 控えめな一輪の花だけど、僕の可愛らしさを引き立てている。店頭に置かれているときは地味な一品に過ぎなかったが、髪に挿すことで魂を吹きこまれたように輝いていた。
「振袖だけでは片手落ちだったからな。何か足りないと思っていたんだ」
「とおるにしては珍しくいい品を選んだね。高くなかった?」
「俺からあきらへお年玉ってことでいいだろう」
 買ってもらうのは気が引けるけど、屋台の品なら大して高くもないかな。
「ありがと。じゃこのあと僕が綿飴を買ってくるよ」
「綿飴よりお雑煮が食べたいな」
 てっきり屋台で買い食いしていくと思ったのに、僕の手料理のほうがいいということかな?
「おせち料理があるんじゃないの?」
「……そうなんだが、ここ何年もお雑煮を食べていないからな」
 心なしか寂しそうな横顔だった。僕にとっては正月にお雑煮を食べるのは当たり前のことだけど、とおるにとっては違う。お正月気分で浮かれていて失念していた。
「そうだね。お雑煮も作れば親父さんも喜んでくれるかな」
「あきらの振袖姿とお雑煮ならば、きっと親父も上機嫌になるぞ」
「それじゃうちに一度寄ってからだね。着替えを取ってくるよ。台所で振袖を汚してしまうのはもったいないもの」
 せっかくの衣装だ。綺麗なままにしておきたい。
「今日一日はあきらの振袖姿を見ておきたかったな。一説によると胸はないほうが和服は似合うと……いたたたっ」
 僕はとおるの手の甲を爪でえぐるようにしてつねった。
「一言多いんだよ……」
 胸が大きい人は和服の着こなしが難しいとは聞くけどね。わざわざ僕の劣等感を刺激しなくてもいいじゃないか。はぁ、とおるといると喜んだり怒ったりで忙しいよ。
 着替えの服とお雑煮の材料を持ってから相沢医院の前までいくと、親父さんはすでに三脚つきカメラの準備をして待っていた。手回しがいい。
「……素晴らしい」
 親父さんは僕のほうを見ると、感極まった声を漏らして手を広げた。
「いやぁ、あきらちゃんはお姫様のように可愛らしいね。とおると二人で並んでいるとお雛様のようだ」
 親父さんからお雛様のようだと言われて、僕は三月の雛祭りを思い浮かべていた。うちには雛人形なんて当然ないけど、紙雛ぐらい雛祭りのときに飾るべきだろうか。それにしても、親父さんはオーバーな表現をするね。
「褒めすぎですよ。でも、振袖なんてなかなか着る機会がないですからね。初めて着ることができて嬉しかったかな」
「あきらが和服を好むならいつでも用意するぞ」
「うーん、動きづらくて肩が凝りそうだからね。節句に着るぐらいでちょうどいいよ」
 浴衣ならともかく普段着で着物というのは大変そうだ。
「あきらちゃん、とおる、写真を撮るから家の前に並んでもらえないかな?」
 カメラを向けられると自然と微笑んでしまう。とおるの表情は硬かったけど、こいつは笑い顔を作ることに慣れてないからなぁ。
「こちょこちょこちょ」
 皮膚の露出した首をくすぐってみる。とおるは鈍いのかクスリともしない。
「ちっとも表情が変わらないなぁ。とおるは少しリラックスしたほうがいい写真になるんじゃないの? はい、僕と一緒に深呼吸をしてみて」
「わかった」
 写真撮影を中断して深呼吸。親父さんも一緒に息を吐いたり吸ったりしている。ちっとも表情の変わらないまま深呼吸をしている仏頂面を見ていると、僕のほうが吹き出してしまった。
「もう、しょうがないやつだなぁ」
 僕が口に手を当ててくすくすと笑っていると、とおるの表情もなごんだように見える。このあとは親父さんも交えて写真撮影を行った。
「あきらちゃん、ありがとう。久しぶりに華やかな元旦になったよ。我が家に一足早い春が訪れたようだ」
 親父さんは喜んでくれているようで、とおるの作戦は間違いじゃなかったかな。
「写真撮影が終わったことだし、とおるの部屋で着替えさせてもらうよ?」
「では、俺は着替えを手伝うとしよう」
「……着物が染みだらけになりそうだから断る!」
 部屋に入ってこようとしたとおるを蹴とばして追い出す。あのスケベ小僧め!
「振袖は折りたたまないでそのままにしてくれればいい。俺がやっておくから、あきらは台所に行ってくれ」
 普段着に着替えていると、こいつが扉の外から声をかけてきた。着物の畳み方なんてわからないからその申し出は助かる。
「さーて、お雑煮を作るとしますか」
 台所でさっそくお雑煮を作る。大根、里芋、白菜を使った簡単なお雑煮だ。あらかじめ言っておいてくれればもうちょっと材料を用意できたのだけどね。餅は十個入れておいた。これで足りなかったら、あとは餅を焼くとするかな。
「お待たせしました」
 大ぶりの汁椀にお雑煮をよそって、二人の前に並べる。
「家でお雑煮を食べるなんて久しいよ。あきらちゃんは料理も上手だね」
「いえ、あっさりしすぎたかもしれません。鶏肉でもあればよかったかもしれませんね」
 彩りとして蒲鉾も欲しかったところだ。とおるが無言だと思ったら、こいつは頬を膨らませて餅と格闘していた。
「そんなに一気に食べないで、お餅はよく噛んだほうがいいよ。喉に詰まらせたら大変だからね」
 見ているほうがハラハラする食べ方だ。とおるはあっという間に餅が三個入っていたお雑煮を食べ終えてしまった。
「うまい、おかわり!」
「薄味だったけど、良かったの?」
 味つけの濃いハンバーグが好きなこいつには、物足りないかと思って聞いてみた。
「そうだな。もう少し出汁が効いていたほうがいいかもしれないが、充分に美味しかったぞ」
 手放しで褒められるより、一言加えられたほうが嬉しい。次はもっと美味しいものを作ろうという気になる。
「また腕をあげておくよ」
 気をよくした僕はお雑煮だけでは食い足らなかったとおるのために、磯辺焼きを山のように作ってあげた。

<つづく>

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