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悪魔を呼んでみよう (7)

私こと『笹田義一』の唯一の友人『石塚さとる』が入院してから今日を含めて2週間が経った。

私は学校のホームルームが終ったのを確認すると、鞄の中に教材と文房具をしまい込み始めた。
机の中を空っぽにして帰るのは全校生徒の中でもおそらく私だけだろうが、これはまあ性分だから仕方が無い。それにその日の復習をする為には教材は家あった方が良いからでもある。さとる曰く「家で復習などするなんて、絶滅危惧種だなお前は」らしい。

「本当に珍しいよね、お前って。マジで絶滅危惧種に認定されるよ?」

前の席に座る人物は振り向きざまにそのような事を言うと「にやり」という表現があいそうな表情を浮かべた顔で私に笑いかける。

「まあ習慣だからな。」

事も無げに私は目の前の人物に話しかけると立ち上がった。それにつられた様に前の席に座っていた人物も立ち上がる。そして私は目の前の人物を『見下ろした』。

「ははっ、まさかお前に見下ろされる事になろうとはな。」

私を『見上げ』ているその『少女』は自嘲気味に苦笑を浮かべた。
この少女こそ、女変症によって変貌してしまった『石塚さとる』その人なのであった。

『少女』の身長は160cmを少し下回っているくらいか。髪は腰に届くほど長く、癖毛の気があるのか軽くカールがかかっている。色は男の時と同じ、少しくすんだ黄緑色であり、そこだけが彼女が「石塚さとるであった」事を主張していた。
運動部の助っ人をしていた為に少々日焼けしていた肌の色は、いまや白人に匹敵するのではないかと思えるくらいに白くなっている。
比較的筋肉質でありまっ平らだった胸は、自己主張しているかのように盛り上がっていた。「巨」の頭文字は付かないかもしれないが、今までの短い人生において出合った同年代の女性の中では大きめの方に位置するだろう。まあ男の時に比べて胸囲は同じくらいの大きさだろうか。
顔の変化は劇的であった。細目の部類に入っていたはずの瞳を含めた目はかなり大きくなり、鋭く高く尖っていた鼻は低く、鋭角な顎の筋は丸くなっている。にこやかな笑みを湛えるその顔は「りりしい男子の顔」ではなく「愛らしい少女の顔」であった。それも、そんじょそこらのアイドルなら裸足で逃げ出すのではないかと私でも思ってしまうほどの『美少女』の顔だ。
そしてワザと着崩した男子用の制服ではなく紺色のブレザー、すなわち女子用の制服に身に着けていた。

結論から言うと。
毛髪の色と赤みがかった目の色以外の身長体重服装体型そして「性別」といった見た目という要素が、目の前の『少女』と『石塚さとる』という男性とが一致する物を見いだす事が私には出来なかった。

「いや、本当に困ったもんだ。入院した次の日から、身体中が痛いの何の。しかも凄い勢いで力が抜けていくし。」
「ふむ。」
「それに全身がすぐ垢だらけになってたよ。汚いったらありゃしない。」
「なるほど。」
「まあもっとも麻酔でずっと寝てたしな。意識が完全に戻ったときは、ベットの上に文字通り積もるほど垢がたまってたし、汗でベットがぐしょぐしょになってたよ。」
「そうなのか。」

私と『石塚』はいつも通りに連れ立って帰宅途についていた。
いつも通りに『石塚』が私に話しかけ、私はいつも通りに端的な言葉のみで返答する。
やり取りは「いつも通り」だ。だがいつもは上から発せられる少し渋めが混じっていた声が、少し高めで柔らかい感覚が混じる声が下から発せられている点が大きく異なっていた。
その点に関してのみ言えば、私は違和感を感じられずには居られなかった。私の横を歩いているのが『友人:石塚さとるという男子』ではなく『向こうが友人だと認識してくれている:石塚さとるという名の女子』だとどうしても思えてしょうがないのだ。

話が少し変わるが、実は女変症は『死病』でもある。
発症してから2日目までは「何となく外見が変化したかな?」程度の外見上の変化は見られず、負担も少ない。この時期を『潜伏期間』と呼ばれているらしい。
ところが3日目から外見および内面が本格的かつ劇的に変化しだす。肉体の縮小、髪の毛の増加、体毛の消失、肌の質の変化、骨盤などの骨格の女性化、男性器が体内取り込まれる事による膣の形成、卵性器と胎盤の成形およびそれによる内臓の配置位置の変更、そして人にもよるが若返り現象などといった内容だ。
この男性から女性への『変態行為』がわずか2日で行われる。その間患者は凄まじい痛みが全身に走り続け、あまりの激痛の為にショック死を起こした症例があるらしい。更に急激な肉体の変化によって極度の栄養失調な状態に陥り、女変症が確認された初期の頃は衰弱死を起こす人が跡をたたなかったようである。
現在は全身麻酔を行う事による痛みの緩和と点滴による栄養補助で『変態行為』による死亡者はいないらしい。
しかし、男性から女性に変わってしまう事柄は、ある意味『男であった自分が死んでしまった』事を意味しているのも確かなのだ。もっとも世間ではその考えはよく無いと考えられているらしく、『女に生まれ変わった』という表現が好まれているのだが。

しばらく会話と呼んでいいのかどうかが分からないやり取りは帰路を歩いている間、ずっと続いていた。
その間、ここ数日の間に起こった自分の事について、ずっと私に話しかけていた。
5日目に目が覚めたけど身体に全く力が入らなくて次の日まで自分が出した垢と汗で酷い状態になっているベットで過ごす事になったとか、『変態』してから始めてトイレに行っていつも通りに男子トイレに入ったら「キャー痴女よー!」と叫ばれてその時始めて自分が「女の姿」になっている事に気がついたとか、鏡にタブタブのパジャマを着ている少女が写っていて「これが自分なんだ」と気がつくのに3分はかかったとか、トイレに『しゃがみ込んで』用を足した時は何故か涙がでたとか。
その他にも女性化した事による後々の精神的な影響や女変症患者に対する生活保護制度の説明を受けた事や、下着の付け方についてレクチャーを受けて四苦八苦した事などといった事まで、それこそ矢継ぎ早に、である。
そんな自分に起こった体験談を『目の前の少女』は顔に笑みを湛えながら楽しそうに私に話しかけてきた。
その様子に私は表情にこそ出さないが心にわずかにだが安堵感を得ていた。身体が全く別の、しかも異性のものに変わったにも関わらず『目の前の少女』はそれほどに苦にもせず受け入れている様だ。ただ単に開き直っているだけなのかもしれないが、それでも落ち込んでいるよりは数倍マシだ。
帰路につく間ずっと『少女』は私に話しかけ、そして私は『少女』に連れ立って歩き続けるのであった。

学校を出てからおよそ25分が経過し、『石塚』の自宅のすぐ側に着いた。学校からの帰路において、よほど捻くれた道順を通らない限り私が1人暮らしをしているアパートに着く前に『石塚』の家の前を通る。それ故に連れ立って歩くと『石塚』の家の前で私達は別れる事になっている。
そこから少し歩き、家の門の前に着く直前で『石塚』は足を止めた。私も釣られて足を止める。
ふと気がつくと、『石塚』は私の顔をじっと見つめているのに気がついた。『石塚』の表情はさっきまで華やいでいた物から一転して真剣な、それでいて不安げな物に変わっていた。
しばらくその様子を見ていたが『石塚』は何も語ろうとしない。この状況は本来ならば私から話しかければいいのかもしれないが、『私のキャラクター』にはそぐわない。
そこで、いつも通りに「じゃあな」と何気ないような態度で軽く挨拶を送ると、さっさと歩いて去ろうとした。
すると後ろから私の歩みを押し留める力が私の腕に生じた。振り返ると半ば予想は出来ていたが、『石塚』が私の腕を掴んでいる光景が目に入ってきた。

『石塚』の顔は下を向いている。想像だがその顔に浮かぶ表情は暗く沈んでいるのではないだろうか。こういう状況では少女に浮かぶ表情は大体がその様な物なのだろうという程度の事くらいは、私でも思いつく。
『石塚』は私の腕を掴んで何も言わない。口を噛み締めている訳ではないから心情には「辛い」とか「苦しい」とか「悔しい」とかといった感情は浮かんではいない・・・と思う。
この状況も私から話しかけるべきなのだろうが、私は敢えてそれをしなかった。これは『私のキャラクター』に合わせた行動ではなく、『石塚』から喋らせた方が良いだろうと判断した為だ。何故かというと説明が出来ないが、『直感』と言ってもいいそんな曖昧な理由だ。
現在の状態になってから193回目の心臓の鼓動を確認した時、『石塚』の口が開いた。

「ありがとう。」

それは私が想定していた14の内容と全く一致しない言葉であった。

<つづく>

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