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悪魔を呼んでみよう (8)

「・・・何が、だ?」
「いつも通りにしてくれて。」
「・・・どういう意味だ?」

その時、私には『石塚』が何を言いたいのかまるで分からなかった。

「いつも通りに、お前だけがいつも通りに接してくれた。」
「そうなのか?」

私にしては珍しく、『相手に問いかける会話』が続く。

「親父もお袋も、家に帰ってきた俺をまるで腫れ物みたいに大事に扱うんだ。『けんちゃん、大丈夫?』とか『さとる、辛い事があったらいつでも言えよ』とかさ。いつも会話なんて飯の時くらいしかしないのに。」
「そうか。」
「学校の皆も、俺を珍しいモノを見るみたいな目で見てさ。」

私はその時、僅かに腕が震えている事に気がついた。『石塚』は微かに、だが確かに全身を震わせている所為であった。そんな『彼女』を私は黙って見つめ続けた。

「今まで俺の事を目の仇のように見ていた男が『可愛くなった石塚。どうだ、俺とつき合わない?』とか慣れ慣れしく言ってきたり、つい先日までつき合ってた女は『やだー、池ちゃんカワイー。こんなになるなんて、信じられないー』ってからかってくるし。」
「・・・そうか。」
「そういったの見ちゃうとさ、俺、変わっちまったんだなって。嫌でも意識しちまってさ。」
「・・・そうか・・・。」
「実は俺、人生面白くねえとか思ってた。いつも何かすげえ変化とか起きねえかなとか思ってたよ。」

不意に『石塚』の顔が上を向いた。私に向き合ったその目には『石塚』が男の時には見た事がなかった物が、『涙』が浮かんでいた

「でも、こんな全く別の姿に変わりたくなかった!女になんか、『女』になんかなりたくなかった!!」
「いけ・・・『さとる』。」
「おっぱいはある!チンチンはない!!身体は小さいし、少し走ると胸は揺れるしすぐに息があがる!声なんかキンキンに高いし、髪は長い!顔は、顔は全然『俺』のじゃなくなっている!」
「おい、『さとる』。」
「それに、それに!昔喧嘩して出来た古傷が全て綺麗さっぱり無くなっているんだ。それどころか、気になっていた場所にあった黒子とかそういったのも全て無くなって、それとは別の場所に黒子とか出来ているんだ!!」

そこまで聞いて私は内心驚愕していた。まさかそんな処まで変わっているとは思わなかったからだ。それでは本当の意味で『別人の身体』ではないか。

「俺、俺・・・!『誰』なんだよ?顔も手も足も胸も股も傷も黒子も、全部『俺』じゃない!『石塚さとる』じゃない!!」
「『さとる』!!」

文字通り気持ちが乱れた少女のように取り乱す『石塚』・・・いや『さとる』に私は珍しく語気を強めて声をかけた。
すると『さとる』はビクリと形容するのが当てはまるかのように動きを止めた。その反動か、目にたまっていた涙が一筋、頬を流れていく。
少しの間、私と『さとる』は動く事を止めていた。否、『さとる』は声を殺してはいるが幼子の様に涙を流し泣いていた。
私と『さとる』はあまり長いとは言えないがそこそこの期間の馴れ合いのある仲だ。そんな私ではあるが、『さとる』が悲しくて涙を流して泣いている姿を見るのは始めてであった。
『やはり、無理をしていたのだな。』
男だった時は見たこともないあまりにも儚げな『さとる』の姿を見ていて、私は口には出さずにそう思った。
考えてみれば帰路に着く間、『さとる』は自分の身の上の話ばかりしていた。それは私にかまってもらいたいという内情が表れていた為ではないだろうか。
友人のそういった心情をを汲み取れないとは、やはり私は「壊れている」のだろう、な。

しばらく泣き続けた『さとる』であったが、ようやく泣き止むと私の顔を見上げてきた。私の腕を掴む少し強くなる。

「でも。義一だけがいつも通りに俺に接してくれたんだ。いつも通りに俺が話しかけたら、いつも通りに答えてくれて。」
「そうか。」
「そうしていると、俺は『石塚さとる』何だなって思えてきて。そんな事なのに凄く嬉しくて、さ。」

そして『さとる』は私に笑いかけてきた。帰路に着いていた時よりもずっと嬉しそうな、ずっと晴れやかな笑顔で。

「そう、か。」

私は内心の照れを隠すのに全力を注がなくてはならなかった。思わず顔を逸らしたくもなったが、それも必死で我慢した。

「なあ、義一。お願いがあるんだ。」
「何だ?」
「これからも俺の友達でいてくれないか?そしていつも通りに、昔の俺と時と同じように接してくれないか?」

『さとる』は真剣な表情で私を見つめている。縋る(すがる)ような、懇願するような目で私をじっと見つめている。まるで私しか頼る者がないかのような目で。
『やめてくれ。』
私は内心そう叫んでいた。そんな頼りきるような、哀願するような、私に依存するような目で見られると


オ前 ヲ ● ● ● ● ナル


思わず出てきてしまった『本性』に、私は反射的に頭を横に振っていた。何ておぞましい考えを。私は自己嫌悪を感じていた。

「駄目、なのか?」

悲痛な少女の声にハッとなり、目の前の『少女』の方を見た。『少女』の顔には深い絶望が色濃く浮かんでいた。今の私の行動を拒否と受け取ってしまったようだ。違うのだが、頭を横に振るという行動を見たらそうとしか取りようがないのも確かだ。

「違うよ。少しを気持ちを落ち着かせていただけさ。」
「そう、なのか・・・?」
「大丈夫だ。私はこれからもお前の・・・『さとる』の友人だ。」
「本当に?」

再び『さとる』は私を哀願するような目で見つめてきた。先ほどと違うのは怯えとも取れる恐怖心が見える事だろうか。
私はここで苦笑いでもすればいいのだろうかと考えたが、『私のキャラクター』にそぐわないので敢えて無表情のまま言葉を続けた。少なくとも『さとる』にとっては私の『地』はそちらだろうと推測して、だ。

「本当だ。何だったら誓約書でも書こうか?」
「いや、そこまでしなくてもいいよ・・・。」

私の言葉に一瞬顔を曇らせたが、次の瞬間には『さとる』は満面に笑みを浮かべていた。

「うん・・・うん!ありがとう!!」
「どういたしまして。」

笑みを浮かべながら私の腕をブンブン振り回す『さとる』。とても嬉しそうな、眩しすぎる程の笑顔を私に向ける『さとる』。
今までのニヒルでナルシストで、そしてどこかいつも何事に関しても楽しそうではなかった男の時の『さとる』からは想像できない光景だ。
これではまるで・・・。

「それじゃあ、家に戻るね。」
「ああ、じゃあな。」

しばらく私の腕を振り続けた後。『さとる』は腕を離すと踵(きびす)を返して自宅に向かった。私も家路につく為に歩み始めた。

「あのさ。」

数メートルほど歩くと背後から『さとる』が声をかけてきた。振り返ると玄関の前で『さとる』は私の方を向いていた。その顔には不安げな、否、怯えているような表情が浮かんでいる。
気が向いた者ならば「どうした」位は声をかけるべきかもしれないが、私からは声を敢えてかけず『さとる』の言葉を待った。『私のキャラクター』に沿った行動を私は演じ続けた。

「明日も、一緒に帰ってくれるかな?できれば登校も一緒に。」

私は無表情を装ったまま、内心でため息をついた。何をわざわざ当たり前の事を。

「分かった。明日も登下校時も一緒に歩こう。」

私の返答に『さとる』は笑みを再び浮かべると、「絶対だよ!」と言いながら家の中に入っていった。


『さとる』の姿が視界から完全に消えた事を確認してから、私は家路につく為に振り返り。
そして始めて、ため息をついていた。私としては珍しい行為だ。
ふと気になり『さとる』がしがみついていた腕を見る。
いつもと変わらない制服を着た腕。だがその腕に僅かに私の体温とは異なる温もりを感じるのは気のせいだろうか?

『さとる』と一緒に学校から出てから会話しながら歩いている間、私は目線こそ違うがその行動に私の知っている『石塚さとる』を感じる事ができた。
だが、ほんの数分前からの『さとる』は、私が知っている『石塚さとる』ではなかった。全く見も知らぬ1人の少女が私の目の前に立っていた。
あの『さとる』の行動は女性化した事による精神的不安定さが生み出したものだったのだろうか?それとも周りの見る目が変わってしまったことによる情緒不安が生み出したものなのだろうか?
それとも、女性化した事によって『さとる』の内面そのものが変化し始めている・・・?

「別人、か。」

思わず口に出た独り言。それが私の本音であった。
恐らく『さとる』は内面も変わっていくだろう。男から女へと。自分が望む、望まない関係なく。

彼は・・・いや『彼女』はいつも通りに接する私を望んでいた。
しかし変わった『さとる』は、果たしていつも通りの私の行動をどう思うだろうか?

今は私は今までの通りの私を『演じる』としよう。
しかし、それでいいのだろうか。『さとる』はこれから変わっていく。今までの私が知っている『さとる』ではなく、私の知らない『さとる』へと。
その時が来ても、私はそのままで良いのだろうか?

もしかすると私も変わるのが必要な時期が来るのかもしれない。漠然とだが、私は内心でそんな事を考えていた。

<つづく>

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