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悪魔を呼んでみよう (10)

「私の事を思い出したついでに、貴殿と私の契約した時の事も思い出して貰おうか。」

目の前の少女、「悪魔」は意地悪そうな笑みを浮かべながらそう言うと、右手の指を弾いた。
まるでそれに合わせるかのように。俺の頭の中に「あの時」の情景がフラッシュバックした。



俺は圧倒されていた。有り得ないのに目の前に出現した「有り得ない」存在に。
全身を包む夜の闇より濃い黒に彩られた体毛。血よりも紅い瞳、そして尾の代わりに生えている七色の大蛇。
小さい頃に動物園で見た狼によく似た「それ」は、まるで睨みつけるかのように俺を凝視している。

「「情けない。久方振り(ひさかたぶり)に呼ばれこの次元に現姿(げんし)してみれば、召喚したのは私の姿を見ただけで腰を抜かす存在だとは。」」

微妙にぶれた全く同じ声、それも深みを帯びた壮年の男性を思わせる渋い声が辺りに響き、俺は思わず辺りを見合わした。
・・・が、部屋の中にはどこにも俺以外の人間は居ない。部屋を抜ける為のドアの向こう側からも誰かが立つ気配は感じられない。そしてこの部屋に俺以外にいるのは1匹(?)の狼みたいな生き物のみ・・・。
俺は辺りを見回してから狼モドキの方に顔の向きを戻した。その意味を汲み取るかのように、狼モドキは頭を縦に振る。

「「そうだ。今の言葉、まさしく私が発したのに相違ない。」」

再び微妙にぶれた声が辺りに響く。その時になってようやく俺は何故声が微妙にぶれているのかに気がついた。
狼モドキが声を出しているのは分かったが、狼の頭の口だけでなく尾の様に生えている蛇の口も同時に開いていた。つまり、獣の物としか思えない二つの口から全く同じ声で同じ内容の言葉を話していたのだ。
再び愕然とする俺。どうやら俺は本当に「悪魔」と呼んでもいい存在を召喚してしまったらしい。尾が蛇で喋る狼など、冷静かつ普通に考えてもあり得ない存在だ。

「「恐らくだが貴殿は私を興味本位で呼び出したのか?全く酔狂な事をする。」」
「な、何だってそんな事が・・・。」

半ば呆然としながらの俺の反論に狼モドキは狼の方の頭の口元をまるで人間のように歪めると、「クックック」と笑った。

「「理由は・・・」」
「おっと。2つの口で話しては聞き取りづらいか。何、簡単な事だ。強い願望を持って私を召喚したのだとしたら、例え異形なモノの現れたとしても今の貴殿の様に腰を抜かすような事はありえんからな。」

蛇の頭の口元が動きを止め、狼の頭の方の口だけが動くのを続けた。その為か微妙にだがぶれていて多少聞き取り難かった言葉のぶれは無くなり、明瞭な言葉が辺りに響いた。
そしてその時点になってようやく俺は自分が床にへたり込んでいる事に気がついた。端から見れば情けないことこの上ない格好であるのではないかな、と頭の中では妙な事だが冷静にツッコミを入れていたりする。
何とか気を奮い立たせて立ち上がると、俺は悪魔を見下ろした。悪魔はの方が悪魔で律儀に俺の行動に合わせて顔を上の方に向けてきた。

「重ねて尋ねるが、私を召喚したのはいいが特に用はないのだな?」
「あ、ああ。悪魔を召喚する方法が書いてある本に興味を持ったので試しにやってみたんだが・・・。」
「なるほど。道理でこの『私』が呼び出されたのかと思ったのだが。近頃お前たちの世界で悪魔を召喚する術として出回っている『あくプロ』を使った方法ではなかったのか。」
「『あくプロ』?何だそれは??」
「知らぬのか?お前たちの世界で近年普及しているWeb上で取得できるフリーソフトの『悪魔召喚プログラム』の事だ。略して『あくプロ』って物らしいな。」

何だそりゃ?俺は頭を思わず傾げていた。

「『あくプロ』というのを使えばマウスボタンをクリックするだけで、望みの目的を叶える事が出来る悪魔を自動的に検索して呼びつける事ができるらしい。私は使った事がないのでよく知らないがな。」
「ほー。」
「もっともあくプロでは『私』を召喚する事は出来ないがな。『あくプロで召喚する私』と同名の悪魔だが『今ここにいる私』とは別次元の存在だ。向こうは4次元の存在だとしたら『私』は20次元の存在になるな。」
「何かよく分からないが、『あくプロ』ってので呼び出される悪魔と今ここにいるお前という悪魔とはどう違うんだ?」
「『あくプロで召喚された私』と比べると『今此処にいる私』はこの世界に対する干渉能力がはるかに上だ。」
「?? 言っている意味がよく分からないが・・・。」

何だか話の内容がかなり突飛になってきた為、俺は困惑し始めてきていた。頭の角度が首を始点にして30度くらいまで傾いた。
そうすると狼モドキはため息をついた。感じからして「物覚えが悪い子供に手を焼く家庭教師」を見ているかのようだ。まあ何となくだが。

「具体的に言うと『あくプロの私』はこの世界に関する理(ことわり)の一部を変更する事しか出来ない。例えば容姿を変えたり記憶を改竄したりするという願いを叶えられる事はできるが、その人物が生まれてきたという概念そのものを変える事ができない。」
「ふむ。」
「対して『私』はこの世界のありとあらゆる理に干渉する事が出来る。対象となる生物が元々生まれてこなかった事にも、そして人間が哺乳類ではなく爬虫類から進化した生物に変える事も、そしてこの世界そのものが実は存在していなかった事にする事も『私』なら可能だ。」

俺は目の前にいる狼モドキ・・・いやさ「悪魔」の台詞を聞いて、あまりの衝撃に絶句していた。
確かにあの本には召喚する存在は「万能なる者」、「この世界におけるありとあらゆる事象を変える存在」と書かれていた。
勿論目の前の「悪魔」が嘘八百を言っているだけかもしれない。だがこの時の俺は何故か悪魔が言っている内容が事実だと信じていた。後で思った事なのだが、もしかすると俺は「奴の言っている言葉は全て真実である」といつの間にか考え方を目の前の悪魔によって歪められていたのではないのだろうか。そう考えるのが妥当と思えるほど、荒唐無稽な話だったからだ。

「で、どうするのだ。貴殿は。」
「へ?」
「折角、この世のそのものを改変できる能力を持つ者を召喚したんだ。どんな願いでも叶えれるぞ。言ってみるがいい。」
「どんな・・・って例えばどんな?」
「そうだな。その気があればだが、俗に言う中世ファンタジーの世界の概念を現実の世界にそのまま反映する事だって可能だ。」
「・・・・・。」

言葉を失って絶句する俺。いま悪魔が言った事はその様な事を願う人がいるだろうが、絶対に出来っこない事だ。しかし目の前の悪魔はその様な事を実現する事が出来ると言っているのだ。
魔法やファンタジーが現実に存在する世界。興味がないと言えば嘘になるだろう。だが強く興味を持つかと言うと、俺自身あまり興味は強くは持っていないのは確かだ。
と、言うよりも俺は今の人生そのものに興味を持てないでいた。何もかもがくだらない、興味が持てない、楽しめない。起きて飯を食って、学校行ってつまらない授業を受けて、帰って飯を食ってそして寝る。悲しいと思えない位にいつも通りの毎日。女をひっかっけ(勿論合意の上で)一緒に寝ても大して面白いと思わない。全てが灰色に彩られた、そんな俺の日常。
親友と言える1人の男が居なかったら、今頃俺は絶望して自ら死を選んでいるかも知れない、感情の起伏が上がりも下がりもしない、つまらない日常。それが今の俺の人生感だ。

そこまで考えて虚しさのあまり心の中でため息をついた時、頭の中で我ながら嫌らしい考えが唐突に浮かんだ。
そうだ、「何でも叶えてくれる」と言うのならば、俺に刺激的な新しい人生を渡してもらおうじゃないか。この際だ、敢えて具体的に内容を言わずに悪魔さん本人に俺が納得する人生を考えてもらおうじゃないか。「何でも叶えてくれる」ならそこまで融通してくれる筈だろう。

「それじゃあだ、俺に新しい人生を寄越せ。」

我ながら捨て鉢な言い方だが、「何でも叶えてくれる」んだ、これで充分だろう。まあ本音を言えば悪魔を困らせるのが目的な発言だし。
俺の言葉を聞いて悪魔は困った顔をする・・・かと思えば特に表情を変える事なく、ただ単に頭を少し傾けた状態にするだけであった。

「まあいいが。一応は聞いておくが、どんな人生にしたいんだい?」
「あ?ああ、まあ今のとは違う人生にしたいんだ。」

どうって事ないよっ、て感じで返してきた悪魔の問いかけに、何故か俺は慌てて答えた。
その俺の答えに「フム」と一言つくと、悪魔は俺の顔を値踏みするかの様にじっと見つめてきた。その行為に俺は思わず喉の奥で唾を飲み込んでいた。もしかすると、こいつは俺の考えなんて完全に見通しているのでは無いのだろうか。

「何故か・・・は敢えて聞かない。つまり今の生き方とは全く違う、刺激的な生活をしたいと言うのだね?」
「ああ、そうだ。いや俺としてはさ、いま現在の状況に・・・」

再びかけられた悪魔の問いに何気なく答えると、まるで言い訳を造ろうように俺は思いつくまま不平不満を垂れ流した。
悪魔を困らせるためという目的で言った、本音を言うと叶えてもらえなくてもいいと考えて言った願い事ではあったが、心の中のどこかで今の俺の生き方を変えて欲しいと考えているのも確かだ。
だからこそだろうか。俺の口からは不平不満の内容を意味する言葉が延々と流れ続けていた。
そんな俺の様子を見ていた悪魔は唐突に表情を変えた。顔文字で表すと「(´∀`)」な感じの顔だ。狼の顔でまあよくそんな表情が浮かべたものだと思うが、実際に浮かべたのだから間違いはない。その表情の珍妙さは、驚いて思わず俺は言葉を止めてしまった位だ。

「いいだろう。与えてやろうじゃないか。今とは全く異なる、新しい人生をな。」

悪魔がそう言った直後に急に眠気が襲ってきた。急に、そしてあまりに強すぎる眠気に俺の意識は瞬く間に暗闇に落ちていった。
その間にも悪魔は何かを言っている気がする。

「ま、具体案もなかった事だし。手っ取り早く性別を変えてやろう。ああ、あとおまけに容姿もかなり変えてみようかな、大半の男に好まれそうな。ついでにその状況になっても周りが驚かない環境に世界を作り変えてやるよ。そうすれば、貴殿自身も気がついていない『本当に叶えたい願い』も叶えられるかもしれないしな・・・。」

キャラ絵
キャライラスト.神山 響

<つづく>

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