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悪魔を呼んでみよう (16)

「いやああああぁぁぁぁぁぁ!!!」

突然響き渡った悲鳴に私は反射的に立ち上がっていた。悲鳴はトイレから聞こえてくるのを確認すると、私こと笹田義一はトイレに向かって駆け出した。

「どうした、さとる?」

私はトイレのドアの前に立つと、中に居るであろうさとるに声をかけた。

「あ、ああああああああ!!」

だがしかし返答はというと、悲嘆にくれ絶望を感じ取れる意味を成さない悲鳴であった。私は声だけで既に正気を失っているのが理解した。

トイレの中で何があったのか?その時点での私は検討も付かなかった。ただ、さとるの理性を吹き飛ばす程の『何か』が起きているのは確かのようだ。
見るべきでは無いのかもしれないが、未だに絶叫とも言うべき悲鳴をあげ続けるさとるを放置する訳にいかない。私は最悪ドアを破壊する事を覚悟してトイレのドアノブに手をかけた。
ところがあっさりとドアノブは回転し、これまたあっさりとドアは開いてしまった。どうやらさとるは鍵をかけ忘れていたらしい。少し拍子抜けしつつも私はトイレの中に駆け込んだ。

そして私の目に飛び込んできたのは、洋式トイレに腰かけ頭を抱えて泣き叫ぶ少女の姿であった。
少女は勿論さとるであった。だがいつも強がっている態度を取り続けるさとるからは想像ができないほど弱々しく、脆くも崩れ去りそうな姿であった。
さとるはトイレのドアが開けられたにも関わらずその事に気がついていない様子で、頭を抱えて泣き叫んでいる。
何が起きたのかと再び思った私であったが、さとるの太ももに一筋の血の糸が流れているのを見て私は即座に気がついた。・・・生理がきたのだろう、と。
男である事をこだわり続けていたさとるにとって、身体が女性である事を決定づける生体現象の体験はショックが強すぎた様だ。
そしてこれは恐らくだが、さとるの中で何かが、それも石塚さとるという『男』を象徴する一番重要な何かが折れたという事が、想像つく事も私には出来てしまうのであった。

「さとる、とりあえず落ち着け。」

私はさとるの肩に手をかけると、落ち着かせるというよりも理性を取り戻させる為に全身を揺すった。
それに対するさとるの行動は私の手を振り払い、泣きながら意味を成さない言葉の羅列を叫び続けてる物であった。さとるの行動は予想ついていた物ではあったが、予想通りだというのも困るものがある。何せ全く事態が改善してないのだから。
このままではさとるが壊れてしまうだろう。親友が廃人になるのはできれば避けたい。

・・レ・モ・イ・・ナ・カ

頭の片隅で『本性』が小さな声で囁くが、私は敢えて無視した。さとるは大事な親友だ。そんな事は・・・、してはならない。
とは言え、このままさとるを放っておくのは事態が悪化する事はあっても改善する可能性はない。何かしらの対処をする必要があるのは確かだ。

半狂乱な状態で泣き叫び続ける女性を落ち着かせる方法。残念な事に、私にはそんな方法をすぐに思いつくのは難しい。何せそのような状況に幸か不幸か出合った事がないからだ。いま現在その様な状況になっている時点で不幸としか言いようがないが。
最初に思いついたのは頭か首筋でも叩いて気絶される事だった。がしかし、気がづいた時点でまた暴れだしそうな気がするので却下した。それに親友に暴力を振るうのはなんだし。
そうなると思いつくのは・・・1つなくは、ない。TVドラマで見るような陳腐かつ傍から見れば滑稽極まる行為が。
はっきり言ってそれをやるのは恥ずかしい事この上ないが、都合がいい事に周りには私とさとる以外のギャラリーはいない。恥ずかしいと感じるのは私だけだと思う、多分。
改めてさとるの方を見ると、悲鳴をあげる事は終わっていたが目の焦点は定まらない状態で全身が小刻みに震えだしていた。危険な兆候だと捉えてよいだろう。最悪、現実を認められず理性が崩壊する可能性がある、かもしれない。どちらにしても早急に何らかの手立てをすべきだろう。

そして私は意を決すると、さとるの身体を強く抱きしめた。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

脳みそがまるですり鉢に入れた山芋が擂り粉木(すりこぎ)でグチャグチャにされたかの様に考えがまとまらず、頭の中で支離滅裂な単語が表れては消えていく。
自分は『女性』なのだと認識した瞬間、今まで内部で強く存在を主張していた『俺』と名乗っていた『男の自分』が音を立てて崩れ去っていくのを感じた。
自我そのものであった『俺』の消滅は自分の意思そのものの消滅を意味しているかの様に、自分の中から何かを考える、という事柄そのものが無くなってきた。
自分が男ではない、否さ男ではなくなってしまった事に対して、自分の全存在を自分自身が否定してしまっていた。
絶望と表現してもいい黒い圧倒的な洪水によって全てを流しつくされ、そして後には何もなくなってしまったかのような喪失感を自分は漠然と感じていた。
外で何が起きているのか分からないし、もうすでに何が自分だったのかも『自分』には判別する事すら出来なくなってきた。
もうやだ。もういい。このまま消えてしまいたい・・・・。

不意に何かが自分を包み込むのを感じた。何気なく気を外に向けると、そこには誰かが自分を抱きしめているのが分かった。
誰かは能面の様に無表情な顔をしていた。だがその人物が自分にしてくれる抱擁は力強いにも関わらず全く苦しくなく、逆に安心感を与えてくれる。
誰だろう、この人は・・・。ああそうだ、義一だ。自分の親友である、笹田義一だ。
自分が消えようとしている中、恐らくだけど何とか対処しようとして自分を抱きしめてくれたんだろう。苦し紛れの行動だったんだろう。
フフッ。傍から見たら凄くおかしな状態になっているんだろうな。
でも何だろう。とても暖かい。義一の身体は筋肉質で硬いのに、とても暖かくて気持ちがいい。ずっとずっと抱きしめていて欲しい。
おかしいな。自分は男なのに、何で男に抱きしめてもらえるのが気持ちがいいんだろう。抱きしめられているのが何でこんなに安心するんだろう。
・・・・ああ、そうか。だって、

『わたし』は女なんだから。

そう思うとほぼ同時に、私の中で自分自身を構成する柱という物が新たに生まれてくるのを感じた。
それは『わたし』と名乗る物。自分が、『石塚さとる』が女性である事を認め、受け入れた『女の自分』。いまの身体と同じ性別と形をした自分自身。

ああ。やっと、受け入れられた。
私はわたしなんだって事を。いま現在の本当の意味での私自身を。

義一は相変わらず無表情にも関わらず、私が壊れるのを助けようと必死になってくれているのか未だにその抱擁している力は緩んでいない。
そんな彼の様子を見て、私は彼に何かとても暖かくて優しい気持ちが湧き上がってきていた。何だろう、これは。好意?楽しい??ううん、違う。本当に何だろう、この気持ちは。
知らず知らずのうちに私は義一の背中に手を延ばし、彼に抱きつく体勢になっていた。目を閉じ、義一のたくましい胸に頭を預ける。
頭全体で感じる彼の心臓の鼓動を聞いていると、とても心が穏やかになっていく。義一に身を預けている間もわたしの中で『女の自分』がどんどん形成されていくのを感じる。

それはちょっぴり悲しくて、そしてその数十倍も嬉しい事だった。

悪魔を呼んでみよう 挿絵3
イラスト.神山 響

<つづく>

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