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はやぶさ Ⅲ(1) by.isako
Ⅲ
テレビ局のスタジオ。
正面に椅子が二脚あり、仮面ライダー隼の監督とインタビュアーが座っている。後方のスクリーンには隼の映像が流れており、周囲にはパネルのほか、ライダーやダークネスの怪人の等身大フィギュアが立てられている。
イ「今日はスタジオに今大人気の仮面ライダー隼の監督小野寺さんをお迎えしております。撮影も終盤の追い込みですし、映画の企画もありお忙しい中、来ていただきました。監督よろしくお願いします」
監「こちらこそ」
イ「いや~、ともかくすごい人気ですね」
監「ありがとうございます。でもそれは脚本や役者さんの力といった方が良いですね」
イ「特に主演の風間薫さんの人気はブームとまで言われていますし……今日は来ていただけませんでしたが」
監「僕は代用品というわけですね」
インタビュアーは慌てて手を振り否定する。
イ「めっそうもない」
監督はニコニコ笑っている。
監「視聴者の方々の興味が彼女にあるのは当然ですし、構いませんよ」
イ「では、お言葉に甘えて。まず風間さんについておうかがいしたいのですが」
監「どうぞ。出来る範囲でお答えしましょう」
イ「インタビューに応じず、ドラマでしか顔出しされないので、ネットでは風間薫さんは実在しないCG、バーチャルアクトレスではないかという噂が飛び交っているようですが」
監「彼女は実在します」
イ「監督のお言葉ですが……」
監「僕やスタッフは実際に見ているわけですが……。そうだ! 彼女には悪いけど、番組の予算ではCGをあれだけ自在に操るのは無理ですよ。最新のソフトでもね」
イ「一切インタビューに応じないのはなぜなんでしょう」
監「一言で言えば契約です。彼女はとてもシャイなのでね。もう皆さんご存知だと思いますが、元々彼女の役回りは主演ではなく私たちも契約に同意したのです。本来後半は出番が減る予定だったので、そのころ解禁する予定でした」
イ「だとするともうすぐ我々も素顔を見ることができるのでしょうか」
監「どうでしょうか、事実上の主演になってしまいましたから……ただ映画版のプロモーションには出て欲しいと依頼しました。おそらく快諾してくれると思いますよ」
カメラは徐々にズームバックしていき、やや不鮮明になるり、それが大型液晶ディスプレーに映っていることが分かるようになる。
インタビューは続いている。
液晶ディスプレイのある場所は高級マンションのリビングで、伊達正和とマネージャーの中山エミ、それにもう1人若いきれいな女性、伊達の5才年上の姉香緒里が座っている。伊達と香緒里は三人がけのソファに。エミは少し離れた、二人とディスプレーが同時に見える位置にあるスツールに。伊達は青いポロシャツに白っぽいチノパンをはいているが、胸や腰が女性っぽいラインである。
(1)
「へー、映画のプロモは出るんだ」
と言って香緒里は伊達の方を見た。思いがすぐ表情に出るタイプなので、面白がっているのがすぐに分かる。
「スポンサー、玩具メイカーの意向は無視できないってさ。まあ、こっちもいろいろ無理を聞いてもらってるし」
「それにしても見事なものね」
そう言いながら香緒里は伊達の膨らんだ胸を鷲掴みにする。
「ちょっと姉さん、まだ撮影前なんだから」
「だって少々のことじゃ崩れないって特殊メイクさんが言ったんでしょう? ねえ中山さん」
「ええ」
「それよりなんだよ、いきなり押しかけてきてさ」
「あら、急にマンションで一人暮らしを始めた妹が心配で見に来たんじゃない」
「どさくさにまぎれて妹にするな」
「あなたの女優としての才能を見出したのは私なんだから」
「昔僕を騙して女装させた写真でオーディションに応募した件ですか」
「人聞きの悪い。あなたは自らすすんで着たじゃない」
「レアカードに釣られてしまったんです」
「ほら、取引は成立してるじゃないの」
「もういいです」
「まあ冗談はさておき、今日は島村さんと都内でロケなんでしょう」
「それが?」
「彼はまだあなたが女だと思ってるの?」
「ええ、まあ、たぶん」
「あのさあ、役者として生きていきたいなら変なしこりを残さないようにしないとね」
真剣な口調に姉の顔を見ると妹……いやいや弟を心配する幼いころから見慣れた表情が浮かんでいた。年が離れていたのでやや保護者っぽい姉だが、それだけに無視しがたい。
「どういうことさ」
「私は台本を読んだわけじゃないけどラブシーンなんでしょう?」
「子供も見る番組なんだからそんなことはしないさ」
「どうなの、中山さん」
「弟さんの言われるとおりそれほど激しいものではありませんが、ラブシーンといえなくもないですね」
「かなり接近するんでしょう?」
「それはまあ」
「だからどうだっていうのさ。第一クールで島村さんが兄の和也の役の時も似たようなシーンはあったんだぜ」
「あの時と違ってあなたは男装をしている。万一にも男と見破られないように特殊メイクを採用したんじゃないの」
「う~ん、そりゃまあ」
「それに私は映像でしか、しかも放映したところまでしか知らないけれど、島村さんがあなたに好意を持っている可能性はないのかしら」
伊達はちらっとエミを見てから答える。
「僕はまさかと思うけど、エミさんはその可能性が高いって」
一瞬エミと香緒里の視線が絡む。
「中山さんの意見を取り入れて対処を考えたほうが良いと思う」
「必要があれば男であることを言っても良いと監督の許可はもらってるんだ。もともとメイクや特殊メイクのスタッフに隠すのは無理だったしね」
「お姉さんの言われるように今日島村さんに説明したほうが良いですわ。きっと」
「ふたりともそう言うなら」
「なんだか歯切れが悪いじゃない」
「真実とはいえ今まで騙しておいて、実は男でしたって言い難いじゃなイカ」
「もっと後で分かったほうが、相手はショックでしょうに」
「そりゃまあそうだけど」
「伊達くんが言い辛いなら私の方からマネージャーを通じて」
「自分で話すよ。男らしく」
「えらいえらい、男らしくは余分だけど」
「また変なことを言う、姉さんは。女らしくおれは男だって言う方が変だって」
「もう1つ提案なんだけど、告白ついでに」
「告白って――誤解受けるだろう」
エミは伊達をさえぎり、香緒里に先を促す。
「真実を告白したついでに島村さんに風間薫とお付き合いしていただいてはどうかと思うの」
「他の男に言い寄られないようにするには良い方法ですね。映画の撮影もありますし」
エミが同意すると単なる冗談で済まなくなると伊達は慌てた。
「ちょっと二人でなに勝手なこと言っているんですか」
「だって男であることはなるべく長く隠したいっていうなら誘いは断り続けるしかないわけでしょう? かと言って全て断れば角が立つ。あなたの心づもりじゃ風間薫はフェードアウトさせて男優としてやっていきたいんでしょう」
「そりゃまあ、スポンサーのこともあるから」
「良い隠れ蓑じゃないの」
「バレたら彼に迷惑が」
「彼?」
「もう! 姉さん」
「どうかしら、中山さん」
「小野寺監督と立花会長に電話して相談してみます。いいですね、伊達くん」
「ええっ」
<つづく>
テレビ局のスタジオ。
正面に椅子が二脚あり、仮面ライダー隼の監督とインタビュアーが座っている。後方のスクリーンには隼の映像が流れており、周囲にはパネルのほか、ライダーやダークネスの怪人の等身大フィギュアが立てられている。
イ「今日はスタジオに今大人気の仮面ライダー隼の監督小野寺さんをお迎えしております。撮影も終盤の追い込みですし、映画の企画もありお忙しい中、来ていただきました。監督よろしくお願いします」
監「こちらこそ」
イ「いや~、ともかくすごい人気ですね」
監「ありがとうございます。でもそれは脚本や役者さんの力といった方が良いですね」
イ「特に主演の風間薫さんの人気はブームとまで言われていますし……今日は来ていただけませんでしたが」
監「僕は代用品というわけですね」
インタビュアーは慌てて手を振り否定する。
イ「めっそうもない」
監督はニコニコ笑っている。
監「視聴者の方々の興味が彼女にあるのは当然ですし、構いませんよ」
イ「では、お言葉に甘えて。まず風間さんについておうかがいしたいのですが」
監「どうぞ。出来る範囲でお答えしましょう」
イ「インタビューに応じず、ドラマでしか顔出しされないので、ネットでは風間薫さんは実在しないCG、バーチャルアクトレスではないかという噂が飛び交っているようですが」
監「彼女は実在します」
イ「監督のお言葉ですが……」
監「僕やスタッフは実際に見ているわけですが……。そうだ! 彼女には悪いけど、番組の予算ではCGをあれだけ自在に操るのは無理ですよ。最新のソフトでもね」
イ「一切インタビューに応じないのはなぜなんでしょう」
監「一言で言えば契約です。彼女はとてもシャイなのでね。もう皆さんご存知だと思いますが、元々彼女の役回りは主演ではなく私たちも契約に同意したのです。本来後半は出番が減る予定だったので、そのころ解禁する予定でした」
イ「だとするともうすぐ我々も素顔を見ることができるのでしょうか」
監「どうでしょうか、事実上の主演になってしまいましたから……ただ映画版のプロモーションには出て欲しいと依頼しました。おそらく快諾してくれると思いますよ」
カメラは徐々にズームバックしていき、やや不鮮明になるり、それが大型液晶ディスプレーに映っていることが分かるようになる。
インタビューは続いている。
液晶ディスプレイのある場所は高級マンションのリビングで、伊達正和とマネージャーの中山エミ、それにもう1人若いきれいな女性、伊達の5才年上の姉香緒里が座っている。伊達と香緒里は三人がけのソファに。エミは少し離れた、二人とディスプレーが同時に見える位置にあるスツールに。伊達は青いポロシャツに白っぽいチノパンをはいているが、胸や腰が女性っぽいラインである。
(1)
「へー、映画のプロモは出るんだ」
と言って香緒里は伊達の方を見た。思いがすぐ表情に出るタイプなので、面白がっているのがすぐに分かる。
「スポンサー、玩具メイカーの意向は無視できないってさ。まあ、こっちもいろいろ無理を聞いてもらってるし」
「それにしても見事なものね」
そう言いながら香緒里は伊達の膨らんだ胸を鷲掴みにする。
「ちょっと姉さん、まだ撮影前なんだから」
「だって少々のことじゃ崩れないって特殊メイクさんが言ったんでしょう? ねえ中山さん」
「ええ」
「それよりなんだよ、いきなり押しかけてきてさ」
「あら、急にマンションで一人暮らしを始めた妹が心配で見に来たんじゃない」
「どさくさにまぎれて妹にするな」
「あなたの女優としての才能を見出したのは私なんだから」
「昔僕を騙して女装させた写真でオーディションに応募した件ですか」
「人聞きの悪い。あなたは自らすすんで着たじゃない」
「レアカードに釣られてしまったんです」
「ほら、取引は成立してるじゃないの」
「もういいです」
「まあ冗談はさておき、今日は島村さんと都内でロケなんでしょう」
「それが?」
「彼はまだあなたが女だと思ってるの?」
「ええ、まあ、たぶん」
「あのさあ、役者として生きていきたいなら変なしこりを残さないようにしないとね」
真剣な口調に姉の顔を見ると妹……いやいや弟を心配する幼いころから見慣れた表情が浮かんでいた。年が離れていたのでやや保護者っぽい姉だが、それだけに無視しがたい。
「どういうことさ」
「私は台本を読んだわけじゃないけどラブシーンなんでしょう?」
「子供も見る番組なんだからそんなことはしないさ」
「どうなの、中山さん」
「弟さんの言われるとおりそれほど激しいものではありませんが、ラブシーンといえなくもないですね」
「かなり接近するんでしょう?」
「それはまあ」
「だからどうだっていうのさ。第一クールで島村さんが兄の和也の役の時も似たようなシーンはあったんだぜ」
「あの時と違ってあなたは男装をしている。万一にも男と見破られないように特殊メイクを採用したんじゃないの」
「う~ん、そりゃまあ」
「それに私は映像でしか、しかも放映したところまでしか知らないけれど、島村さんがあなたに好意を持っている可能性はないのかしら」
伊達はちらっとエミを見てから答える。
「僕はまさかと思うけど、エミさんはその可能性が高いって」
一瞬エミと香緒里の視線が絡む。
「中山さんの意見を取り入れて対処を考えたほうが良いと思う」
「必要があれば男であることを言っても良いと監督の許可はもらってるんだ。もともとメイクや特殊メイクのスタッフに隠すのは無理だったしね」
「お姉さんの言われるように今日島村さんに説明したほうが良いですわ。きっと」
「ふたりともそう言うなら」
「なんだか歯切れが悪いじゃない」
「真実とはいえ今まで騙しておいて、実は男でしたって言い難いじゃなイカ」
「もっと後で分かったほうが、相手はショックでしょうに」
「そりゃまあそうだけど」
「伊達くんが言い辛いなら私の方からマネージャーを通じて」
「自分で話すよ。男らしく」
「えらいえらい、男らしくは余分だけど」
「また変なことを言う、姉さんは。女らしくおれは男だって言う方が変だって」
「もう1つ提案なんだけど、告白ついでに」
「告白って――誤解受けるだろう」
エミは伊達をさえぎり、香緒里に先を促す。
「真実を告白したついでに島村さんに風間薫とお付き合いしていただいてはどうかと思うの」
「他の男に言い寄られないようにするには良い方法ですね。映画の撮影もありますし」
エミが同意すると単なる冗談で済まなくなると伊達は慌てた。
「ちょっと二人でなに勝手なこと言っているんですか」
「だって男であることはなるべく長く隠したいっていうなら誘いは断り続けるしかないわけでしょう? かと言って全て断れば角が立つ。あなたの心づもりじゃ風間薫はフェードアウトさせて男優としてやっていきたいんでしょう」
「そりゃまあ、スポンサーのこともあるから」
「良い隠れ蓑じゃないの」
「バレたら彼に迷惑が」
「彼?」
「もう! 姉さん」
「どうかしら、中山さん」
「小野寺監督と立花会長に電話して相談してみます。いいですね、伊達くん」
「ええっ」
<つづく>
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