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マコちゃん誕生 (3) by.isako

(3)
 
 その週はそのまま何事も無く過ぎた。まあ、そうそう奇跡が起こるはずもない。
 高村とは廊下ですれ違うくらいで、挨拶は交わす。ペアでの下校はあの時だけである。女高村といるとどうも調子が狂うし、あの日以来ユカリの機嫌が悪い。もともと高村とユカリはそりの合わないところがあったから、女どうしでもそのままなのだろう。

 日曜の朝、待ち合わせの駅前に僕は立っていた。デートの待ち合わせらしい男も数人いる。
 こっちは買出しの荷物持ちなので、まあ……
「朝から冴えないわね」
 時間ちょうどに現れたユカリの先制攻撃である。
「お言葉ながら、荷物を持ちやすい身軽な服装のつもりなのですが、こっちとしては」
「部活なのは確かだけど、知らない人が見たらデートに見えるかもしれないもの。作業服のようなのはちょっとね。服装にはもう少し気を使ってよ」
「それはないだろう」
と僕は彼女の後ろに視線を向けた。
「あらあら、私はお邪魔だったかしら。遅れてごめんなさいね」
 最後に登場したのは顧問の島津亜津子先生、姫である。二月に一度のこの買出しはかなりの金額になるのでいつも参加してくれる。生徒だけでは部費の使用限度額が定められていた。
「あ、先生、ありがとうございます。私たちもたった今来たところなんです」
 お前はな。
「なんか言った?」
「なんでもない」
「さあ、行きましょうか。今日は冷蔵が必要な品も多いから急がないと」
「はい、先生」
 女たちはそのままおしゃべりをしながら歩き始めたので、あとに続く。この買出しになると生徒と教師の垣根が外れるらしく、まるで親子――じゃあ姫が怒るな――姉妹のようだ。
 僕? さしずめ出来の悪い弟かペットのようなものだろう。これ持って! ワン! てな具合なんだからな。

 買出しは最後に重いフルーツを買って終わった。キャリーカートも買ってもらったので重さはいいのだが、まるで海外旅行からの帰国者である。おまけに、
「ごめん、今日は一人で運んでくれない?」
とユカリはのたまい、姫は笑っていらっしゃる。
「え~っと?」
「ほら、さっき婦人服の店じまいバーゲンしてたでしょう」
 あの店は先月もしていた気がすると言っても無駄なんだろうなあ。
「ああ」
「先生と行くの」
「悪いわね、木下君」
「了解しました」
 キャッキャッと走り去る二人を見送り僕はとぼとぼと学校へ向かう。姫から鍵はあずかっていた。
 毎回の荷物持ちにも楽しみはあった。姫は目立つ美人だし、ユカリもその妹に見えなくもない少女だ。きれいな女性といて浮き浮きしないといえば嘘になるし、これまではたいてい買い終わった後に喫茶店などで……いや言うまい。バーゲンにつきあうよりはずっとましというものである。

 校内に入るとグラウンドは結構にぎやかだ。おそらく体育館も。休日とは言え、どの部も夏の大会に向けての練習で力が入る時期である。声をかけられたくないのでテニスコートを避けたため、遠回りをして部室のある旧校舎に向かう。
 卒業後なるべく早く少しでも上位のATP(男子プロテニス協会)トーナメントに参加したいので、ポイント稼ぎのため国内の試合には可能なかぎり参加し、それなりに勝っている。すでに昨年から国内では二桁の順位に入っていた。肘の故障と言ってバスケを止めたが、春休みの大会で目立ってしまい最近またテニス部の勧誘を受けている。もう高校生の大会に興味はない(ポイントが低い)し、僕など入れたらクラブの雰囲気が悪くなるのは分かりきっているのに、顧問はどうしても団体戦で上位に行きたいらしい。

 中庭を通り渡り廊下から部室棟に入ろうとしたら、マコちゃんこと高村がいた。
「はい、上靴」
「サンキュー、でもどうして」
「生徒会室で書類の整理をしていたら、重そうなカートを引いた木下君が見えて……今日は買出しだったんでしょう」
「よく知ってるなあ」
「金曜日に島津先生が言ってたから」
「姫は生徒会も担当だったな」
「ええ、良い先生よね」
 脳裏にユカリと嬉しそうにバーゲンに向かう母親のような姫が浮かぶ。
「そうだな、親しめる感じっていうか」
「お姉さん?」
「そんなところだな」
 やはりその辺が無難な落とし所だろう。
「荷物の整理手伝うわ」
「生徒会の仕事は?」
「もう終わったから」
 そう言いながら高村は、僕の汚い靴を玄関の隅に置くためにしゃがんでいる。とても小さなその背中は思わず守ってやりたくなるほど儚げだった。 
 本人でさえつまむのをためらっている悪臭漂う上靴と靴に触った手が腐りそうだ。
「手ぇ洗えよ」
「うん。食品さわるんだものね」
 高村は嬉しそうに蛇口のある方に走っていった。いったい何がうれしいのだろう。

 幸い調理部は一階なのでそのままコロコロとカートを引いていく。ドアの鍵を開けたときには手を洗い終えた高村も戻ってきた。
 一緒に中に入る。高村は物珍しげに部室を見回す。
「初めてだったっけ」
「ええ、だって」
「ん?」
「林さんが怖い顔するもの」
「お前たちって相性悪そうだものなあ」
「そう思ってるんだ、木下君は」
「とにかく雑談より冷蔵庫にしまうのが先だな」
「うん」
 沈黙は少し気まずいが、僕は考える時間が欲しかった。いくら僕が鈍くても女高村がどうやら男木下を好きらしいことは気づいている。しかし小中学校時代の思い出を高村を女として思い返してみれば、やむを得ない状態と言えるだろう。こいつの記憶では僕は男で、これはまあ当たり前か、自分は女なのだ。それに中学時代には家族が留守の時互いの家に泊まったことまである。家に二人きりでだ。高村の頭の中では、いったい……
「どうしたの、木下君」
 手がすっかり止まってしまっていたらしい。しかし、どちらにしても、
「あ、ああ。これじゃ全部は入らないなと思ってさ」
 業務用なので家庭用よりは一回りでかいのだが、三年生がいれたソース類が場所をかなり占有していた。
「フルーツは室温でもいいんじゃないかしら。だって果物屋さんは冷蔵庫に入れていないもの」
「そりゃそうだ」
 ユカリにメールで確認しようかとも思ったが、嬉しそうな高村の前では、ためらわれた。
 果物の入ったダンボールを日の当たらない場所においてからコーヒーをいれる。
「ありがとう――おいしいわ」
「インスタントだぜ」
「木下君に入れてもらうの久しぶりだもの」
「そうか?」
「中3の冬休み以来」
「そうだったかな」
 不思議なことにその後の沈黙で居心地が悪くなることはなかった。
 そうだ。あの日は互いの夢を話したりしたんだっけ。僕はテニス、奴は考古学という。たしかに高村と僕は対照的なくせに仲が良かった。静と動、秀才とテニス馬鹿、ちびとのっぽ。
「ねえ木下君」
「コーヒーのお代わりか」
「違うの。変なコト聞いていいかな」
「なんだろう。どうぞ」
「私がさあ、もしも……笑わないでよ」
「誓って笑いません」
「私がもしも男子だったら今でも仲良くしてくれた?」
「え?」
「私はね。前のままでいいんだよ、木下君さえよければ」
「急に何を」
「変じゃないわ。だってさっき話した冬休みの日も、これは男同士の友情だって木下君が言ったのを覚えてるもの」
 会話の記憶はそのままらしい。
 まてよ、それより男高村は逆に女なら僕とまた親しくなれると考えたりしたのだろうか。高村の願いを何かの力がかなえたってことなのか。
「ねえ木下君」
 そんな目で見るなって。
「別に女だから避けたりしたわけじゃねえ」
「でも」
「クラスも違うし、おまえは生徒会で忙しく、僕は空いた時間を全てテニスにつぎ込んでいる。それだけのことさ」
「だから会えないのね」
「来週」
「え?」
「次の週末遊びに行く」
「あのー」
「お前のうちへ」
「えっ」
「ご家族が許してくれたらだが」
「絶対大丈夫、母も姉も木下君と喧嘩したのかってずっと心配してたんだもの」
 なんだかややこしそうだが、もう少し真相を探って解決の糸口を見つけたかった。これじゃあ、高村が不憫すぎる。

 高村が帰宅してから一時間後、大きな紙袋を下げた親子、ああ、いや姉妹がご帰還された。
 明日の準備はユカリとこれから合流する一年生の担当になる。料理のしかもお菓子になると僕の出番は殆ど無い。

 予約を入れておいたコートで汗を流してから帰宅した。調子は良い。学業優先を受け入れた時から覚悟していたとは言え夏休みまでトーナメントに出場できないのは痛い。テニスだけを考えれば退学したいくらいだ。

<つづく>

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