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「新入社員にご用心」(3)  作.ありす  挿絵.T

(3)-------------------------------------------------------

 興味津々で周りを取り囲む連中に注視される状況では、落ち着いて話ができない。
 俺達は社長の計らいで小さな別室に移ることになった。
 もちろん、甘井先輩も無理やり引きずり込んだ。
 
 ソファに3人が腰掛けると、微笑を浮かべたままの彼が、先ず口を開いた。

「後天性性転換症ってご存知ですか?」
「聞いたことがある様な、無い様な……」
「潜伏期間が長いウィルス性の疾患なんです。まだ症例は少ないのですが、発症すると男性は女性に、女性は男性になってしまいます」
「あ、あんたがそうだっていうのか?」

 俺が指をさすと、彼はその手をそっと取って握りしめた。

「名前で呼んでいただけませんか? 圭さん」

 俺は投げるようにその手を振りほどいた。馴れ馴れしく手を握るな! 
 お、俺はまだ……。

「か、カオ、ル君がその病気に感染しているって、いうことなのか?」
「そうです。今はまだ体は女性ですけど、あと後半年も経てば、完全な男性になります。“証拠を見せろ”と言われてもこの場ではちょっと……」
「そ、それで……もしかして」
「あなたがとても可愛らしい人であることは、大学時代から知っていました。ミスコンで優勝して伝説まで作った3つ年上の先輩のことをね。そして今日、ようやく念願がかないました」
「だ、だから俺は男で……」
「性転換症は非常に珍しい病気で、めったに人に感染ることはないのですが……その、例えば体液を交換したりすると……」

 珍しく少し動揺したように頬を赤くして、カオルは顔を伏せた。
 イケメンのくせに、こういう仕草まで絵になるのだから始末に悪い。
 いや、本当は女だと言っていたが。
 ……ん? ちょっとまて、今コイツはなんて言った?

「貴女から好意を得たことで、僕も決心がついたのです。責任は取ります」
「ち、ちょっと待って! 言っていることがよくわからない」
「だから僕の恋人に、出来れば将来、その、結婚していただけたらと……」

 責任だと? なんのだ? 
 もしかして……、体液交換ってまさか、さ、さっきのキスで伝染ったってこと……?

「必ず幸せにします。後悔はさせません」
「な、な……、な……」

 おれはあまりの事に、言葉が出なかった。カオルは性転換症を発症していて、半年後には男になって、俺は……、さっきされたキスで、同じ病気を伝染されて……

「あ、圭さん!!」

 美青年に体を支えられながら、美少女が言葉もなく気を失う姿は、まさに映画のワンシーンのようだったと、後で甘井先輩に聞かされた。

*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*


 数日後、出社した俺の隣の席には、嫌になるぐらいに爽やかな笑顔のカオルが座っていた。
 社長も出席していたあの歓迎会のおかげで、俺達は晴れて公認のカップルとなっていたのだった。
 傍目には男同士の、気持ち悪いことこの上の無いカップルではある。
 が、そう思っていたのは俺だけで、極めて心外なことに見た目はそれほど見苦しくない俺達は、女子社員たちからは、リアルBL少女漫画の世界と、腐った好奇心をもって迎えられ、男の同僚たちからは嘲笑とも同情とも付かない微妙な視線を浴びていた。
 そういう周囲の目を気にもとめないカオルは、タチの悪いことに俺を女性の恋人のように扱うものだから、ますます倒錯的なことになっている。
 会社公認と言っても、せいぜい友達以上恋人未満ってのが、今の関係の筈だからな!

 しかし、カオルは俺以外の誰も止めないのをいいことに、会社でも大っぴらにべたべたするし、休日も一日中付き合わされる羽目になっている。
 俺にだってプライベートの時間ってものがあるのに、朝から俺のアパートに高級スポーツカーで乗り付けてくるものだから、始末に負えない。
 
 だが1ヶ月もすると、そんな事にも慣れっこになってしまっていた。
 慣れとは恐ろしいものだ。

 万が一の望みも空しく、僅かとはいえ体の変調を自覚した俺は、カオルも通っていると言う医者に一緒に通うようになり、やがて俺は俺自身の体の変化を認めざるを得なくなっていた。

 そして、医者に通うようになってから1週間ほど経った頃、俺は高熱を発して会社を休んでしまった。

*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*


 結局おれは、入院だのリハビリだので、一ヶ月も会社を休んでしまった。
 そして久しぶりに出社した日の昼休み。
 カオルが二人分の昼食を買いに出かけたのを見計らって、甘井先輩が声をかけてきた。

「小鳥遊、お前も発症したんだってな。性転換症」
「ええ、もう諦めの境地ですよ」

 発症したどころか、もう体はほとんど女性のそれになってしまっている。
幸いなことに、服装でごまかせば、まだ男性に見える(はずだ1)。
 メンズスーツとインナーでごまかしてはいるが、実際のところ中身は女性とそう変わらない。
 あまりに早い体の変化に、おれ自身がまだ戸惑っている。
 医者が言うには劇症性だとかで、高熱と全身の痛みで3週間も寝こんで、起きれるようになった頃には、もう男であると主張するには無理のあるからだになってしまっていた。全体に筋肉が落ちるのと入れ替わるように柔らかな脂肪の層が厚みを増し、肌理の細かい白い肌に変化していた。それに今まで気にしたこともなかった、自分の体臭の変化にも気がついていた。

 全身の激痛と高熱に気を失った時に、側にいたのはカオルだ。
 彼が救急車を呼ばなければ、本当に死んでいたかもしれない。
 それだけは感謝している。
 だがな、そもそもおれがこうなってしまった直接の原因は、カオルではないか?
 そういうとヤツはものすごく悲しそうな表情で黙ってしまうので、その件についてはあまり責めることが出来ないでいる。
 体の急な変化に心が追いつくはずも無く、おれはまだ男だと言う気持ちが捨てられない。
 そんな不安定で弱っているおれを慰めてくれているのは他ならない、原因であり結果の責任の引き受け先であるカオル自身だ。
 そう思うと言葉や態度では表現しきれない、複雑な感情がカオルに対して沸いてくる。
 それにカオルにはまだ、体の秘密は内緒にしてはいるが、多分気がついているんじゃないかと思う。
 おれがもう、女の体になっているってことに……。

「どうしたんだ? 胸なんか抑えて。まだ体調が悪いのか?」
「え? いや、これは別に……」

 そう言ったものの、実のところ胸が痛い。
 医者は下着も女性の物を付けるべきだと言ったが、おれはまだ抵抗していた。
 ぶ、ブ……なんて付けられるか!

 そこに買い物を終えたカオルが帰ってきた。
 ヤツは上機嫌で弁当の包みを2つ、おれの机の上におくと、こう言いやがった。

「ただいま、圭。弁当屋さんの隣に、かわいいランジェリーショップができてたよ。帰りに寄って見ない?」
「行かねえよ!」

 たった今、男としての矜持だけは守ろうと決意したばっかりだってのに、コイツは!
 すると甘井先輩は、馴れ馴れしくおれの肩に腕を寄りかけながら言った。

「森。下着はハードル高そうだから、先ずは外側から変えて行ったらどうだ?」
「彼女、嫌がるんですよ、スカート履くの」
「当然だ! おれは男なんだから!」
「いまさら元女装男が、何言っているんだかw」
「先輩が無理矢理やらせたんでしょうが!!」
「無理矢理ねぇ? 森、それで小鳥遊の体の方は、どうなんだ?」
「何でカオルに聞くんです? 先輩」
「だって小鳥遊。お前、性転換症を発症したんだろ?」
「だから何です? ぼくはまだ男ですよ!」
「ふーん。一ヶ月も会社を休んでいたろ。だからもう、女になっちまったのかと思ってな」

 う、するどい。
 だがそんなことを公に、特にカオルに知られるわけには、いかない。
 主治医にもそう宣言しているから、おれのカラダの秘密を知っているのは、極限られた人間だけのはずだ。

 そこへ、社長がやってきた。
 職場視察にしちゃ唐突過ぎるが、一体何の用だ?
 社長はおれ達の上司と二言三言、挨拶らしきものを交わすと、こちらにやってきた。
 ちらと一瞬、カオルの方を見ると、おれとは視線を合わせずにこう言った。

「こほん、あー、なんだ。つまり、女子社員には女子用制服を支給するので、総務に申請書を出して受け取るように」

 それだけ言うと、そそくさと部屋を出て行った。
 誰だ? チクった奴は!!

「圭ちゃん、社長命令だよ?」

 と、カオルの奴がニコニコしながら、いつのまにか抱えていた新品の女子制服の包みをおれによこした。
 どこまで用意周到な奴なんだ。
 だが断る!
 そう固く誓ったのだ。  

 が……

*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*
 

 あくまで男として通そうとしていておれだったが、無情にも体の方はそうは行かないようだった。
 ついにあの、思い出すだけでもおぞましい初潮などという、もはや後戻りのできないイベントを迎え、半ば放心状態だったおれは、先週不完全なままだった、体の一部の外科手術を受けた。
 性転換症で女性化するといっても、ちょっとだけ男性の部分が残ってしまうのだ。
 簡単な整形手術だと、医者とカオルが熱心に勧めるので、諦めの境地だったおれは半ば惰性で承諾書にサインをしてしまった。
 そしてそれをきっかけに、もはやどう言い繕っても、女性としか言えない体になってしまった。
 急に胸は膨らんでくるし、腰だって……。

 うまく下着を調整したりして誤魔化していた体つきも、もうすっかり――自分で言うのもアレだが、豊満ボディになっていた。
 落ち込むおれとは対照的に、喜んだのはカオルだ。
 高級下着と化粧品の山、それにドレスだのワンピースだのを満載したトラックがおれのマンション(女性の一人暮らしは心配だからと、セキュリティが厳重なことで有名な女性専用マンションへと、カオルに無理矢理引越しさせられた)に横付けされたときは、他人事と思っていたが、部屋にうずたかく積まれていた箱の中身を開けて、パニックになりかけた。
 つーか、こんなにいっぱいの品物どうしたんだ?
 金持ちだとは聞いていたが、カオルのヤツは一体どこのボンボンだよ!
 カオルがおれに使う、金も時間も半端じゃない。
 性転換症を伝染した責任を感じるとは言っても、それが心苦しく感じもするから、まぁヤツの好意を素直に受けて、カオルが喜ぶように振舞ったりもする。
 カオルのヤツはもう完全におれの事は“女性の”恋人扱いだし、それに慣れっこになっている自分も冷静に考えると怖い。
 だが……。うーん、やっぱり絆(ほだ)されてんのかな? おれ……

 半ば呆れながらも、引越ししてきた時の3倍の荷物を整理するだけで、貴重な週末を棒に振った週明けの月曜日。
 出勤してきたおれを、甘井先輩が珍しい動物でも見るような顔でおれを見た。
 身に付けているのは、一応はビジネススーツだ。
 ただし女性用の……。
 好きでこんな格好をしていると思われるのも癪なので、手短に手術からの顛末を話した。

「……というわけですよ」
「それで、服も女性用に変えたのか?」
「体型が変わってしまったんですよ。前のが着れなくなったって言ったら、カオルがこれを持ってきたんです」
「どうせなら、スカートにすればいいのに」
「それは勘弁です。それにカオルのヤツ、ミニスカートしか持ってこないんですよ? あんなの履けません」

 ぴったりと腰にまとわり付くようなパンツルックは恥ずかしいが、他に着るものが無ければ仕方が無い。そう自分に言い聞かせて我慢しているのに、ミニスカートだなんて!

「自分で買いに行けばいいじゃないか」
「婦人服売り場なんて、一人で行ける訳無いじゃないですか!」
「下着も当然、女物なんだろ?」
「先輩、そういうのはセクハラって言うんですよ」
「おお、すまん。もう女性だったんだよな。あ、ちゃんと女子用制服に着替えておけよ。“社長命令”だしな。ははは」
「くっ……」

 ふっと横を見ると、いつの間にか新品の女子用制服を胸に抱えて、期待に目を輝かせるカオルが目に入った。
 くそぅ! きっといつか見返してやるからな!
 “一体何をだ?”と言われるのがオチの捨てゼリフを心の中だけで呟くと、カオルから女子用制服の包みをひったくると、更衣室へと向かった。

 あれ? おれは……入ってもいいんだよな?

<つづく>

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