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六鏡 玲人の暗躍――水野 希光の場合 ――(18) by.黒い枕

「ただいまあ」
「たっ――ただいま戻りました」

同じ意味、内容の言葉。
しかし、それに込められた感情は相反し、水野 希光と楓希は自宅の戸を潜った。
アレから――自ら突発的且つ無自覚にキスしてから――楓希は『人間』に戻れないでいた。

(なんでこんなにドキドキするのよおお~~~っ!!?)

『マスター』の邪魔にならないか。
『マスター』にご迷惑をかけていないだろうか。
『マスター』のご家族に不審に思われないだろうか。
元に戻れるのだろうか――などとは露ほど考えない。 あるのは主への敬愛。
内から湧き上がる『モノ』としてのプライドや意地、そして愛に楓希は溺れていた。

(うわああ!! お姉さまと合うよおお!!)

記憶は消えず、人格もそのまま。
なのに、感情の大半を肉体に支配された彼女には『女』となっていた。
――というか、自分が『男』である意識が限りなく薄くなる。

(ううぅ)

不安を隠すように、不遜などではないかと思いつつも、彼女は希光に抱きついた。
疼く心にじゅっ、と安堵が染み渡る。

(あ――待ってくださいィィ)

楓希が心の天秤に振り回されていくうちに、彼がリビングのドアを開ける。

「お帰えりぃ――相変わらず、見せ付けてくれるわね、アンタたち」

モソモソ、と口を動かす水野 芙美奈。ポテトチップスを、雄々しく、食していた。
外見的に中々の美女なのだが、この情景を見たら、男どもは求愛を躊躇するだろう。
要は、どんな人にでも欠点があり、隙がある好例なのだ。

「からかわないで下さい!おね――芙美奈…さん」

頬を染めながら勢い良く文句を言おうとして止めた楓希。
危うくお姉さま、もしくは芙美奈様――と、呼びそうだったからだ。
自分は楓希。
人形――としてではなく、水野 希光の恋人。
さらに言えば水野家容認の同居人。
それが『自分』なのだと記憶と『設定』を読み上げ、彼女は照れ惑う。

(わ――私が、マスターの恋人……)
「おー、おー、 照れちゃって可愛いのぉー」
「ちゃ、茶化さないでください!!」

それは何時も通りの光景、展開。
記憶と言う名の『設定』通りに自分は、楓希は受け入れられている。

「じゃあ――俺、先に風呂は入っているわ」
「じゃあ、楓希ちゃんは夕食よろしくねえぇ」
「はい! すぐに作ります」

希光は風呂場に向かう前に二階に、自室に向かい、芙美奈はそのままテレビと間食を楽しむ。
これまた、問題ない――日常。
体験することは初めてなのに、違和感なく楓希自身も受け入れられ、彼女は台所に向かった。

「え…っと…あった…あった…」

――これまた、覚えのない思い出、自分の可愛いエプロン
彼女の着物とは似合わなそうであるが、意外なことにマッチする。
具体的に言うなら――。

「よし…ふぶき、張り切って作ります!」

奥様、もしくはメイド、召使――と言う名の雰囲気が醸し出された。

(今日は……煮魚がいいかな?)

元・水野希光は料理をしたことはなかった。 
しかし、今はもう違う。
まるで糸に操られるように、それでいて明確な意思で、体は料理に取り掛かる。

(ふふ……マスター喜んでくれるかな?)

彼女は嫌悪のひとつも見せずに嬉々して魚を捌き、副菜の下ごしらえを終える。
そして、それらを鍋に加えた後、醤油やみりんなどで味を調えていく。
人形としての喜び。
人間には不自由な、枷でしかないのかもしれない。しかし、人形にはそれが歓喜なのだ。

(あっ、そうだ。 マスターの後は私が入らせて貰おう…)

【楓希】の肉体は、その内装された精神、否―― 魂そのものを楓希に変えた。
入れ物の中に入れられた水のように。
何時から、と言う認識すらも脱げ落ち、彼女は純粋な敬愛の念を抱きながら、愛しき人のために仕事をこなしていく。
恋人でありマスターである人のために――祈るように食材に愛情を奮った。

~~~

「あ…っ、あのマスター…じゃなくて…ショウくん…私もお風呂に入りたいのです…入りたいんだけど……」

食事が終わり、そのままお風呂場に向かおうとした彼女を、希光は自室に待機させていた。
――つまり、自分こと水野 希光の部屋に。
そして待っていたのは幼妻なのか、初々しい恋人なのか、よく分らない存在だった。

(…はぁ…全然ダメじゃないですか…これ…)

ハッキリ言って、自分から見たら、彼女は『人形』ではない。
体に縛られ、『設定』に引き摺られ、【楓希】に成り切っているつもりなのだろう――が、元楓希としては、全然”ダメ”である。

「これはマスターとしての命令だ」
「あ…申し訳ありません……っ」

どこがと言えば、不安定に喜怒哀楽にぶれ動いているところだ。
実際に、胸を張って服従しているかと思えば、モジモジと顔を赤くし、手を弄っている。
まるで汗臭い体を愛しい人に嗅がれたくない、と言った感じに。
そして、それは当っているのだろう。

「…ん、どうしたんだ?楓希…」

希光が近寄り、髪を流して上げただけで、さらに赤く燃え上がり恥じ入る楓希。

「あ…ま、マスター…ダメ…っ」

そして、嫌々とばかりに後ろに下がる。
これのどこが、人形なのだろう。

「いいから…俺の近くに…来なさい」
「は…はい」

<つづく>

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