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クジラの人魚姫5-2

(2)

彼の可愛らしい応答は席に戻る者、そしてクラスから出て行く者の両者がいなくなるまで続いた。
どうやら他クラスの女子も潜入してきていたらしい。

(……道理で顔の知らない奴もいると思った…)

そこまでの魅力が自分に――あくまでもセシリウスの体に――ある、と思い悩むクジラ。
的外れである。
赤面をしながら能天気に首を傾げている様は、危険なほどプリティーだ。

「うふふ、可愛いねクジラくん」
「……うん、そうだね。可愛いねっ」

ある意味天然な彼を見守るのは、彼の本来の肉体を手にしているセシリウス。
それとクジラの幼馴染の沙希である。
異様に楽しくてしょうがない、と言った込み上げ笑いを二人揃ってしていた。
しかも、クジラに見えないように、死角で思う存分に笑っているのだから、始末が悪い。

「何時ものように演じていればいいんだから……そんなに緊張するなよ、セラス」

――と言うか、悪質である。
観察するのに満足した途端、セシリウスが余裕ぶった笑顔でクジラに近づいた。

「…わっ…分かっているけど…、勢いに呑まれちゃうんだから……しかたないじゃないっ!」

二人の悪巧みを知らないまま、彼は『セラス』として上がった声で応えた。
女性であることに慣れたのか、癖になったのか、雰囲気的もほとんど女の子である。
恥かしさなどの些細なことを克服すれば、本物の女子高校生として生活できる日が来るだろう。

「でも…クジラが――セラスちゃんが、まさかねぇ」

そんな弄られっぱなしの可愛い女子の顔がぴきりっ、と凍ったかのように強張った。
今までとは別種の恐怖が心を縛り上げる。

「……っ」

まさか学校に来た理由を、"そのまま"説明されたのか。『クジラ』に視線を向ける。
『あたしはバラしてないわよ』――と、頭を振るっているが、信用はできない。
信じたばかりに辱めを受けている身としては、不信を抱かないほうがおかしかった。

「なっ、なに…が?」

取り合えず、思い人が気になった彼は、セシリウスへの睨みを中断し、問い返した。
沙希が至極まともな顔付きで、見詰めてくる。
グビリと唾を飲み込み沈黙を続けた――ものの、結局は彼の方が先に口を開いていた。

「いや、実は……」
「そこまで勤勉家だとは知らなかったわ…」
「あ…え?…えっ!?」
「えっ、違うの?クジラに聞いたら授業に追いつけなくなるからっていってたけど……」
(聞いてないぞ!?聞いてないぞっ!?おい、こら!セシリウス…っ!)

再び、クジラは自分自身に、自分の姿をしたセシリウスに怒気を送る。
彼女は人を食ったような笑みを崩さず――『フォローして上げたんだから、いいじゃないのよ』
とウィンクで説明した。
確かに助かる。
しかし――それでも事前連絡があってもいいのではないかと思うのは、間違いではあるまい。

「そ、そう…よ。…あたし…だって…向上心くらいあるんだから…っ」
(もう――どうにでも、なれぇ、っ……)

可能なら今すぐにでも逃げ出したい気分なのだが、それでは本末転倒である。
折角、ここまで恥ずかしさを押し殺して『白方セラス』になったのだ。
ならばっ、と熱意半分やるせなさ半分で、彼は目的である沙希をこっそりと観察した。
惚れた弱みか――やはり綺麗で、可愛い。

(まぁ――無駄足だったかもしれないけど……これは、これで…)

久しぶりの沙希との学園生活。
未だに最大の問題――肉体の入れ替わり――は解決していないが、漸く訪れた小さな幸福に心が緩み、笑みがこぼれた。
そんなクジラの幸せそうな表情に沙希が気付く。

「ん? ――どうしたのセラスちゃん」

不思議そうに首を傾げる彼女。それだけで心が躍った。
だから、ついついと本音を暴露してしまう。

「あっ、そのっ!……沙希!沙希ちゃんと一緒に授業が、…受けれるのが嬉しくて…っ」

直後、言葉の意味を悟り、手をバタバタ動かして、真っ赤に恥じらう。

(わっ!?わあっ!?わあっ!?俺は何をッ!!口走ってるんだぁぁ!?)

無意識に出た言葉は、それほど恥かしかった。
どうすることも出来ずに――それこそ目を瞑ることも出来ずに――幼馴染を見つめるしかない。
すると熱く火照らせた顔に、凛とした笑顔が突き刺さる。

「ふふ――私も嬉しいなァ。セラスちゃんと一緒に勉強できて…」

そして、そして――まさかの惚気とも思える返答。
心が打ち抜かれるほどの歓喜に体が浮かれ上がった。

「ほっ、本当…っ!?」
「うん…本当だよ」

パアア、と世界が明るんだ。
胸を揉まれたり、着せ替え人形にされたりした記憶すらも霞んでしまう。
ただ今の両想い――とも取れる言葉にクジラは酔い痴れた。

「なぁ俺は――どう?」
「えっ?ああ……クジラ君は…」

不意の声に振り向けば、自分の顔が――セシリウスがいた。
微妙に体をさらに近づけ、いつもとは違い心配そうな表情で見てくる。
そんな表情と仕草に沙希が好きな筈なのに、脈が早まってしまう。
甘い毒を盛られたかのように、頬が熱い。

(どうしよう――、一応、セシリウスのお陰だし)

沙希からの苛めは許せてもセシリウスの意地悪は容認できない――筈だった。

(うっ、…うぅ!わ、わかったから、そんな顔するなよ!へ、変な気分になる!)

けれども湧き上がる熱い衝動に根負けして、これはお礼なのだと言い訳がましく考えながら、微笑み返した。
そして、好意を伝える。

「勿論!クジラ君とも勉強できて…あ、あたし……――嬉しいわ」

『本音じゃない』と内心で呟きながら、はしゃぐ『白方 セラス』。
沙希の場合より二倍ほど恥辱色に染まった顔が、魅力たっぷりに色気づく。
女でも、男でも抗えない愛らしさ。
男である『クジラ』は過剰に反応し、吐息がかかるほどに詰め寄ってきた。

「おおっ、さすが親戚。俺たち気が合うな。俺もセラスと勉強出来て嬉しいよ!」

勝手なことを言うなっ、と怒りが浮かぶよりも、しょうがないという気持ちの方が強かった。
クジラは諦め、苦笑する。

「もうっ。お、大げさなんだから…っ、…恥かし、いじゃないのよ!」
(はぁ…でもこれぐらいで、喜ぶんなら…良かったかな?…なんて…ねっ)

沙希と一緒に事業を受けられるのも彼女のお陰だし、これぐらいはいいかな、と思えてしまう。
どうせ本気ではない、お遊び感覚なのだし――と、勝手にセシリウスの心境を決めつけて。

「それじゃあ、国語の事業を始めます。 転校生の白方――あぁ二人いるのか……えっとセラスさんは隣の白方君か麻倉さんに教科書を借りて下さい」

騒がしいが、思ったよりも障害なく進むかつての日常光景。
体は未だに、悩めしい艶美な女体ではあるが、少しだけ『自分』に戻れた気がする。
そんな穏やかな時間。
おまけに……。

「んー、さっきはクジラが貸したから私が貸してあげる――机寄せて、セラスちゃん」
「う、うん――ありがとう、沙希ちゃん」

ボーナスは一杯だった。
鼻を擦るのは女性用のシャンプーの優雅な臭いと、沙希の甘い体臭。
なんとも高揚を促す香りである。
間近まで迫る沙希の横顔も相俟ってとくんっ、と心臓が音を誇張して動き回った。

(うぐっ…!か、かなり…良かったかもしれない……っ)

次々と変わる学園生活への感想。だが、それは仕方のないことだった。
何気に優しいセシリウスや、同じくサービスがいい沙希の存在が幸福に感じられるのだ。
昨日までの二人と、現在の二人を比べると涙が出てしまうほど『今』が優しい。心地いい。
学校に戻ってこれたのは正解だった――とクジラは思った。が……しかし。

(ふふ、可愛いなクジラ――うんん、セラスちゃん)

自分が抱いている感情とは、ちょっと違う好意を幼馴染に注がれていることにも気付かず――
『白方セラス』は幸福感で弛んだ表情を、クラス中に観察されるのだった。

<つづく>

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