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緊急の場合は -1 by.amaha


(1) 

 宇宙刑事のアイデアとは、肉体の再構成を待つ間、俺が佳奈子の身代わりを務めることだった。彼らの科学力でも自我のコピーはできないが、移すのは容易いらしい。
 俺としては引き受けるにしても佳奈子の許可が欲しいところだ。後でバレたら酷い目にあうのは確実なのだから。
 ただ医療用の電脳に移された佳奈子の精神は一種のデフラグ中で止めるのは不可能な状態だという。
 普通に考えれば俺が半殺しにあった時の記憶を消せばよさそうなものである。聞けば彼らの技術なら易しいことだという。ところがそうはいかないイカの金――いや失礼、俺はしばらく女の子だったっけ。
 問題は俺の情報が佳奈子の中で複雑に絡み合っている点だ。俺が犯人に殺されかけた一瞬の間に佳奈子は過去の俺を思い出し、記憶が強く結びついたのだという。下手に事件の記憶を消すと過去の俺の記憶やそれに結びつく幼い頃からの思い出にも虫食いのような穴があくそうだ。

 最終的には、佳奈子の肉体を動かしていたのは刑事の助手のAIだと口裏を合わせるよう説得して、俺は引き受けた。
 刑事は二つの便利グッズを貸してくれた。あらかじめ説明しておくとヤツは地球の文化をひと通り調べているし、俺と佳奈子の記憶も見ている。
 で、最初の一つが俺の横を歩いている黒猫である。佳奈子の飼い猫とそっくりに出来ており、暫くの間本物には眠ってもらい入れ替わる予定だ。中身は刑事の助手のAIで、俺が困らぬように佳奈子の記憶から抽出したデータベースを内蔵している。
「我輩の偽物をどうすればいい」
 なんだか偉そうである。
「薬で眠らせてポケット空間とやらに隠すって聞いたぞ」
「それは把握している。それを誰がする」
「誰って……自分でできるのか?」
「吾輩は刑事の助手だぞ。ただ命令がなくては動けない。それは、お主の役目だ」
 どうやってキキを、飼い猫の名前だ、捕まえようかと悩んでいたので渡りに舟である。
「家が近づいたら先行してやっちゃってくれ」
「がってんだ」
 それじゃあ、岡っ引きだ。

 俺と猫が降りたのは山頂公園の近くだ。噂になった二つの光球は犯人と刑事の宇宙船で、俺たち人類には探知できないが、今もそこに隠されていた。
 女性の体に違和感はある。しかし夕暮れが迫っているので急がなければならない。

「校門が近い。隠れてくれマオ」
「気をつけろ、銀(イン)」
 俺の記憶もしっかりデータベース化しているらしい。

 クラブ活動で遅くなった生徒に混じり家路を急ぐ。
 佳奈子は何か理由をつけて部をサボったはずなので、女子柔道部員に会わないかとヒヤヒヤしたが杞憂に終わった。何かの事情で練習がなかったのかもしれない。

 自宅が近づいた所で二手に分かれる。猫はキキを捕まえに、俺は自宅に俺が消えた言い訳を告げに行くためだ。
「行け、ロデム」
「どうボケればいい」
「いいから、行けって」
「にゃぁ~」

 呼び鈴を押すと母がドアを開けた。
「あら、佳奈子ちゃん、珍しいわね。雛芳はまだ帰ってないけど……上がって待つ?」
「こんばんわ、おばさん。姫くんは帰らないそうです」
「あら」
「なんだか修行のために山篭りするからって、突然」
「まあ。お祖父様のところかしら」

 俺の祖父は定年後古武道にのめり込んだ変わり者だ。気が合うので長期休暇に何度か一緒に山ごもりをしたことがある。
 女の子を助けたいからとメールでアリバイ工作を頼んだから何とかしてくれるだろう。弱きを助けろと俺にいつも言っていたことだし。
 ちなみに祖父は叩き上げの警官で警視正・署長になり定年を迎えた。 父も警察官だが、キャリア組で、三十才までに地方の警察署長を経験し、今は警視監・警視庁局長になっている。二人は仲が悪かった。

「そうかもしれません」
「でもどうして急に。まさか勉強をさぼるきじゃ」
 母は怒らせると怖い。
「前期の定期試験は終わったばかりですし、後でノートを見せてくれって言ってましたから」
「ちゃんとやっているならいいんだけど、どのくらいって?」
「二週間くらい」
「明日学校には連絡しておくから」
「はい」
 怒らせさえしなければ母はかなり大雑把である。生真面目な優等生の父とは正反対なのだ。そんな二人が結婚するのだから世の中は面白い。
「ところで話はそれだけだったの?」
 帰ろうとしかけた俺に母が声をかけてきた。
「どういうことでしょう」
「二人だけで会ったんでしょう?」
「ええ、まあ」
「急に山ごもりだなんて。あなたに柔道で負けたとか」
「そんなことしてません」
「告白して振られたとか」
「姫くんにとって私は単なる幼馴染だと思います」
「そうなのかしら。あなたはどう?」
「わ、私ですか」
 俺には見せない母の探るような目線は心の奥まで見通す気がした。
「お、おじゃましました。失礼します」
「ご苦労様」


 自宅で疲れてしまったが、本番はこれからだ。
「ただいま~」
と森家のドアを開ける。
 キッチンで母親が返事をした。四五年前まではよく来ていた、勝手知ったる他人の家である。
 靴を脱いでいると猫がよってきた。
 キキなのか、もう入れ替わったのかと戸惑っていると、突然二本足で立ち上がって、こう鳴いた。
「ハンドルネームは黒猫!」
 ああ、やれやれ。沙織バジーナとでも呼んでくれ。

 手を洗い、二階の自室に荷物を置いてからキッチンに降りた。
 黒猫氏の情報によれば最近の佳奈子は手伝おうと頑張っているらしい。

「ああ、佳奈子ありがとう。でも、もうできでるの。配膳をお願いね」
 母親は小柄で今では佳奈子よりも少し背が低い。
「う、うん」
 いつもと様子が違うとばれないかと少し緊張した。
 母親は気にせず調理器具を片付けている。
「お風呂先じゃなくて良いの」 
「え゛?」
「ああ、今日は練習お休みだっけ」
「え、ええ」
「お父さんは遅くなるって連絡があったから、先にいただきましょう」
「うん」
 もう一人の家族である大学生の姉は一人ぐらしをしている。
 メニューはチキンソテーとポトフにサラダ、そしてご飯ではなくパンが付く。父と祖父の好み(こればかりは息が合う)で和食ばかりの我が家と違うので小さい時はおよばれを楽しみにしていたのを思い出す。

「おいしい」
「珍しいわね。佳奈子が褒めてくれるなんて」
 しくじったのか。日常会話まで打ち合わせをする暇はなかった。
「そ、そうかな」
「五日ぶりよ」
「これからは毎日言うわ」
「それじゃ、ありがたみが減るかも」
 なんとかボロは出さずに世間話に相槌をうっているうちに食事は終わった。
「後片付けは私がするからね」
 佳奈子がいつもしていることだ。
「すまないね」

 黒猫氏は全てを記録していた。佳奈子の精神が目覚めるとき記憶に穴を開けないためである。

 洗濯物を片付けている母親に今日は入浴しない声をかけて部屋に戻った。今日はこれ以上イベントをクリアする気力はない。
 部屋に入ると黒猫氏は器用に窓を開けた。
「吾輩はパトロールだ」
 外に飛び出すと姿が消える。これは刑事が貸してくれた二つ目の便利グッズ、サーフボード状の飛行物体に彼が飛び乗ったためで、ボードは熱光学迷彩と高度なステルス性能をもち地球で探知されることは……
「何やってるんだ、黒猫氏」
 猫は格好をつけてボードの上に立っていた。
「シルバーサーファー? しかし黒いぞ」
「にゃぁ」
「とにかく姿を消せ。ニャンコ先生」

 またネタを披露されてはたまらないので窓を閉める。
 彼の言うパトロールとは当然異星人に対する警戒だ。例の犯人の宇宙船には複数乗っていた痕跡があった。まだ生存しているなら、ろくな装備は持ち出せなかったはずなので近辺に潜んでいる可能性が高いと聞いている。

 パジャマに着替えて指示されている肌の手入れとやらに挑戦する。そんな必要を感じないほどつやつやピカピカなのだけれど佳奈子が毎日していたことは続けてあげたかった。
 おっかなびっくり、乳液をつけていると廊下から母親の声が聞こえた。
「ちょっといい?」
「あの化粧中なんだけど」
「どれどれ」
 入ってくると笑いながら仕上げてくれた。
「はい、おしまい」
「ありがとう」
「もう寝るの?」
「今日はとても疲れたから」
 決して嘘じゃない。何しろ現代医療では救えないくらいのグロ死体になったんだから。
「そう」
「なにかお話?」
「さっき姫さんから電話があったわ」
「母、姫くんのお母さんから?」
「お訪ねした時のあなたの様子が心配だったようよ。そうそう、雛芳君のことは心配しないでって。お祖父様から無事だと連絡があったから」
「そう」
 さすが祖父は頼りになる。
「あのね」
「はい?」
「雛芳くんと何かあったの?」
 ありすぎたんだが……あとで佳奈子の記憶とズレが生じないように慎重に説明する。
「私の相談事に付き合ってもらって――そのときしばらく家を離れると伝えて欲しいって頼まれたの。携帯じゃ気まずいからって」
「あなたの相談事って」
「秘密秘密」
「当ててみましょうか?」
「え?」
「恋愛問題でしょう」
 げっ、さすが母親、鋭いぞ。 
「さあどうかしら」
「まあ良いわ。後悔しないようにね」
「う、うん」
「じゃあ、お休み」
「おやすみなさい」

 いろんな不安にも関わらず、ニャンコ先生が戻ると俺はすぐ寝てしまった。

<つづく>

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