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呪いはわが身に (7) by.isako

(7)

 休暇の初日、午前中に墓参りを済ませた長尾は、昼前に東ミナとの待ち合わせるため所沢駅に着いた。官舎をでたミナは一人娘のアスカと駅から一五分ほどの高層アパートに住んでいる。
「お待たせしたかしら」
 約束の西口近くのファストフード店前に着くとすぐ声をかけられた。
「今きたところ――いや、本当に」
「なにも言ってないわ。変わらないわね、長尾くんは」
 白いワンピースを着たミナこそ大学の頃そのままだった。最後に会った葬儀の時とは別人である。
 長尾は、ミナにとっては死者である哲也のことを頭から振り払った。彼はもう加賀美しおんとして生きている。それが昨夜のメッセージだと理解していた。
「ほめられたわけじゃなさそうだな」
「あらあら、僻まないでよ」
「ところで、どうして待ち合わせを? 住所まで出向くのに」
「ところで」
 ミナは長尾の問を無視している。
「今日は終電まで空けてくれたんでしょうね」
 できれば先に位牌に手をあわせて明るいうちに帰りたかった。母子家庭なのは近所に知られているだろう。それに大学時代の友人では、嘘でなくても、奥様連中の噂を止める理由にはなるまい。しかし約束は約束である。
「もちろん、ミナお嬢様」
「そうそう、あなたはついて来れば良いの」
「はい」
 そう言って深々と頭を下げると、たいていのことには無関心な通行人も忍び笑いを漏らした。
「ちょっとやり過ぎだってば」
 笑顔のミナは美しかった。
「それで予定は?」
「まずはアスカのおむかえよ。今日は短縮授業なの」
「アスカちゃん?」
「もう一年生よ」
「そうか年を取るわけだ、俺も」
「私も同じ年なんだけどなあ」
「そういう意味じゃ」
「とにかく罰としてお昼をおごること」
「へいへい。でも、アスカちゃんの方は、いいのかい」
「新しいパパってこと?」
「おい! 今日は東に挨拶にきたんだぞ」
「ごめん、そういうつもりでは」
「すまない。強く言うつもりじゃなかったんだ」
「アスカはあなたと会うの楽しみにしているから」
「顔くらいは覚えてくれているかもしれないけど」
「この一年間アルバムを見てたから。家にある東の写真はほとんどが大学以降のものばかりだからね」
「そうか」
 それなら長尾はおじゃま虫のごとく登場しているに違いない。
「だからあなたはアスカの中では親しいおじさんなんだ」
「同じ年だろう?」
「そうよ。アスカの同級生にお姉さんとは呼ばれないもの」
 そのまま二人は黙ったまま並んで歩いていた。
「なぜ無言なの、長尾くん」
「え?」
「あなた付き合っている娘いないでしょう?」
 長尾の頭に、ちらりとしおんの顔が浮かんだが、娘とはいえない。
「図星だ」
「仕事一筋もいいけれど身を固めないと昇進にもひびくでしょう、そろそろ」
「まあね」
 今の事件に方をつけない限り、昇進のことなど考えられない。
 長尾がどう話すか迷う間もなく、小学校の前についた。駅から1kmもない。

 アスカは、もう待っていたらしく校門あたりから駆けてきた。一年で驚くほど肢体が伸び、幼女から少女に脱皮している。
「お母さん!」
「アスカ」
「あっ、こんにちは、長尾さん」
「こんにちは、アスカちゃん」

 三人はアスカの希望で近くのモールにあるレストランに向かって歩き始めた。長尾がランドセルを持つとアスカは少し先行してショーウィンドウをのぞくのを繰り返している。
「なんだか楽しそうだね」
「あら、気をきかせているつもりなのよ、あの子」
「それは、しかし」
「まあ大学時代の写真を見るかぎり、私たち三人の距離はおなじに見えるから」
「それぞれ別の人と付き合っていただろう。それは」
「そう言えばカナメちゃんとは?」
 仰木カナメは長尾が学生時代付き合っていた同期生だ。
「卒業後はほとんど連絡も取らなかった。軍に入ったのがダメだったらしいよ」
「軍といっても情報本部でしょう」
「彼女の主義にはあわないからな」
「なるほどね」
 モールが近づいてきたので長尾は思い切って切り出してみた。アスカが一緒では聞きづらい。
「アスカちゃんが気を使ってくれるのは、ひょっとしてそういう話がきているせいなのかい?」
「職場復帰を相談した上司からね。そういうの警察じゃ今もあるんだなって初めて知ったわ」
「なかなか理解してもらいにくい職業だからなあ。機密保持の点でも関係者で固めた方が安全ってことなのかな。それで会ったのかい」
「元とはいえ上司の顔はつぶせないもの、一度だけ。中島……中島陸人って言うんだけど嫌なやつ。東のことを妙に聞きたがるんだもの」 
 口をだす必要がなくなったようなので長尾はほっとした。
「知り合いなの?」
「まさか。警視庁に知り合いはいるけど中島は一人もいないよ」

 昼食は楽しかった。独身を通している長尾が将来の結婚を意識するほど。
 二人の自宅へ向かう途中、長尾はミナの許可を得てアスカが望んだ大きなぬいぐるみをプレゼントした。子供たちの間では有名らしい猫のキャラクターのものだ。アパート住まいにはちょっとと、ミナに相談したのだが、アスカは一部屋与えられているので心配ないらしい。

 十階南向きの3LDKはきれいに片付けられていた。東の位牌は小さな団地サイズの仏壇に納められ唯一の和室で長尾を待っていた。
 一人だけにしてもらい、線香をあげる。
 思いは複雑だった。加賀美しおんは極秘事項なので二人に告げるわけにはいかない。しかし逆はどうなのだろう。しおんは接触を禁じられているし、警視庁からはなんの情報もない。では、彼が話すのか。会って楽しかったと……
 加賀美しおんの存在を知っただけでなく、寝てしまったことで長尾の心は乱れていた。

 ふすまの外からアスカに声をかけられて長尾はずいぶん長い間一人でいた事に気づいた。もう三時を過ぎている。
「長尾さん、大丈夫? おやつあるわよ」
「ああ、ごめん」
 ふすまを開けると笑顔のアスカが迎えてくれた。
「お母さんは」
「買い物よ」
「そうか」
 おやつはショートケーキでアスカは自分にはオレンジジュースを長尾には紅茶を用意していた。
「ケーキには紅茶なんでしょう」
「よく知ってるね」
「へへ」
 十分ほどで長尾はアスカのクラスメートのほとんどの特徴を覚えてしまった。
「それでね、みっちゃんは、たかしくんを殴り倒しちゃったの」
「たかしくんは空手習ってる子だよね」
「ケンカは気合なんだってみっちゃんが言っていた」
「強いんだ」
「あのね、アスカが一番なんだよ」
 長尾が驚いて見つめるとアスカは得意そうに胸をはった。
「ねえ、私の部屋でゲームする?」
 ずいぶん気に入られたらしい。
「格闘ゲームなら、おじさんはけっこう強いぞ」

- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - 

 東ミナが帰宅するとゲームパッドを手にしたアスカが勇んで飛び出してきた。
「二十連勝よ」
「あらあら」

<つづく>

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