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呪いはわが身に (9) by.isako

(9)

 長尾は旧都庁の使われていない地下機械室にいた。準備はしてあるので、ハッキングは場所を選ばない。職場からでも自宅でも可能だ。しかし経路を特定される可能性は常にあった。危険は覚悟しているが、正体がバレれば公安に迷惑をかける事になる。

 それに現場に近ければ万一の時、しおんを……
 東ではなく、しおんか……

 顔に苦笑が浮かぶ。

 実際には、しおんの能力を持ってすれば、ほとんど危険はない。五分ほど敵の気をそらしてくれれば良いのだから。
 午前0時五十五分、長尾はネットにダイブした。目的は二つ。要人篭絡のため活動している軍団の女性型アンドロイドを使用不能にすることと、敵の極秘情報の奪取である。

 機械人間を生身のように動かすには大きく三通りの方法がある。人工知能(AI)の搭載、人の脳または、しおんのように電脳化したものの搭載、そして一時的に意識を躯体にインストールする遠隔操作である。
 人工知能は先の大戦で自律型AIが何度かトラブルを起こしたために極めて厳格なプロトコルが定められており、行動を見れば誰にでも正体が分かる。しおんの方法は、倫理的法的制限から通常選択できない。
 軍団が使用しているのは遠隔操作である。装置を破壊して行動不能にすれば、色ボケした要人たちも目が覚めるはずだ。それほど精巧なものを送り込める存在は限られていた。

 午前0時五十八分。事前の調査では危険なため入らなかった深さの所で、長尾の予想は裏切られた。ハッキング可能な範囲に肝心な情報がないのである。どうやら独立したシステムがあるらしい。
 長尾は急いで操作可能な躯体を探す。
 あった。
 プロトタイプの女性型アンドロイドである。性能は現在作戦遂行中の躯体の上を行くが、この国の男をたらしこむには少し大人びた外見をしていた。

takasi_new_20111219010722.jpg
キャライラスト:長尾崇 絵師:まさきねむ

 素早くチェックをかける。起動に支障はなく、トラップも無いと思われた。
 意識を入れた躯体が損傷を受けると精神にダメージを受ける可能性があった。しかし、すでに作戦は始まっている。しおんが危険を犯しているのに長尾がリスクを避けるわけにはいかない。

 午前一時。長尾は軍団の女性型アンドロイドを凍結すると同時に、自身の意識をプロトタイプ『チャンウェ(嫦娥)』へインストールした。

 長尾が目覚めたのは四十六階のほぼ中央にある5m四方の部屋の格納タンクの中だ。傷まぬよう生体部品は冷却されていた。急いでジェネレーターを起動して体温を上げる。すでに警報機は鳴り始めていた。

 午前一時二分。無人の部屋に出るとかすかに銃撃の音が聞こえてくる。予定より早いが、しおんは大丈夫なのだろうか。
 午前一時五分、爆発音に紛れて施錠された鉄のドアを破壊すると、予想通りデータを収めたコンピューターが見つかった。
 幸いなことにチャンウェを介したことで比較的容易に進入可能だ。

 午前一時九分。すべてを終えた長尾は念のためにしおんの撤退を確認しようと考えた。上のフロアの銃声は衰える様子がない。

 三フロア続きで所有しているスーリンは共有エリア外に階段を何箇所か増設しているので、さほど大回りする必要はない。 

 慣れない体でいらぬ音を立てて気付かれぬよう、慎重に四十七階に上がる。
 長尾がパーテーションの陰からのぞくと十人ほどがしおんを取り囲んでいる。北の窓までの通路にも二人ほど回り込んでいた。
 一体何をやっているのだ。長尾のために敵を引きつけるにしてもこれは危険過ぎる。
 周波数があっているため敵のインカムの通話が聞こえていた。何度か自爆という言葉が聞こえ、みな長尾が上がってきた階段へ向かっていく。

 良い作戦だと自分の体に戻ろうとしたが、しおんに動きが無いので思い直して接近してみた。
 しおんの鋭い聴覚が長尾の動きをとらえ振り向く。
 その表情には死を望む陰があった。
「しおん!」
「誰? 逃げなさい、あと二秒」
 長尾は体ごとしおんにぶつかっていく。

 閃光と共に巻き起こった爆風で二人の体は外に飛び出した。

- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - 

 午前七時半。
 東家のLDK。
「お母さん、新宿で事件だって言ってるよ」 
「早く食べなさい。遅刻するわよ」
「だってぇ」
 風邪気味のアスカの前に薬と水を置きながら、ミナもニュースの画面を見た。

『今朝一時ころ新宿区西新宿二丁目の通称三角ビルで火災が発生しました。現在は鎮火していますが、出火時には爆発音が続き辺りは一時騒然としました。また避難した方から、銃声らしき音を聞いたという証言もあり、警察は事件、事故、両面から捜索を進めています。この事件は、最近世界で多発しているテロとの関連も指摘されて……』

「アスカが心配する必要はないから」
「でも、さあ」
「なにか気になるの?」
「あのね」
 アスカはそのまま黙って画面を見た。
『また周囲の地面にはロボットの部品と思われるものが飛び散って……』
「なにかしら?」
「おじさん、大丈夫かな」
 いまアスカがそう呼ぶのは長尾だけだ。
「ニュースの事件とは関係ないわよ。彼は現場に出る必要はないし」
「知ってるわ。おじさんの仕事、シギントって言うんでしょう?」
「あら」
「だって、私にゲームで負けた時にさあ」
 ミナは笑い出した。
「確かに彼は負けず嫌いではあるようね」
「じゃあ、大丈夫? また来てくれるかなあ?」
「きっと」
「お願いしてくれる?」
「約束する」
「わぁーい」


『現場の写真をロボット工学の権威スーザン・カルヴィン博士にお見せして意見を伺いました』

『It is difficult to determin from the picture of …… 』
『現場の映像から判断するのは困難ですが、女性型のアンドロイドの一部と思われます。その完成度は驚くほど高く、先の大戦のおり、ルーシー共和国で製作されたバイオノイドとの近似性……』


(おわり)

コメント

 読んでいただいてありがとうございました。
> 最終的にどうなったのか
 ライヘンバッハの滝です。

最終的にどうなったのかわかんないのは残念かな。

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