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煙が目にしみる  Smoke Gets in Your Eyes (2)(3) by.amaha

(2)

 部屋には私とステラ、それに母上の三人がいる。
 あのあと慌ててステラとわが家に駆け込んだ。 使用人や妹の雅(みやび)の好奇の目からやっと逃れたところだ。
「七星、お勤めはしばらくおやすみしたほうがいいでしょうね」
「はい、母上」
 返事をしたのはステラである。カチンと来てしまった。
「何を言っているんですか、母上。七星は私です。ステラも」
「結界をはってはいますが、雅の好奇心を甘く見てはいけません。事情を説明するなら別ですけれど」
「父上はともかく、雅はダメです」
 からかわれるのは目に見えている。
「それなら呼びかけは見た目で統一しておいたほうが良いでしょう。万一にも疑われたら精神走査で本人ではないと見抜かれるのは時間の問題です」
「雅がまさかそこまで」
「陛下がご即位されてからわが家を見る大貴族たちの目は厳しいのはご存知ですね」
「それはもう」
「雅には説明すればすみますが」
 私は情けない顔をしたに違いない。
「少なくともお家の一大事にはなりません。しかし最近雇った使用人には当然密偵が混じっていると考えるべきです」
 確かに跡継ぎと認められねばお家断絶の可能性もあった。
「わかりました。それにしても穴が罠だったのでしょうか」
「精神を入れ替えることが罠になるとは思えませんよ。七星には考えが?」
 母はステラに向かっていっている。
「あの空間が精神と肉体を別々に運ぶとすれば、より安定するように入れ替わったのではないでしょうか。二つの心も一つの体なら、二つの体も一つの心なら、分離しますまい。今、私たちの一体感は深まっています」
「ステラさんはどう?」
 これは私にだ。
「それなら三人に分かれて出現したのでは」
「精神はともかく、肉体はほぼ安定していましたから」
 くそ! そんなことはどうでもいい。
「それより元に戻る算段はどうなんです?」
 母上の力は最高魔導師に匹敵する。
「換魂術は使えません。これは、あくまでも一対一で入れ替えるものですから」
「申し上げ難いのですが、私どもが一つになるのを待っていただければ」
「あの穴にもう一度入ってみれば?」
「あの屋敷に二人で入るのは無理でしょうね」
 母上の言うとおりだ。そう思ってうなだれているうちに母上の結界が目に見えるくらい強くなり、ほとんどの光を遮断した。
「では、七星」
 私に向かって言っている。
「なんですか?」
「一番肝心なことの説明をしていませんよ。なぜステラさんを連れだそうとしたのですか?」
「そう言われても」
「私たちを哀れに思し召してではないのですか」
 いくら恥ずかしくてもこの誤解はといておきたい。
「好きです。一目惚れと思ってください」
 ステラの俺の顔が真っ赤になった。あまり可愛くないが、俺の顔では仕方あるまい。俺は可愛いと言うより美形なのだ。
「分かりました。それならそれで話は早い。あなたたち、結婚しなさい」

(3)

 驚いたことに父まで賛成したので、霧島北斗と海岸に流れ着いた異国の女、ステラ・マリスの婚約はすぐに発表された。
 正直なところ俺にも異存はない。ただし結婚は元の体に戻ってからのことだ。

 北斗は三ヶ月休職して、人見知りな婚約者のためにつきっきりで教育をほどこしたと世間は思っている。実際には父から剣術、母から宮廷の仕来りの特訓を受けたのは北斗であるステラだった。
 竜族アジュアの闘志とトゥーレの巫女の知識をもつステラは全てを覚えて魔法騎士団に復帰した。

 私もステラとして立派に生活している。まあ、悩みもあった。
 例えば小姑になる雅だ。彼女なりに一生懸命なのだが、いちいち癇に障る。
「ステラさんなら兄よりずっといい男と結婚できるのになあ」
「セブンさまは姫君たちの間でも評判とお聞きしました」
「兄が言ったの?」
「ご母堂様です」
「まあ、母上の言葉に嘘はないけどさ」
 私ならあるような言い方である。
「でしたら」
「わが家は成り上がりだからね」
「……」
「別に卑下するわけじゃない。でも苦労するかもよ、ステラさん」
 余計なお世話である。
「ここでの私は漂着した難民。古い家柄の家庭でうまくいくとも思えません」
「ふ~ん、本気なんだ」
 雅がじっと見つめるので困ってしまった。成人してからこれほど長く話をしたことはない気がする。
「もちろんです」
「じゃあ、陛下のお召だから明日一緒に登城してね」
「まさか。恐れ多い」
「だめだめ、家は乳母の家庭なんだから陛下にとっては兄も兄弟同然なの。本来ならもっと早く会うべきだったんだけどね。大臣たちがうるさくってさ。でも私があなたの決心を確認したら陛下は謁見をゆるすっておっしゃったの」
 雅が宮殿で受ける嫉妬は私の想像を絶するのかもしれないと初めて考えた。
「分かりました」

 バージニア陛下と雅は私より四歳年下になる。私が元服するまでは三人で泥んこになって遊んだものだ。あの頃が懐かしい気もするが、決して戻ることはできない。今の陛下の周りは女官ばかりだし、私には夫君になる資格も意志もなかった。

 謁見当日の朝、私は母と鏡台に向かった。
「ご母堂様」
 そう言うと強力な結界で辺りが暗くなった。
「今日はいいのよ」
「何か特別なことが?」
「陛下に認められれば、あなた達の婚姻になんの障害もないの」
「エトナとアジュアの心が一つにならないと」
「確かにそうじゃなきゃ換魂術は無理だわね」
「あとどのくらいかかるのですか?」
「もう少し、なにかきっかけがあればすぐね」
 これは本人達からも聞いたことがある。なら陛下の許可を得ておくのも意味があるだろう。
「陛下のお気に入られるよう頑張ります」
「頼みます」

 私と雅が訪れたのは通常の謁見の間ではなく、奥の鏡の間であった。
「ここは?」
 戸惑いながら雅に聞いた。
「陛下は女性だから、当然仕来りが以前とは違うのよ。ここまで入れる男はいないわ」
「それは分かりますが」
 さらに問いただす前に女官のリリーがやってきた。私とは顔見知り、というより七星初めての女性である。
「陛下は大浴場でお待ちです」
「うかがいます」と雅。
「浴室で?」
「帝国の伝統もあり、この地では大浴場が一般的なのです」
「それはお聞きしていますが」
「女同士なんの遠慮がありましょう」
 まいったなあ。ステラとの入れ替わりの秘密は墓の中まで持っていかねばならないらしい。

 リリーの後について脱衣室に入ると大勢の侍女が待っていた。顔見知りもいるが、ステラとしては初めてだ。
「よ、よろしくお願いします」
 侍女たちは笑いながら私を素っ裸にした。ステラと違い精神が一つなので私は肉体をかなり自由に変えることができる。今はなるべく人に近づけていた。違うのは角の何本かと猫のような瞳孔の金色の瞳だけである。

 大股で先を行く雅の後を床を見つめたままついて行く。浴室に響く女の声の中には聞き覚えのある陛下のものも混じっていた。
「陛下、ステラを連れて参りました」
「ご苦労、クラリス。人払いじゃ。皆は遠慮せい」
 クラリスは雅の通称だ。そして陛下の命令で大浴場は私たち三人だけになった。
「ステラ、大儀」
「お初にお目もじします。ステラ・マリスと申し、陛下の忠実な家臣ホクト・キリシマの許嫁でございます」
 私は膝まずき平伏した。
「しかとさようか?」
「キリシマの忠誠心をお疑いなら」
「そうではない。キリシマとの婚姻の約束は?」
 入れ替わりさえ済めば私に異存はない。
「約を違えることはありませぬ」
「ならばよし。お前には女王の護衛隊創設を命じる」
「陛下には近衛軍が」
「男どもでは入れぬ所がある。ホクトなら入れてもかまわぬのだが、そうもいくまい」
 狙いはわかる。しかしステラには迷惑だろう。
「ご信頼はありがたきことなれど、軍や護衛のことは分からぬゆえ」
「ステラならそうだろうが、お前なら問題あるまい」
 意外な言葉に私はうっかり顔を上げてしまった。目の前には全裸の陛下が……
「あっ、あ~」
「やはり、お主はホクトか」
 陛下がしゃがんだので私の目の前には言うも恐ろしいものが御開帳していた。
「ひぇ~」
「喜んでいないで予の体を洗え」
 
(おしまい……)

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