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奈落の穴のお姫様 第一幕 by.抹茶レモン

夜鈴
キャライラスト:胡蝶

 時は放課後。
 運動部の活気ある声をBGMに、昔の青春漫画よろしく、歳若き二人の男女が県立盟正高等学校の体育館裏にいた。
 夕焼けの赤い光が二人の姿を照らし出す。
 お互い話すことなくただ向かい合う、青年と少女。
「ッ!」
 少女は何か思いつめた様子で青年を見つめ、
「…………?」
 対する青年は、まるで状況を理解し得ないといった顔である。

「なんだよ、こんなところに連れてきて」
 やがて、青年が少女に聞いた。
 体格にあわせるようにスラっと伸びた手足、一目見ただけでは女に間違われてしまいそうなくらい、綺麗な顔立ちをしている青年。
「…………ッ!」
 少し小柄だが、活発そうな印象を与える顔に、肩にかからない程度の髪を持つ少女。
 少女の身長は青年より頭一つ分ほど低い。
(じれったいな)
 聞こえてないのか? 青年がもう一度同じことを聞こうとした瞬間だった。
「実はわたし、朝からずっと伝えたかった――」
 深刻そうな顔をした少女が口を開いた……。

「一生に一度のお願い!」
「はぁ?」
 両手を合わせ、俺を拝む。
「お願い!」もう一度手を合わせる。
「いや、お願いって言われても……」
 俺こと夜鈴雷司(らいじ)は、昔からの幼馴染である片倉要(かなめ)に必要以上に迫られていた。
「一度だけ、今だけでいいから!」
「何の用かまだ聞いてないのに了承できるか」
 パン、と要の頭から小気味良い音が出る。
 我ながらいい音が出せた。
「うぅ、それは急いでいたから――」
 頭を片手で撫でつつ、俺を見上げる。
(そう言うと思った……)
 それはその日最後の授業が終わったときだった。

「では、これで授業を終わります」
「起立、礼」日直の声が教室に響く。
『ありがとうございました~』
「ふう~……」
(やっと終わった)
「ねぇ、雷司」
 視線を上げると、目の前に要が。
「なんだ?」
「ちょっと顔貸して!」ぎゅっと俺の片手をつかむ。
「は!? どういうつもり――あぁ!」
俺は引きずられるように教室を出た。

 というやりとりの末、俺たちはここに今いる。
(全くだ……)
 こいつは小さいころからそうだった。
 人の話をろくに聞こうとせず、常に俺を引っ張りまわした。
 それも、今みたいに急いでいたとか、重要なことだったとか、そりゃもう適当な言い訳をして。
 今ではもう慣れたが。

「で、何をお願いしたいんだ?」
 ようやく本題に入ろうとする。
 いくら幼馴染でも、「お願い!」「任せとけ!」なんて流れになるわけがない。
「あ、あのね!」もじもじ、と少しだけ躊躇いを見せる。
「…………?」
「雷司に女装して欲しいの!」

「まさか、それだけ言うためにここに?」
「だって、クラスのみんなの前で、『女装して!』なんて言えるはずないじゃん」
「その割には本人にはっきりと言えるな」
「へへっ……」
(なにがへへっ、だ)
「で、なんで正真正銘男の俺が、女の格好をしないといけないんだ?」
 そこが一番重要だ。
 俺は、理由も聞かずに女装するほどお人好しじゃない。
 それに、男の癖に女装にする趣味も無い。

「えっと、来月の学校祭で演劇やるんだけど」
「あぁ、確かにそうだったな」
 完全に忘れていた。
「それでね、その劇でヒロイン役の先輩が」
「はいはい」
「先週、足の骨を折っちゃって」
「なるほど」
「代わりの人探さなくちゃいけなくなって。ほら、一応わたしマネージャーだし?」
「それで?」
 えっと、と言いよどむ要。
「もう時間ないし、他に頼む人いなくて……」
(そういうことだったか……)
 つまり、来月の演劇で必要なヒロイン役を俺がやらされるというわけか。
(答えは一つしかないな……)

「よし、わかった!」
「え? やってくれるの?!」
「じゃあな、帰るわ」
 すっと踵を返し、その場から立ち去ろうとする。
「ま、まって!」
 だが、要に腕をガッシリとつかまれ、足が止まる。
「離せ!」
「雷司、お願いだから!」
 無理やり前に進もうとするが、要の引っ張る力が強く、思うようにならない。
(くそ、こんなときばかり力が強くなりやがって!)
「なんで俺はそんなことのために、恥ずかしい思いをしなくちゃいけないんだ!」
「だって、雷司中学生のとき何回も主役だった!」
 あぁ、確かにそんなころもあった。
 中学生の頃の俺は馬鹿だったから、本気で役者になろうとしていた。そのために自ら難しい役を買って出た。
でも、あとで役者というのは面倒くさい職業だと知り、夢を捨てた。完全にな。
「俺は帰る!」
「だってだって、部員の人に『大丈夫、わたしがすごく立派な代役連れてくるから!』って言っちゃたし!」
「そんなの知らない!」
 そんなぁ、と半ばあきらめつつも全く力を緩めようとしない要。

「じゃ、じゃあバイトだと思って! お金も出すから!」

(なに? バイトだって?)
「いくらだ」下を向いたまま一応聞いてみる。
 決してお金が欲しいわけではない。こいつの本気度を確かめたいだけだ。
「え? え~っと――」
 一度だけ空を見上げてから要は言った。
「野口さんが一人?」
「ッ!」
 全身に力を入れ、再び前進。
(動け俺の足!)
「あああ! 樋口、樋口さんが一人!」
 ピタリ、と動きを止める。
「本当か?」一字一句ゆっくり、確認するように喋る。
「う、うん。本当!」
「そうか、それなら別に……」
 樋口さんが一人ということは、野口さんが五人だから。
「やって、くれる?」
「仕方ないな、幼馴染のお前の頼みだ」
 しぶしぶ俺は了解した。
 お金が手に入るからじゃない、要の熱意に負けたんだ。
「よし!」ガッツポーズをとる要。
「練習は明日からでいいからね!」
「じゃあ、俺は帰るぞ」
 まった明日~、といいながら楽しげに手を振る要。
 そしてようやく、俺はその場を後にした。

(五千円でヒロインか…………いいバイトだ)
 こうして俺の一ヶ月のバイトが始まった。

〈続く〉

コメント

さすが抹茶レモンさんです。
もう次回作に手を出しているなんて
思いもよりませんでした。
作品のほうも申し分なく、
自分の作品では到底及びませんね、
同じ土俵に立てるように誠心誠意頑張りたいです。

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